第3話:Fクラスの教室に入ったら、獣人とエルフとドワーフが賭けポーカーをしていた
【第3話:まえがき】
「3週間以内に学年上位50%に入らなければ、即退学&奴隷落ち」
無理ゲーすぎる通告を受けたコタロウ。
キラキラ輝くSクラス「天上の庭」へ連れて行かれたアヤネとは対照的に、彼が向かうのは地図にすら載っていない隔離施設、通称「監獄」です。
腐った床、割れた窓、そして扉の向こうから聞こえる爆音と怒号。
そこは学校というより、ファンタジー世界の「掃き溜め」でした。
果たしてコタロウは、この魔境で生き残ることができるのか?
ドアを開けた瞬間に広がる、常識崩壊のカオスをお楽しみください。
1. 監獄への道
王立ルミナス精霊魔法大学、敷地最北端。
そこは、華やかなキャンパスの中で唯一、地図にすら載っていない隔離エリアである。
アヤネが連れて行かれた「天上の庭(Sクラス)」が天国だとするなら、俺が向かっているこの場所は間違いなく地獄の底だ。
整備された石畳は途中で途切れ、靴底に泥がまとわりつく悪路に変わる。
周囲の木々はなぜか枯れ果て、カラスの鳴き声だけが不気味に響く。
そして、湿っぽい霧の向こうに現れたのは、廃墟――ではなく、我が学び舎だった。
「……マジで、ここが大学の一部なのか?」
俺は立ち尽くした。
そこにあったのは、築百年は下らないであろう、歪んだ木造校舎だった。
壁板は腐り落ち、窓ガラスの代わりにベニヤ板が打ち付けられている。屋根には穴が開き、入口の看板『Fクラス(特別支援学級)』は、片方の釘が外れてブラブラと風に揺れていた。
ギイ……ギイ……という錆びついた音が、俺の不安を煽る。
通称:「監獄」。
あるいは「掃き溜め」「動物園」。
マグダ副学園長の宣告によれば、ここに収容されている生徒たちは全員、3週間後の試験で「間引き」される運命にある。
つまり、中は葬式のように暗く、絶望に沈んでいるはずだ。
「……よし。行くか」
俺は覚悟を決めた。
どんなに陰気な場所でも、俺のコミュニケーション能力(とAIのカンニング)があれば、なんとかなるはずだ。
俺は深呼吸をして、腐りかけた木の扉に手をかけた。
2. 混沌の教室
「オラァァァ!! レイズだ! 全財産賭けてやるよォ!!」
「ヒャッハァ! カモが鳴いてやがるぜ!」
「爆発実験、カウントダウン……3……2……1……」
ドカァァァァァン!!
「……はい?」
扉を開けた瞬間、俺の視界を埋め尽くしたのは、紫色の爆煙と怒号、そして宙を舞うトランプカードだった。
そこは教室というより、無法者たちが集う場末の酒場だった。
教卓はひっくり返されてバリケードになり、黒板には『教頭のバーカ』と極太の落書き。
床には教科書や魔道具の残骸が散乱し、天井のシミからは謎の液体が滴り落ちている。
中央のテーブルを囲んでいるのは、異様な集団だ。
一人は、筋肉の鎧をまとった髭面のドワーフ。
もう一人は、頭に犬耳を生やした銀髪の少女。
そして周囲には、昼寝をする人間や、ナイフの手入れをする爬虫類人などが好き勝手に過ごしている。
「(……帰りたい。今すぐ回れ右して帰りたい)」
俺がUターンしようと踵を返した、その時だった。
「ああん!? んだテメェ、新入りか!?」
ポーカーをしていた犬耳の少女が、鼻をピクつかせて俺の方を向いた。
ボサボサの銀髪ショートカットに、鋭い犬歯。制服のシャツはボタンが弾け飛びそうなほど着崩され、首には囚人の証である厳つい鉄の首輪――**「封魔の首輪」が巻かれている。種族はウェアウルフ(人狼族)**か。
「見ねえ顔だな。ここが『F』クラスだって分かってんのか?」
「……ああ、今日から編入になったコタロウだ。よろしく頼む」
俺は努めて冷静に挨拶した。
だが、少女の金色の瞳は、挨拶よりも獲物を見る捕食者の光を帯びていた。
「よろしくじゃねえよ! 俺は今なぁ、ボロ負けして機嫌が悪ぃんだ! ドワーフの爺にランチ代まで巻き上げられちまった!」
「ワハハ! 嬢ちゃん、引き際が悪いわい!」
ドワーフが豪快に笑う。少女の犬耳が怒りでペタンと倒れた。
「うっせえ! 憂さ晴らしだ! ちょうどいいところに弱そうな肉が来やがって……テメェを噛み砕いてやる!」
「は?」
理不尽すぎる。
少女が獣のような唸り声を上げ、テーブルを蹴り飛ばして俺に飛びかかってきた。
速い。普通の人間なら目で追うことすらできない速度だ。
鋭い爪が、俺の鼻先へと迫る。
「(ちょ、AI! 助けろ!)」
ピコン♪
脳内でアラートが鳴り響き、視界がスローモーションになる。
【カンニング・AI 起動】
- 敵対行動を検知。
- 対象: モモ・イヌガミ(人狼族)。
- 状態: 激昂(空腹による八つ当たり)。
- 攻撃予測: 右ストレート(フェイント) → 左フック → 噛みつき。
- 回避ルート: 左へ半歩。その後、足元の「可燃ゴミ」を利用して自滅を誘発します。
(可燃ゴミ?)
俺は疑問を抱きつつも、AIの指示通りに身体を動かした。
左へ半歩、スッと重心をずらす。
「オラァッ! ……あ?」
モモの右拳が空を切る。
勢い余った彼女の体勢が崩れる。
その踏み込んだ右足が、床に落ちていた**「黒く変色したバナナの皮(誰が食ったんだ)」**を、見事な角度で踏みつけた。
ズルッ!
「ふぎゃっ!?」
漫画のような効果音と共に、モモの身体が宙に浮く。
彼女は受け身を取ることもできず、顔面から床板にダイブした。
ズデン!!
「あ、あうぅ……」
モモは白目を剥いてピクピクと痙攣している。自爆だ。
「……あーあ」
教室が一瞬、静まり返る。
ドワーフやリザードマンたちが、ポカンと口を開けて俺たちを見ている。
その沈黙を破ったのは、窓際で怪しげな実験をしていた白衣の少女だった。
「……非論理的ね」
彼女は分厚い瓶底眼鏡を中指で押し上げ、冷たい声で呟いた。
ボサボサの長い紫髪に、薬品と焦げ臭い匂いが染み付いた白衣。尖った耳はエルフ族の証だが、その肌は少し浅黒く、ダークエルフの血が混じっているようだ。
目の下には、何日寝ていないのか分からないほどの濃いクマがある。
「今の回避行動。偶然にしては『最小の動き』すぎたわ。……貴方、未来でも見えているの?」
リリスと呼ばれた少女が、値踏みするように俺を睨む。
「まさか。ただの偶然だよ。バナナに感謝しなきゃな」
「……ふん。まあいいわ。私の邪魔をしないなら、誰であろうと興味はない」
彼女はすぐに興味を失い、再びフラスコの中の怪しげな液体(紫色に発光している)と向き合い始めた。
「(……なんだこのクラス。まともな奴が一人もいねえ)」
俺は深いため息をついた。
Sクラスのような優雅さなど微塵もない。ここはまさに「動物園」だ。
俺は誰とも目を合わせないようにして、一番後ろの空いている席――窓際かつ、教師の視角に入りにくい特等席――に鞄を置いた。
3. 担任教師と、悪魔のマネジメント
ガラガラッ!
予鈴もチャイムもなく、突然、教室の扉が乱暴に開かれた。
「おい、うるせぇぞゴミ共。廊下までお前らの奇声が聞こえてんだよ」
入ってきたのは、教師というよりは浮浪者に近い男だった。
ヨレヨレのシャツは黄ばんでおり、無精髭がびっしりと生えている。充血した目は虚ろで、手には教科書ではなく、古びたスキットル(酒瓶)を握りしめている。
教室に入った瞬間、アルコールのツンとした臭いが漂った。
男は教室の惨状(ひっくり返った机、倒れているモモ)を見ても眉一つ動かさず、一番後ろの席に座った俺に、死んだ魚のような視線を向けた。
「ああ、お前か。今日から入るって聞いてる編入生は」
「……どうも。コタロウです」
「俺がお前の担任のゲイルだ。……まあ、名前なんぞ覚える必要はねえ。どうせお前も、来月にはいなくなってる」
ゲイルはそれだけ告げると、教卓の方へふらふらと歩いていった。
そして、黒板をバンと叩く。チョークの粉が舞う。
「おい、聞けお前ら。ゴミが増えたぞ」
ゲイルは顎で俺をしゃくった。
「こいつはコタロウだ。**魔力なしのFランク。**お前らと同じ『廃棄予定品』だ。……以上」
それだけかよ。
あまりに雑な紹介に、クラス中から乾いた笑いと、「へえ、魔力なしかよ」「雑魚じゃん」という嘲笑が漏れる。
ゲイルは大きなあくびをして、教卓に突っ伏した。
「じゃ、俺は二日酔いで頭が痛ぇんだ。好きに自習してろ。寝るなり、遊ぶなり、退学の準備をするなりな」
「あ、先生! 俺、トイレ!」
「勝手に行け。帰ってこなくてもいいぞ」
ゲイルは手をひらひらと振り、そのままイビキをかき始めた。
完全に職務放棄だ。
「(……終わった)」
俺は天を仰いだ。
教師はやる気ゼロのアル中。
クラスメイトは、復活して「次は勝つ!」と叫んでいるギャンブル狂いの人狼に、爆弾魔のエルフ。
ここから3週間で成績上位50%に入れだと?
マグダ副学園長は無理難題にも程がある。
Sクラスの設備と教師を与えられたアヤネとは、スタートラインが違いすぎる。
俺が絶望していると、視界の端でAIウィンドウが静かに展開された。
ピコン♪
【カンニング・AI 解析レポート】
- Status: Fクラスの戦力分析完了
- 対象: 主要人物のポテンシャル測定
- 1. モモ・イヌガミ(人狼):
- 評価: 魔力出力はSランク並み。
- 欠点: 魔力制御 E-。出力調整ができず、魔法を使うと100%自爆します。
- 2. リリス・アルケミア(エルフ):
- 評価: 知能指数 S+。
- 欠点: 協調性 G。独自理論に固執し、既存のテストでは意図的に0点を取ります。
- 3. ゲイル・ウォーカー(担任):
- 評価: 魔力波形から推測するに、元・王宮魔導師級の実力者。
- 欠点: 重度のアルコール依存症および燃え尽き症候群。
- 結論: 素材は極上です。ダイヤの原石が泥の中に転がっています。
- 提案: 放置すれば全員「退学」ですが、マスターが彼らを「正しく管理」すれば、集団での成績向上、ひいてはあなたのサボり環境の構築が可能です。
(……は? 俺に、この猛獣たちの飼育係をやれってか?)
俺はチラリと横を見た。
モモがドワーフにボロ負けし、「うわぁぁん! 今日の晩飯がないぃぃ!」と机に突っ伏して泣いている。
リリスは「爆発こそ芸術……いや、秩序か?」とブツブツ言いながら、危険な色の薬品を混ぜ合わせようとしている。
こいつらを? 俺が?
(……いや、待てよ)
もしこいつらが覚醒して、俺の味方になれば。
モモの暴力があれば、クラス内の荒事や実技試験(ダンジョン実習)は全部任せられる。
リリスの頭脳があれば、筆記試験までの対策が残された期間でも間に合うかもしれない。
「(……悪くない投資だ)」
俺はボールペンを胸ポケットから取り出し、指先でカチリと鳴らした。
一人で生き残るんじゃない。こいつらを利用して、俺が一番楽をするために。
日本社会で染み付いた手抜き根性が、こんなところで火を吹くとはな。
俺はペンをクルクルと回しながら、隣の席で泣き崩れている犬耳少女に声をかけた。
「おい、そこの犬っころ」
「あぁん? んだよ、負け犬に用かよ……」
モモが涙目で睨んでくる。お腹がグゥと鳴った。
俺はニヤリと笑い、AIが弾き出した「ポーカーのイカサマパターン解析」を脳裏に浮かべた。
「晩飯代、取り返したくないか? 俺がポーカーの必勝法、教えてやるよ」
モモの犬耳がピクリと反応、そのまま目を閉じて考え事を始めたようだ。
なかなかいいぞ、安い投資で簡単につれそうな感じだ。
(第3話 完)
【第3話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます! キラキラの学園ファンタジーとは無縁の隔離施設、通称「監獄」へようこそ。
ギャンブル狂いの人狼娘・モモに、マッドサイエンティストのエルフ・リリス。そして、酒浸りの元・凄腕魔導師(?)ゲイル。まさに「動物園」状態のFクラスでしたが、コタロウには**【AI】**という最強のカンニングツールがあります。
「0.5秒先の未来予知」と「バナナの皮」のコンボでSランク級の獣人を無力化するシーンは、本作のテーマである**「実力(物理)ではなく知恵(卑怯)で勝つ」**スタイルを象徴する一幕となりました。
さて、コタロウは彼らを更生させる……なんて殊勝なことは考えていません。 狙いはあくまで、**「自分がサボるための環境構築」**です。社畜大国・日本で培われたマネジメント能力が、異世界の落ちこぼれたちをどう変えていくのか? 投資の行方にご注目ください。
★次回予告
次回は第3.5話。少し時間を遡り、二つの視点から物語を掘り下げます。
• 【学園生活】:天上の庭(Sクラス)で孤独に「コタロウ不足」を訴える聖女アヤネ
• 【AI講義】:なぜモモは自爆するのか? その鍵を握る**「精霊たちのブラックな労働環境」**
魔法の真実と、この世界の「不都合な真実」が明らかになります。 次回、『【AI講義】精霊は社畜である / 【学園生活】天上の聖女と地上の囚人』でお会いしましょう!
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