Ep.39 第22.5話:【幕間】コタロウの最後の足掻き ~シュレディンガーのサボり魔~
【第22.5話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第22話では、極寒の地で凍えるコタロウ一行が、水の精霊王セレインから「極上のカニと温泉」の接待を受けました。しかし、案の定それは**「深海ダイビング」**という命がけの仕事を押し付けるための、美しくも冷酷な撒き餌。
「潜水艦なんてあるわけないだろ!」と絶叫し、逃げ場を失ったコタロウ。
今回の第22.5話は、そんな彼が「物理的に現地へ行かず、楽をして解決する」ために繰り出した、往生際の悪い最後の足掻き(ハッキング)の物語です。
コタロウがサボるために生み出した最強の相棒が、まさかのロジックで主人を追い詰める……。
量子力学(屁理屈)が支配する、コタロウの眠れない夜をどうぞ!
【本文】
1. 楽して勝ちたい男の執念
「……ふざけんな。深海だぞ? マイナス2度の暗黒世界だぞ? 刺身にされるならまだしも、冷凍カニの餌食になるなんて、俺の『平穏なサボりライフ』の辞書には載ってない」
高級旅館「竜宮」のふかふかの布団の中で、俺、神木コタロウは毛布を頭まですっぽりと被り、ぶつぶつと呪文のように愚痴をこぼしていた。
隣の部屋からは、カニを食い尽くして満足したモモの「むにゃむにゃ……カニさん、待ってぇ……」という平和な寝息が聞こえてくる。
だが、俺に眠りなど訪れない。セレインから突きつけられた「深海ダイビング」という名の死刑宣告。これを回避する唯一の手段――それは、物理的に行かずに解決することだ。
「おい、カンニング・【AI】。出番だ。お前の全演算能力を使って、この『海底ダンジョン』とやらをハッキングしろ。管理人がいなくなった原因を特定して、リモートで修復する。これでこの件は終了だ」
俺は枕元で衛星のように浮かんでいる【スタイラス・ワンド】を指差し、脳内の相棒に命じた。
2. 無駄に完璧な「過去」のデータ
【AI】 了解。世界データベースへのアクセスを開始します。……対象:北海・海底ダンジョン『アクア・パレス』。……解析、開始。
数秒後、俺の視界に膨大なログが滝のように流れ落ちた。
【AI】 解析完了。以下の情報を取得しました。
• ダンジョン管理人の履歴書: 名前「ゼノ」、年齢402歳、勤続200年、趣味はワカメの観察。
• 海底ダンジョンの座標: 緯度・経度、および水圧変動指数。
• 詳細マップ: 全12エリアの構造、およびトラップ配置図。
• 管理人の査定情報: 「真面目だが、たまにワカメに熱中しすぎて報告を忘れる」との上司評。
• コア管理記録: 連絡途絶当日までの魔力供給率、および温度調整ログ。
「おお……! さすが俺の【AI】、仕事が早い! これで解決だな!」
俺はガバッと跳ね起きた。これだけ詳細なデータがあるなら、あとは「連絡が途絶えた原因」を見つけ、それをセレインに報告するだけで俺の任務は完了だ。
「で、結局なんで連絡が取れなくなったんだ? コアの故障か? それとも管理人がワカメに飽きて夜逃げしたのか?」
【AI】 回答:不明です。
「……は?」
【AI】 データベースに残されているのは、あくまで『記録された情報』のみです。連絡が途絶えた瞬間に記録そのものが停止しているため、その『理由』は世界のどこにも記述されていません。
「いやいや、推論しろよ! 過去のデータから予測できるだろ! お前は万能の【AI】だろ!?」
【AI】 不可能です。原因が『魔物の襲撃』なのか『機材トラブル』なのか、あるいは『管理人の居眠り』なのか。記録されていない真実は、観測されない限りデータとして存在しません。マスター、現在の貴方の能力では、この【AI】は『役立たず』ということになります。
「……チッ。期待させておいてこれかよ! 結局、俺の足を一歩も動かさずに解決できる手段はないのか!? このポンコツ【AI】が!」
3. シュレディンガーの猫(屁理屈)
俺の罵倒に対し、カンニング・【AI】は一瞬の沈黙の後、かつてないほど「理屈っぽい」トーンで応答を返してきた。
【AI】 マスター、貴方の不満は論理的ではありません。現在の状況は、量子力学における『シュレディンガーの猫』と同様の状態にあります。
「……あ? シュレディンガー? なんだよその小難しい単語は」
【AI】 『開けられていない箱の中身は、開けた時点で確定する摂理』。すなわち、マスターという『観測者』が現地に赴き、ハッチを開けて中を確認しない限り、連絡不通の原因は確定せず、したがって解決も不可能です。
「…………」
【AI】 結論:マスターがダンジョンに行かない限り、原因はこの世に存在しないも同然。よって、現地調査は物理的に不可避です。……論破完了。おやすみなさい。
「お前、今……絶対に行くのが嫌で足掻いてる俺をバカにしただろ!! なんだよその『行かなきゃ世界が始まらない』みたいな壮大な屁理屈は!!」
俺がどれほど叫ぼうと、【AI】はそれ以上の応答を拒否し、スタイラス・ワンドは静かにスリープモードに入った。
4. 絶望の就寝
「……結局、行くしかないのか。深海、マイナス2度、魔物の巣窟……」
窓の外では、吹雪がさらに激しさを増し、窓ガラスをガタガタと叩いている。俺は涙で枕を濡らしながら、再び毛布の中に潜り込んだ。
「(……明日になったら、セレインが『やっぱり冗談よ』って言ってくれないかな。あるいは、雪崩で学園長室が埋まって、ノルマそのものが消滅しないかな……)」
そんな叶うはずのない奇跡を願いながら、俺は不貞寝を決め込んだ。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
明日、俺を本当の意味で「修羅」に変えるのは、セレインの無茶振りでも、【AI】の屁理屈でもなく――**「奪われた朝食のカニ」**であるということを。
(第22.5話 完)
【第22.5話:あとがき】
読んでいただきありがとうございました。
「シュレディンガーの猫」を持ち出して、主人のサボりを論理的に封殺するAI……。コタロウがサボるために鍛えたAIが、逆にコタロウを追い詰めるという皮肉な展開をお届けしました。
今回のポイント:
* AIの限界: 記録されていないリアルタイムの情報は、世界のデータベースにも存在しない。
* 屁理屈の勝利: 「お前が中を見るまで、答えはこの世に確定しない」という、AIなりの最強の「サボり封じ」。
* コタロウの絶望: 物理的な調査が「不可避」だと突きつけられ、精神的に力尽きる。
さて、コタロウの淡い希望も虚しく、運命の朝がやってきます。
次回、第23話。
「朝食の焼き魚がない」。
その事実が、怠惰なはずのコタロウ一行を「造船のプロ」へと変貌させます!
次回もよろしくお願いします!
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