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カンニング・AI~Fランクの俺、カンニングで楽したい~なのにやり過ぎAIが深層ボスを倒し、自分の葬式中に英雄として帰還!ご褒美がエリートコースへの強制編入って正気ですか?俺のサボり人生を返してくれよ!  作者: とうふ
【第2.5章:学年末休み編(前半)【試験結果、従者選定・公爵家へお邪魔編・装備開発編】

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Ep.35 第20話:早速、ドワーフ従者の実家に突撃して、スタイラス(重力核埋込式)を発注した

【第20話 まえがき:持たざる者の決意】

公爵家のダンジョン攻略から一夜明け、俺はふかふかのベッドの上で、改めて「自分の装備」の貧弱さに絶望していた。

手元にあるのは、辺境で拾った木の棒(あちこち焦げている)と、学校指定の制服のみ。 これでは、これから始まるSクラスでの過酷な学園生活――もとい、快適なサボりライフを守り抜くことは不可能だ。

「……必要だな。『最強の道具』が」

俺はリュックの中身を確認する。 第13話で手に入れた深層ボスの心臓**【重力核グラビティ・コア】。 そして先日、公爵家のダンジョンで採掘した【高純度ミスリル銀】**。

素材は揃っている。あとは、これを形にできる「腕の良い職人」が必要だ。 俺は部屋のドアをノックし、朝食を運んできた専属従者に声をかけた。

「マリー、頼みがある。お前の実家……『鉄血工房』に案内してくれ」 「えっ、お爺ちゃんのところにですか? でも、あそこは……」

渋るマリーをなんとかなだめすかし、俺たちは灼熱の職人街へと向かうことになった。 全ては、授業中に堂々と寝るための「魔法のペン」を手に入れるために。

【本文】

1. 鉄と炎の街、職人街へ

公爵家のダンジョンから戻って翌日。 俺とマリーは、王都の東区画に位置する「職人街クラフト・エリア」を訪れていた。 石畳の路地には熱気が篭もり、至る所から「カンカン!」と鉄を打つハンマーの音や、蒸気の噴き出す音が響き渡っている。ここは王国の武具や魔導具の生産を一手に担う、ものづくりの聖地だ。


「ご、ご主人様……本当に大丈夫でしょうか。やっぱり、今からでも引き返したほうが……」


隣を歩くマリーが、さっきから挙動不審だ。 いつもの従者服ではなく、動きやすい作業着姿だが、その顔色は悪い。


「親方は昔気質の頑固者なんです。『学生の遊び道具なんぞ作らん!』と塩を撒かれるか、最悪の場合、焼けた鉄箸を投げつけてくるかもしれません」


「どんだけバイオレンスなんだよ。大丈夫だ、交渉の材料なら揃ってる」 俺は背負ったリュックをポンと叩いた。


中には、先日公爵家のダンジョンで採掘した**【高純度ミスリル銀】が入っている。 そしてもう一つ、ポケットには【重力核グラビティ・コア】**という、さらに貴重な素材が入っている。


これは第13話の深層脱出時、俺のネロが食い殺したボス**【クリスタル・イーター】**の体内から転がり出た心臓部だ。 AIによれば、あれだけの巨体を浮遊させていた動力源らしい。「手慰みのツボ押しにでもするか」と思って拾ったが、まさかこんなすぐに本来の使い道ができるとはな。


「それに、俺には最強の設計士(カンニング・AI)がついている。技術的な話で舐められることはない」


俺は足取り軽く、路地の最奥にある一軒の古びた工房の前で立ち止まった。 煤けた看板には、ドワーフ語と共通語で**『鉄血アイアンブラッド工房』**と刻まれている。 マリーの実家であり、王室御用達の武器も手掛ける名門工房だ。


「たのもー」 俺は遠慮なく、重厚な鉄の扉を押し開けた。


2. 頑固一徹、ガント親方(孫バカ)


「いらっしゃ……なんだ、学生か?」


工房の中は、サウナのような熱気と鉄の匂いに満ちていた。 その奥から現れたのは、岩石を削り出して作ったような、厳つい筋肉の塊――ドワーフの老人だった。 白髭を三つ編みにし、眼光は鋭く、手には自分の顔ほどもある巨大なハンマーを握っている。 マリーの祖父、伝説の鍛冶師ガントだ。


「じ、爺ちゃん! ……お久しぶりです」


その声を聞いた瞬間、ガントの厳つい表情が一変した。


「おおっ! マリー! マリーじゃないか!?」


ガント爺さんはハンマーを放り投げ、雪崩のような勢いで駆け寄ると、孫娘を抱きしめんばかりの勢いで頬を緩ませた。


「元気にしてたか? 痩せたんじゃないか? ちゃんと飯は食っとるか? 変な虫はついてないか? ああ、ワシの可愛い天使よ、会いたかったぞぉぉ!」 「く、苦しいよお爺ちゃん!」


そこには「伝説の鍛冶師」の威厳など微塵もない。ただの「孫娘を溺愛するお爺ちゃん」の姿があった。目に入れても痛くないとはこのことだ。


「それで、学校はどうした? 平日の昼間から帰ってくるなんて……まさか退学になったんじゃあるまいな? もしそうなら、今すぐハンマーを持って校長室へ殴り込みに行くぞ!」


「ううん、違うよ! 落ち着いて! コタロウ様が私を『専属従者』にしてくれたおかげで、退学にならずに済んだの!」


マリーが明るく答えると、ガント爺さんは「なんと、そうかそうか!」と涙ぐんだ。 だが、その視線が俺に向けられた瞬間、再び絶対零度まで冷え込み、さらに地獄の業火のような殺気が混ざった。


「ふん……その後ろのヒョロいのが、ワシの可愛いマリーをこき使う『主人』か? ……気に入らんな。マナの覇気も感じられんし、手には豆ひとつない」


爺さんは俺を値踏みするように、いや、敵を見る目で睨みつけた。 孫娘が可愛いあまり、その孫娘を従える男など「泥棒猫」にしか見えないらしい。


「こんな軟弱な男に、ワシの天使を預けられるか! おい小僧、マリーに指一本でも触れてみろ、その時はこのハンマーでお前を釘のように打ち込んでやるからな!」


「(……すげぇ過保護だ)」 俺は冷や汗をかいたが、ここで引くわけにはいかない。


「悪いが、うちはプロ仕様の『本物』しか打たん。学生の杖やアクセサリーが欲しいなら、表通りの土産物屋へ行くんだな。そして二度とマリーに近づくな!」 「……話も聞かずに追い返すのか?」 「聞く耳持たんわ! 軟弱な男の相手をしている暇はない!」


ガント爺さんが「シッシッ」と手を振る。 マリーが「あわわ」と慌てるが、俺は想定内とばかりにニヤリと笑った。


「プロ仕様、ね。……じゃあ、この素材を扱える腕はあるか?」


俺はリュックを下ろし、中身を作業台の上にドサッとぶちまけた。


3. 神の金属、ミスリルの輝き


ゴロン、ゴロン。 作業台に転がったのは、拳大の鉱石が数個。 だが、その輝きは工房の薄暗さを一変させた。 透き通るような銀色の光。内側からマナが溢れ出し、周囲の空気を清浄化していくような神々しい輝き。


「なっ……!?」


ガント爺さんの目が飛び出した。


「こ、これは……ミスリル!? いや、ただのミスリルじゃない……!」


爺さんは震える手で鉱石の一つを手に取り、片眼鏡ルーペを装着して食い入るように観察し始めた。孫への溺愛モードから、一瞬で「職人の顔」に戻る。 「ありえん……不純物ゼロ……? 結晶構造が完全に整列しておる。王室の宝物庫にある『聖銀』ですら、ここまでの輝きはないぞ!?」


鍛冶師としての血が騒いだのだろう。爺さんの額に脂汗が滲む。 「どこの鉱山だ? いや、そんなことはどうでもいい。これほどの素材、一生に一度お目にかかれるかどうか……!」


「素材は一級品だろ? これを使って、俺専用の道具を作ってほしい」


俺の言葉に、ガント爺さんはハッと顔を上げ、猛烈な勢いで食いついてきた。 「よかろう! これだけのミスリルがあれば、伝説の聖剣『エクスカリバー』すら超える剣が打てる! それとも魔王の装甲を貫く槍か!? マリーの主を守るためなら、最高のものを作ってやる!」


「いや、剣なんて重いし危ないからいらない」


俺はきっぱりと首を横に振った。


「俺が作って欲しいのは――**『ペン』**だ」 「…………は?」


工房の時が止まった。 ガント爺さんは口をポカンと開け、マリーも「えっ」と声を漏らした。


「ぺ、ペン……だと? 筆記用具の、ペンか?」 「そうだ。それも、ただのペンじゃない。全長14センチから15センチ。重心は中央。薄肉円筒形中空ボディの、『回すため』の杖だ」


次の瞬間、ガント爺さんの顔が真っ赤に染まった。 「ふ、ふざけるなぁぁぁッ!!」


怒号が工房を揺らした。 「貴様、この国宝級のミスリルを、そんな短い棒切れにしたいだと!? 杖なら短くても30センチは必要だ! それ以下ではマナの加速路が確保できん! マリーの主だから我慢して聞いておれば、どこまでふざけたことを!」


爺さんがハンマーを振り上げる。 だが、俺は一歩も引かなかった。


「30センチじゃ長すぎるんだよ。それじゃ**『回せない』**だろ?」 「回す……?」


「俺の魔法理論はシンプルだ。『回転数(RPM)=魔力の増幅率』。そして**『材質(伝導率)=処理できるコードの複雑さ』**」 俺は爺さんの目を真っ直ぐに見据えた。 「長い杖は遠心力が強すぎて、高速回転ソニック・スピンには向かない。俺の指に馴染み、思考速度と同じレベルで回し続けるには、14センチが限界なんだよ」


「……回転数が、魔力増幅率だと?」 ガント爺さんが眉をひそめた。常識外れの理論だが、職人の勘が何かを感じ取ったらしい。


「論より証拠だ。……設計図を見れば分かる」 俺は脳内の相棒に合図を送った。 「(カンニング・AI、爺さんを黙らせろ。……設計図、展開)」


4. 未来の設計図


『了解。ホログラム・プロジェクション、起動。』


俺は鉛筆を構え、指先でクルリとひと回しすると同時に、その先端から大気より抽出した青白いマナの光波が放たれ、空中に複雑怪奇な**「3D設計図」**が浮かび上がった。 それは、魔法世界の常識を遥かに超えた、超精密機械の構造図だった。


「な……なんだ、この魔法は……!?」 爺さんが驚愕に目を見開く。


空間に描かれたのは、スマホのタッチペンのような、流線型の短い棒。 だが、その中身は異常だった。


- 名称: 自律回転式魔導ペン(スタイラス・ワンド) - 全長: 148mm(計算され尽くした黄金比) - 主素材: 高純度ミスリル(魔力伝導率MAX) - コア: 重力核(ジャイロ機能・姿勢制御) - 内部構造: 多層魔法陣刻印マイクロ・ルーン・レイヤー


「中空構造の中に、重力制御の術式が……五重、いや十重に組み込まれている……? しかもこの肉厚、紙より薄いぞ!? こんなミクロン単位の精密な加工、人の手でできるわけが……!」


ガント爺さんはホログラムに見入り、ブツブツと呟き始めた。怒りは消え、今は「未知の技術」への畏敬と、職人としての闘争心が燃え上がっている。


「俺の**頭脳けいさん**が、素材の性質に合わせてリアルタイムで加工指示を出す。爺さんの腕と、この設計図があれば作れるはずだ」


俺は挑発するように笑った。 「どうだ、親方。伝説の剣を作るより、この『わけのわからない短い棒』を作る方が、腕が鳴るんじゃないか?」


爺さんはしばらく設計図を睨みつけていたが、やがてニヤリと不敵に笑い、頭のバンダナをギュッと締め直した。


「……面白い。このワシへの挑戦状と受け取った! 小僧、その計算とやらがどれほど正確か知らんが、ワシの槌についてこれるかな? ドワーフの意地、見せてやるわ!」


5. 究極の「怠惰ツール」製作開始


そこからは、まさに異次元の鍛冶作業セッションだった。


ゴォォォォォッ!! 炉の火力が最大まで上げられ、ミスリルの塊が白熱する。


カン! カン! カン! ガント爺さんが神がかり的な手際でハンマーを振るう。 その一打一打に合わせて、俺の視界にはAIからの修正指示が流れる。


指示: 『打点修正、右へ0.05ミリ。重心バランス調整のため、先端を0.2グラム軽量化してください。』


「右へ0.05ミリ! 先端削れ!」


「うるせぇ! 小僧に言われんでも分かっとるわ! ……む、確かにこの方が回転軸が安定するな……!」


爺さんは悪態をつきながらも、俺(を通して伝えられるAI)の超精密な指示に完璧に応えていく。 本来ならありえない組み合わせだ。数値と論理のAI、経験と勘のドワーフ。 だが今、二つの「頂点」が噛み合い、ミスリルはかつてない形状へと成形されていく。


「マリー、冷却水を! マナ純水を使え!」 「は、はいっ! 祖父ちゃん、凄い……こんな楽しそうな顔、初めて見た……」 マリーが甲斐甲斐しくサポートに回る。


そして、仕上げの工程。 「小僧、例の石を出せ! **【重力核グラビティ・コア】**だ!」


俺はポケットから、ビー玉ほどの大きさの青白く脈動する石を取り出した。 第13話でネロが食らった深層ボス**「クリスタル・イーター」**。その心臓部だ。 手慰みのツボ押し代わりにポケットに入れていたが、ついに本来の輝きを見せる時が来た。


ガント爺さんはそれを見て、喉を鳴らした。 「……ほう、深層の主の心臓コアか。まさか『ツボ押し』にしておったとはな。贅沢な使い方をしおって」


爺さんはそれを極小の球体に削り出し、ペンの中心部――重心点コアへと埋め込む。 最も繊細な作業だ。ズレればペンは暴走し、俺の指をへし折る凶器になる。


「俺がマナで固定する。爺さんは外殻を閉じてくれ!」 「おうよ! 魂込めろよ!」


ジュウゥゥッ!!


俺のマナと、爺さんの技術、そしてAIの計算が一点に収束する。 ミスリルのボディが重力核を飲み込み、青白い光が爆発した。


6. 完成、スタイラス・ワンド


光が収まると、作業台の上には一本の「ペン」が鎮座していた。


全体は洗練された流線型の銀色。長さは完璧な148mm。 継ぎ目は一切ない。中心には黒いコアが埋め込まれ、まるで生きているかのように微かな鼓動(マナの脈動)を放っている。 それは筆記具というより、未来のオーパーツのような美しさを持っていた。


「できた……ワシの最高傑作だ……」 ガント爺さんが燃え尽きたようにへたり込み、荒い息を吐く。 「まさか、剣でも鎧でもない『ただの短い棒』に、ここまでの技術を詰め込むことになるとはな……」


俺は恐る恐る、そのペンに手を伸ばした。 指が触れる直前。


フワッ。


ペンが独りでに浮き上がった。 そして、俺の指の動きに合わせて、吸い付くように空中で静止ホバリングする。重力核が正常に機能している証拠だ。


「すげぇ……重力を無視してやがる」


同期完了。生体認証パス:コタロウ。 システム起動:【自律回転式魔導ペン(スタイラス・ワンド)】


俺が指を軽く弾くと、ペンはシュルルルル! と音速で回転を始めた。 以前の「木の棒」や「ボールペン」とは比較にならない安定感。摩擦ゼロ。遠心力による負荷も、ミスリルボディが完璧に吸収している。


「機能テストを行う」


機能解放リスト:


1. 演算速度3トリプル・アクセル: ミスリルの超伝導により、AIの処理速度およびフリック入力速度が飛躍的に向上。 2. 自律機動オート・ホバリング: 重力核により空中に固定、または使用者の周囲を衛星のように周回する。もはや手で持つ必要すらない。 3. 自動防衛オート・ガード: 敵意のある攻撃に対し、ペンが勝手に動いて物理・魔法障壁を展開。


そして、最後に実装された機能。 俺が喉から手が出るほど欲しかった、究極の機能だ。


4. 【睡眠学習スリープ・ラーニング


「き、来た……!」 俺は震える声で言った。「これだ……俺が求めていた機能は……!」


7. 夢のサボりライフへ


「おい小僧、その機能はなんだ? 睡眠学習だと?」 爺さんが怪訝な顔をする。これだけの苦労をして作った機能が何なのか、気になるようだ。


「見ててくれ。……(カンニング・AI、スリープモード起動)」


俺はその場で椅子に座り、マリーが持っていた分厚い「古代魔導語辞典」を開いて、机に突っ伏して寝た。 「グゥ……」


その瞬間。 俺の手から離れた「スタイラス・ワンド」が、空中で猛烈に回転しながら辞典の上をスキャンし始めた。


パラパラパラパラパラ!!


風圧でページがめくられ、ペンが内容を高速で読み取る。 そして、読み取った情報は、ペンの先端から放たれる微弱なマナ通信波によって、俺の脳内デバイス(AI)へと直接転送される。


俺は寝ている。完全に熟睡している。 だが、脳内には知識が奔流のように流れ込んでくる。 (……すごい。夢の中で、難解な古代語の活用形が理解できる……!)


数分後。 俺は「ふぁ~」とあくびをして目を覚ました。 「……終わった」


辞典の内容は、全て頭に入っていた。 「これで……授業中に寝ていても、テストで満点が取れる……!」


「な、なんちゅう無駄な技術だ……!」 ガント爺さんは呆れ果てていた。「その技術があれば、一晩で国を滅ぼす戦略魔法も組めるだろうに! 勉強をサボるためだけに使うとは!」


「いいんです、爺ちゃん!」 マリーが目を輝かせて俺を擁護した。 「ご主人様は、怠惰のために全力を尽くすお方なんです! その矛盾こそが、ご主人様の美学なんです!」 「お、おう……マリーが言うならそうなのかな……」


爺さんは、可愛い孫娘に言われると弱いらしく、困惑しながらも、どこか満足げだった。


8. 予期せぬ大金と、職人の矜持


「さて、支払いの話だが……」


俺は作業台に残された**「残りのミスリル鉱石」**の山を指差した。 ペン一本を作るのに使ったのは、ほんのわずかな量だ。まだ拳大の鉱石がゴロゴロと残っている。


「この残ったミスリル、全部換金して製作費に充ててくれ。お釣りは現金で頼む。これからの学園生活(サボり資金)に使いたいんだ」


俺がそう提案すると、ガント爺さんは「ブッ!」と茶を吹き出した。


「ば、バカ言え! 貴様、このミスリルの価値が分かっておらんのか!?」


爺さんは血相を変えて鉱石の山を抱え込んだ。 「これは深層産の**『超高密度ミスリル』**じゃ! ほんの小指の先ほどの欠片でも、一軒家が建つほどの値がつく! こんな量を一度に市場に流したら、王都の経済が崩壊するわ!」


「……えっ、マジで?」


「マジじゃ! 王都中の金庫をひっくり返しても、この全量を買い取れる現金など存在せん!」


ガント爺さんは呆れ果てながら、金庫からズシリと重い革袋を持ってきた。中には眩いばかりの金貨と白金貨がぎっしり詰まっている。


「ワシの工房で買い取れるのは、この『欠片』ひとつが限界じゃ。……ほら、これで勘弁しろ」


爺さんが買い取ったのは、本当に米粒程度の破片だけだった。 それでも、渡された革袋の重さは尋常ではない。


「こ、これだけで……一生働かずに暮らせるんじゃ……?」 俺の手が震えた。残りのミスリル鉱石は、ほとんど手つかずのまま俺の手元に残ることになった。 資産価値がバグっている。


「で、製作費はいくら引けばいい?」 俺が尋ねると、ガント爺さんは首を横に振った。


「金なんぞいらん」


「は? でも、最高の技術を使ってもらったんだぞ?」


「ワシは職人じゃ。未知の技術に触れ、生涯最高の傑作を打てた。その経験こそが報酬じゃ。……それに」


爺さんはチラリとマリーの方を見て、少し照れくさそうに鼻をこすった。


「マリーが世話になっておるからな。孫娘の『主人』が貧乏では、マリーに苦労をかける。……その金で、あいつに美味いもんでも食わせてやってくれ」


「爺ちゃん……! ありがとう! 大好き!」 マリーが爺さんに抱きつく。爺さんは「ぐふふ」とデレデレに崩れ落ちた。


「(……チョロいな、この伝説の鍛冶師)」


俺は苦笑しながら、重たい革袋と残りのミスリルをリュックに詰め込んだ。


9. 影の嫉妬と、次なる予感


「ありがとう、爺さん。最高の相棒(武器)だ」 「ふん。礼には及ばん。……メンテナンスが必要ならいつでも来い。そのペンをいじれるのはワシだけだからな。あとな、マリーを泣かせたらこのペンごとへし折るから覚えておけ」


ガント爺さんはぶっきらぼうに言ったが、その表情は晴れやかだった。 俺たちは礼を言い、工房を後にした。


帰り道、俺は完成したスタイラス・ワンドを指先でくるくると回し(オート・ホバリングさせて)、ニヤリと笑った。 これさえあれば、新学期から始まる**「Sクラスの過酷な生存競争」**も、すべて寝ながらクリアできるはずだ。


「よし、これで夏休みの宿題も一瞬で終わるな」


俺が上機嫌で歩いていると、足元の影がドロリと揺らめいた。


『……ふーん。新しいおもちゃ?』


影の中から、ネロの不満げな声が響いた。 どうやら、俺が新しいペンに夢中になっているのが気に入らないらしい。


『その銀色の棒……なんか生意気。ボクより役に立つの?』 『あんまり大事にしすぎると、嫉妬で壊しちゃうかもよ? ……ボクのこともしっかり構ってね、コタロウ』


影から伸びた黒い手が、俺の足首をキュッと掴む。 背筋に冷たい汗が流れた。


「(……ペンは完成したが、こっちの機嫌を取る機能はついてないんだよな)」


俺の最強装備**【自律回転式魔導ペン(スタイラス・ワンド)】**。 それは後に、魔導大戦において『銀色の処刑具』として敵軍に恐れられることになるのだが――今の俺は、それをただの「安眠枕」としか思っていなかった。


夏休みはまだ始まったばかり。 俺のサボりライフと、それを取り巻くトラブルは、ますます加速していくのだった。


(第20話 完)

【第20話 あとがき:銀色の波紋】

お読みいただきありがとうございます!

「伝説の素材で、最強の筆記用具(サボり用)を作る」 ついにコタロウの次期メインウェポン、**【自律回転式魔導ペン(スタイラス・ワンド)】**が完成しました!

今回の見どころを振り返ると……

• 素材の無駄遣い(褒め言葉): ミスリルと重力核という、本来なら魔王を倒す聖剣になるべき素材が、148mmのペンになりました。これぞFクラスの真骨頂です。

• ガント爺さんの変化: 孫娘を溺愛するお爺ちゃんから、未知の設計図に魂を売ったマッド・エンジニアへの変貌。職人とAIのセッションは熱かったですね。

• 夢の「睡眠学習」: 指一本動かさずに知識をインストール。コタロウが目指す「何もしないエリート生活」の基盤が整いました。

しかし、コタロウはまだ気づいていません。 自分が投げ捨てた「AIによる超精密設計図」が、一人のドワーフ職人にどれほどの衝撃を与えてしまったのか。そして、その衝撃が**「さらなる怠惰の贈り物」**となって自分の元へ返ってくることを――。

さて、相棒ペンも手に入れ、懐も温まったコタロウ。 次回は幕間エピソードとして、彼が去った後の「職人街の狂騒」をお届けします。


【次回予告】

第20.5話『【幕間】~伝説の鍛冶屋、Fランクの「怠惰」を「革命」と勘違いして技術顧問にスカウトする~』

「あのお方は構造解析の神じゃ!」 勘違いを加速させたガント爺さんが、コタロウの元へ持ってきた「究極の供物」とは? そして、金も技術も手にした一行が計画する、輝かしい(はずの)バカンス。

「南国リゾート? ビキニ? いいね、行こう!」

……その選択が、コタロウを「地獄の極寒地帯」へと誘う引き金になるとも知らずに。

次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】 スタイラス・ワンドの完成を祝して、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の星の数だけ、コタロウの睡眠学習の効率が向上し、ネロの嫉妬心が(ほんの少しだけ)和らぎます!

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