Ep.31 第17話:愛用の「木の棒」が折れた。AIが「次の素材はミスリル一択です」と譲らない
【第17話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第16.5話では、コタロウの安眠を妨害する「ヤンデレ精霊」と「脳内AI」による、仁義なき嫁姑戦争をお届けしました。 精神防壁がないと眠れない夜……コタロウのSAN値は限界寸前です。
さて、一夜明けて、世間は輝かしい夏休み(学年末休暇)! ですが、コタロウを待っていたのは「未提出レポートの山(残業)」という現実でした。
今回の第17話は、そんな彼の心をさらにへし折る「事件」から始まります。 幾多の戦場「第7話:筆記試験という名のクソゲー」を共に駆け抜けた相棒(100円のボールペン)の死。 そして、AIが提示した再契約(新しいペン作成)の条件は、貧乏学生には到底不可能な**「国宝級レアメタル」**の要求でした。
「楽をしてサボりたい」。 その一心だけで動く男に、都合よく舞い込む「公爵家のトラブル」。 欲望と利害が一致する瞬間をお楽しみください!
【本文】
1. 夏休みという名の「残業地獄」
学年末試験が終わり、悪夢のような従者選定式も過ぎ去った翌日。
世間は、輝かしい夏休み(学年末休暇)の初日を迎えていた。
青い空、白い入道雲、そして蝉の声。
本来なら、俺は寮のベッドで昼まで寝て、午後は学食でダラダラ過ごし、夜はモモたちとカードゲームに興じる……そんな「怠惰の極み」のような生活を送っているはずだった。
「……なんで俺、まだ机に向かってるんだ?」
俺、コタロウは、リリスが占有する「特別研究室」の机に突っ伏していた。
目の前には、未提出のレポート用紙が山のように積まれている。その高さ、約30センチ。
「文句を言わないで、コタロウ。自業自得よ」
向かいの席で優雅に紅茶を飲んでいるリリスが、冷たく言い放つ。
彼女の横では、新しく従者になったCクラスの神子が、凄い速度で古代語の文献を翻訳していた。
「自業自得って……俺、試験は全科目クリアしただろ? 学年4位だぞ?」
「ええ。でも、貴方が転籍するのは『精霊魔法学部』よ。あそこは、1学年時に一般教養科目のカリキュラムを全て修了していることが前提条件なの」
リリスは積み上がったレポートの山を指差した。
「貴方は『5月にFクラスへ編入してくる前の課題』を一切提出していない。書類上、その期間は『行方不明』扱いだったからね。この空白期間のレポートを消化しない限り、転籍手続きが完了しない=『夏休みが始まらない』のよ」
「鬼かよ……。過去のツケがこんなところで……」
俺は絶望した。
ちなみに、モモは既に自由の身だ。彼女は部屋の隅で、新しい従者となったニーナ(実家がレストラン)が作った特製ハンバーグを幸せそうに頬張っている。
「んぐんぐ……ボス! 早く終わらせて遊ぼうぜ! 今日は川遊びに行く約束だろ?」
「ニーナのご飯は最高だなぁ! お代わり!」
「はい、モモ様! すぐに焼きますね!」
甲斐甲斐しく世話を焼くニーナと、餌付けされているモモ。平和そのものだ。
俺は涙目でペンを握り直した。
2. 「記述精霊」への高出力チャージ
「(……くそっ、真面目に書いてたら日が暮れる。カンニング・AI、何かサボるいいアイデアはないか?)」
【AI】 回答:
• 本研究室のインク瓶に生息する希少な精霊**『スクリブル』**の利用を推奨します。
• 精霊名: スクリブル(愛称:リブル)
• 特徴: 文字や記号をなぞることに特化した「筆写の精霊」。知能は低いが、良質なマナを与えると猛スピードで代筆を行う。
• 容姿: インクの滴に羽が生えたような、親指サイズの真っ黒な小人。シルクハットの代わりに「ペンの破片」を被っている。
• 誕生の経緯: リリスが長年にわたり、膨大な数の古文書や希少な書物の写しをこの部屋で行い続けた結果、その「執念」と「理知的なマナ」がインクに宿り、突然変異的に誕生した極めて珍しい個体です。
「(リリスの勉強オタクっぷりが精霊を生んだのか……。道理で、古文書の文字をトレースするのだけは得意そうな顔してるわけだ)」
俺は机の上のインク瓶を軽く叩き、中に潜んでいたリブルを呼び出した。
「ほら、特上マナだぞ。しっかり働けよ」
俺は指先でペンをくるくると回し始めた。
【無限回転(ペン回し)】モード起動。
大気中から抽出された無色のマナが、AIによってリブルの「母体」となった最高級インクと波長の合う、芳醇で理知的な**【ユニークマナ】**へと変容する。
「ギギッ、ギョイーン!」
リリスのマナに近い「極上のエサ」を直接チャージ(給油)されたリブルは、歓喜に震えて真っ赤に発光すると、俺のペンにピタリとしがみついた。
俺は左手でスマホを操作し、**【フリック入力】**でレポートの内容を凄まじい速度で打ち込んでいく。
その文字データがAIを経由してリブルに「送電コマンド」として伝わり、精霊が取り憑いたペンが、物理法則を無視した正確さと速度で紙の上を爆走し始めた。
「ふんふん~♪」
リリスの執念が生んだ「筆写のプロ」と、俺の「外部給油」の同期率は120%。
摩擦熱でペン先から微かに煙が上がっているが、この速度ならあと1時間で終わる――そう確信した、その時だった。
パキッ。
乾いた、嫌な音が研究室に響いた。
「……え?」
俺の指先で回っていた愛用のペン――入学当初から使い続け、幾多の試験とダンジョンを潜り抜けてきた「改造木製ボールペン(コンビニで100円)」が、真っ二つに折れていた。
回転の勢いで、折れた上半分のパーツが飛んでいき、リリスの紅茶カップにポチャンと落ちた。
「…………」
リリスが無言で、紅茶に浮かぶペンの残骸を見つめている。
「あ、あの……リリスさん? それ、まだ飲めますよ?」
「……非論理的な提案ね。もちろん、捨てるわよ」
3. AIの非情な宣告
俺は折れたペンの断面を見つめ、呆然とした。
「嘘だろ……。俺の相棒が……」
ただの安いボールペンだが、俺の魔力制御(ペン回し)に馴染んだ唯一の武器だ。これがないと、俺はただの無気力な一般人に戻ってしまう。
「(おいカンニング・AI、どうなってる? なんで折れた?)」
脳内に警告ウィンドウが表示される。
【AI】 損壊報告
- 原因: 魔力過多による素材疲労。
- 詳細: マスターの魔力出力と回転速度(RPM)が向上した結果、「木材(プラスチック混合)」の耐久限界を超過しました。
- 結論: 次回、同素材でスキルを使用した場合、遠心力でマスターの指が爆散します。
「ひえっ……」
俺は思わず指を押さえた。指が吹き飛ぶのは勘弁してほしい。
「じゃあ、新しいペンを買えばいいのか? 学園の売店で、もっと高い木製の杖とか……」
【AI】 却下します。
AIが即答した。
『木材、骨、一般的な金属では、もはやマスターの回転に耐えられません。推奨素材は一つだけです』
脳内に、青白く輝く金属の画像が表示される。
『推奨素材:【ミスリル銀(神銀)】』
- 特性: 魔力伝導率は木の500倍。物理耐久Sランク。
- 必要性: 次期スキルツリー「自動迎撃」および「睡眠学習」の解放に必須。
「……は?」
俺は耳を疑った。
「ミスリルって、あの伝説級の金属か? 国宝とかに使われるやつ?」
『肯定します。それ以外の素材では、スペック不足です』
「無理無理無理! そんなの買えるわけないだろ!」
俺は心の中で叫んだ。
ミスリルなんて、小指の先ほどの欠片でも、俺の1年分の生活費が吹っ飛ぶような超高級素材だ。しがない学生に買える代物ではない。
「でも、AIさんよ。『睡眠学習』ってのは気になるな……」
『解説:【睡眠学習】とは、ペンを自律回転させておくことで、マスターが寝ている間に教科書や魔導書の内容を自動スキャンし、脳内に知識をインストールするスキルです』
「!!」
俺の目の色が変わった。
寝ているだけで勉強が終わる? 授業中、爆睡していても単位が取れる?
それはつまり、俺が目指す「究極のサボりライフ」を実現するための神器ではないか。
「(……欲しい。死ぬほど欲しい)」
俺は折れたペンを握りしめ、葛藤した。
ミスリルのペンがあれば、俺の平穏な生活は約束される。
だが、金がない。圧倒的にない。
4. 貧乏学生の苦悩
「どうしたの、コタロウ? 顔色が悪いわよ」
リリスが怪訝そうに覗き込んでくる。
「いや……ペンが壊れちまってな。新しいのが必要なんだけど、ちょっと素材が高くて……」
「ふうん。購買部の高級杖でも1万ゴールドくらいでしょ? 学園長から特別奨学金も出たし、買えるんじゃない?」
「いや、必要なのは『ミスリル』なんだ」
「ぶっ」
モモがハンバーグを吹き出した。リリスも目を見開いて固まる。
「ミスリル!? 貴方、何を作る気? 勇者の聖剣でも打つの?」
「いや、ただのボールペンを……」
「馬鹿なの? 筆記用具に国宝を使う馬鹿がどこにいるのよ!」
リリスの罵倒はごもっともだ。だが、カンニング・AIは譲らない。
『ミスリル一択です。妥協は許しません』
その時。
研究室のドアが控えめにノックされた。
「……あの、失礼しますぅ」
おずおずと顔を出したのは、俺の新しい従者となったドワーフの少女、マリーだった。
彼女は俺の荷物持ちとして待機していたのだが、俺たちの会話が聞こえていたらしい。
「ご主人様……ミスリルをお探しなんですか?」
「あ、ああ。マリーの実家って、確か鍛冶屋だったよな? ミスリルとか余ってたりしない?」
俺はダメ元で聞いてみた。
マリーは困ったように眉を下げる。
「うちは加工専門ですので、在庫はありません……。ミスリルは市場にも滅多に出回らない『幻の金属』ですから……。もし手に入れるなら、王室の宝物庫か、未踏の古代鉱脈くらいしか……」
「詰んだ」
俺は机に突っ伏した。
王室に泥棒に入るか、ツルハシを持って山籠りするか。どちらも「平穏」とは程遠い。
「(諦めるか……。睡眠学習は魅力的だが、命には代えられない)」
そう思いかけた時。
研究室のドアが、今度はバーン! と勢いよく開かれた。
5. 舞い込んだ「都合のいい話」
「コタロウ、クラウディア様が大変なの。助けてあげてほしいの!」
飛び込んできたのは、涙目の聖女・アヤネだった。
そしてその背後には、青ざめた顔で扇子を震わせている、あのクラウディア・ルミナスの姿があった。
さらにその後ろには、彼女の従者に戻ったエリカとジュリアも、不安げな表情で控えている。
「……え、なに? 今度は何のトラブル?」
俺の「嫌な予感」センサーが警報を鳴らす。
だが、カンニング・AIだけは冷静に、そしてちゃっかりと告げた。
『好機です。クラウディアの実家、ルミナス公爵家は、国内有数の鉱山持ちです』
『ターゲットロック。交渉次第で、ミスリルが入手可能です』
「助けてください、コタロウ……様」
クラウディアは屈辱に震えながらも、頭を下げた。
「実家の屋敷が……大変なことになっているの」
俺は顔を上げ、涙目のアヤネと、プライドをかなぐり捨てて助けを求めてきたクラウディアを見た。
折れたペンをポケットにしまい、俺はニヤリと笑った。
「……話を聞こうか。ただし、報酬は高くつくぞ?」
夏休み初日。
レポート地獄から解放される間もなく、俺の「ミスリル獲得クエスト」が始まろうとしていた。
(第17話 完)
【第17話:あとがき】
読んでいただきありがとうございました!
ついにこの日が来てしまいました。 第1話からコタロウの指先で回り続け、数々の「カンニング」と「サバイバル」を支えてきたコンビニ製100円ボールペン、殉職です。合掌。
しかし、その死と引き換えに示された次世代スペックが凄まじいですね。
• 素材: ミスリル(神銀)
• 新機能: 自動迎撃 & 睡眠学習
「寝ている間に知識を脳にインストールする」。 これは全学生、そして全怠け者が魂を売ってでも欲しがる究極のチートです。これさえあれば、コタロウの目指す「何もしないエリート生活」に王手がかかります。
そんな彼の前に、ナイスタイミングで現れた「歩くミスリル鉱山」ことクラウディアお嬢様。 プライドを捨てて助けを求める彼女に、コタロウがどんな「えげつない請求書」を叩きつけるのか、今から楽しみですね。
【次回予告】
第18話『クラウディアが「暴風封印の魔石」で困っていたので、ゴミ箱シュートで解決して恩を売った』
豪華な公爵邸を包み込む、触れるものすべてを切り裂く暴風結界。 物理的に近づけないなら、遠くから「ゴミ」を投げればいいじゃない。
• コタロウの神エイムが唸る!
• 新精霊たちが、お屋敷でパリピな大暴れ!?
• そして、ミスリル獲得への交渉(脅迫)の行方は――。
夏休みの「サボり」を勝ち取るための、コタロウの全力の「お仕事」が始まります。 次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の星の数だけ、コタロウの新しいペンの回転数が上がり、睡眠学習の効率が向上します!




