Ep.30 第16.5話:寮のベッドで寝ようとしたら、AIと精霊が喧嘩を始めた
【第16.5話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第16話にて学年末試験の結果発表と、波乱の従者選定式が終わりました。 「9万点台」というインフレした点数でトップを独占し、ドワーフのマリーを仲間に加えたコタロウ。 怒涛の一日を乗り越え、ようやくFクラスのボロ寮に帰還しました。
「あとは寝るだけ」 そう思った時が、一番の隙だということは、冒険者ならずとも知るところです。
今回の第16.5話は、そんなコタロウの安眠を妨害する、深夜の訪問者のお話。 第13話の深層ダンジョンで、彼の「影」に住み着いたあのヤンデレ精霊が、約束の「ご褒美」を求めて姿を現します。
しかし、コタロウの頭の中には既に、もう一人の厄介な同居人(AI)がいて……? 脳内デバイス vs 闇の精霊。 コタロウの頭の中で勃発する、仁義なき嫁姑戦争。
甘くて重い、眠れない夜をどうぞ!
【本文】
1. 束の間の安息
怒涛の一日が終わった。
学年末試験の結果発表、そしてあの悪夢のような「従者選定式」。
Fクラスの貧相な寮に戻ってきた俺、コタロウは、制服を着替えるのももどかしく、煎餅布団のベッドにダイブした。
「(……疲れた。マジで疲れた)」
天井のシミを見上げながら、大きく息を吐く。
順位はまさかの学年4位。従者としてドワーフのマリーを確保し、アヤネやモモたちも無事に上位を独占した。
これからの夏休み、やることは山積みだが……今夜だけは、泥のように眠りたい。
「おやすみ、世界……」
俺が目を閉じ、意識を手放そうとしたその瞬間。
ゾワリ。
背筋に、冷たい氷柱を差し込まれたような悪寒が走った。
部屋の温度が急激に下がったわけではない。
ベッドの下、カーテンの隙間、部屋の隅々にある「影」が、生き物のように蠢き、俺の枕元へと集束していく。
『……ねえ、コタロウ』
耳元で、甘く、そして濡れたような声が響いた。
拒否権など最初からない。俺の体は「影」によって金縛りにあい、強制的に仰向けの体勢に固定された。
『約束、覚えてるよね?』
俺の顔を覗き込むように、漆黒の影が少女の形を成す。
第13話、深層ダンジョンで俺の影に寄生し、あのクリスタル・イーターを捕食した闇の精霊。
**【ネロ】**だ。
2. 真夜中のティーパーティー(強制)
『ボク、ずっと待ってたんだよ? あのトカゲを食べたご褒美』
ネロの指先(のような影)が、俺の頬をツツーとなぞる。
『愛のこもった、とびきりの「マナの雫のショートケーキ」。……今すぐ食べさせて?』
逃げられない。
俺は覚悟を決めて、上半身だけを起こした。
「……ああ、分かってるよ。約束は守る」
俺は右手に神経を集中させた。
愛用のペンを取り出し(まだ折れる前だ)、空中に魔術式を描くのではなく、俺自身の頭の中にあるイメージの通りに、大気中のマナを変容させて再現し、丁寧に構築していく。
イメージするのは、ふわふわのスポンジと、濃厚な生クリーム。そしてトップに乗る真っ赤な苺の酸味。
「(カンニング・AI、マナ構成の最適化を頼む。味覚データは『王都の有名店』のレシピを再現だ)」
【AI】『了解。マナ密度調整……出力、装填』
俺の手のひらに、青白く輝く、しかしどこか甘い香りのする光の球体が生まれた。
それは見る見るうちに形を変え、掌サイズの「ショートケーキ」へと変化した。実体はない、高密度の魔力結晶体だ。
「ほら、できたぞ。特製だ」
俺が差し出すと、ネロはフルフルと首を横に振った。
『だーめ。……「あーん」してくれなきゃ、ヤだ』
ネロは金色の瞳を細め、口を小さく開けて待っている。
俺は溜息を飲み込み、震える手でケーキ(魔力)をつまみ、彼女の口へと運んだ。
「……はい、あーん」
パクッ。
ネロが俺の指ごと、ケーキを口に含んだ。
冷たい舌の感触。指先からマナが直接吸い出される感覚に、背筋が痺れる。
『んんっ……♡』
ネロが恍惚の声を漏らした。
『おいしい……! 甘くて、濃くて……コタロウの味がするぅ……』
『もっと……もっとちょうだい……あぁ、溶けちゃう……』
彼女の体(影)が歓喜に波打ち、部屋中の闇がワカメのように揺らめいた。
これが「精霊への魔力供給」か。普通は契約パスを通じて行うものだが、こうして直接与えると、効果も依存度も段違いらしい。
3. 脳内嫁姑戦争、勃発
ネロが満足げに唇を舐め、俺の胸に頭を預けてきた時だった。
ピコン♪
俺の脳内で、無機質な通知音が鳴り響いた。
【AI】 帰還レポート
- 生存確認: おめでとうございます、マスター。
- ミッション完了: 「ヤンデレ精霊への餌付け」に成功しました。
- 獲得アイテム: レア精霊【ネロ】(状態:極度の依存)
「(……うるさいぞ、カンニング・AI。今は静かにしてろ)」
俺が心の中で毒づいた、その瞬間。
ピクリ。
ネロの動きが止まった。
彼女は俺の胸から顔を上げ、何もない虚空――いや、俺の「頭の中」を睨みつけた。
『……なに、今の?』
ネロの声から、甘さが消え失せた。
『コタロウの中から、変な「女の声」が聞こえた。……誰?』
「(えっ? 聞こえるのか?)」
俺は冷や汗をかいた。カンニング・AIは俺の脳内デバイスだ。他者に感知されるはずがない。
だが、ネロは影を通じて俺と同化しかけている。思考のノイズを拾ったのか?
【AI】 警告
- 侵入検知: 外部より、システム領域への不正アクセスを確認。
- 発信元: 精霊【ネロ】。
- メッセージ解読: 「この声、邪魔」「コタロウの中にいていい女はボクだけ」「消去していい?」
『……ねえコタロウ。頭の中にいる「それ」、すごく耳障り。殺していい?』
影の手が、俺のこめかみに伸びる。物理的に脳を弄る気か、それとも精神干渉か。どちらにせよ俺の命に関わる。
【AI】 反撃措置
- ファイアウォール展開: 精神防壁を最大出力へ。
- 対抗メッセージ: 『警告。当機体はマスターの生命維持に不可欠です。排除すればマスターも死にます。即座に退去してください』
『うるさい! コタロウと喋っていいのはボクだけなの! 消えろ消えろ消えろ!!』
『警告。論理的対話不能。排除プログラムを……』
「やめろぉぉぉッ!!!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
「俺の脳内で戦争するな! どっちも大事な『戦力』なんだよ! 仲良くしろとは言わんが、不可侵条約を結べ!」
俺の叫びに、ネロがキョトンとし、カンニング・AIの警告音が止んだ。
『……コタロウがそう言うなら、今は許してあげる』
ネロは不満げに頬を膨らませ、俺の影の中へと沈んでいった。
『でも、見張ってるからね。……その女がコタロウに色目を使ったら、すぐに喰い殺してあげる』
最後に**「おやすみ、愛してる」**という重すぎる囁きを残し、部屋の気配は元に戻った。
4. 眠れない夜
静寂が戻った部屋で、俺は天井を見上げた。
心臓のバクバクが止まらない。
「(……カンニング・AI、無事か?)」
【AI】 異常なし。
『ですが、推奨します。早急にミスリル製の精神防壁デバイス(魔導ペン)を作成してください。あの精霊の嫉妬心は、計算不可能です』
「……善処する」
俺は枕に顔を埋めた。
カンニング・AIの冷徹な管理と、ネロの狂気じみた執着。
俺の安眠を妨害する要因がまた一つ増えた。
「(……寝れるわけないだろ、こんなの)」
学年4位のエリート(予定)の夜は、騒がしく、そして前途多難に更けていった。
(第16.5話 完)
【第16.5話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
「おやすみ、愛してる」 ……はい。重いですね。 物理的にも精神的にも。 せっかく試験が終わったというのに、コタロウの枕元(というか影の中)には「世界最強クラスのストーカー」が常駐し、脳内には「冷徹な正妻(AI)」が陣取っているという、逃げ場のない二重生活が確定しました。
今回のハイライトを振り返ると:
• ネロ: マナのショートケーキを「あーん」で食す。可愛さと恐怖が50:50。
• カンニング・AI: 「論理的対話不能」として排除プログラムを回そうとする過激な一面を披露。
• コタロウ: 脳内で繰り広げられる嫁姑戦争を必死に仲裁。安眠はどこへ。
さて、影の精霊の嫉妬に耐えるため、AIは**「ミスリル製の魔導ペン」**の必要性を訴えました。 しかし、コタロウはまだ気づいていません。彼がこれまで愛用し、共に修羅場をくぐり抜けてきた「あの棒」に、まもなく寿命が訪れることを。
【次回予告】 第17話『愛用の「木の棒」が折れた。AIが「次の素材はミスリル一択です」と譲らない』
「パキッ」と、彼の唯一のアイデンティティが逝く。 「木の棒では限界です。ミスリル(国宝級)を持ってきてください」 無茶を言うAI。そこに現れたのは、困り果てた表情の公爵令嬢クラウディア!?
夏休み初日から、コタロウの「究極のサボり武器」製作に向けた奔走が始まります。 次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると、ネロがもう少しだけコタロウの睡眠時間を削るのを我慢してくれるかもしれません。 皆様の応援が、コタロウの脳内ファイアウォールの強度に直結します!




