Ep.29 第16話:学年末試験結果発表、従者選定式という名の奴隷市場
【第16話:まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第15.5話では、精霊界の世知辛い「役員会議」の様子をお届けしました。 「5億の赤字」と「15億の黒字」を同時に叩き出したコタロウという名の劇薬。その煽りを食って、深層の女王から**「人間界の学園副担任(看守兼パシリ)」**へと左遷されたセフィラさん。彼女が殺意と菓子折り(神々のマカロン)を抱えて、ヒールを鳴らしながら地上へ降り立つシーンで幕を閉じました。
さて、今回の第16話は、そんな「外部からの脅威」が迫っているとは露知らず、学園で自分の首を絞めることになったコタロウ君の視点に戻ります。 「葬式リハーサル」で学園長がぶち上げた歴代最高スコア。それが正式に掲示板に張り出される**「運命の合格発表」**の日です。
「間違いであってくれ」というコタロウの切実な祈りは、果たして「ルミ大」の神様に届くのか? そして、敗者の生徒を「奴隷」として買い取る残酷な伝統行事**【従者選定式】**にて、彼が選んだ「究極のサボりアイテム」の鍵を握る少女とは?
地上の喧騒と、地下から迫る復讐。 すれ違いの加速度がさらに増していく第16話、どうぞお楽しみください!
【本文】
1. 掲示板に刻まれた「絶望の確定」
学園の大講堂前にある巨大な掲示板には、全学年200名の運命を無慈悲に分かつ「最終成績」が正式に張り出されていた。
人だかりの隙間からそれを見上げ、俺、コタロウは、昨日の出来事が悪い夢ではなかったことを再確認して深くため息をつく。
「(……本当に、何ひとつ手加減が反映されてない)」
掲示板に並ぶ数字は、俺がAIと協力して積み上げてきた「目立たないための計算」を、学園長が物理的に踏みつぶした結果そのものだった。
そこには、この学園の階級制度をあざ笑うような、バグ染みた数値が確定事項として刻まれている。
【 第1学年 最終成績順位 】
• 第1位:リリス・フレアガード(Fクラス)
• 筆記:1,020点(満点+新理論特別加点20点)
• 実技:98,000点(深層到達・ボス討伐・浄化S+)
• 合計:99,020点
• 結果:合格【2年次:精霊魔法学部 §S2(セコンズ) 編入確定】
• 第2位:シノミヤ・アヤネ(Sクラス)
• 筆記:1,000点(聖女・Sクラス特権により無試験満点)
• 実技:98,000点(同上)
• 合計:99,000点
• 結果:合格【2年次:精霊魔法学部 §S2(セコンズ) 進学確定】
• 第3位:モモ・イヌガミ(Fクラス)
• 筆記:960点(名前の汚れ以外、ほぼ満点)
• 実技:98,000点(同上)
• 合計:98,960点
• 結果:合格【2年次:精霊魔法学部 §S2(セコンズ) 編入確定】
• 第4位:カミキ・コタロウ(Fクラス)
• 筆記:860点(2科目250点満点、2科目180点)
• 実技:98,000点(同上)
• 合計:98,860点
• 結果:合格【2年次:精霊魔法学部 §S2(セコンズ) 編入確定】
• 第5位:クラウディア・フォン・ローゼンバーグ(Sクラス・筆頭)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:990点(Aランク・優秀)
• 合計:1,990点
• 結果:合格【2年次:精霊魔法学部 §S2(セコンズ) 進学確定】
「(……もはやインフレという次元ですらないな)」
「うわぁ……Fランクの『脱獄メンバー』がトップ独占よ」
「9万点って何? 測定器の故障じゃないの?」
「Sクラスの連中、顔面蒼白だぞ。無試験特権で満点貰ってるのに、実力でねじ伏せられてる」
「おい見ろ、モモって子、筆記960点だぞ。天才か?」
周囲の生徒たちの視線は、畏怖と疑惑が混じり合い、針のように突き刺さる。
特進科(AからCクラス)の連中は、自分たちの誇りをゴミ箱にシュートされたような顔で固まっている。
俺の「空気モブ計画」の残骸は、掲示板の前で風に吹かれて消えていった。
だが、俺の意識はそれ以上に、掲示板の端に記された不穏な記号へと吸い寄せられた。
「(……おいAI。あのクラス名の横にある『§S2』ってのは何だ? 単なるクラス分けか?)」
【AI】『解説します。Sクラスには「S1(ファースト)」と「S2(セコンズ)」の二段階が存在します。
2年次進級時は例外なく、全員がS2からのスタートとなります。上位のS1へ昇格するには、王国の有力者による推挙、または国家規模の功績など、計5件の「推薦」を集める必要があります』
「(……推薦5件? 随分と面倒なシステムだな)」
【AI】『補足。S1の特典は「学園選抜」としての登録。および、一切の授業出席を不要とする「自由行動権」の付与です』
「(……授業出席不要の自由行動権だと!? それ、俺が喉から手が出るほど欲しかった「合法ニート・ライセンス」じゃないか!)」
一瞬、希望の光が見えた気がした。だが、すぐに賢者タイムが訪れる。王国の有力者の推挙を5つも集めるなんて、目立ちたくない俺には一生縁のない話だ。結局、今の俺はS2という名の「超エリート社畜予備軍」として、学園にこき使われる運命(絶望)にあることに変わりはなかった。
2. 確定した「Sクラス」という名の社畜切符
「……コタロウくん、やっぱり本当だったんだね」
隣でアヤネが、自分の名が2位にあるのを眩しそうに見つめている。アヤネにとっては奇跡の生還の証だろうが、俺にとっては「平穏」という名の生存権の剥奪だ。俺たちの名前の横には、昨日宣言された通り、忌々しくも誇らしげなスタンプが押されている。
【2年次:精霊魔法学部(Sクラス)編入確定】
治癒・生活魔法学部のMクラスに滑り込み、昼寝三昧のキャンパスライフを送るという俺の「省エネ哲学」に基づく完璧な計画は、完全に、跡形もなく崩壊していた。
「――喜ばしいことですわね、コタロウ様。わたくしを『5位』にまで押し下げてくださるとは」
背後から突き刺さる氷のような声。振り返ると、そこには扇子を握りしめ、かつてないほど「計算」が狂った顔をしたクラウディアが立っていた。Sクラス筆頭のプライドを粉砕された彼女の瞳には、激しい屈念と、それを塗りつぶすほどの不気味な「執着」が宿っている。
「……計算外でしたわ。でも、これでお揃いのSクラス。来年からはたっぷり可愛がって差し上げますわよ?」
「(……ああ、もう帰りたい)」
3. 天国と地獄の分岐点
ざわめく生徒たちの前に、教頭のマグダが現れた。彼女の鉄仮面のような表情にも、隠しきれない動揺が見える。
「はい、静粛に。これより『進学組』と『従者落ち組』の選別を行います」
教頭が杖を振ると、床に赤いラインが引かれた。順位101位以下の生徒たち――その大半は、筆記試験の難化調整(平均500点)についていけなかった生徒たちだ――が、教師たちによって強引にラインの向こう側へと追いやられていく。
「いやだ! 俺はまだやれる! 家に金を送らなきゃいけないんだ!」
「嘘よ、私が従者なんて……お父様に言いつけてやる!」
悲痛な叫びが響く。この学園のルールは絶対だ。成績下位者は上位者の「従者(奴隷)」となり、実験のモルモットや雑用係として消費される。
俺はポケットの中で拳を握る。本来なら、俺たちがトップを独占したことで、ボーダーライン上の生徒が4人、あちら側に蹴落されたことになる。だが、今の俺に彼らを救う力はない。
「100位以内の『進学組』の皆さんは、隣の大講堂へ移動してください。進学者向けオリエンテーション……兼、祝賀パーティーを行います」
華やかな音楽が流れる大講堂へ促される俺たち。その背後では、従者落ちした生徒たちが、ドナドナのように「従者選定会場」へと連行されていった。
4. 従者選定式という名の奴隷市場
祝賀パーティーとは名ばかりの、堅苦しい立食形式の待ち時間を経て。 準備が整ったという知らせと共に、俺たちは「従者選定会場」へと案内された。
そこは、まるで家畜の品評会のような場所だった。 壇上には、番号札をつけられた従者落ちの生徒100名が、虚ろな目で整列させられている。
「これより、成績上位者による『従者選定』を行います。選ばれた生徒に拒否権はありません。上位者は最大3名まで、自身の研究助手、あるいは身の回りの世話係として獲得できます」
教頭のアナウンスが響く。 最初の指名権は、合計99,020点という圧倒的スコアを叩き出した、第1位のリリスだ。
「第1位、リリス・フレアガードさん。前へ」
リリスは無表情で壇上に上がると、迷いなく一人の生徒を指差した。 Cクラスからまさかの従者落ちを喫した、巫女服のような制服を着た少女だ。
「C-08番、神子。私の論文作成における古代語翻訳の助手として採用するわ」 「……はい。謹んでお受けします」
神子は静かに頭を下げた。実利に基づいた、リリスらしい合理的な選択だ。
「続いて第2位、アヤネさん」
聖女特権と実技の暴力で2位になったアヤネは、壇上でオロオロしていた。
「えっ、人を奴隷にするなんて……私には選べません……!」
聖女としての倫理観が邪魔をしている。しかし、選ばなければ彼らは地獄行きだ。 その時、Fクラスの双子の女子生徒が進み出た。
「聖女様! 私たち、お掃除もお洗濯も得意です!」 「どうか、お傍に置いてください!」
「えっ? あ、はい! じゃあ、えっと、お願いします!」
アヤネは流されるままに彼女たち、リナとルナを受け入れた。 「(……よかった、いい子たちそうで)」とアヤネは胸を撫で下ろしているが、俺のカンニング・AIは警告を発していた。
【AI】『警告。あの双子の身体能力および魔力波長、一般生徒ではありません。王国暗部の護衛(SP)と推測されます』
「(……ま、アヤネの護衛なら都合がいいか。放置でいいな)」
俺は気づかないフリをした。
「続いて第3位、モモさん」
モモは尻尾をブンブン振りながら進み出た。
「んーっとね! 誰か、美味しいご飯作れる人ー!」
会場が静まり返る中、一人の女子生徒がおずおずと手を挙げた。
「あ、あの……実家がレストランで、料理なら自信あります……」 「キミに決めた! 毎日ハンバーグね!」
モモの単純すぎる理由に、選ばれた女子生徒、ニーナ(Fクラス)は腰を抜かして喜んだ。モモの従者なら、間違いなく平和だろう。
「続いて第4位、コタロウさん」
俺の番だ。 本来なら目立たない順位でやり過ごすはずが、全生徒、そして教職員の注目の的になっている。
「(……どうする、カンニング・AI)」
【AI】『推奨ターゲット、11時の方向。D-45番、ドワーフ族の女子生徒を確保してください』
カンニング・AIが視界にターゲットマーカーを表示する。 小柄で筋肉質なドワーフの少女が、怯えたように震えていた。
【AI】『彼女の家系は、城下随一の「ミスリル加工技術」を持つ鍛冶師の一族です。次期メインウェポン作成のため、彼女とのコネクションは必須です』
「(……なるほど。そういうことなら)」
俺は彼女を指差した。
「D-45番。……俺の荷物持ち兼、装備のメンテナンス係として頼む」
彼女――マリーというらしい――は、ビクッと体を震わせた後、「あ、ありがとうございます……!」と涙ぐんで安堵した。少なくとも、実験動物にされるよりはマシだと思ったのだろう。
5. 敗者の視線
そして、第5位。 クラウディア・ルミナスが、優雅かつ不機嫌そうに壇上へ上がった。 彼女は俺の方をギロリと睨みつける。
本来なら、Sクラス特権の「筆記1000点」と、優秀な実技成績で彼女がトップ争いをするはずだった。 それが、俺たちの異常な9万点のせいで、Sクラス筆頭でありながら5位という屈辱的な順位に甘んじている。 コタロウを従者としてこき使う計画も、完全に破綻していた。
「……フン。使えないFランク共ね」
彼女は扇子で、以前自分の取り巻きだった(そしてFクラスへ追放した)2名の元・従者、エリカとジュリアを指した。
「あなたたち、戻りなさい。また私の手足として働いてもらうわよ」 「は、はいっ! お嬢様!」 「ありがとうございます!」
二人は地獄の縁から救われたことに感謝し、泣いてすがった。
6. 終わりの始まり
その後も選定は続き、成績上位100名による「買い物」が終わった。 会場に残されたのは、誰にも選ばれなかった数十名の生徒たち。
「選定終了。これより、残りの生徒は規定通り『強制卒業』および『退学』処分とします。中堅ギルドへの斡旋、または開拓村への移送手続きを行ってください」
教師の無慈悲な声と共に、彼らは裏口へと連行されていく。 泣き叫ぶ声、抵抗する音。それが扉の向こうへ消えていく。
俺はマリー(ドワーフの少女)を後ろに立たせながら、その光景を見ていた。 これが、この学園の、いやこの世界の「普通」なのだ。 力なき者は搾取され、捨てられる。
「(……嫌な世界だ)」
俺は小さく吐き捨てた。 だが、俺には世界を変える力も、そんな義理もない。 俺にできるのは、自分の手の届く範囲――アヤネやモモ、リリス、そして新しく加わったこのドワーフの少女くらいを守りながら、平穏に生き延びることだけだ。
「よし、帰るぞ」
俺は新しい従者に声をかける。
「あ、はい! ご主人様!」 「コタロウでいい。……これから忙しくなるぞ。長い夏休みの始まりだ」
こうして、波乱の学年末試験と残酷な選定式が幕を閉じ。 俺たちの、少し騒がしい「学年末休み(夏休み)」が始まった。
(第16話 完)
【第16話:あとがき】
第16話、最後までお読みいただきありがとうございました!
ついに確定してしまった**「9万8860点」**。 コタロウが目指していた「目立たない、ほどほどのBランクライフ」は、学園長の「親指(Good Job)」ひとつで木っ端微塵になりました。Sクラス(地獄の社畜養成コース)への片道切符、本当にお疲れ様です。
こちらは、余談ですが、1学年の上位者(5位以降)の最終成績順の得点内訳は次の通りでした。(興味なしですね)
• 第6位:マクシミリアン・フォン・グロリアス(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:985点(火と風の複合魔法による高火力評価)
• 合計:1,985点
• 第7位:エルリック・ワイズマン(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:980点(正確無比な魔法制御・理論値通りの戦果)
• 合計:1,980点
• 第8位:フローラ・ブルームフィールド(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:960点(植物魔法による広域制圧・拘束評価)
• 合計:1,960点
• 第9位:レオン・ヴァンガード(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:960点(身体強化と近接魔法戦闘の合わせ技)
• 合計:1,960点
• 第10位:シャルロット・ド・ギリアン(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:955点(高級魔導具の大量使用による火力ごり押し)
• 合計:1,955点
• 第11位:サイラス・グリム(Sクラス)
• 筆記:1,000点(Sクラス特権・無試験満点)
• 実技:950点(影魔法による隠密・奇襲評価)
• 合計:1,950点
そして、不条理な「従者選定式」では、AIの助言通りドワーフの少女マリーを確保しましたね。 「荷物持ち」と称して、自分の代わりに魔法具をメンテナンスさせたり、将来的には「全自動板書ペン」を作らせようとするコタロウの怠惰への執念……。これこそが、彼をさらなるトラブルへと引きずり込む原因だということに、本人はまだ気づいていないようです。
さて、次回の第16.5話は、そんな激動の一日の「夜」のお話。 ようやく寮のベッドに潜り込んだコタロウですが、彼のプライベート空間はすでに侵食されていました。 影から這い出るヤンデレ精霊**【ネロ】の甘い誘惑。 そして、それに対抗する脳内の【カンニング・AI】。 一人の男の脳内と枕元で繰り広げられる、「正妻(AI)vs 寄生精霊」**の深夜のキャットファイトが開幕します!
「……寝かせてくれ」
コタロウの悲痛な叫びが空に消える幕間エピソード、第16.5話『寮のベッドで寝ようとしたら、カンニング・AIと精霊が喧嘩を始めた』。 どうぞ、寝不足覚悟でお楽しみください!
【作者からのお願い】 1学年最後の大きな節目となる「合格発表編」を応援いただき、ありがとうございます! 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様からいただく「星」の輝きが、ネロの嫉妬心からコタロウの脳を守るファイアウォールの強度と、マリーが叩き出すミスリル製品の品質に直結します!




