Ep.27 第15話:生還、そして自分の葬式へ
【第15話:まえがき】
前話で、深層のトラブルを(物理とハッタリで)解決し、管理者のセフィラからVIP待遇を受けたコタロウたち。 ふわふわのベッドで一夜を過ごし、体力も気力も全快です。
「あとは優雅に朝食を食べて、惜しまれながら帰るだけ」 そう思っていたコタロウでしたが、現実は甘くありませんでした。 管理者からの強制退去、そして地上に戻った彼らを待っていたのは……感動の再会ではなく、しめやかな「お香の匂い」と「自分の遺影」!?
Fクラス流ダンジョン攻略編、堂々の完結。 コタロウが望んだ「平穏」が、音を立てて崩れ去る瞬間をお見逃しなく。
【本文】
翌朝。 俺、コタロウは、貴賓室に設えられた最高級の羽毛ベッドの上で、数日ぶりとなる「命の危機を感じない目覚め」を迎えていた。
「(……んん。よく寝た)」
ふかふかの枕に顔を埋めながら、俺は大きく伸びをする。 全身の筋肉痛も、魔力枯渇による倦怠感も、昨晩の豪勢なディナーと極上の睡眠のおかげですっかり回復していた。 隣のベッドではアヤネが幸せそうな寝息を立てており、足元ではモモが丸まって寝ている。リリスは既に起きて、書棚の古文書を読み漁っているようだ。
「(さて、優雅な朝食を食べてから帰るか。フレンチトーストあたりをリクエストしよう)」
俺はベッドから這い出し、管理室の中央で忙しなく指を動かしている管理者に声をかけようとした。
「よう、セフィラ。おはよう。そろそろ地上へ戻りたいんだが――」
しかし、振り返ったセフィラの顔を見て、俺は言葉を飲み込んだ。 彼女の周囲には数十枚ものホログラム・ウィンドウが展開され、赤い警告灯が明滅している。 目の下のクマは昨日より濃くなり、殺気立ったオーラが物理的な圧力を放っていた。
「あ、起きたのね? 帰るの? そう、帰るのね」 「あ、ああ。その前に朝飯を……」 「そんなことくらい朝飯前よ」
セフィラは俺の言葉を遮り、キーボードを叩く手を止めずに指先だけで虚空を弾いた。
「昨日の『マナ奔流』のせいで、ダンジョン全域のシステムエラー処理と、本部に提出する始末書作成で徹夜なのよ。食事? 作ってる暇なんてないわ。……はい、空間転送座標固定、強制排出シークエンス起動」
足元に魔法陣が輝き始める。
「ちょ、待て! せめてパン一枚くらい……!」 「またねー! 二度とトラブル持ち込まないでねー!」
ヒュンッ!
問答無用に転送魔法が発動した。 俺たちの体は光の粒子となり、貴賓室から掻き消える。 最後に残ったのは、俺の虚しい叫びと、セフィラのキーボードを叩く乾いた音だけだった。
視界が歪み、再構成される。 次に俺たちが立っていたのは、見慣れた石造りの広間――ダンジョン初層の「入り口の間」だった。
「むにゃ……? あれぇ? 天井が、白くない……?」
アヤネが寝ぼけ眼をこすりながら、固い石畳の上で半身を起こした。髪はボサボサで、口元には涎の跡がついている。 「えっ、嘘!? 私のフレンチトーストは!? さっきまでバターとメープルシロップの香りがしてたのに、なんでカビ臭いダンジョンの入り口なの!?」 状況を理解した瞬間、聖女の悲痛な叫びが広間に響いた。
「ガウッ!? 敵襲!?」 モモは野生の勘で飛び起きたが、寝起きすぎて足がもつれ、そのまま石畳に顔面からスライディングした。 「ふぎゅ……。……肉がない。あの眼鏡の女、モモの朝ごはん盗んだ。あとで噛みつく」 鼻を押さえながら、獣人の闘争本能を剥き出しにして唸っている。
そして、最も被害甚大だったのがリリスだ。 「……ありえない」 彼女は震える手で、虚空を掴んでいた。さっきまで読んでいたはずの古文書が消え失せている。 「あと数行……あと数行で『深層マナ循環の統合理論』の核心部分だったのに……! ページをめくった瞬間に転送なんて、学術に対する冒涜よ! あの管理精霊、絶対に許さない……ッ! 次に会ったら魔力枯渇するまで論文の査読をさせてやるわ!」 眼鏡をギラつかせ、鬼のような形相でダンジョンの奥を睨みつけている。知識欲を阻害された魔導師ほど恐ろしいものはない。
「(……どいつもこいつも、朝から元気だな。扱いが雑すぎるけど)」
俺はため息をつきながら、背中のリュックを背負い直す。 まあいい。とにかくこれで、あの命がけの実技試験(ダンジョン実技)も終わりだ。
重厚な大扉を押し開け、外に出る。
「……ま、眩しい」
俺たちの目に飛び込んできたのは、薄暗いダンジョンの天井ではなく、数日ぶりの太陽と、突き抜けるような青い空だった。 爽やかな風が、地下の淀んだ空気しか吸っていなかった肺を洗っていく。
「つ、着いたぁぁぁ……! 地上だぁぁぁ!」
アヤネがその場に崩れ落ち、地面の土を掴んで号泣した。 「朝ごはんは残念だけど……生きてるぅぅぅ!」 気持ちはわかる。今回ばかりは本当に死ぬかと思った。
「わふー! お日様だー! こっちには虫がいるぞー!」 「こらモモ、走り回るな。拾い食いするなよ」
モモは獣の本能全開で、尻尾をブンブン振り回しながら草原を転げ回っている。 リリスも眼鏡を外し、太陽にかざして安堵の表情を浮かべていた。
「……生きて帰れたなんて、本当に奇跡ね。しかも、あんな深層ボスを討伐して」 「ああ。だが、ここからが正念場だぞ。目立たず、騒がず、しれっと帰宅する」
俺たちは泥と煤で薄汚れたボロボロの制服を引きずりながら、学園の正門へと続く並木道を歩き出した。 行方不明になってから5日目。 きっとクラスメイトや先生たちは、俺たちの安否を気遣ってくれているはずだ。 心配して泣いて、生還を喜んでくれるに違いない。(だと思いたい。)
しかし。 学園の正門に近づくにつれ、俺たちは違和感を覚えた。 いつもなら遅刻ギリギリの生徒たちが走っているはずの時間帯なのに、正門周辺には黒い服を着た人だかりができている。 そして、どこからともなく、悲しげなパイプオルガンの音色とお香の匂いが漂ってきた。
「……なんだ、あれ」
正門には、俺たちの予想を遥かに超える**「異様な光景」**が広がっていた。
【 追悼:Sランク聖女・篠宮アヤネ様(および、Fランク生徒3名) 】
正門広場には巨大な黒い幕が張られ、鯨幕が張り巡らされている。 全校生徒が整列させられ、教員たちがインカムをつけて忙しなく指示を飛ばしていた。 どうやら、明日執り行われる予定の「合同葬儀」に向けた、大規模な全体リハーサルの真っ最中らしい。
「……葬式?」
俺は呆然と呟く。 祭壇の中央には、アヤネの美しく加工された**「特大のプロジェクターピクチャーによる遺影」**が、空中に鮮やかに映し出されていた。 最新鋭の魔法映像技術によって、アヤネが微笑み、聖なる光を放ち、天使が舞うという過剰な演出が施されている。
そして、その足元。 豪華な花輪の影に隠れるように、申し訳程度に置かれた**「学生証の写りが悪い写真」が3枚**。 俺とモモとリリスだ。額縁すらなく、ただのボードに貼り付けられている。
「……扱いが雑すぎるだろ」
俺たちが立ち尽くしていると、祭壇の前で喪服に身を包んだ教頭先生が、マイクのテストを兼ねて弔辞の練習を始めた。
「あー、テステス。本日は晴天なり……えー、マイク音量良好。……はい、では本番のつもりで感情を込めて読みます。生徒の皆さん、ここでハンカチを出して泣く演技をお願いしますねー。本番では国賓の方々も来賓されますので、本番さながらに気合を入れてくださいね、内申点に響きますよー」
教頭はコホンと咳払いをし、あからさまに大袈裟な演技で読み上げ始めた。
「……ううっ、悲しい! なんと悲しいことでしょう! 我らが学園の誇り、聖女アヤネ様は、ダンジョンの不慮な事故により、未踏の深層へ落ち、若くして散られました……。これぞ国家的損失、世界の悲劇……」
教頭はチラリと台本を見やり、声を低くして続ける。
「そして、想像とはなりますが……同行していたFランクのメンバーたちは、無能ながらも、本来の役割(捨て石)を全うして、最期まで聖女様の盾として散っていったことでしょう……ううっ……はい、ここで音響班、BGM『悲しみのレクイエム』スタート!」
「(……誰が無能だ。あと勝手に殺すな)」
俺の額に青筋が浮かぶ。 無能呼ばわりされるのは慣れているが、公共の場で、しかも自分の葬式のリハーサルで「捨て石」扱いされるのは癪に障る。 俺はスタスタと祭壇に歩み寄った。
周囲の生徒たちは、下を向いて嘘泣きの練習をしているため、ボロボロの俺たちに気づかない。 俺は祭壇の最前列まで進み出ると、自分の遺影を手に取り、パタンと裏返して伏せた。
「……あの、教頭先生。リハにしては線香の煙、目に沁みるんですけど」
「ええ、本番さながらの演出ですから……煙の量が足りない? もう少し焚きましょうか……って」
教頭が顔を上げ、俺と目が合った。 数秒の沈黙。
「ひいいいいいいいッ!?」
教頭が腰を抜かして尻餅をつき、マイクがハウリングを起こす。 その素っ頓狂な悲鳴に、リハーサル中の全校生徒が一斉に顔を上げた。
そこに立っているのは、死んだはずの4人。 マナの源泉で清められた身体は物理的にも透き通っている、反面、服はボロボロ、リュックは土汚れで真っ黒。 逆光を浴びて立つその姿は、まさに――人非ざる者。
「「「ぎゃあああああああ!!」」」
「ゆ、幽霊ぇぇぇ!?」 「リハ中に本物が出たぁぁぁ!?」 「レイスだ! 怨念を持って帰ってきた! 呪われるぞ!」
生徒たちがパニックになり、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
「違うわよ! 生きてるの! ちゃんと足あるでしょ!?」 アヤネが必死に手を振るが、叫び声にかき消されて届かない。 「わふ? なんでみんな逃げるの? 鬼ごっこ?」 モモが楽しそうに逃げる生徒を追いかけ回し、余計に悲鳴が加速する。
騒然となる中、学園長オスモンドが人混みをかき分けて出てきた。 彼は俺たちの姿を見るなり、半分閉じかけた眠そうな目を一瞬だけ見開き、すぐにいつもの、とぼけたような笑顔に戻った。
「ほう……これは驚いた。わしはまだ昼寝の夢の中にいるのかと思ったが、お菓子を食べる口はちゃんとあるようじゃのぅ。……シノミヤ・アヤネちゃん、君たちは……幽霊ではなさそうじゃの?」
「はい! ……えっと、コタロウ君が……あ、いえ、みんなで頑張って……」
アヤネが正直に事情を話そうと、俺の方を見る。 まずい。ここで「コタロウ君の指示で深層ボスを倒しました」なんて言われたら、俺の平穏は消滅する。
俺はすかさずアヤネの背後に回り、小声で囁いた。
「(アヤネ、余計なことは言うな。全部『聖女の祈り』のおかげってことにしとけ。俺を目立たせるな)」 「(えっ? で、でも……)」 「(いいから。後で一週間、学食の高級プリン奢るから)」 「(……わかった!)」
プリンに釣られたアヤネは、コホンと咳払いをすると、スッと背筋を伸ばして「聖女モード」に入った。太陽の光を背負い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「……ご心配をおかけしました。深層の闇は深く、恐ろしい場所でしたが……私が必死に祈りを捧げましたら、精霊さんが助けてくださって……奇跡的に生還できました!」
「うむうむ、奇跡、か。ほっほっほ、実に素晴らしい魔力じゃ。若い頃のわしを思い出すのぉ」 学園長はニコニコと頷き、感涙にむせぶフリをしながらも、その瞳の奥では何らかの計算を終えたような、鋭い光が走った。よし、これでいい。
そこへ、リリスが冷静な顔で進み出た。 彼女は鞄から、虹色に輝く**「クリスタル・イーターの残骸(破片)」**と、**ダンジョン実技試験の採点用に学園から支給されていた「魔導カメラ(魔Go-Pro)」**を取り出し、教官たちに手渡した。
「報告します。深層へ落下後、私たちはフロアボスと遭遇。これを撃破し、さらにダンジョンコアの暴走を鎮静化させました」 「このカメラに、ボス討伐と、深層における『浄化』の一部始終が記録されています」
「な、なんだと……?」
教職員たちが慌ててカメラを受け取り、その場で解析魔道具に接続する。 数分後。モニターを食い入るように見つめていた解析担当の教員が、顔面蒼白で震える声を上げた。
「ほ、報告します! 『彼らより回収した魔Go-Proには、彼らが深層へ落下後、なんらかのボスと接触し、撃破した記録が残されておりました』」 「『加えて、深層全域を覆っていた瘴気溜りの「浄化」の行為も確認できました』」
周囲の空気が凍りつくほどの衝撃が走る。
「な、なんだって……!?」 マグダ副学園長が震えながら叫ぶ。 「この魔Go-Proに映った正体不明のボス……教典上で語られる伝説のクリーチャー『クリスタル・イーター』に酷似していないか!? まさか、これを討伐したというのか!?」
学園長も、とぼけた顔のまま感心したように髭を撫でる。 「ほぅ……王立研究団でも原因すら特定できなかった、下層フロアのあの忌まわしき瘴気の浄化まで成し遂げたのかのぅ。……これは大変なことになったわい」
事態の重さを理解した学園長が、解析担当からカメラをひったくるように受け取った。 彼は小さなモニターと、空中に浮かぶ巨大なアヤネの「作り物の遺影」を交互に見比べ、楽しそうに叫んだ。
「ええい、しめやかなのはわしの昼寝だけで十分じゃ! こんな作り物の遺影など映している場合ではないのぉ。メイン投影機を切り替えて、このカメラの映像を、全校生徒に見せてはくれんかの! できるだけ、早くにの……。ほれ、早くせんかマグダ君、眉間のシワがまた増えるぞ?」
職員たちが慌てて操作を行う。 ブツン、というノイズと共に、空中に浮かんでいた美しい聖女の遺影が消えた。
代わりに映し出されたのは、手ブレの激しい、暗く絶望的な深層の映像だった。 画面を覆いつくす、山のように巨大な結晶の怪物。絶望的な咆哮。 そして、それを包み込むアヤネの黄金の輝き(※実際はコタロウが裏で糸を引いているが、映像ではアヤネが光っているようにしか見えない)。
最後に、ドロドロとした黒い瘴気が、聖なる光によって嘘のように晴れ渡っていく様子が、大画面いっぱいに再生された。
リハーサル中だった全校生徒は、言葉を失い、動かぬ証拠映像に見入っていた。 圧倒的な「本物」の奇跡。 沈黙の中、学園長は耳かきでもするような気楽な仕草でマイクを握り、高らかに宣言した。
「……いやはや、素晴らしい!! これぞ『聖女』の奇跡!! そして、彼女を支えた仲間たちの――まあ、言葉にするのも野暮なほどの強い『絆』というやつじゃのぅ!!」
わあああああああ!!
静寂が破られ、爆発的な歓声と拍手が巻き起こる。
「すげぇ! マジで深層ボス倒したのかよ!?」 「さすがSランク聖女様! 俺たちの女神!」 「取り巻きとはいえFランクメンバーもやるじゃん! 盾として役に立ったんだな!」 「……おい、魔力ゼロのコタロウも奇跡的に生きてるぞ?」 「運がいい奴だな。聖女様のオマケで助かったのか」
よし。世論は完全に「アヤネの手柄」で「俺は運が良かったオマケ」という方向に固まった。 俺の活躍はカメラのアングル的にも見切れているし、アヤネの光が強すぎて誰も気づいていない。 これで俺は、英雄扱いされることもなく、引き続き目立たず平穏な学園生活を――。
「――そこでじゃ!」
学園長がマイクを握り直し、満面の笑みで俺たちを指差した。 その目は、第2話で見せたような、鋭い「英雄の眼光」を隠しきれずに輝いている。
「今回のダンジョン実技試験について、直ちに再採点を行った結果を発表するかのぅ。ほっほっほ、わしも採点していて、ティーカップを落としそうになったわい」
おおおおお! と期待の歓声が上がる。 だが、次の言葉が俺の心臓を止めた。
「本来の討伐点に加え、『未踏領域(深層)への到達』による特別加点! 『高難度クエスト(深層ボス討伐・浄化)』のクリア加点! さらに『クリスタル・イーターの破片(レア素材)』入手によるボーナス加点!」
学園長は指をパチンと鳴らし、空中に巨大な魔道ホログラムを表示させた。 そこには、まさにシステムを物理的に破壊したような、桁違いの得点が描かれていた。
「これらを実技試験の点数に反映した結果、君たちのスコアは**【精霊魔法学部】の合格点を大幅に超過しておる!**」 「そして、筆記試験との合計点数は……なんと、**学園創立以来の『歴代最高点』**を叩き出しておるのじゃよ。……ほっほっほ、困ったものじゃのぅ」
「……は?」
俺の思考が停止した。 待て。俺は実技試験で「平均点」を狙って、AIと綿密な調整を計画していたはずだ。 だが、実技の加点が想定外の数万ポイント単位で入ってしまったせいで、俺の涙ぐましい「目立たない努力」など、学園長の鼻息一つで吹き飛んでしまったらしい。
学園長は親指をグッと立て、爽やかに、しかし逃げ場を完全に塞ぐ「強制決定」として宣言した。
「よって、その才能を腐らせて、わしの目の届かぬところでサボらせるわけにもいかんからの。来年度からは全員、【精霊魔法学部】への特待生編入を許可しよう! ……ああ、これは決定事項じゃ。わしが今決めた」
【 精霊魔法学部 】。
そこは、通称「勇者育成コース」。 エリート中のエリートが集められる選抜クラス。 死傷による脱落率50%を超える「地獄の最前線」。 毎日が実戦形式の戦闘訓練、課題の量は一般学部の10倍。 卒業後は強制的に国の中枢や最前線の戦場へ送り込まれる、超・社畜養成コースだ。 俺がこの世界に来て一番避けたかった、平穏とは対極にある場所。
「ま、待ってください学園長! 俺は、治癒・生活魔法学部で……!」
俺は慌てて抗議の声を上げた。 冗談じゃない。そんなところに行ったら、俺の「怠惰な生活」が死んでしまう。
「ほっほっほ、遠慮はいらん。これだけの歴代最高スコアを出したのじゃ、ふさわしい場所を用意してやるのがわしの仕事じゃからな。……拒否権? そんな面倒なもの、わしのティータイムと一緒にどこかへ消えてしまったわい。……な、マグダ君?」
学園長の声が、正門広場に響き渡る。 生徒たちからは、羨望と称賛の拍手が降り注ぐ。
「(……終わった)」
拍手喝采の中、俺はその場に膝から崩れ落ちた。 生還したご褒美が、「一般コース(平穏)」からの追放と、「エリートコース(地獄)」への片道切符だったなんて。
横ではアヤネが「やったぁ! 来年はコタロウくんと同じクラスだね!」と無邪気に喜んでいる。 モモも「エリートコースって、学食食べ放題?」と目を輝かせている。 リリスだけが「……わしの予測を超えたわね。興味深いわ」と静かに闘志を燃やしていた。
俺の「サボりライフ」は、ここに来て最大の危機(ハードモード突入)を迎えてしまったのだった。
(第15話 完)
【第15話:あとがき】
読んでいただきありがとうございました! これにて**【第2章:深層脱出・ダンジョン攻略編】**、堂々の完結です。(【幕間】をはさんでからの、第2.5章へ流れる展開となります。)
「生還したら、自分の葬式の真っ最中だった」 ライトノベルでもなかなかお目にかかれないシュールな光景でしたが、コタロウにとっては遺影の扱いの雑さ(モノクロ学生証写真)が一番のダメージだったかもしれません。
今回のポイントを振り返ると:
• アヤネ: 高級プリン一週間分で「手柄の横取り」を快諾する、食いしん坊聖女。
• リリス: 魔Go-Proという決定的な証拠を提出し、コタロウの「目立たない計画」を物理的に粉砕。
• コタロウ: 平均点を狙ったはずが歴代最高得点。ご褒美は地獄の「エリート社畜養成コース」への片道切符。
まさに「前向きな最悪」が彼を襲います。 せっかく深層の番人を倒して生き残ったのに、待っていたのは「サボり人生の終焉」の予感でした。学園長の爽やかな笑顔と親指が、これほど憎らしく見える主人公も珍しいですね。
学園の設定について、触れていない点が多かったので、まとめました。(ご興味あれば・・・)
■ 【設定】王立ルミナス精霊魔法大学
・学校基本データ:聖王国の誇る最高学府
聖王国ルミナスが国の威信をかけて運営する、魔法界の頂点に君臨する教育機関です。
・正式名称:王立ルミナス精霊魔法大学 (Royal Luminous Spirit Magic University)
・運営主体:聖王国ルミナス
・位置付け:国家運営による最高学府(高等教育機関)
・通称(公式):大学、または学園
・呼称に関する補足
本編では親しみやすさを込めて**「学園」と呼ばれることが多いですが、実際には高度な魔法研究とエリート育成を目的とした「大学」**としての機能を有しています。作中で両方の呼び方が混在していても、同じ場所を指していると解釈してください。
■ 学生たちの日常:俗称「ルミ大」
格式高い正式名称とは裏腹に、学生や街の人々の間では非常にカジュアルな略称が浸透しています。
• スラングの背景: 現代日本からの転移者であるコタロウやアヤネはもちろん、異世界の現地学生たちも日常的に使用しています。
• 使用例:
○ 「今日のルミ大の学食、また謎肉だってよ」
○ 「マジ? ルミ大生ってだけでモテるから我慢しろよ」
• 演出意図: この「〇〇大」という日本の大学生のような響きが、重厚なファンタジーの世界観に絶妙な**「生活感」と「親しみやすさ」**をもたらしています。
■ 1年次:魔法一般教養学部(共通)
入学初年度は、能力に応じた以下の3階級に振り分けられます。
1. 特待生(Sクラス)
選ばれし10名の天才のみが入ることを許される聖域です。
○ 待遇: 学費全額免除に加え、個室寮、専用シェフ、無制限の予算が与えられます。
○ 未来: 2年進級時には「精霊魔法学部(Spiritコース)」へ進むのが定石です。
○ 進路: 将来の勇者パーティ候補として、歴史に名を刻むスター街道が約束されています。
2. 特進科(AからCクラス)
高い魔力を持つ実力者や、有力貴族の子弟が集まるエリートコースです。
○ 環境: 専門的な魔法訓練や騎士教育を受けるための、一般的な良環境が提供されます。
○ 進路: 宮廷魔導師や騎士団長、高級官僚など、国の幹部候補として育成されます。
3. 平民科(DからFクラス)
全入学者の約66%を占めるマジョリティですが、その実態は過酷です。
○ Fクラスの悲劇: 予算はほぼゼロで、教室は「旧校舎」という名のボロ屋です。
○ 蔑称: ランクが下がるほど教育の質も下がり、学園内では**「学費回収用の家畜」**とまで呼ばれています。
○ 進路: ギルド受付や店員、最悪の場合は**「生体実験の素材」**にされることもあります。
〇年度末の生存競争(サバイバル構造)
1年次の終わりに、学生たちは運命の分岐点を迎えます。
• 成績上位 50%: 「専門学部」への進学権を勝ち取り、人間らしい生活を維持できます。
• 成績下位 50%: 事実上の落第となり、卒業扱いという名で社会に放り出されます。
≪注意≫:最底辺の末路「従者落ち」
進学に失敗した下位50%を待つのは、過酷な**「従属契約(従者)」**という名の奴隷化です。
• 実態: 専門学部に進んだ同級生の「パシリ」となり、実験のモルモットや雑用をこなします。
• 環境: 24時間365日こき使われ、自由もサボる隙も一切ない地獄の日々が待っています。
• コタロウの生存戦略: 「従者になったら、サボる隙すらない地獄だ。……適度に点を取って、一番楽な学部(Mクラス)に滑り込むしかない」
■ 2年次:魔法専門学部(4学部制)
2年次からは、より専門性の高い以下の学部に分かれます。
1. 精霊魔法学部(通称:Sクラス)
『Spirit(精霊)』の頭文字を冠する、選ばれし10名のエリート集団。
○ エリート構造: 1学年時の「Sクラス」がそのままスライドするのが通例で、精鋭の中でも別格の扱いを受けます。
○ 階級制度 (S1 / S2):
§ S1 (ファースト): 学園選抜。授業出席不要の「自由行動権」が与えられます。
§ S2 (セコンズ): その他のメンバー。
○ 異例の抜擢: 今年は「Fクラス脱獄メンバー」であるコタロウたちが、このエリート層に滑り込むという前代未聞の事態が発生しています。
○ 進路: 「勇者パーティ」として歴史に名を刻むことが約束されたスター街道です。
2. 政経占星術学部(通称:Pクラス)
貴族の、貴族による、貴族のためのクラス。
○ 将来の国政を担う子女たちが多く所属します。
○ 注目学生: 本来Sクラス級の実力を持つクラウディアですが、何らかの意図(計算)により、このPコースを選択することになる(のですが、これ以上はネタバレなので・・・)クラウディアは、Sクラス進学の進路にてストーリーは続いてまいります。
3. その他、中堅・生活クラス
○ 錬金学部 (通称:Aクラス): 爆破狂のリリスが本来希望していたクラス。
○ 治癒・生活魔法学部 (通称:Mクラス): 省エネ志向のコタロウが「楽に過ごせる」と踏んで第一志望にしていた、平和なクラス。
4.専門学部の「光」と「影」:従者落ち
専門学部に進めなかった成績下位者には、過酷な運命が待ち受けています。
• 従者(従属契約): 専門学部に進んだ学生の「パシリ」として扱われます。
○ 主な役割: 魔法実験のモルモット、雑用、身の回りの世話。
まさに「学園内の奴隷市場」とも呼べるこの制度が、学生たちを死に物狂いの競争へと駆り立てています。
さて、地上ではコタロウの運命がハードモードへと舵を切りましたが、実は**「世界の裏側(精霊界)」**でも、彼が引き起こした騒動の「事務処理」が大変なことになっています。
【次回予告】 第15.5話『幕間(その2):精霊界の役員会議 ~特別損失と特別利益、および人事異動による相殺について~』
深層のボスを「完食」され、さらに数万の精霊を「救助」されてしまった精霊界ホールディングス。 大赤字と大黒字が同時に押し寄せ、決算書を前に頭を抱える精霊王たち。 そして、あの管理者セフィラの「その後」の処遇は……?
中間管理職の悲哀と、新たな「トラブルメーカー」の監視体制が決定する裏話をお届けします!
次回もお楽しみに!
【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の星の数だけ、地上でのコタロウの葬儀費用が、そのままエリートコースの「豪華な教材費」へと補填されることでしょう……(笑)




