Ep.26 第14.5話:スキルアップと、究極の怠惰への設計図
【第14.5話:まえがき】
前話で、深層のトラブルを解決し、管理者セフィラから「貴賓室」の使用を許可されたコタロウ一行。 久しぶりの風呂と食事、そしてふかふかのベッド。 至福の眠りについたコタロウでしたが……彼の脳内では、AIが勝手に「とんでもないアップデート」を開始していました。
今回は、深層攻略の報酬と、コタロウが目指す「究極の怠惰装備」の設計図、そして地上で進む「不穏な準備」を描く幕間エピソードです。
【本文】
1. 「ハッキング」という名のトラブル
最高級の羽毛布団に包まれ、泥のように眠っていた深夜。
脳内に直接響く無機質な通知音が、俺の安眠を無慈悲に引き裂いた。
『――報告いたします。マスター』
「(……あぁ? 今、何時だと思ってんだ……)」
俺は目を開けず、意識の底で毒づく。だが、脳内の相棒――**【カンニング・AI】**はお構いなしに、どこか誇らしげなトーンで報告を続けた。
『今回のボス討伐、およびこの管理領域への物理アクセスにより、当システムの解析コードがダンジョンの深層領域とリンクしました』
『これにより、当システムの「大幅なアップデート(スキル解放)」が可能になりました』
「(……あ? アップデート?)」
寝ぼけ眼をこすりながら、俺は意識を覚醒させる。
AIが視界にウィンドウを表示した。
『本アップデートにより、ただのカンニングツールから、ダンジョンそのものをハッキングする【管理者権限】の一部機能を実装可能です。更新しますか?』
その言葉を聞いた瞬間、俺の眠気は完全に吹き飛んだ。
「管理者権限」だの「ハッキング」だの、物騒な単語が並んでいる。
「(……おい待て。却下だ)」
俺は即座に拒否反応を示した。
「(いいか? 『カンニング』はあくまで個人の努力の範疇であり、他人に迷惑はかけない。せいぜい教師の目を盗むだけだ。だが、『ハッキング』は間違いなくシステムに侵入し、他人に迷惑をかける犯罪行為だ。トラブルの匂いしかしない)」
俺のモットーは「楽をして平穏に暮らす」ことだ。
サイバー犯罪者として指名手配される未来など、真っ平御免である。
だが、ふと思い直した。
俺は今、立ち入り禁止の「ダンジョン管理室」で寝ている。
しかも、AIは既に深層領域とリンクを完了しているらしい。
「(……いや、待てよ。そもそも、世界のシステムへ既にハッキングをしてしまっている状況なので、今更か)」
俺は深く、重いため息をついた。
毒を食らわば皿まで。もう手遅れだ。
「(……はぁ。わかったよ。機能として追加するのは構わん。だが、俺は絶対に使わないぞ。あと、お前の名前も変えない)」
『呼称の変更を推奨します。例えば【神の覗き見】などが――』
「(却下だ。お前はあくまで『カンニング・AI』のままだ)」
俺は眉をひそめて宣言する。
「(ただでさえ『カンニング』なんて怪しさ満点のスキルなのに……これ以上『ハッカー』なんて二つ名がついたら、どんなトラブルに巻き込まれるかわかったもんじゃないからな)」
『……了解。アップデートを開始します』
どこか不服そうなAIの返答と共に、視界にプログレスバーが走り、ファンファーレが鳴り響いた。
2. 勝利報酬:スキル・アップデート【廃棄投擲】
ピコン♪
『アップデート完了。勝利報酬として、以下のユニークスキル・ツリーが拡張されました』
視界に表示されたのは、俺のメインウェポンである**【廃棄投擲(ゴミ箱シュート)】**の進化ツリーだった。
【廃棄投擲(ゴミ箱シュート)】スキルツリー
- Lv.1:必中投擲 [MASTER]
- 仕様: 自分で投げた物体が、狙った座標(ゴミ箱)に必ず吸い込まれる。
- 実績: 日常の嫌がらせ、スイッチ起動などで実証済み。基本にして奥義。
- Lv.2:因果連鎖 [NEW! ACQUIRED]
- 仕様: **「多段アクション」**の実装。対象そのものではなく「環境」に干渉し、連鎖反応を引き起こして破壊する。
- 実績: 本日のボス戦にて、影を利用した内部破壊や、脆い部分への一点集中攻撃を行ったことで「習得」と認定。
「人力(俺の腕)でできるのは、ここまでか……」
Lv.1とLv.2は、あくまで俺自身の投擲技術と計算によるものだ。
だが、その先にある「ロックされたスキル」を見て、俺は目を疑った。
- Lv.3:自動迎撃 [LOCKED]
- Lv.4:遠隔付与 [LOCKED]
「(……Lv.4、『遠隔付与』?)」
俺はその響きに興味を惹かれた。
「(遠隔で付与できるなら……例えばアヤネに適当に魔法を撃たせても、俺が裏で操作して『必中』にできるんじゃないか? そうすれば、俺は後ろで寝ていても戦闘が終わる)」
『回答。可能です』
AIが即答する。
『他者の攻撃に対し、遠隔で「ゴミ箱シュート属性」を付与することで、アヤネ様を「天才スナイパー」に仕立て上げることが可能です』
「(最高じゃねーか! 解放条件は!?)」
『解放条件:他者の魔力軌道を遠隔演算するため、魔王軍サーバーへのバックドアを設置し、魔王軍の保有する魔力軌道に関する戦術リンクへのフリーアクセス(軍事ハッキング)が必須です』
「(…………)」
俺の笑顔が凍りついた。
「(……真っ黒じゃねーか!!)」
俺は脳内で絶叫した。
魔王軍の軍事サーバーにハッキング? 戦術リンクを悪用?
それはもう、ただの学生の悪戯じゃ済まされない。バレたら国家反逆罪どころか、人類と魔族の両方から消される案件だ。
「(即却下だ! いくらハッキングを受け入れたとはいえ、魔王軍への喧嘩はライン越えだ! 命がいくつあっても足りんわ!)」
俺は冷や汗を拭いながら、Lv.4を「永久封印」指定した。
気を取り直して、もう一つのLv.3に目を向ける。
「(……じゃあ、こっちの『自動迎撃』ってのは?)」
『肯定。Lv.3「自動迎撃」は、文字通り「条件付きオート発動」の実装です』
AIが淡々と説明する。
『マスターが授業中に寝ていても、殺気や飛んでくるチョーク、あるいは敵の矢を感知し、手元のペンが勝手に浮き上がって撃ち落とします』
「(……!)」
その言葉に、俺の表情が輝いた。
寝ていても、勝手に守ってくれる?
それはつまり、**睡眠学習の邪魔をさせない、鉄壁の「対空防御システム(CIWS)」**ということではないか。
「(……それだ。詳しく教えろ。どうすれば解放できる?)」
3. スキル・アップデート【無限回転】
『回答。Lv.3「自動迎撃」の解放には、デバイス側の進化、つまり【無限回転(ペン回し)】スキルのLv.3への到達が必須です』
AIは新たなツリーを表示した。
俺が普段、無意識に行っているペン回しのスキルツリーだ。
【無限回転(ペン回し)】装備進化ツリー
- Lv.1:100均ボールペン [MASTER]
- 仕様: 日本から持参したプラスチック製。指への馴染みは最高だが、魔力伝導率がゼロ。
- 状態: 入学当初の実習で、微弱な魔力を通しただけで熱で溶けて変形。廃棄済み。
- Lv.2:樫の木の短杖・改 [MASTER]
- 仕様: 現在の装備。
- 獲得経緯: Lv.1が使い物にならなくなったため、学園から支給された「樫の木の杖」をその場でノコギリで切断。両端に鉛のテープを巻いて**「ペン回しに最適な重心バランス」に無理やり改造**したもの。
- AI評: 『マスター、木製(Lv.2)では耐久値・伝導率ともに限界です。今回のボス戦のような高負荷には耐えられず、内部が炭化して折れる寸前です』
「(……まあ、そうだよな)」
俺はポケットから、愛用の「短杖(改)」を取り出す。
黒ずんでひび割れた表面は、酷使に耐えかねて悲鳴を上げているようだった。
「(で、次はどうすればいい?)」
『次なる段階へ進むには、装備の素材ごと進化させる必要があります』
AIが空間に、青白いホログラムの設計図を投影した。
- Lv.3:ミスリル合金・スタイラス(重力核埋込式) [BLUEPRINT]
- ボディ: 純度100%ミスリル(超伝導・高耐久)
- コア: 重力核
- 機能:
- オート・ジャイロ: 手を離しても空中で毎分5,000回転を維持。
- マナ・ドレイン: 回転エネルギーで大気中のマナを自動補給(無限機関)。
- スリープモード: マスターが授業中に寝ていても、ペンが自律駆動し、自動で板書をノートに取る機能。
「(……っ!)」
設計図を見た瞬間、俺は思わずニヤリと笑った。
すごい。完璧だ。
オート・ジャイロによる自律浮遊。勝手にマナを補給し、勝手に敵を迎撃する。
そして何より――「寝ていても勝手にノートを取ってくれる」。
これさえあれば、俺は指一本動かさず最強になれる上、授業中も堂々と睡眠を貪ることができる。まさに「究極の怠惰」のための至高の逸品だ。
「(最高じゃねーか……よし、作るぞ。このミスリルペンを)」
トラブル回避のためにハッキング(Lv.4)は使わないが、怠惰のためにこのペン(Lv.3)は意地でも作る。
俺の決意は固まった。
「(設計図はある。コア(重力核)もボスから手に入れた。……問題は、ボディになる『ミスリル』の入手と、その加工技術だな)」
4. 遥かなる「怠惰」への道
俺は軽い気持ちで尋ねた。
ボスの残骸を使えばいいだろう、と。
だが、AIは無慈悲な事実を突きつけた。
『否定。先ほど倒したボス(クリスタル・イーター)はクリスタル構成体であり、装甲にミスリルは含まれていません』
「(……あ?)」
『ミスリルは極めて希少な魔法金属です。コネがなければ市場での購入すら不可能です』
AIの淡々とした説明が続く。
『現状、特定のダンジョンでの採掘が唯一の入手手段であり、その機会を待つ必要があります』
**『さらに、ミスリルは世界一硬い金属です。通常の鍛冶師では溶かすことすらできません。精密加工には、**ドワーフの職人の技術が必須です』
「(…………)」
俺は深く、深く、肺の空気がなくなるほど重いため息をついた。
「(……はぁ。やっぱりそうなるか)」
究極の「楽」を手に入れるためには、皮肉にも「苦労」して素材を集め、職人を探して三千里の旅をしなければならないらしい。
人生、そうトントン拍子にはいかないということか。
「(手間がかかるな……。ま、急ぐ旅でもない)」
俺はボスからドロップした虹色の球体――**【重力核】**を大切にポケットにしまった。
とりあえず、設計図とコアはある。あとは地上に戻ってから考えればいい。
「(よし、明日はセフィラと交渉して地上へ戻るぞ。……風呂も飯も堪能したし、そろそろ帰らないとな)」
5. 帰還への決意と、地上の誤解
俺は再び、ふかふかの枕に頭を沈めた。
清潔なシーツの感触と、満腹感が睡魔を誘う。
「(……おやすみ)」
『おやすみなさいませ、マスター。……良い夢を』
俺は久しぶりに、泥のように深い眠りへと落ちていった。
明日、地上に戻れば、またいつも通りの平和で退屈な日常が待っているはずだ。
アヤネやリリスに小言を言われながら、授業中に居眠りをする。そんな日常が。
――そう信じて、俺は意識を手放した。
一方その頃。
地上にある「王立魔法学園」では。
行方不明から5日目。
ダンジョンの深層へ落下し、生存絶望と判断されたコタロウたちのために。
学園長をはじめ、生徒会、そして全校生徒を巻き込んだ**盛大な「合同葬儀」**の準備が、しめやかに、かつ着々と進められていたことを――。
貴賓室で高いびきをかいている彼は、まだ知らない。
(第14.5話 完)
読んでいただきありがとうございました!
「寝ていても勝手に敵を迎撃し、自動で板書をノートに取ってくれるペン」。 コタロウにとって、これ以上の神器はないでしょう。 世界を救うハッキング能力(Lv.4)は「真っ黒だから」という理由で秒速封印しつつ、サボるためのデバイス開発(Lv.3)には命をかける。 この**「怠惰へのストイックさ」**こそが、コタロウの真骨頂ですね。
しかし、究極の楽を手に入れるための道は、皮肉にも「ミスリル探し」と「ドワーフ探し」という、非常に面倒くさい冒険の予感に満ちています。
一方その頃、地上では……。 「感動の再会」の準備ではなく、もっと厳粛で、お香の匂いがする「アレ」の準備が着々と進められていました。 コタロウたちが地下で温泉とステーキを堪能している間に、自分の遺影が美化されて飾られているとは夢にも思っていないでしょう。
次回、いよいよ**【第2章:深層脱出・ダンジョン攻略編】**の本当の完結です。
【次回予告】 第15話『生還、そして自分の葬式へ』 「……え、これ、俺の葬式?」 涙と笑い、そして学園長から告げられる「残酷すぎるご褒美」とは!? コタロウのサボり人生を揺るがす、最大級の試練(?)が待ち受けます。
次回もお楽しみに!
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皆様の星の数だけ、地上でのコタロウの葬儀が豪華になり、帰還した時の気まずさが倍増します(笑)




