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Ep.25 第14話:ボスを倒して入った先は、管理者の「宿直室」だった

【第14話:まえがき】

前話で、深層の番人「クリスタル・イーター」を(ネロが)捕食し、強引にこじ開けた出口。 そこへ飛び込んだコタロウたちが辿り着いたのは、懐かしい地上……ではなく、無機質で清潔な「管理室」でした。

そこで待ち受けていたのは、オーバーヒート寸前のダンジョンコアと、テンパりまくった中間管理職の精霊。 「お願い! 誰でもいいから助けて!」 泥だらけのFクラス一行が、清潔な管理室で最後のひと働き(尻拭い)をさせられる、深層編のエピローグです。

【本文】

1. 嵐の後の静けさ


ネロによる一方的すぎる捕食劇が終わり、障害物がなくなった「空間の裂け目」。

俺たちは、轟音を立てて流れるマナの奔流の渦に巻き込まれないよう、裂け目の中に生じた一瞬の「なぎ」を見極めて飛び込んだ。


「みんな、手をつないで! 行くよ! せーのっ、ジャンプ!」


アヤネの声を合図に、極彩色の光の中へと身を投じる。

その瞬間、世界が反転した。

重力という概念が消失し、全身を強烈な浮遊感が包み込む。視界は真っ白に染まり、上下左右の感覚すら曖昧になる。

深層特有の、あの肌にまとわりつくような重苦しいマナの圧力が嘘のように消え去り、代わりに転移特有の強烈な吐き気が胃の腑から込み上げてくる。


永遠にも一瞬にも感じる時間の狭間を抜け――。


ドサッ、ドササッ!


「ぐえっ!?」

「きゃっ!」


次の瞬間、俺たちは硬質な床の上に、折り重なるようにして吐き出された。


2. テンパる管理者とマナの氾濫


「うぷっ……ここは……ついた、のか?」


重たい頭を振って目を開けると、そこは岩とマグマの深層とは似ても似つかない場所だった。


壁も床も天井も、継ぎ目のない白い未知の素材で覆われた、無機質で清潔な部屋。

壁一面には無数のモニター(魔法映像)が空中に浮かび、複雑怪奇な数値やグラフが目まぐるしく変動している。


そして部屋の中央には、巨大な虹色の結晶体――「ダンジョンコア」が鎮座していた。

だが、その様子は明らかに異常だった。

本来なら穏やかな虹色の光を放つはずのコアが、今は毒々しい赤と黒の光を激しく明滅させている。

ドクン、ドクンという重低音と共に、コア自体が苦しげに膨張と収縮を繰り返し、表面には亀裂のような光の筋が走っていた。

まさに、オーバーヒート寸前の臨界状態だ。


どうやらここは、ダンジョンの心臓部、管理ルーム(中枢制御室)らしい。


「ああもう! なんで急に!? 第13クリスタル・イーター消失反応!? うそでしょ!? 冗談じゃないわよ!」


部屋の奥から、悲鳴に近い女性の声が響いた。

見れば、一人の女性が頭を抱えて、半狂乱で走り回っている。


透き通るようなプラチナブロンドの髪をきっちりとまとめ、銀縁の眼鏡をかけた知的な容貌。

カッチリとした白い制服(事務官風)を身に包んでいるが、忙しすぎるのか裾が乱れ、ボタンが一つ掛け違えられている。背中に浮かぶ半透明の光の翼――キーボードのような術式陣――も、エラーを示す赤色で明滅を繰り返していた。


彼女は、首からぶら下げているIDカードから察するに、このダンジョンの中枢を司る**【管理精霊・セフィラ】**らしい。


セフィラは目の前の巨大モニターに表示された、視界を埋め尽くすほどの真っ赤な警告表示エラーログと、今にも破裂しそうなコアを見て、青ざめていた。


「嘘でしょ……マナが制限なくあふれだしてる! あのドラゴンがいなくなったせいで、奔流からの供給圧が直撃してるじゃない! 見てよあのコアの明滅! このままじゃオーバーヒート(熱暴走)して吹き飛んじゃう! 誰かー! 誰かいないのー!?」


俺は瞬時に状況を理解した。

本来、あのボス(クリスタル・イーター)は、奔流からダンジョンへ流れ込むマナの量を調整する「バルブ」の役割を果たしていたのだ。

それを俺たちが(正確にはネロが)消滅させたせいで、供給を止める蓋がなくなり、ダムが決壊したようにマナが制御不能になっている。


要するに、水道の蛇口を根元からぶっ壊してしまったような状態だ。

完全に俺たちのせいである。


セフィラは走り回った拍子に、部屋の隅に転がっている泥だらけの俺たちに気づいた。

だが、彼女には「侵入者かどうか」を確認する余裕すらなさそうだ。


「そこの君たち! 誰だか知らないけど、生きてるなら手伝って! 泥だらけで汚いけど背に腹は代えられないわ!」


彼女は部屋の端にある、赤く塗装された巨大なハンドルを指差して叫んだ。


「あの『緊急遮断弁エマージェンシー・バルブ』を回して! 自動制御が効かないの! 手動でマナの流入をカットして! 早く!」


3. マッチポンプな緊急作業


「(……俺たちが壊したなんて言える雰囲気じゃないな)」


俺は事情を察しつつ、口をつぐんで協力することにした。ここでコアが爆発したら、地上への帰還どころか、俺たちも道連れだ。


「総員、緊急作業だ! アヤネとモモはあのハンドルを回せ! 全力だ! リリスはモニターの術式を読み上げろ!」

「よ、よくわかんないけど、やればいいのね! お家に帰るために!」

「任せろー! うおおお!」


ギギギギギッ……!!


アヤネとモモが、二人がかりで巨大な物理ハンドルに取り付く。

「ふんぬぅぅぅ!」

「だあああああ!」

さすがは脳筋コンビ、何百年も使われていなかったであろう錆びついた緊急弁が、悲鳴を上げて回り始める。


「術式コード、赤色領域に突入! 圧力係数、まだ上昇してるわ! 第3パイプライン、破裂寸前よ!」

リリスがモニターを見ながら叫ぶ。


セフィラは複数の仮想キーボードを、残像が見えるほどの速度で叩きながら、悲鳴を上げている。

「ダメ、処理が追いつかない! どのラインの圧力が高いの!? モニターが多すぎて特定できない! このままじゃ深層エリアごと吹き飛ぶわ!」


管理者がパニックになっている。

俺は即座に脳内の相棒を起動した。


「カンニング・AI、解析しろ。この状況における最適な閉鎖手順は?」


ピコン♪


【AI】 解析完了

- 状況: マナ供給過多による臨界点突破まであと30秒。

- 推奨手順: 第3パイプを45度閉鎖後、第7パイプを全開放して圧力を逃がしてください。その後、第1弁を完全閉鎖。


俺はAIの答えをそのまま、さも自分が計算したかのように叫ぶ。

「管理者! 落ち着け! まず第3パイプを45度閉鎖! その後、第7パイプを全開放して圧力を逃がせ! 最後に第1弁を閉じるんだ!」


「えっ!? そ、そんな手順……でも!」

セフィラは一瞬戸惑ったが、俺の声のあまりの迷いのなさに、反射的に従った。

「ええい、ままよ! 第3閉鎖! 第7開放!」


彼女がキーを叩くと同時に、部屋全体を揺らしていた振動がふっと軽くなった。

真っ赤だったモニターの警告色が、スーッと安全を示す緑色へと変わっていく。

そして何より、毒々しく明滅していたダンジョンコアの光が、穏やかな虹色の輝きへと落ち着きを取り戻した。


プシューーー……。


コアから白い蒸気が抜け、部屋に鳴り響いていた警報音が止まる。

マナの奔流は遮断され、コアの鼓動も正常なリズムに戻った。


「ふぅ……助かった……」

セフィラはその場にへたり込み、俺も大きく息を吐いた。


「君、凄いじゃない……。あのカオスな状況で、瞬時に最適なバイパス経路を導き出すなんて。ウチの新人職員よりよっぽど優秀よ……」

セフィラが眼鏡のズレを直しながら、感嘆と尊敬の入り混じった眼差しを向けてくる。

まさか原因を作った張本人たちだとは、夢にも思っていないだろう。マッチポンプ大成功だ。


4. 報酬は「人間らしい生活」


一息ついたセフィラが、ようやく立ち上がり、俺たちを改めて観察した。

そして、眉をひそめた。


「ふぅ、助かったわ。……で、あなた達だぁれ? 迷宮の侵入者(冒険者)にしては、随分と変な場所から出てきたけど」


彼女は俺たちの泥だらけの服と、ボロボロの姿を見て、露骨に嫌そうな顔をした。

「うわ、きたなっ。泥とモンスターの体液まみれじゃない。それに何この匂い……カニ臭い……。私の清潔な管理領域ルームに菌を持ち込まないでくれる?」


かなりの潔癖症らしい。

だが、すぐに気を取り直して咳払いをした。


「ま、いっか。危機を救ってくれたのは事実だし、手伝ってくれたお礼をしなきゃね。私は管理精霊セフィラ。君たちの望むものを言いなさい。金銀財宝? それともレアスキル? 私の権限の範囲内で融通してあげるわよ」


その言葉を聞いた瞬間。

アヤネ、リリス、モモの三人が、食い気味に――いや、魂の底からの叫び声を上げた。


「「「ご飯と! お風呂と! 柔らかいお布団!!!」」」


セフィラはキョトンとした。

「は? ……それだけ? レアアイテムとかじゃなくて?」


「それだけじゃないわ! 今すぐ! 今すぐに人間らしい生活をさせて!」

アヤネが鬼気迫る形相で詰め寄る。

4日間のサバイバル、カニと泥水、岩肌での睡眠。限界はとうに超えていた。彼女たちの目には、財宝よりも温かいスープの方が輝いて見えるのだ。


セフィラは少し引いたが、すぐに納得したように頷いた。

「ああ、確かにその汚さは見てられないわね。私の領域を汚されるのは耐えられないから、徹底的に洗浄(お風呂)してあげる。……特別に**『アレ』**を使っていいわよ」


5. 忖度の貴賓室


案内されたのは、ダンジョンの殺風景な裏側とは別世界の、豪華絢爛なスイートルームだった。

ふかふかの絨毯、クリスタルのシャンデリア、そして最高級の家具が並ぶその部屋に、俺たちは唖然とする。


「こ、こんな部屋、なんでダンジョンにあるんだ?」

俺が尋ねると、セフィラが疲れた顔で答えた。


「ここはね、**ダンジョン上級管理官(精霊王とか)が抜き打ち検査に来た時に、機嫌を損ねないよう誂えた『貴賓室』**よ。……滅多に来ないくせに、『我をもてなす準備はできているか?』とか言ってくるから、維持管理だけで大変なんだから。予算もここだけ桁違いなの」


中間管理職の悲哀を感じる理由だった。どこの世界も上司への忖度は大変らしい。


「さ、お風呂はあっちよ。上級精霊をもてなすための、美容効果抜群の『マナ温泉』だから」


「きゃあああああ! お風呂おおおおお!」


アヤネたちが服を脱ぎ捨てんばかりの勢いで浴室へ突撃していく。

しばらくすると、浴室から「あぁぁ~……生き返るぅ……」「ふやけるぅ……」という、とろけるような歓喜の声と、すすり泣く声が聞こえてきた。


俺も別のシャワールームで4日分の汚れを落とし、さっぱりして部屋に戻ると、テーブルには食事が並んでいた。

ダンジョンの生成機能で作られた、最高級のフルコースだ。


「うっ、ううっ……カニじゃない……パンだ……温かいシチューだ……」

モモがパンを抱きしめてむせび泣いている。

「野菜があるわ……シャキシャキしてる……」

リリスもサラダを噛み締めて涙を流している。

「お肉……柔らかい……」

アヤネはステーキを口に運びながら、至福の表情で固まっている。


俺たちは言葉もなく、ただひたすらに「人間らしい食事」を貪った。

今までで一番美味い食事だったかもしれない。


そして、食事の後は。

雲のように柔らかい羽毛布団が待っていた。


「……おやすみ」

「……泥のように眠るわ」

「……ぐー」


三人はベッドに入った瞬間に意識を失った。

俺も、ふかふかの枕に頭を沈める。

清潔なシーツの匂い。全身の力が抜け、意識が闇へと溶けていく。

ようやく、終わったんだ。


6. 深夜のスキルアップ通知


深夜。

静寂に包まれた貴賓室で、俺も完全に意識を手放そうとしていた。

まどろみの中、幸せな夢を見かけていた、その時。


ピコン♪


脳内で、空気を読まない通知音が鳴り響いた。


『――マスター、就寝中失礼します』


「(……うるさい。寝かせろ)」

俺は心の中で毒づくが、AIはお構いなしだ。


『報告いたします。今回のボス討伐、およびこの管理領域コア・ルームへのアクセスにより、当システムの解析コードがダンジョンの深層領域とリンクしました』


『これにより、当システムの大幅なアップデート(スキル解放)が可能になりました』


「(……は?)」


『ただのカンニングツールから、ダンジョンそのものをハッキングする【管理者権限アドミニストレーター】の一部機能を実装可能です。更新しますか?』


コタロウは重いまぶたをこじ開けた。

眠気よりも、好奇心と――これでさらに「楽」ができるかもしれないという予感が勝ったからだ。


「(……詳しく聞かせろ)」


俺の安眠は、もう少しだけお預けになりそうだった。


(第14話 完)

【第14話:あとがき】

読んでいただきありがとうございました!

「自分で壊して(ボス撃破)、自分で直す(バルブ操作)」。 まさにマッチポンプの極みでしたが、中間管理職のセフィラさんが「有能なスタッフ」と勘違いしてくれたおかげで、結果オーライ。一行はドロドロのサバイバルから解放され、貴族顔負けのVIP待遇をゲットしました。

ヒロインたちが風呂とシチューに涙する姿、本当にお疲れ様でしたと言ってあげたいですね。

……しかし、サボり魔コタロウに本当の安息は訪れません。 ふかふかのベッドで眠りについた彼の脳内で、空気を読まない【AI】が不穏な単語を並べ始めました。

「管理者権限」「ハッキング」「究極の怠惰装備」

物語はここから、単なる脱出劇を超えた「世界のシステムへの介入」へと足を踏み入れます。 そして、コタロウたちが地下で優雅なティータイムを過ごしている頃、地上ではさらに「取り返しのつかない事態」が進行していました。

【次回予告:第14.5話】 『スキルアップと、究極の怠惰への設計図』。 すれ違いと勘違いが加速する、幕間エピソードをお届けします!

「ハッキングなんて面倒なこと、俺の人生に必要ないんだよ!」 そう嘆くコタロウにAIが提示した、**「寝ていても板書を勝手に取ってくれるペン」**の設計図。 その神器を手に入れるために必要なのは、伝説の希少金属とドワーフの技術!?

さらに、地上ではコタロウたちの「遺影」を飾る準備が着々と進められており……。 勘違いと欲望が加速する幕間エピソード、どうぞお楽しみに!


【作者からのお願い】 第2章の完結カウントダウンを祝して、ぜひブックマークと、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の星が、コタロウの脳内アップデートの通信速度を爆上げします!



【設定】キャラクターデザイン:セフィラ (Sephira)

「私の清潔な管理領域ルームに菌を持ち込まないでくれる?」

 挿絵(By みてみん)

【基本情報】

• 種族:管理精霊(高次元生命体)

• 役職:第13層管理担当

• 危険度測定不能(事務処理能力およびストレス耐性が限界突破中)

• 性格知的、潔癖症、パニックに弱い中間管理職

• 一人称「私」

■ 外見・ビジュアル

• 容姿: 透き通るようなプラチナブロンドの髪をきっちりとまとめ、知的な印象を与える銀縁の眼鏡をかけている。

• 服装: カッチリとした白い事務官風の制服を着用。首からは管理責任者を示すIDカードをぶら下げている。

• 精霊的特徴: 背中にはエラーやステータスを表示する半透明の光の翼が浮かんでおり、これがキーボードのような術式陣として機能する。

• 状態変化: 激務やパニック時には、制服の裾が乱れ、翼が赤色に明滅する「オーバーヒートモード」になる。


■ 性格・行動原理

• 潔癖症: 泥だらけの人間やモンスターの体液を極端に嫌い、自分の管理領域が汚されることに耐えられない。

• 中間管理職の悲哀: 精霊界の上層部(精霊王たち)への忖度に命をかけており、完璧なフォームの**土下座ドゲザ**を披露することもある。

■ 能力・スキル

• 高速演算・ハッキング: 光の翼(仮想キーボード)を叩き、残像が見えるほどの速度で世界のシステムに干渉する。

• 緊急遮断・管理権限: ダンジョン内のバルブやマナの奔流を物理的・魔術的に制御する権限を持つ。

• 物理制裁(教師モード): 「看守」としての任務を遂行するため、チョーク投げや物理的な制裁を加える準備を整えている。

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