Ep.24 第13話:脱出しようとしたら、番人(ボス)が強すぎて詰んだ
【第13話:まえがき】
ついに深層の最奥部、「マナの奔流」の裂け目に到達したコタロウ一行。 目の前には、おそらく地上へと繋っているであろう光の出口が輝いています。
しかし、ダンジョンはそう簡単に脱出を許してはくれません。 出口の前に立ちはだかったのは、この領域を統べる管理者にして最強の防衛システム、「魔喰らいの竜」。 アヤネたちの全力魔法を「食事」として吸収する天敵を前に、Fクラスの運命は……?
【第2章:深層脱出・ダンジョン攻略編】、クライマックスです!
【本文】
1. 奔流の裂け目の調停者
アヤネによる驚天動地の「高圧洗浄(聖属性・超高圧洗浄波)」によって開かれた浄化の道を抜け、俺たちはついに深層の最奥部、マナの奔流の表層へと到達した。
そこは、世界の終わりと始まりが同居するような、荘厳かつ恐ろしい光景だった。 目の前を轟々と流れるのは、極彩色に輝く「マナの奔流」。 視界を埋め尽くす圧倒的なエネルギーの激流は、岸辺に存在する「空間の裂け目」を中心にして巨大な渦を巻き、まるで宇宙の果ての滝壺のように激しく、しかし美しく吸い込まれていた。
その「裂け目」こそが、この世界のマナを循環させるための排出口であり、同時に地上へと繋がる唯一の帰還経路だ。
「あ、あれだ! 出口だ!」
アヤネが歓喜の声を上げて指差す。 渦の中心で揺らぐその裂け目の向こうからは、懐かしく湿った土の匂いや、「薄い空気」の気配が微かに漂ってくる。 4日間にわたる過酷なサバイバル、死と隣り合わせの深層生活の終わり。誰もが安堵し、希望に胸を膨らませた、その時だった。
『――警告。奔流に適合しない異質なマナ(異物)を確認。排除プロセスへ移行します』
どこからともなく、感情の一切こもっていない、絶対零度の思念が空間に響き渡った。
ズズズズズ……ッ!!
激しい地響きと共に、裂け目の前の大地が隆起する。 岩盤を砕き、マナの飛沫を上げて姿を現したのは、全身が透き通るクリスタルで構成された、全長50メートルを超える巨大な竜だった。 その体躯は至高の美術品のように美しくも恐ろしく、内側には取り込んだマナが血管のように脈動し、青白く輝いている。瞳に宿るのは生物的な感情ではなく、システムとしての冷酷な監視の光のみ。
深層の守護者にして、この領域の絶対的支配者。 【奔流の裂け目の調停者・クリスタル・イーター(魔喰らいの竜)】だ。
【AI】 カンニング・AI 解析モード
• 対象: 【奔流の裂け目の調停者(Arbiter of the Rift)】
• 役割: 裂け目からダンジョン内へ出力されるマナの量を調整する「弁」。
• 現状: アヤネたちの『異質な聖マナ』および『爆発的な熱量』を、システムを乱すノイズと認定。完全排除を決定しました。
『GYAOOOOOOOOOッ!!』
ガラスを鋭利な爪で引っ掻いたような、耳をつんざく咆哮。 それは生物の威嚇ではない。排除システムが作動した際のアラート音そのものだった。
2. 絶望の捕食者
「排除なんてさせない! 通さないって言うなら、どいてもらうわ!」
リリスが即座に反応した。彼女は俺が作った「螺旋筒(ただの筒)」を構え、中にいる火の精霊イグニスに叫ぶ。 「イグニス! 深層の高濃度マナを全部食い尽くすつもりで! 炉心融解級の最大火力よ!」 「キューッ!(まっかせてー!)」
アヤネも「風車杖(骨と羽根製)」を高速回転させる。その回転が生む聖なる風圧だけで、周囲の重力が歪む。 「リュミエールちゃん、お願い! 悪いドラゴンを追い払って、お家に帰るの!」 「わーい! キラキラ!」
モモもシルフを纏った拳を構え、地面を蹴った。その一歩で地面が陥没し、彼女の体は緑の旋風となって空へ舞う。 「シルフ、いくぞ! 必殺、超・竜巻パンチ!」
三人と三体の精霊が、残った力を総動員して放つ一撃。 リリスの放つ全てを焼き尽くす業火、アヤネの極光、モモの暴風。 それらが空中で混ざり合い、一本の巨大な極彩色のエネルギー奔流となって、クリスタルの巨体へと吸い込まれていく。 直撃すれば岩山さえ蒸発させる、地形破壊規模の威力だ。
「いっけええええええっ!!」
しかし――その結末は、あまりにも静かで、無情だった。
ジュヴォッ。
調停者たる竜は、ただ大きく口を開けただけだった。 彼女たちの必殺の魔法を、まるで温かいスープをすするように、音もなく「吸い込んだ」のだ。
爆発音はない。衝撃もない。 紅蓮の炎も、聖なる光も、鋭利な暴風も。 全てが竜の口腔内で渦を巻き、クリスタルの喉奥へと消えていった。 ただ、竜の身体が内側から輝きを増し、表面にあった細かい傷が瞬時に癒えていく。それは攻撃ですらなかった。「補給」だ。
「え……?」 アヤネが呆然と立ち尽くす。 「食べた……? 私たちの魔法を?」
【AI】 カンニング・AI 解析
• 対象特性: マナ・アブソーバー(魔力吸収体)。
• 結論: 彼はマナの流れを「調整」する存在。純粋な魔力攻撃は、彼にとっては「燃料」に過ぎません。現在の攻撃は、ボスにとって「高級ビュッフェの食べ放題」として機能しています。
3. 蹂躙と沈黙
「うそ……私の火が、餌にされた……?」
リリスが愕然として杖を取り落とす。 竜は「ごちそうさま」と言わんばかりに喉を鳴らし、吸収して増幅された魔力を口腔内に収束させる。過剰なマナをダンジョンへ還元するための、排出口が開く。 その輝きは、太陽を直視したかのような、絶対的な滅びの予兆。
【AI】 警告:緊急事態
• 敵個体、マナ放出シークエンス(強制排熱)を開始。
• 推定被害: 全滅。現行の防御能力では、生存確率 0.001% 未満。
• 推奨: マスターによる聖女アヤネへの「マナの強制チャージ」。今すぐ指を回してください。
「(……っ、やるしかないか!)」
俺はポケットから使い古したペンを抜き出し、指先で猛烈な勢いで回し始めた。 【無限回転(ペン回し)】――「トルネード」を超え、摩擦でペンが発火する寸前の極限RPM(回転数)。 周囲の希薄なマナが俺の指先へ強引に吸い寄せられ、渦状に凝縮されていく。
「(カンニング・AI! 抽出マナを全量『聖属性』へ変容! アヤネに最適化しろ!)」
【AI】 了解。
• マナ精製完了。属性変容:聖属性(純度100%)。
• ターゲット:篠宮アヤネ。送電シークエンス、スタート。
「アヤネ! 防御に全振りしろ! 俺が『押し込む』ぞ!」
俺はアヤネの背中に手を叩きつけ、精製した純粋な聖マナを流し込んだ。 【強制チャージ(給油)】。
「えっ、コタロウくん!? あ、あああ……っ! なに、これ……凄い、凄いのが入ってくるぅぅぅ!!」
アヤネの絶叫と共に、彼女の魔臓器が限界を超えて膨張する。 俺が送り込んだオーダーメイドのマナは、彼女の血管を焼き、神経を痺れさせるほどの万能感と快感をもたらした。 瞬時にアヤネの魔力出力が臨界点を突破し、彼女を中心に黄金の極厚バリア――「聖域の盾」が展開される。
直後。
『GOAAAAAA……ッ!!』
「極光のブレス(マナ・ディスチャージ)」。 自分たちが放った魔力が、竜の体内で圧縮・増幅され、異常な密度にまで収束されて襲いかかる。 それは光の津波となって、俺たちを飲み込んだ。
ドォォォォォンッ!!
アヤネの盾が激しく明滅し、バチバチと火花を散らす。 俺のチャージによる「出力ブースト」がなければ、一瞬で原子レベルにまで分解されていただろう。 だが、この圧倒的な物量差の前では、盾を維持するのが精一杯だった。
「きゃああああッ!?」 「ぐああっ!?」
盾は消失を免れたものの、物理的な質量を伴う衝撃までは防ぎきれず、俺たちは紙切れのように後方へ吹き飛ばされた。 岩壁に激突し、俺たちの意識が遠のく。 俺が即席で作った「ハリボテ武器」たちは、その圧倒的な魔力負荷に耐えきれず、パリンという音と共に木っ端微塵に砕け散ってしまった。
魔法で戦う彼女たちにとって、魔法を食べる敵は「詰み」そのものだ。 武器を失い、魔力を奪われ、体力も尽きた。 圧倒的な敗北。
「……っ、みんな……!」
俺は瓦礫の陰から様子を伺う。辛うじて息はあるが、完全に戦闘不能だ。 精霊たちも強制的に解除され、宝石や体の中に戻ってしまった。
【AI】 カンニング・AI 戦況分析
• 敵戦力: 計測不能(Sランク相当)。
• 味方戦力: ゴミ(破損した武器片のみ)。
• 結論: お手上げです。遺書を書き残すことを推奨します。
「(……カンニング・AIまで匙を投げやがった)」
4. 認識されない「石ころ」
絶体絶命のピンチ。 だが、奇妙なことに、竜は倒れた三人には見向きもせず、次の「排熱」を待って待機状態に戻った。 空間に唯一立っている俺――コタロウには、視線すら向けない。 まるでそこに誰もいないかのように。
【AI】 カンニング・AI 解説
• この個体は「異質なマナ反応(異物)」のみを排除対象としています。
• マスターの魔臓器は空っぽ。魔力量は「ゼロ」。
• 調停者にとって貴方は、マナの流れに一切の影響を与えない「ただの背景(石ころ)」です。
「(……ナメられたもんだな)」
俺は足元に転がっていた、壊れた杖の破片を拾い上げ、乾いた笑いを漏らした。 魔法は効かない。物理で殴ろうにも、相手はミスリルより硬いクリスタルだ。 マナの門番からすれば、俺のようなバグ(Fクラス)は視界にすら入らないということか。 この無力感、この無視される感覚。いつものことだが、今回ばかりは腹が立つ。
「(……さすがに、詰んだか?)」
俺が諦めかけ、砕けた杖を捨てようとした、その時だった。
5. 影の中の契約
ボコッ……ボコボコッ……。
俺の足元の影が、まるで沸騰したタールのように激しく泡立った。 底冷えするような、粘り気のある殺気が、俺の背筋を駆け上がる。
『……コタロウ。あいつ、気に入らない』
影の中から、鈴を転がすような、しかし奈落の底から響くようなネロの声が聞こえた。
『ボクのコタロウを無視して……あまつさえ、ボクのご飯を勝手に食べるなんて……許せない。あのご飯は、最後にボクが食べるはずだったのに』
影から伸びる無数の黒い手が、ゆらりと鎌首をもたげ、クリスタルの巨竜を指差す。
『ねえ、殺していい? ……そのかわり、コタロウが、とびきりの愛をこめてネロのために『マナの雫のショートケーキ』を作ってちょうだい。ネロの好みに変容した、あまーいマナを……直接、たっぷりと。そうしてくれるなら、あんなトカゲ、前菜替わりにボクが食べてあげる』
俺はハッとした。魔法が効かないなら、「魔力という概念の外側」にある存在でぶち抜けばいい。 ここにあるのは、マナを管理する光の調停者と、マナに飢えた(および俺に飢えた)闇の精霊。 前者は「光」であり、後者は「影」だ。
「……ああ。許可する。愛でもなんでもこめて、最高のショートケーキを『チャージ』してやるから……俺の制御に従え。暴走したらデザート抜きだぞ」
『わぁい! コタロウ大好き!』
ドプンッ!!
俺の影が爆発的に膨張した。 それは床を走り、壁を駆け上がり、クリスタル・イーターの足元へと忍び寄る。 竜は気づかない。影には魔力がないからだ。気づいた時には、もう遅い。
「喰らい尽くせ、ネロ!」
6. 漆黒の捕食劇
影の大津波が、竜を呑み込んだ。
『GYA、A……!?』
竜が初めて恐怖の声を上げた。 だが、その声はすぐに影の中に沈んだ。 影の棘が、硬度ミスリルの装甲を内側から物理的にこじ開け、砕き、侵食していく。
『おいしい! 外側は硬いけど、中身はトロトロのマナで満たされてるぅ!』
ネロの歓喜の声と共に、バリバリ、グシャリという、硬質なものが砕ける音が響く。 魔法的な吸収能力も、物理的な装甲も、「概念としての影」の前では無意味だった。 光り輝く竜が、見るも無残に黒く染まり、砕けていく。 それは戦闘ではない。一方的な「食事」だった。
数分後。圧倒的な捕食劇が終わった。 影によって食い荒らされたクリスタル・イーターは、ガラス細工のように崩れ落ち、ただの美しい瓦礫の山となっていた。
「げふっ……おなか、いっぱい……」
ネロは満足げに俺の影に戻り、約束の「ケーキ(特製チャージ)」を待って大人しくなった。 これは地上に戻ったら、相当気合を入れてペンを回さないと、彼女の機嫌を損ねることになりそうだ。
7. 戦利品がビー玉
「……助かった、のか?」
アヤネたちがヨロヨロと起き上がってくる。 「コ、コタロウくん!? あの竜は!?」 「自滅した」 「えっ」 「魔力を吸いすぎて、消化不良でお腹が破裂したみたいだ」 「そんなことあるんだ……。やっぱり食べ過ぎは良くないんだね……」
アヤネは自分のお腹をさすりながら、素直に信じた。チョロくて助かる。
俺は崩れ落ちた竜の残骸に近づいた。 瓦礫の中に、一つだけ異質な輝きを放つものがある。 心臓部にあたっていた場所から転がり出た、「青白く脈動する、ビー玉くらいの大きさの魔石」だ。
【AI】 カンニング・AI
• マスター、その石を拾ってください。
• 鑑定結果: 【重力核】。
• 役割: クリスタルの巨体を浮遊させていた超高密度魔石。売却すれば小国の予算が飛びますが、後の「サボり用装備開発」に不可欠なパーツとなります。
「へぇ、これがあのデカブツの動力源か……」
俺はそれを拾い上げ、指先でつまんで光に透かしてみた。 50メートルを超える巨竜の核にしては、あまりにも小さく、拍子抜けするほど軽い。子供が遊びで使うガラス玉にしか見えなかった。
「見た目はただのビー玉なんだけどな。……まあいい、手の中で転がして遊ぶには丁度いいサイズだ」
俺は「まあ、手慰みのツボ押し代わりくらいにはなるか」と呟き、その国宝級の魔石を、まるで安物の玩具のようにポケットに放り込んだ。
こうして俺たちは、深層最強の調停者を撃破し、ついにマナの奔流から脱出したのだった。
(第13話 完)
【第13話:あとがき】
読んでいただきありがとうございました!
「魔法が効かないなら、魔力じゃないもの(影)で食べればいいじゃない」 アヤネたちが手も足も出なかった深層の番人を、ネロさんが文字通り「完食」してしまいました。
Sランク級の防衛システムを、嫉妬と食欲というバグ技で粉砕する……。 ネロという最強の用心棒を得た安心感と、**「愛のこもったショートケーキ(あーん付き)」**を要求される絶望感が、コタロウの背中に重くのしかかっていますね。
今回のポイントをまとめると:
• アヤネたち: 全力の一撃を「おやつ」にされ、無念の戦闘不能。
• ネロ: 愛しのコタロウを無視された怒りで、竜を「前菜」として処理。
• コタロウ: 国宝級の**『重力核』**を入手するも、ただの「ツボ押し用のビー玉」としてポケットに放り込む。
さて、死地を脱した一行が辿り着いたのは、出口の光の向こう側。 そこは地上……ではなく、なんと管理者の「宿直室」!? そこで出会う「眼鏡のお姉さん」が、物語の新たな鍵を握ることになります。
【次回予告】 第14話『ボスを倒して入った先は、管理者の「宿直室」だった』 「お願い! 誰でもいいからこのバルブ回してぇぇぇ!!」 深層脱出の結末は、まさかの「配管トラブル」の解決!? 第2章、いよいよ完結です!
次回もよろしくお願いします!
【作者からのお願い】 第2章のクライマックスを楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の評価が、ネロに捧げる「マナのショートケーキ」のデコレーションをさらに豪華にします!




