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第12.5話:3日目の夜、カンニング・AIが「カロリー計算」をしてきた

【第12.5話:まえがき】

前話で、死闘の末に「鉄甲蟹」を美味しくいただいたコタロウたち。 食料問題は解決し、お腹も心も満たされました。

しかし、サバイバルにおいて「満腹」は、時に魔物よりも恐ろしい現実を突きつけてきます。 今回は、空気の読めないAIが弾き出した「残酷な数値カロリー」と、それに絶叫するヒロインたちの深夜の戦い(ダイエット)を描く幕間エピソードです。

そして影の中では、別の意味で「飢えている」ストーカーが……。

1. 満腹という名の麻薬


「……ふぅ。食った食った……」

「……もう、入らないよぉ……」


ダンジョン生活3日目の夜。

俺たちの野営地には、平和で堕落した空気が充満していた。

つい数時間前まで、ミスリル級の硬度を持つ巨大ガニと死闘を繰り広げていたとは思えない弛緩しきった光景だ。


巨大なカニの甲羅鍋は、完全に空っぽになっていた。

アヤネが作った「風車杖」による遠心分離と、俺の「中和コード」によって黄金色に輝いていた極上スープは、一滴残らず三人の胃袋に収まったのだ。


「……幸せ……」


アヤネが岩壁に背中を預け、だらしなく手足を投げ出している。

いつもの聖女らしい清楚な振る舞いはどこへやら、少し……いや、明らかに膨らんだ下腹をさすりながら、うっとりとした表情を浮かべている。


「……コラーゲンとミネラルの過剰摂取ね。明日の肌艶は、王宮の貴婦人ですら嫉妬するレベルだわ……」


リリスも眼鏡を外し、満足げに瞼を閉じている。

彼女もまた、普段のクールで理知的な表情は崩壊し、満腹感という名の快楽に溺れていた。


そしてモモに至っては。

「むにゃ……カニ……おかわり……骨ごと食う……」

焚き火のそばで丸くなり、幸せそうな寝言を言いながら既に夢の中だ。野生児の消化器官はブラックホール並みらしい。


「(……まあ、よかったな)」


俺――神木コタロウは、その光景を見ながら少し安堵していた。

地上の100倍というマナ・プレッシャーの中で生き残るには、大量のカロリーが必要だ。

今日のドカ食いは、生存戦略として正しい。

食える時に食う。それがサバイバルの鉄則だ。


俺も横になり、久しぶりに訪れた「満腹」という幸福感に浸りながら眠りにつこうとした。

その時だった。


脳内で、**「空気の読めないアイツ」**が勝手に起動したのは。


2. AIによる無慈悲な宣告


ピコン♪


【AI】 カンニング・AI 健康管理レポート(Daily Health Check)

- 対象: パーティ全員(特にアヤネ、リリス)

- 状態: 極度の満腹状態および血糖値スパイク。


「(……なんだよ。今は休ませろ)」

俺は眉をひそめて思考を送った。


【AI】 摂取カロリー集計完了

- アイアン・クラブの身: 高タンパク・高脂質。

- カニ味噌: 濃厚な脂質の塊。

- マナ・マッシュルーム: 旨味成分(グルタミン酸)および食欲増進効果。

- 〆の雑炊: 炭水化物の爆弾。

- 合計摂取カロリー: 一人あたり約 4,850 kcal


「(……は?)」

俺は思考を止めた。4850? 成人男性の2日分以上だぞ?


【AI】 判定: 危険域(Emergency)

- 解説: 飢餓状態からの急激なドカ食いにより、身体は「エネルギー備蓄モード」に移行しています。

- 結論: このまま就寝した場合、余剰エネルギーの 98% は直ちに**「皮下脂肪」**へと変換されます。


「(……やめろ。聞きたくなかった)」

俺は顔をしかめた。

「(明日のエネルギーになるんだからいいだろ。深層は寒いし、脂肪もあったほうがいい)」


【AI】 反論

- 生存には有利ですが、**「美容」**の観点では致命的です。

- シミュレーション結果: 明朝までに、アヤネとリリスの体重は +1.2kg ~ +1.5kg 増加します。

- 特記事項: アヤネ様の着用している聖女の儀礼服は、シルエット重視のタイトな設計です。明日の朝、ウエストのファスナーが上がらなくなる確率は 85% です。


「(……ッ!)」


俺は思わず、アヤネの腹部に視線を向けてしまった。

確かに、いつもの清楚な聖女服の上からでも分かるくらい、お腹周りがぽっこりと……いや、健康的に膨らんでいる。

あれは「夢と希望」ではない。「カニと雑炊」だ。


「……ん? コタロウくん、どうしたの?」

アヤネが俺の視線に気づき、不思議そうに首を傾げた。


「……いや」

俺は言うべきか迷った。だが、言わなければ明日、服が着られなくてパニックになるのは彼女だ。

俺は意を決して口を開いた。


「AIがな、さっきの食事のカロリー計算をしたんだが……」

「うん?」

「今のカニ鍋だけで、一人 4850キロカロリー あったそうだ」


その瞬間。

洞窟内の時間が止まった。

焚き火の爆ぜる音だけが、虚しく響いた。


3. 深夜の脂肪燃焼ダンス


「よ、よんせんはっぴゃく……!?」


アヤネの顔から、サァァァッと音を立てて血の気が引いた。

聖女が絶望した時ですら見せないような、この世の終わりのような表情だ。


「う、嘘だよね!? カニはヘルシーだもん! 海鮮だもん! ほとんど水みたいなもんだよ!」

「俺もそう思いたかった。だが、カニ味噌と、俺が入れた『旨味増幅キノコ』の相乗効果で、カロリー爆弾になってたらしい。……あと、最後に雑炊を5杯おかわりしたのは誰だ?」


「ひぃぃぃっ!!」

アヤネが悲鳴を上げ、自分のお腹を両手で押さえた。

「ど、どうしよう! 来週、地上に戻ったら王都で凱旋パレードがあるのに! 『聖女様、ダンジョンでちょっと太った?』とか新聞に書かれたら死んじゃう! 信者減っちゃう!」


リリスも眼鏡を落としそうになりながら、ガタガタと震えている。

「け、計算外だわ……。脳の糖分消費で相殺できると思っていたけれど……4850は物理法則を無視している……! こ、これはいけないわ、直ちに燃焼バーンさせないと!」


二人は弾かれたように立ち上がった。

ついさっきまで「筋肉痛で動けない」と呻いていたのが嘘のようだ。火事場の馬鹿力ならぬ、**「女子場のダイエット力」**だ。


「く、くるくるーっ! 腹筋に力を入れてくるくるーっ!」


アヤネが涙目で「風車杖」を構え、腰をひねりながら素振りを始めた。

「イチ、ニ! イチ、ニ! 脂肪燃焼! ウエストのくびれよ戻ってこい!」

ブン! ブン! と風切り音が凄まじい。その動きはもはや武術の演舞だ。


「イグニス! 室温を上げて! サウナ効果で基礎代謝を上げるのよ!」


リリスも「螺旋筒」を抱え、必死にスクワットを始めた。

「大腿四頭筋をいじめて糖質を消費する! ワン・ツー! ワン・ツー!」

イグニスが困惑しながら筒の中で温度を上げ、洞窟内が熱帯のようになっていく。


「(……何やってんだ、こいつら)」


深夜の深層。

魔物がいつ襲ってくるかも分からない極限状況で、世界最強の聖女と天才魔導師が、必死の形相で「深夜のダイエット体操」に励んでいる。

シュールすぎる光景だ。


「おい、ほどほどにしとけよ。明日動けなくなるぞ」

「うるさいっ! 女子には戦わなきゃいけない時があるの!」

「コタロウくんは男子だから分かんないんだよぉ! この『ぷにっ』としたお肉の恐怖がぁ! 聖女服は伸縮性ゼロなんだよぉぉ!」


俺は呆れてため息をつき、再び岩壁に背を預けた。

まあ、元気があるならいいか。消化不良で倒れられるよりはマシだ。


4. 影の中の別腹


騒がしい二人を尻目に、俺は自分の足元を見た。

焚き火の影が長く伸びている。

そこには、じっと俺を見上げる赤い瞳があった。


「……ねえ、コタロウ」


影の中から、ネロが呆れたような声を響かせた。

彼女の声は、周囲の騒音をすり抜けて俺の鼓膜にだけ直接届く。


「ニンゲンのメスって、バカなの? せっかく取り込んだマナ(栄養)を、なんでわざわざ捨てようとするの?」


精霊である彼女には、「太る」という概念がない。

エネルギーはあればあるほど強く、美しくなれるからだ。余剰エネルギーを捨てる行為など、自殺行為に等しい。


「……それが人間の『乙女心』ってやつらしいぞ。俺には理解できんが」

「ふーん。よく分かんない。……でも」


影がドロリと盛り上がり、ネロの顔が俺の耳元に近づく。

冷たい吐息が、首筋を撫でる。


「ボクはまだ、お腹いっぱいじゃないよ?」


ゾクリと背筋が震えた。

さっきのカニ鍋は物理的な食事だ。幽体である彼女は一口も食べていない。

みんなが満腹で幸せそうにしている間、影の中でずっと指をくわえて見ていたのだ。


「……さっきマナをやっただろ」

「あんな一口じゃ足りない。全然足りない」


ネロの冷たい指先(のような感覚)が、俺の胸元をツツッとなぞり、心臓の上で止まった。


「ねえ、あいつらが運動してる間にさ……コタロウの『別腹』、ボクに頂戴? デザートの時間でしょ?」


その瞳は、カニを貪る時のアヤネたちと同じくらい――いや、もっと深く、暗い「飢え」を湛えていた。


ピコン♪


【AI】 警告: ネロの空腹レベル上昇

- 要求: マナ供給(高濃度)

- リスク: 放置すると、嫉妬によりアヤネたちの「カロリー(生体エネルギー)」を直接吸い取る可能性があります。

- 推奨: 下手に拒否して拗ねられるより、適度に与えて黙らせるのが得策です。


「(……はぁ。どいつもこいつも、欲望に忠実だな)」


俺は二人がダイエット体操に夢中になっている隙に、そっと胸元でペンを取り出した。

指先だけで小さく回転させ、遠心力で純度を高めたマナのしずくを生成する。

それは宝石のように輝く、純粋なエネルギーの結晶だ。


「……ほらよ。これで最後だぞ」

「んっ……♡ いただきまーす」


ネロは影の中から嬉しそうに飛びつき、俺の指先から滴るマナを、甘い吐息と共に吸い込んだ。

チュッ、という艶めかしい音が脳内に響く。


「んんっ……おいしい。コタロウのマナは、カニよりずっと甘いね」


満足げなネロの声を影の中に聞きながら、俺は天井を見上げた。

アヤネたちの「脂肪燃焼!」という掛け声と、モモの寝息、そしてネロの捕食音。

深層の夜は、カオスな四重奏と共に更けていく。


カロリー過多も問題だが、俺の周りの「女難過多」も、そろそろ胃もたれしそうだった。

明日は胃薬代わりの薬草でも探そうと心に決め、俺は今度こそ目を閉じた。


(第12.5話 完)

【第12.5話:あとがき】

読んでいただきありがとうございました!

「一人あたり4850kcal」。 成人男性の2日分を優に超えるその数値は、深層の魔物よりもヒロインたちの心を深くえぐったようです。 魔物がいつ襲ってくるかわからない極限状況で、必死に腰を振り、スクワットに励む聖女とエルフ……。 **「命は惜しいが、ぷにっとなるのはもっと嫌」**という乙女心の複雑さ(?)が光る一幕でした。

一方、影の中から「別腹」をねだるネロさん。 物理的なカニよりもコタロウのマナの方が甘いという、ヤンデレ全開の囁きにはゾクゾクさせられますね。 コタロウの脳内CPUは、空調管理に続いてネロの給餌まで抱え込み、いよいよオーバーヒート寸前です。

さて、カニパワーで強制的に元気(と脂肪)を蓄えた一行ですが、次なる試練は戦いではありません。 それは、ダンジョンの底に溜まった**「何百年分かの汚れ」**です。

【次回予告】 第12.8話『聖女のお仕事(※ただし清掃業)』 ドロドロのヘドロが行く手を阻む時、コタロウが提案したのは、聖なる力による「高圧洗浄」!? 「聖属性・超高圧洗浄波ホーリー・ケルヒャー」が、深層の汚れとストレスを根こそぎ削り落とします。

次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の評価が、ダイエットに励むアヤネたちの消費カロリー効率を爆上げします!

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