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第12話:食料が尽きたので、カンニング・AI監修「ダンジョン・クッキング」を開催した

【第12話:まえがき】

前話で、ヤンデレ精霊・ネロに「一生離れない」と宣言されてしまったコタロウ。 精神的な疲労がピークに達する中、ダンジョン生活3日目は、さらに物理的な危機から始まります。

それは「食料の枯渇」。 高濃度のマナ環境下でエネルギー切れを起こせば、待っているのは死のみ。 追い詰められた一行の前に現れたのは、ミスリル並みに硬く、体内には強酸を宿す「鉄の甲羅を持つカニ」でした。

食べるか、食べられるか、それとも調理に失敗して溶かされるか。 AI監修、命がけの「深層クッキング」が始まります。

1. 飢餓、あるいは野生への回帰


ダンジョン生活3日目の昼。

俺たちは、魔物の脅威よりも恐ろしい、生命維持における最大の危機に直面していた。


「……お腹、すいた……」


アヤネが岩にもたれかかり、水分を失った花のようにしなびている。

世界最強の聖女としての威厳は見る影もない。ただの空腹の女子高生だ。

リリスも眼鏡がズレたまま、虚空を見つめて動かない。彼女の優秀な頭脳も、ブドウ糖の欠乏によりシャットダウン寸前らしい。


俺たちが持参した携帯食料(カロリーメイト的な固形物)は、昨夜の時点で底をついていた。

ここは深層。コンビニもなければウーバーイーツも届かない。


「……んぐ、ガリッ、ボリッ……」


唯一、元気に活動しているのはモモだけだ。

彼女はそこら辺の石ころを拾い、その丈夫な牙でガリガリと噛み砕いて空腹を紛らわせている。

獣人の消化器官はどうなっているんだ。見ているだけでこちらの歯が痛くなる。


これから地上に出るまで、最短でもあと2日。

地上の100倍という高濃度マナ環境下での活動は、激しいカロリー消費を伴う。呼吸をするだけで、常に全力疾走しているようなものだからだ。

食わなければ、魔物に殺される前に餓死するか、エネルギー切れでマナ・プレッシャーに押しつぶされて終わる。


「……仕方ない。現地調達するか」


俺は重い腰を上げ、こめかみをトントンと叩いて**「カンニング・AI」**を起動した。


「AI、食材スキャンだ。ゲテモノでもいい、食えるやつを探せ。俺たちはまだ死にたくない」


ピコン♪


【AI】 食材スキャンモード起動

- ターゲット: 周囲の生体反応。

- フィルタリング: 可食部が存在し、即死性の毒がないもの。

- 推奨: 難易度は高いですが、リターンも大きいです。


俺の視界の中で、少し離れた岩場に擬態している巨大な岩塊――いや、甲殻類が赤くハイライトされた。


「ターゲット確認。『アイアン・クラブ(鉄甲蟹)』。……見た目は岩そのものだが、中身はカニだ」


「カニ!?」


死にかけていたアヤネが、バネ仕掛けのようにガバッと起き上がった。

その目に聖女の輝き(と、獣のような食欲)が戻る。


「カニ鍋!? 焼きガニ!? 食べたい! 食べたい! 絶対食べるぅ!」


アヤネがヨダレを垂らして飛びかかろうとするが、俺はそれを片手で制し、AIが表示した詳細データに目を細めた。

そこには、赤字で警告文が表示されていた。


ピコン♪


【AI】 ターゲット解析: アイアン・クラブ

- 防御力: ミスリル合金と同等(物理攻撃ほぼ無効)。

- 攻撃力: 握力3トン。岩盤を粉砕するハサミを持つ。

- 特記事項: 体内に**「強酸性の溶解液」**を循環させている。

- 警告: 調理手順を誤ると、鍋ごと内臓が溶解します。


「……待て。AIの分析結果がヤバい」

俺は警告文を読み上げた。


「殻はミスリル並みに硬いし、ハサミの一撃で岩を砕くそうだ。……さらに厄介なのが、体液が強酸性らしい。調理をミスると、鍋ごと内臓が溶けるぞ。それでも食うか?」


「ひぃぃ……」

アヤネが青ざめて後ずさる。食欲か、命か。究極の選択だ。


だが、リリスが眼鏡を怪しく光らせて立ち上がった。

「……リスクとリターンは等価交換よ。空腹で死ぬか、酸で溶けるか。座して死を待つくらいなら、私はカニに賭けるわ」

「モモも! カニ食う! 溶けてもいい!」


全会一致だ。

背に腹は代えられない。

Fクラス食糧調達班、出動。


2. 決死のクラブ・ハンティング


俺たちは岩場に潜む巨大ガニへの攻撃を開始した。

昨日の「ハリボテ武器」が大活躍だ。


「モモ、ひっくり返せ! そいつの関節を狙え!」

「うりゃああ!」


モモが**「フィン付きナックル」**でカニの脚を殴りつける。

蝙蝠の羽で作ったフィンが生み出す真空の刃(とシルフのささやかな加勢)が、鋼鉄の殻の隙間に衝撃を通し、巨体のバランスを崩させる。

ズシーン! と地響きを立てて、カニが仰向けに転がった。


「今だ、リリス! 腹の柔らかい部分を狙え!」

「燃えなさい! イグニス、酸素供給!」


リリスが**「螺旋筒」**に杖を突っ込み、手動ポンプのように激しくピストン運動させる。

筒の中でイグニスが酸素を受け取って活性化し、カニの無防備な腹部へ一点集中の火炎放射を浴びせる。


「ギャアアアッ!?(カニの断末魔)」


暴れるカニのハサミが迫る。

「アヤネ、目くらましだ!」

「はいっ! くるくる~っ! お願いリュミエールちゃん!」


アヤネが**「風車杖」**をブンブン振り回す。

リュミエールが「たのしー!」と喜び庭駆け回り、発生した光の乱反射ストロボがカニの複眼を焼き、動きを止める。


連携は完璧だ(見た目は完全にサーカス団だが)。

数分後、俺たちの目の前には、香ばしく焼き上がった巨大なカニの死骸が転がっていた。


3. 物理と魔法のハイブリッド調理


「よし、調理開始だ。……ここからが本番だぞ」


俺はナイフでカニの甲羅をこじ開け、それを大鍋代わりにして水を張った。

そして、切り出したカニの肉や、その辺で拾った食べられそうな海藻(マナ藻)をぶち込む。


だが、問題はスープの色だ。

カニの体液が混ざり、毒々しいドブのような紫色に変色している。

強烈な酸の刺激臭が鼻を突き、目がチカチカする。


「カンニング・AI、解毒手順レシピを表示しろ」


【AI】 解毒プロセス開始

- Phase 1: 物理遠心分離による重金属毒素の排出(担当:モモ)

- Phase 2: 聖属性魔法による酸性中和(担当:アヤネ)

- Manager: 神木コタロウ


「モモ、出番だ」

「ん? 食べる係?」

「混ぜる係だ。その自慢の右腕でな」


俺は指示を飛ばした。

「モモ、その拳を鍋に突っ込んで回せ。全力だ! ナックルのフィンで水流を起こせ!」


「わかった! うりゃあああああああ!!」


ズガガガガガガガッ!!!!


モモが煮えたぎる鍋(甲羅)の中に拳を突っ込み、目にも止まらぬ速さで撹拌を始めた。

豪腕とナックルのフィンが唸りを上げ、鍋の中に小型の台風が発生する。


「いいぞ! 遠心力で比重の重い毒素ヘドロが外側に集まった!」


俺はペン先で空間を弾き、遠心分離された黒いヘドロ状の毒素だけを、空中に排出させる。

これで物理的な重金属毒は消えた。だが――。


「……まだだ! 残った体液の酸性が強すぎる! このままじゃスープを飲んだ瞬間に喉が焼けるぞ!」


紫色は薄まったが、まだ酸の匂いがきつい。物理分離だけでは限界があるのだ。

化学的な中和が必要だ。


「アヤネ! 仕上げはお前だ!」

「えっ、私!?」

「その『風車杖』を鍋の上で回せ! 祈りの言葉は『浄化ピュリフィケーション』だ!」


アヤネがたじろぐ。

「で、でも魔力が……深層じゃうまく練れないよ……」

「俺が繋ぐ! お前はただ、皆に『美味しいご飯を食べさせたい』と願えばいい!」


俺は右手のペンを高速回転させ、アヤネの魔力回路を強制的に開放した。

アヤネは覚悟を決め、骨の杖を両手で挟んでキリモミ回転させた。


「お、お願いぃぃぃ! 毒よ消えろぉぉ! 美味しいご飯になぁれぇぇぇ!!」


ブォォォォン!!


風車が高速回転し、アヤネの純粋な願い(聖なる魔力)が螺旋を描いて鍋に注ぎ込まれる。

そのままだと拡散してしまう魔力を、俺がペン回しで制御し、**「強アルカリ性の中和剤」**を生成する術式コードへとリアルタイム変換してスープに溶かし込んだ。


ジュワァァァァ……。


鍋から真っ白な蒸気が上がり、ツンとした刺激臭が消えていく。

毒々しかった紫色のスープが、見る見るうちに透き通った黄金色へと変わっていく。


「中和完了……! 完璧だ!」


俺は懐から、隠し持っていた乾燥キノコ(マナ・マッシュルーム)を取り出した。

ペン先で**「旨味成分増幅(グルタミン酸ブースト)」**のコードを付与して投入する。

これで味の素もバッチリだ。


「……できたぞ。**『聖女の祈りと野獣の回転・深層ガニの黄金鍋』**だ」


4. 胃袋の掌握


グツグツと煮える甲羅鍋からは、極上の海鮮出汁の香りが漂っている。

湯気の向こうで、三人の少女がゴクリと喉を鳴らした。

空腹という最高のスパイスも効いている。


「「「いっただっきまーす!!」」」


三人は夢中でカニを貪った。

熱々の身はプリプリで甘く、噛むほどに濃厚なエキスが溢れ出す。

そして何より、黄金色のスープ。五臓六腑に染み渡る滋味深さが、疲弊した身体を内側から癒やしていく。


「んんっ! 美味しいぃぃ!」

アヤネが頬を押さえて喜ぶ。「私が浄化したからかな? すごく優しい味がする!」


「んぐっ、モモが混ぜたから味が濃い! 力が湧いてくる!」

モモの耳と尻尾がピンと立ち、スープを皿ごと飲み干す。野生の勘が「これは上質なエネルギーだ」と叫んでいるようだ。


リリスも眼鏡を湯気で曇らせながら、夢中でカニの足を折っている。

「信じられない……物理分離と魔法中和のハイブリッド調理……。しかもこの旨味の深さは何? 市販のポーションより回復効率が高いわ。これは錬金術の論文が書ける……」


あっという間に、巨大なカニは殻だけになった。

満腹になった彼女たちの顔には、昨日の絶望感はない。生きる力が戻っていた。


「ぷはーっ! 食ったぁ!」


モモが満足げに腹をさすり、焚き火のそばで寝転がった。

そして、キラキラした目で俺を見上げてくる。


「コタロウ、すごい。強いし、ご飯おいしい。……モモ、決めた」


彼女は俺の腕にすり寄ると、その頬を擦り付けた。


「モモ、コタロウについていく。コタロウがボス(飼い主)。絶対」


ピコン♪


【AI】 従属フラグ成立

- 対象: 獣人モモ。

- 理由: 「胃袋」と「共同作業の達成感」を掌握しました。

- 忠誠度: MAX(餌付け完了)。

- 補足: 彼女にとって貴方はもう「群れのリーダー」です。


「(……よし。これで前衛タンク回復ヒーラーの連携もバッチリだな)」


俺も残ったスープを啜り、人心地ついた。

こうして俺たちは、物理的にも精神的にも、「同じ釜のカニ」を食った仲間として結束を固めたのだった。


食後の幸福な空気の中、俺の足元の影が不自然に揺れた。

ネロが「……ボクも食べたい……ズルい……」と恨めしそうに蠢いていたが、今は聞かなかったことにした。

これ以上、餌付け対象を増やすわけにはいかないからな。


(第12話 完)

【第12話:あとがき】

読んでいただきありがとうございました!

「毒も酸も、物理と魔法で中和すれば旨味になる」。 モモの豪腕による**「生体遠心分離」と、アヤネの祈りによる「聖属性化学中和」。そしてコタロウの「旨味成分(味の素)ブースト」**が生んだ奇跡の『深層ガニの黄金鍋』、いかがでしたでしょうか。

見た目は完全にサーカス団ですが、背に腹は代えられない極限状態が生んだ、Fクラス最高のチームワークでした。

今回のポイント:

• モモ: 胃袋を掴まれ、正式にコタロウの「飼い犬(猫?)」枠に就任。

• アヤネ&リリス: 聖女とエルフのプライドより、カニの身の甘さを選択。

• ネロ: 影の中で「ズルい」と呟く、安定のヤンデレヒロイン。

食糧問題も解決し、仲間の結束も強まった一行。しかし、平和な時間は長くは続きません。 「お腹いっぱい、幸せ……」と眠りにつこうとする少女たちに対し、空気の読めない【AI】が**残酷すぎる現実(数字)**を突きつけます。

【次回予告】 第12.5話『3日目の夜、カンニング・AIが「カロリー計算」をしてきた』 「推定摂取カロリー:4850kcal」 深夜の洞窟に響き渡る、カニの美味しさを後悔する悲鳴。 そして、影の中から「甘い別腹」を要求するネロの猛追がコタロウを襲う!

次回もよろしくお願いします!



【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の評価が、コタロウの作る料理の隠し味(魔力)に変わります!


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