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第11.5話:2日目の夜、カンニング・AIが「ストーカー対策」を講義し始めた

【第11.5話:まえがき】

前話で「ハリボテ武器」を駆使し、なんとか魔物の群れを撃退したコタロウたち。 しかし、深層の恐怖は「夜」にこそ真価を発揮します。

筋肉痛で沈むヒロインたちを尻目に、コタロウの足元から現れたのは……精霊界ですら危険視される「ヤンデレ精霊」ネロ。 物理攻撃無効、対話不能、そして独占欲の塊。

今回は、AIが弾き出した「対ストーカー危機管理マニュアル」を実践する、コタロウの孤独な夜の戦いをお届けします。

1. 筋肉痛地獄と、野生児の晩餐


ダンジョン生活2日目の夜。

俺たちは、昨日とは違う野営地にいた。

水晶の結晶が林立する「クリスタル・エリア」の岩陰だ。焚き火の光が水晶に反射し、幻想的な……と言えば聞こえはいいが、実際は死屍累々の野戦病院のような有様だった。


「……うぅ……腕が……私の二の腕がぁ……」

「……肩が……上がらない……。背筋が断裂しそう……」


焚き火のそばで、アヤネとリリスが亡霊のように呻いている。

彼女たちは今日一日、俺が開発した**「ハリボテ武器(物理補助式・魔法発動デバイス)」**を、親の仇のようにブン回し続けた。


アヤネは「風車杖」を遠心力で回転させるために、聖女とは思えない剛腕で杖を振り回し続けた。

リリスは「火炎増幅筒」の中で空気を循環させるために、手動ポンプのように杖を何千回もピストン運動させ続けた。

その結果が、この重度の筋肉痛だ。

魔法使い(キャスター)というよりは、土木作業員の一日を終えたような疲労困憊ぶりである。


一方で。


「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ! うまい!」


モモだけはケロッとして、干し肉を食いちぎっている。

「コタロウ! この肉、ちょっと硬いけど噛めば噛むほど味が出るぞ! おかわり!」

「……お前は元気だな」


彼女も一日中、拳につけたフィンで空気を切り裂く「ドリルパンチ」を繰り出していたはずだが、獣人の身体能力と野生の回復力は常軌を逸しているらしい。

モモは俺の足元にすり寄り、満足げに尻尾をパタパタと振って、そのままコテッと寝てしまった。

3秒で爆睡。羨ましい才能だ。


「……はぁ。やっと静かになったか」


俺――神木コタロウは、焚き火の明かりから少し離れた岩壁に背中を預けた。

俺自身は「魔力酔い」もなければ、肉体労働も(AIとハリボテのおかげで)最小限で済んでいる。

だが、精神的な摩耗は限界に近い。


「さて……問題はこっちか」


俺は自分の足元を見下ろした。

岩壁に伸びる、俺の影。

焚き火の火は安定しているのに、俺の影だけが、意思を持った生き物のようにゆらゆらと蠢いている。


2. 影からの甘い囁き


「……ねえ、コタロウ。寝ないの?」


影の中から、鈴を転がすような、しかし背筋が凍るほど冷たい少女の声がした。

足元の黒い影が、タールか重油のようにドロリと盛り上がる。

そこから、影の精霊・ネロの上半身がヌルリと現れた。


漆黒のドレスに、透き通るような白い肌。

彼女は実体のない幽体で、俺の膝にまとわりつくようにして、虚ろな赤い瞳で俺の顔を覗き込んできた。


「ボク、キミのこと気に入っちゃった。キミのマナ、すごく綺麗だもん」


ネロはうっとりとした顔で言った。

その瞳には白目がなく、底なしの闇の中に赤い虹彩だけが妖しく輝いている。


「ニンゲンってみんな、身体の中の汚い臓器(魔力臓器)を通した、泥みたいな魔力を押し付けてくるでしょ? 欲望とか、恐怖とか、不純物がいっぱいで……すごく不味いの」


彼女の冷たい指先(のような感覚)が、俺の頬を伝い、首筋へと這い上がる。


「でも、キミは違う。キミは器が空っぽだから、そこら辺の空気を『回転』させて、遠心力で濾過ろかして……一番美味しい純粋なところだけをくれる」


彼女は俺の首筋に顔を寄せ、深呼吸をするように「匂い」を嗅いだ。


「まるで、ボクのために世界を回してくれてるみたい。……ねえ、もっと回して? もっと綺麗なマナをちょうだい?」


「(……重い。物理的にも精神的にも)」


俺は無表情でその手を払おうとしたが、手は彼女の体をスカッとすり抜けた。

物理攻撃無効。対話も通じそうにない。


その時、脳内で無機質な警告音が鳴り響いた。


3. AI流・恋愛ストーカー危機管理マニュアル


ピコン♪


【AI】 カンニング・AI 警告

- 対象: 影精霊ネロ(クラス:古代種・特級危険指定)

- 状態: マスターへの「寄生パラサイト」および「執着ロックオン」を確認。

- 精神状態分析: 依存度98%。

- 分類: 学術的には「精霊汚染」ですが、サブカルチャー用語で言うところの**「ヤンデレ(Yandere)」**です。


「(ヤンデレ精霊とか、一番タチ悪いじゃねーか。どうすればいい? お祓いとかできるか?)」


【AI】 回答: 不可能です。


- 彼女はマスターの影と同化しています。無理に引き剥がせば、マスターの精神も崩壊します。

- 代わりに、**『対ストーカー精霊・危機管理マニュアル』**を展開します。生存のために厳守してください。


俺の視界に、赤字で警告文が表示される。


【 第1条:『他の女(精霊)の話をするな』 】

- 解説: 彼女は独占欲の塊です。他の精霊(特にアヤネのリュミエールや、リリスのイグニス)を褒めたり、関心を向けたりしないでください。嫉妬でその精霊を捕食、あるいは契約者アヤネたちを排除する可能性があります。


「(いきなりハードルが高いな……)」


【 第2条:『視線を合わせすぎるな』 】

- 解説: 長時間目が合うと、彼女は「あ、私のこと考えてくれてる! 相思相愛だ!」と脳内で都合よく解釈し、侵食率(同化)が進行します。

- 推奨: 基本は「塩対応」です。冷たくあしらうくらいが丁度いいですが、無視しすぎると暴走します。バランス調整難易度:Sクラス。


「(めんどくせぇ……!)」


【 第3条:『契約は絶対に結ぶな』 】

- 解説: これが最重要です。もし正規の精霊契約を結んでしまった場合、彼女はマスターの影だけでなく、**思考・視覚・聴覚まで共有ハッキング**し始めます。

- 結果: トイレ、入浴、睡眠中、さらには脳内の妄想に至るまで、24時間365日監視されます。プライバシーは消滅します。


「(……詰んでないか? これ)」


俺が頭を抱えていると、ネロが不満そうに頬を膨らませた。

彼女は俺の視線が、空中のウィンドウ(AIの警告文)に向いているのが気に入らないようだ。


「ねえ、なんで無視するの? ボクとお話しようよ」


ズズズ……。

俺の影が波打ち、彼女のドレスの裾が広がる。


「……それとも」


彼女の赤い瞳が、スッと細められた。

その視線の先にあるのは、焚き火のそばで泥のように眠るアヤネたちだ。


「あそこで寝てる女たちのこと、考えてる?」


4. 嫉妬の棘と、甘い餌付け


キチチチチチ……ッ!


空気が凍りついた。

俺の周囲の影が、一瞬にして無数の**「黒いトゲ」**のように鋭く変形した。

その切っ先は、無防備に眠るアヤネ、リリス、モモの首元へ、鎌首をもたげた毒蛇のように伸びようとしている。


「(おいッ! 第1条がいきなり発動してるぞ!)」


殺気がリアルすぎる。

こいつは本気だ。俺が少しでも他の女に気を取られれば、寝ている間に排除するつもりだ。


「……チッ」


俺は慌てて、しかし動作は冷静さを装って、胸ポケットから愛用のペンを取り出した。


「……違う」

「え?」

「考えてたのは、明日の朝飯の献立だ」


俺はペンを指先で弾いた。


ヒュンッ! シュルルルルッ……。


高速回転するペン先が、周囲の高濃度マナを巻き込み、遠心力で不純物を弾き飛ばす。

中心に集まるのは、純度99.9%にまで精製された、透き通るようなマナの微風エアロ・ブリーズ


俺はその風を、ネロの鼻先へとふわりと送った。

最高級のステーキの香りを漂わせるように。


「お前も腹減ってるなら、少しマナをやるから大人しくしてろ。……ほら、デザートだ」


ネロはピクリと反応し、パァッと顔を輝かせた。

その表情は、先ほどまでの殺意が嘘のように、恋する乙女そのものだ(背景は闇だが)。


「わぁ……! くれるの? あの美味しいやつ、ボクに?」


「ああ。だから棘をしまえ。テーブルマナーの悪いやつは嫌いだ」


「ん! しまう! 食べる!」


彼女は音速で影の棘をシュルルッと引っ込めた。

そして、俺の足元の影に嬉しそうにダイブし、俺がペンから放つマナの流れに顔を突っ込んだ。


「んんっ……♡ おいしい……っ! 甘い……っ!」


影全体が脈打ち、俺の供給するマナを「ちゅーっ」と吸い上げる音が聞こえるようだ。

それはまるで、飢えた野良猫に高級マグロを与えてしまったかのような、取り返しのつかない光景だった。


「えへへ……やっぱりコタロウは優しいね。ボクにマナなんて、誰も与えたがらないのに」


マナを貪りながら、影の中から甘い声が響く。


「ボク、ずっとここにいるね。一生、離れないからね」


そう言うと、俺の影は普通の形に戻り……いや、以前よりも色が濃く、ドロリとした重い質感のまま静かになった。


5. 終わらない夜


ピコン♪


【AI】 カンニング・AI 評価

- 対応: 成功(一時的措置)。アヤネたちの命は守られました。

- リスク: 「餌付け」を行ってしまいました。依存度が限界突破しました。

- 結論: 彼女はもう、物理的に祓わない限り(あるいは祓っても)一生離れません。


「(……はぁ)」


俺は深く、深くため息をついた。

その息は白く濁り、闇の中に消えていく。


王立魔導学園に入学して、Fクラスで目立たず、楽をして、サボって生きていくはずだった。

それなのに、なぜか深層の底で「ハリボテ武器のメンテナンス」と「ヤンデレ精霊の機嫌取り」という、高度なマネジメント業務が増えていく。


「(……帰りたい)」


寝息を立てるアヤネたちを見る。

彼女たちは筋肉痛でうなされているが、少なくとも影の中に爆弾を抱えてはいない。

その平和そうな(?)寝顔が、今は心底羨ましかった。


俺はペンを回し続けながら、長すぎる深層の夜明けを待った。

影の中で、ネロが「おかわり」と囁くのを聞き流しながら。


(第11.5話 完)

【第11.5話:あとがき】

読んでいただきありがとうございました!

「ヤンデレ精霊」ネロ、ついにコタロウの影に永住決定です。 「他の女子を見たら即・排除(物理)」という特級地雷オプションを抱え、コタロウの日常は**「美少女たちのマナ介護」と「影の支配者の機嫌取り」**という、極限のマルチタスクへと進化してしまいました。

もはやWi-Fiルーターというより、ブラック企業の管理職……いえ、猛獣使いの心境に近いかもしれませんね。

今回のポイントをまとめると:

• アヤネ&リリス: 聖女とエルフの面影を捨て、筋肉痛の限界へ。

• ネロ: コタロウの「高純度マナ」に胃袋を掴まれ、完落ち。

• 【AI】: 危機管理と言いつつ、依存度を加速させるスタイル。

さて、精神的にも肉体的にも摩耗しきったコタロウですが、深層の理不尽はさらに彼を追い詰めます。 次に彼らを襲うのは、魔物でもヤンデレでもなく……**「飢え」**です。

【次回予告】 第12話『食料が尽きたので、カンニング・AI監修「ダンジョン・クッキング」を開催した』 目の前に現れたのは、凶悪な「巨大ガニ」。 毒がある? 硬すぎる? 「いいから食わせろ、俺は腹が減ってるんだ」 サボり魔とAIが導き出す、深層の禁断グルメレポート。どうぞご期待ください!

次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の評価が、ネロにマナを与えるコタロウのペンの回転数に変わります!

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