第1.5話:晩飯は豪華だったが、寝る前にAIが勝手にチュートリアルを始めた
【第1.5話:まえがき】
前回の第1話で、無事に(?)異世界へ着地したコタロウとアヤネ。 ブラック企業の面接会場のような王城での選別を切り抜け、二人は「王立精霊学園」への入学を選択しました。
さて、ここからは束の間の休息……とはいきません。 異世界ファンタジーの醍醐味といえば、豪華な食事、未知の魔法、そして自分だけが使える「ユニークスキル」の解明です。
しかし、コタロウのスキルは少し様子がおかしいようです。 彼の脳内に直接語りかけてくるAIは、優秀ですが性格に難があり、コタロウの安眠を妨害することに余念がありません。
コタロウ「(俺はただ寝たいだけなんだが?)」 AI「(却下します。生存確率向上のため、強制レクチャーを開始します)」
そんな凸凹コンビ(?)による、深夜の特別講義が始まります。
第1.5話:晩飯は豪華だったが、寝る前にAIが勝手にチュートリアルを始めた
王立精霊学園への入学が決まった直後。
俺とアヤネは、王城の敷地内にある**「貴賓館」**へと案内されていた。
学園の寮に入る手続きが完了するまでの数日間、ここが俺たちの仮住まいとなるらしい。
「こちらでございます、聖女様。……そして、そちらの方」
案内してくれたのは、氷のように無表情なメイド長だった。
アヤネを見る目は崇拝に近いが、俺を見る目は完全に**「生ゴミを見る目」**だ。温度差で風邪を引きそうである。
「うわぁ……すごいですぅ……! ホテルみたい……」
アヤネが感嘆の声を上げる。
通されたエントランスは、床が大理石でピカピカに磨き上げられ、天井には巨大なシャンデリアが輝いていた。 確かに、日本のビジネスホテルとは格が違う。
「聖女様のお部屋は、こちらの『白百合の間』でございます。そして従者殿は……廊下の突き当たりの『物置』……失礼、『従者の間』をお使いください」
「えっ!? 別々の部屋なんですか!?」
アヤネが血相を変えて俺の袖を掴んだ。
「む、無理です! 怖いです! 同じ部屋がいいですぅ!」
「聖女様、それはなりません」
メイド長がピシャリと言い放つ。
「聖女としての潔白を守るため、異性との同室は固く禁じられております。ご安心ください、廊下には近衛兵が立っておりますので」
「兵隊さんがいるのが怖いんですぅぅ!」
泣きつくアヤネを引き剥がし、俺はあくびをした。
「いいじゃん、アヤネちゃん。俺も一人でゆっくり寝たいし」
「コタロウくんの薄情者ぉぉ!」
こうして俺たちは、とりあえず荷物を置き、夕食の時間までそれぞれの部屋で過ごすことになった。
【 夕食:王家の晩餐と毒味(AI) 】
夕食は、貴賓館のダイニングルームで振る舞われた。
長いテーブルの上には、見たこともない豪華な料理が並んでいる。
「す、すごいです……! これ、全部食べていいんですか?」
アヤネが目を輝かせる。さっきまで泣いていたのに、現金なやつだ。
メニューは「牛のような肉のステーキ」「虹色に光る魚のカルパッチョ」「スライム状のゼリー」など、ファンタジー色全開だ。
俺がフォークを手に取ると、視界の隅でピコン♪と音がした。
【食材解析モード:ON】
- 対象: バイコーン(二角獣)のステーキ
- ランク: A級食材
- 成分: 高タンパク・高魔素。
- 注意: 焼き加減が「ウェルダム」寄りです。シェフが恋人とのメールに夢中になっていて、火から下ろすのが15秒遅れました。
「(……いらねぇ情報だな)」
俺は肉を口に運んだ。 ……美味い。悔しいが、日本のファミレスより遥かに美味い。 少し硬い気もするが、AIの言う通り焼きすぎたせいだろう。
「んん~! 美味しいですぅ! このお魚、プチプチします!」
アヤネは幸せそうに食べている。
「おい聖女、あまりガツガツ食うなよ。品がないぞ」
「ふぇ!?」
俺が忠告すると、給仕をしていたメイドたちがクスクスと笑った。 アヤネは真っ赤になって縮こまる。
「ご、ごめんなさい……マナーとか分からなくて……」
俺はグラスの水を飲みながら、AIウィンドウに目を走らせた。
【マナー解析】
- ルミナス式テーブルマナー:
- ナイフは刃を内側に向ける。
- スープは音を立てずに、皿の手前から奥へすくう。
- 攻略法: 3回噛んでから飲み込む動作を繰り返すと「上品」と判定されます。
「(……だそうだぞ、アヤネちゃん)」
俺は小声でアドバイスを送る。
アヤネは涙目でコクコクと頷き、ロボットのような動きで食事を再開した。
【 入浴:異世界のテクノロジー 】
食後、俺は「従者用の浴場」へと案内された。 アヤネは「白百合の間」専用の豪華なバスルームを使っているはずだ。
「へえ、悪くないな」
従者用とはいえ、石造りの立派な浴槽にはなみなみとお湯が張られている。 湯気からはハーブのような良い香りがした。
俺は服を脱ぎ捨て、お湯に浸かる。
「ふぅー……」
やっぱり日本人は風呂だ。ガス爆発で死にかけた体と心に沁みる。
ピコン♪
【環境解析レポート】
- 水温: 41.5℃(適温)
- 加熱方式: 火の魔石による循環加熱システム。
- 水質: 硬水。ミネラル豊富ですが、石鹸が泡立ちにくいです。
- 豆知識: この風呂釜の底には、5年前に清掃員が落とした銀貨が挟まったままになっています。
「(……だから、そういうどうでもいい情報はいいんだよ)」
俺はAIの声を無視して、タオルを頭に乗せた。
この世界に来てから、まだ半日しか経っていない。 魔法、精霊、聖女。 漫画みたいな設定ばかりだが、このお湯の温かさだけは現実だ。
「ま、なんとかなるか」
俺は風呂の縁でペン回しをするように指を動かした。 チャプン、と水面が揺れる。
「明日からは学園か……。授業中、バレずに寝る方法を考えないとな」
【 就寝前:強制チュートリアル 】
風呂から上がり、あてがわれた「従者の間」に戻った。
部屋は6畳ほどの広さで、家具はベッドと小さな机のみ。アヤネの豪華な部屋とは大違いだが、俺にはこれくらいが落ち着く。
「ふぁ……寝るか」
ベッドに潜り込み、布団を被る。
明日は早い。学園への移動があるし、あのヒステリックな教頭との対面も待っている。 今のうちに体力を回復しておかなければ。
俺が目を閉じた、その時だった。
ピコン♪ ピコン♪ ピコン♪
脳内でけたたましいアラート音が鳴り響いた。
「(……うっせぇな。なんだよ)」
目を開けると、暗闇の中に青白く光る巨大なウィンドウが展開されていた。 そこには、デカデカと文字が表示されている。
【初回起動チュートリアル】
- ようこそ、マスターコタロウ。
- 目的: あなたが保有するユニークスキルの仕様解説、および最適化。
- 状態: 未読(スキップ不可)
「(は? 今から? 明日にしろよ)」
【AI】 却下します。
- 生存率向上のため、以下のスキルの理解は必須です。
- あなたは今日、適当にスキルを使いましたが、それは「たまたま成功した」に過ぎません。
- 所要時間: 推定2時間(質疑応答含む)。
「(2時間!? 寝かせろよ!)」
俺の抗議は無視され、AIは淡々と解説を始めた。 ウィンドウが切り替わり、図解入りのスライドが表示される。まるで退屈な大学の講義だ。
Lesson 1: 【カンニング・AI】について
【AI】 解説:
- これは単なる「答えを見る」スキルではありません。
- 本質: この世界(異世界ルミナス)を構成する「ソースコード」および「データベース」への**管理者権限アクセス(Admin Rights)**です。
- 機能:
- ステータス閲覧: 相手の隠蔽スキルを無視して真実を暴きます。
- 未来予測: 敵の攻撃パターンを0.5秒先に演算し、回避ルートを提示します。
- 最適化提案: 「どうすれば一番楽ができるか」を常に計算し、あなたに囁きます。
「(へー、すごいすごい。……ウィッス)」
俺は相槌を打ちながら、枕の位置を調整する。
【AI】 聞いていますか?
- 豆知識: このスキルは、あなたが前世で「兄の宿題を代行した際のハッキング技術」が異世界転生時にバグって進化したものです。
- 注意: AIの人格は、あなたの深層心理にある「めんどくさいけど完璧主義」な部分が反映されています。
「(俺、こんなにウザくないけど?)」
Lesson 2: 【高速記述(フリック入力)】について
【AI】 解説:
- この世界の魔法使いは、口で呪文を唱え(音声入力)、杖で図形を描きます(ジェスチャー入力)。
- 非効率性: これはアナログで遅く、誤作動も多いです。
- あなたの手法:
- 脳内のキーボードで**「コマンド」を直接記述**し、世界に送信(Enter)します。
- 速度: 詠唱の約50倍。
- 精度: 誤字脱字ゼロなら100%発動。予測変換機能あり。
「(……予測変換あるのは楽だな。『ふ』って打ったら『ファイアボール』出るのか)」
【AI】 Yes.
- 応用: 「定型文登録」も可能です。よく使う魔法を辞書登録しておけば、ワンタップで国を滅ぼせます。
「(滅ぼさねーよ)」
Lesson 3: 【無限回転(ペン回し)】について
【AI】 解説:
- 魔法の発動には「魔力の練り上げ(チャージ)」が必要です。
- 従来: 精神統一や、杖を大きく振る動作で行います。
- あなたの手法:
- 指先での高速回転による**「遠心分離的魔力加速」**。
- 理論: 回転数(RPM)に比例して、魔力が指数関数的に増幅されます。
- ソニック: 魔力充填率 120%
- トルネード: 魔力充填率 300%
- インフィニティ: 魔力充填率 ∞(測定不能)
「(インフィニティって、あの指の間を行き来させるやつか。……あれ魔力溜まってたのか)」
【AI】 注意:
- 調子に乗って回しすぎると、Dランクの魔法でも核兵器級の威力になります。
- 推奨: 通常時は「ノーマル回転」に留めてください。
Lesson 4: 【廃棄投擲(ゴミ箱シュート)】について
【AI】 解説:
- あなたがゴミ箱に物を投げる際、「入るかな?」と考えますか? いいえ、「入る」と確信して投げます。
- 能力: 「因果律の固定」。
- 効果: 投げた物体は、物理法則を多少無視してでも、設定された「ゴミ箱」に吸い込まれます。
- 対象: ゴミだけでなく、魔法弾、石ころ、相手の弱点、あらゆる「標的」がゴミ箱判定されます。
「(……なるほどね。要するにオートエイムか)」
俺は大きなあくびをした。
「(分かった、分かったよ。全部最強でチートなんだろ? もう寝ていいか?)」
【AI】 まだです。
- 最後に、今後の**「スキルツリー解放予定」**について説明します。
- レベルが上がると、以下の機能がアンロックされます。
- 『コピペ(魔法複写)』
- 『スクショ(瞬間記憶)』
- 『機内モード(魔力遮断・気配消去)』
「(機内モードは欲しいな……。授業中に便利そうだ)」
【AI】 質疑応答の時間です。何か質問は?
「(ない。おやすみ)」
俺は強引に布団を頭まで被り、思考をシャットダウンした。
ウィンドウが点滅し、不満げなメッセージを表示する。
【System】 ログ保存中……。
- 判定: ユーザーの学習意欲「低」。
- 処置: 今後、実戦を通じて強制的に学習させます。
- スリープモードに移行します。Good Night.
フッ、と視界の青白い光が消えた。 ようやく訪れた静寂。
遠くの部屋からは、まだ環境の変化に慣れないのか、アヤネの「ううぅ……枕が変わって眠れないよぉ……」という微かな泣き言が聞こえてくる(聴覚も強化されているのかもしれない)。
俺は枕に顔を埋めた。
明日からは学園生活。 面倒ごとはAIに丸投げして、俺は全力でサボらせてもらおう。
……まあ、このお節介なAIがそれを許してくれるかは怪しいが。
◇
【 システムログ:バックグラウンド処理 】
静まり返った室内で、誰にも聞こえない独り言が展開される。
【System】 思考領域展開
- 対象: ユニークスキル発生原因の解析
- 結果: 解析不能(Error)
- 方針: この事実はマスターには秘匿し、引き続き原因究明と保護を最優先とします。
(第1.5話 完)
【第1.5話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
第1.5話、いかがでしたでしょうか。 ついにコタロウのユニークスキルの全貌(?)が明らかになりました。
• カンニング・AI: 世界の管理者権限ハッキング(元ネタ:兄の宿題代行)
• フリック入力: 高速詠唱(元ネタ:スマホ依存)
• 無限回転: 魔力増幅(元ネタ:手持ち無沙汰なペン回し)
• 廃棄投擲: 必中オートエイム(元ネタ:ゴミ投げ)
どれもこれも、現代日本の「サボり大学生」ならではのスキルばかりです。 特に「ペン回し」に関しては、授業中によく回していたアレが、まさか異世界で核兵器級の脅威になるとは……。 今後、彼が指先をクルクルさせた時は、周囲の人間(と敵)にとっての危険信号だと思ってください。
そして、頼れる相棒(?)である【カンニング・AI】。 「生存率向上」を盾に、寝ようとするコタロウを叩き起こして講義を始めるあたり、なかなかのスパルタ教師ぶりを発揮しています。 コタロウが楽をするためには、まずこのAIを黙らせる……もとい、使いこなす必要がありそうです。
さて、次回はいよいよ**「王立ルミナス精霊魔法大学」へ。 待ち受けていたのは、昼行灯の学園長と、鬼のような副学園長。 そして突きつけられる「3週間後の退学危機」**。
サボるために全力を出す男の、絶対に負けられない戦いが始まります。 次回もどうぞお楽しみに!




