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第11話:魔法を「物理」で解決したら、ヤバい精霊にストーキングされ始めた(+ハリボテ武器開発編)

【第11話:まえがき】

前話で、ヒロインたちの「抱き枕」にされ、一睡もできなかったコタロウ。 寝不足のまま迎えたダンジョン生活2日目は、さらに過酷なものでした。

高濃度のマナに耐えられず、ついにアヤネたちの精霊がダウンしてしまいます。 魔法が使えないなら、どうやって戦うのか? コタロウが出した答えは、Fクラスらしい「ゴミを使った工作(物理)」でした。

そして、戦いの裏で忍び寄る「影」。 精霊界ですら封印指定されていた「あのヤバい精霊」がついに接触してきます。

1. 限界突破! 人間Wi-Fiルーターの悲鳴


ダンジョン生活2日目の昼。

俺たちは、地獄の蓋が開いたかのような狂乱の中にいた。


ここは地下100階層よりも深い「マナの奔流の回廊」。

極彩色のエネルギーが荒れ狂うこの場所には、隠れる場所などほとんどない。

そして最悪なことに、俺たちが焚き火をしたり呼吸をしたりするたびに、その微弱な変化を敏感に感じ取った深層の魔物たちが、次から次へと湧いてくるのだ。


「ひぃぃ! こっちにも来たぁ! リュミエールちゃん、お願い起きてぇ! 助けてぇ!」

「くっ、キリがないわ! 左舷から吸血蝙蝠の群れよ! イグニス、燃やして! お願いだから!」

「シルフィー! モモに力を貸して! 足が重くて動かない!」


アヤネ、リリス、モモの三人が悲痛な声を上げる。

だが、彼女たちの相棒である精霊たちは、深層特有の異常なマナ・プレッシャー(魔力圧)に晒され、完全にダウンしていた。

リュミエールはアヤネの肩でぐったりと液状化し、イグニスは杖の宝石の中で引きこもり、シルフィーに至っては存在すら希薄になっている。


「キュー……(むり、きもちわるい……)」

「(そよ風……)」


精霊たちが動けない以上、魔法の発動プロセスは全て俺が肩代わりするしかない。


「チッ……! アヤネ、右だ! リリスは正面! モモは遊撃!」


俺は右手のペンを高速回転させてリュミエールの光のマナを無理やり引きずり出し、左手の指パッチンでリズムを刻んでイグニスの種火を煽り、さらに足で地面を蹴って振動を起こし、シルフィーの風を誘導する。


――ピコン♪ ピコン♪ ピコン♪

脳内で、カンニング・AIの警告音が、工事現場のような騒音となって鳴り響く。


【AI】 カンニング・AI 警告

- CPU使用率: 99.8%(Critical)

- 精神疲労: 危険域(Red Zone)

- 状態: 3人と3匹の制御(合計6ライン)を、マスターの脳が単独並列処理中。

- 比喩: あなたの脳は現在、真夏の炎天下でフル稼働している旧式のサーバーです。

- 推奨: 直ちに「シングルタスク(サボり)」に移行してください。あと120秒で脳シナプスが物理的に焼き切れます。


「(……分かってるよ! うるせぇ! でも今、手を抜いたら全滅だろ!)」


俺は脂汗を流しながら、眼前に迫る巨大ムカデ(アーマー・センチピード)を睨みつけた。

硬い外殻に覆われた厄介な敵だが、今の俺には手を抜く余裕すらない。


「AI、弱点解析! 投擲ルート算出!」

【AI】 解析完了: 眉間の甲殻の継ぎ目、直径2ミリの隙間。


「そこだッ!」


俺は足元に転がっていた鋭利な石ころを拾い上げ、手首のスナップだけで弾いた。

Fクラス(落ちこぼれ)の俺が唯一極めた、ゴミ捨てのためのスキル。


【スキル:廃棄投擲(ゴミ箱シュート)】 【効果:必中】


ヒュンッ! 放たれた石つぶては、物理法則を無視した吸い込まれるような軌道を描き――その瞬間、モモの傍らで消え入るようだったシルフィーが、最後の力を振り絞って微細な追い風を吹かせた。

「(……いっけぇ!)」

その風を受けて石ころは空中でさらに加速。逃げようとしたムカデの眉間に、弾丸のような速度で正確に突き刺さった。 グシャッ、という嫌な音がして、巨大な魔物が断末魔を上げて崩れ落ちる。


「……はぁ、はぁ、終了……」


戦闘終了。

俺はその場に大の字に倒れ込んだ。

岩盤の冷たさが、オーバーヒートして湯気を上げそうな脳に心地よい。


2. Fクラスの発明王


「……無理だ」


俺は虚空を見つめて、乾いた声で呟いた。


「コ、コタロウくん!? 大丈夫!?」

アヤネが駆け寄ってくるが、俺は動く気力もない。


「お前ら……いつまで俺のWi-Fiにタダ乗りしてるんだ。俺はもう指一本動かしたくない……。次に敵が来たら、俺を置いて逃げろ。俺はここで土に還る……」


俺の悲痛な宣言に、リリスが申し訳なさそうに眉を下げ、手のひらでぐったりしている火トカゲ(イグニス)を見せる。

「ごめんなさい……でも、イグニスたちも深層の圧力に負けて、自力じゃマナを吸い上げられないの。貴方の『ポンプ』役がないと、魔法にならないわ」


「そうだよぉ、リュミエールちゃんも『おなかいっぱい(圧力過多)』で動けないって……。私たちが頑張っても、精霊さんが動いてくれないの」

アヤネも涙目で、肩の上でダウンしている光の精霊を撫でる。


状況は詰んでいる。

精霊は環境に適応できず、人間(彼女たち)は技術不足。

その穴埋めを俺一人がやっているが、それも限界だ。


このままじゃ、出口を見つける前に俺が過労死する。

かといって、俺の手持ちには本格的な魔道具を作る素材も設備もない。あるのは、その辺に転がっている魔物の死骸と、ゴミのようなガラクタだけだ。


「……なら、ゴミで作るしかないか」


俺はゾンビのようにむくりと起き上がり、周囲に散らばった魔物の素材や石ころを拾い集め始めた。


「カンニング・AI、設計図を出せ。**『小学生の工作レベル』**でいい。精霊たちが楽に動けるような『物理的な補助輪』を作ってやる」


【AI】 カンニング・AI:ラピッド・プロトタイピング

- 目標: 精霊の負担を軽減する「物理補助式・魔法発動デバイス(通称:ハリボテ)」の作成。

- コンセプト: 精霊がマナを動かすのが辛いなら、人間が物理運動でマナの流れを作り、精霊を「便乗」させる。

- 素材: 魔狼の骨、蝙蝠の羽、粘着性スライムの体液、その辺の石。


3. 爆誕! Fクラス式・精霊介護グッズ


俺は黙々と作業を始めた。

魔狼の大腿骨をナイフで削り、スライムのドロドロした体液を接着剤にしてくっつけ、重心を調整する。

端から見れば狂人の遊びだが、AIの補正のおかげで手際は職人レベルだ。


数時間後。

俺は三人に完成した「それ」を手渡した。


「……コタロウ君。これは?」

リリスが、自分の手に持たされた**「歪な筒」**を見て引きつった笑いを浮かべる。魔狼の大腿骨の中をくり抜き、内側に螺旋状の溝を彫っただけの代物だ。


「名付けて**『火炎増幅筒(ファイヤ・ブースター・ ver.ゴミ)』**だ」

「ネーミングセンス……」

「リリス、そこに杖を突っ込んで、イグニスを中に入れろ。でお前が自分で筒をグリグリ回せ。螺旋溝が空気の流れ(ドラフト)を作る。イグニスはそれに乗っかるだけでいい」

「つまり……私が手動送風機になれと!?」

「そうだ。イグニスが酸欠なら、お前が物理的に酸素を送れ。魔法理論ロジックじゃない、物理フィジカルで解決しろ」


次にアヤネ。

渡したのは、先端にコウモリの骨と皮で作った風車のような**「骨のプロペラ」**がついた杖。


「アヤネは祈る時に、その杖を全力で振って風車を回せ」

「えっ、ブンブン振るの!? 聖女なのに!?」

「回転するものはマナを巻き込む。リュミエールは光るものや回るものが好きだろ? 『ほら、楽しい遊園地だよ』って精霊を唆して、回転エネルギーに便乗させろ」

「精霊さんを子供扱い!? というか、聖女の祈りってこんなに野蛮でいいの!?」


最後にモモ。

彼女の拳には、蝙蝠の硬質化した羽を何枚も重ねて接着した**「フィン(翼)」**を取り付けた。


「モモは殴る時に拳を捻り込め。そのフィンが空気を切り裂いて、真空の道を作る。シルフィーはその『道』を通るだけでいいから、負担が減るはずだ」

「わかんないけど、シルフィーが楽になるならやる!」

モモだけは目を輝かせて喜んでいる。単純で助かる。


見た目は完全に**「夏休みの工作(失敗作)」**だ。

しかし、精霊という「繊細なエンジン」を動かすために、人間が「手回しクランク」を回す。

これこそがFクラス流、泥臭いサバイバル術だ。


4. 実戦! 深層サーカス団と精霊の復活


「次が来るぞ! 試運転だ!」


休憩する間もなく、再び魔物の群れが現れる。

今度は岩蜥蜴ロック・リザードの集団だ。皮膚が岩のように硬く、生半可な攻撃は通じない。


「ええい、もうどうにでもなれ! リュミエールちゃん、これ楽しいよ! 回るよー!(ブォンブォンブォン!)」


アヤネが半泣きになりながら、おっかなびっくり杖をブンブンと振り回した。

聖女の祈りとは程遠い、物理的な風切り音が響く。

これではただの棍棒を振り回すバーバリアンだが、効果は劇的だった。


「わぁ! くるくる! たのしーっ!」


ぐったりしていた光の精霊リュミエールが、風車の回転に目を輝かせて飛び込んだ。

彼女が遊ぶように飛び回ることで、周囲のマナが強制的に巻き込まれ、収束していく。


バチッ……ビカァ!!


「うわっ!?」

風車の回転に合わせて、散弾銃のような光弾が乱れ飛ぶ。制御は皆無だが、威力は十分だ。

「……あ、当たってないけど、魔法が出た! リュミエールちゃんが元気になった!」


リリスも覚悟を決め、骨の筒に杖とイグニスを突っ込んで必死にグリグリ回す。

「くっ……摩擦熱で手が熱いけど……イグニス、酸素はどう!?」


「キュー!(空気がおいしい!)」


筒の中で発生した上昇気流に乗り、イグニスが復活する。

リリスの「ファイア」の詠唱に合わせ、筒の先から黒いスス混じりの汚い煙と共に、火炎放射が噴出する。


ボボボッ! ズゴオオッ!


「ゲホッ! ……煙たいし煤だらけだけど、燃やせるわ! 汚い花火みたいだけど、これなら戦える!」


モモは拳をドリルのように突き出す。

「シルフィー、ついてきて!」

「ヒュオオオッ!」

フィンの効果で発生した真空の渦に、シルフィーが喜んで飛び乗る。

風の刃を纏った拳が、岩蜥蜴の硬い皮膚をバターのように切り裂いた。

「おおっ! 届く! 楽しい!」


俺は岩陰に座り込み、その様子を眺めていた。

アヤネは杖を振り回す蛮族。

リリスは火起こし体験中の原始人。

モモは生体ドリル。


「……威力は低いし、見た目はサーカス団だな」


だが、俺がカンニング・AIを使って直接制御しなくても、彼女たちは精霊と協力して戦えている。

俺の脳内CPU使用率は「99%」から「30%」くらいに激減した。


「(……よし。これならサボれる)」


俺が久しぶりの安息に安堵のため息をついた、その時。


5. 影からの視線


「……面白い」


背後の闇から、クスクスという鈴を転がすような笑い声が聞こえた。


「精霊を道具にするんじゃなくて……人間が精霊の『手足』になって回してあげるなんて。変な『ことわり』」


「!?」

俺は弾かれたように振り返る。

そこには、漆黒のドレスを着た少女が、重力を無視してふわりと浮いていた。


いや、少女ではない。

その体は実体がなく、揺らめく「影」そのもので構成されている。

美しい顔立ちをしているが、その肌は死人のように白く、瞳には白目がなく、底なしの闇が広がっていた。


ピコン♪


【AI】 カンニング・AI 解析不能

- 対象: 測定エラー。エネルギー反応なし。

- 推定: 精霊界のデータベースに該当なし。あるいは**「封印指定個体(Dangerous)」**。


「誰だ?」


俺が反射的にペンを構えると、彼女はスゥッと音もなく俺の足元へ降下し――そのまま、俺の足元の影の中に溶け込んだ。


「え?」


次の瞬間、俺の影の中から、ぬるりと彼女の上半身が生えてきた。

距離ゼロセンチ。

俺の背後に密着し、冷たい吐息が耳にかかる。


「ボクはネロ。影の精霊だよ。……ねえ、キミのその『回転』、もっと見せてよ。ボクも回して? 綺麗にして?」


背筋が凍った。

モモが言っていた「アビス・ウルフ」なんて目じゃない。

カンニング・AIの警告音が鳴り止まない。こいつは、おそらくダンジョンにいるどのモンスターよりも遥かに上位の、理外の存在だと告げている。


「コ、コタロウくん? どうしたの?」

前方で魔物を倒し終えたアヤネが、煤だらけの顔で振り返る。

彼女には、俺の背後の「影」が見えていないようだ。


「……いや、なんでもない」


俺は引きつった笑みを浮かべた。

俺の影の中には今、とんでもない爆弾(ヤンデレ精霊)が住み着いてしまったらしい。


俺はハリボテ武器で奮闘するアヤネたちを尻目に、新たな、そして最悪のストーカーにロックオンされてしまったのだった。


(第11話 完)

【第11話:あとがき】

読んでいただきありがとうございました!


「魔法が使えないなら、物理で回せばいいじゃない」 コタロウが苦肉の策で生み出した**「ハリボテ介護武器シリーズ」**、いかがでしたでしょうか。


アヤネ: 祈りを捨てて風車をブン回すバーバリアン聖女。


リリス: 緻密な理論を捨てて必死に火を起こす原始人エルフ。


モモ: 拳をひねり込んで真空を作る生体ドリル獣人。


もはや高潔な魔導士の面影はありませんが、なりふり構わないFクラス流のサバイバル術こそが、この地獄の深層では最強の武器になるようです。コタロウもようやく「人間Wi-Fiルーター」の激務から解放され、30%までCPU使用率を下げることができました。


……しかし、サボれると思った矢先に、最悪の爆弾が影の中に飛び込んできました。 精霊界ですら持て余す封印指定個体・ネロ。 「王子様のマナ」を嗅ぎつけた彼女は、単なるストーカーを超えた「影の同居人」としてコタロウに密着します。


次回は、激闘の2日目を終えた夜のお話です。 疲れ果てて眠るヒロインたちの隣で、コタロウとネロ、そして【AI】による奇妙で危険な「三者面談」が始まります。


【次回予告】 第11.5話『2日目の夜、カンニング・AIが「ストーカー対策」を講義し始めた』 【AI】が提示する「対ヤンデレ精霊・危機管理マニュアル」の内容とは? そして、ネロの要求はエスカレートしていき……。


次回もよろしくお願いします!


【作者からのお願い】 物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると励みになります! 皆様の評価が、オーバーヒート気味なコタロウの脳を冷やす「冷却水」に変わります!

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