第10.2話【幕間】精霊界の役員会議~人間界は「ブラック企業」なので撤退が決まった~
【第10.2話:まえがき】
前話で、生き残るために「人間Wi-Fiルーター」となり、高純度のマナを周囲にばら撒き始めたコタロウ。 しかし、彼が放出したそのエネルギーは、我々が想像する以上に「受け手側(精霊)」に大きな衝撃を与えていました。
今回は少し視点を変えて、**【幕間】**をお届けします。 舞台は、人間界とは異なる理で動く「精霊界ホールディングス」。 そこでは今まさに、ブラック化する人間界からの撤退を賭けた、精霊王たちによる緊急役員会議が開かれていました。
コタロウの知らないところで決定される、彼の「VIP待遇」と、新たに迫りくる「最悪のストーカー」のお話です。
1. 精霊界ホールディングス、経営危機
次元の狭間に存在する、虹色の光に満ちた摩天楼。
ここ**「精霊界ホールディングス」本社、最上階にある大会議室に、世界の元素を司る四大精霊王(執行役員)**たちが集まっていた。
円卓の上座には、長い白髭を蓄えた大精霊王(CEO)エーテリウスが、頭上の天使の輪を点滅させながら深いため息をついている。
「……えー、それでは定例役員会議を始める。本日の議題は**『対人間界・派遣事業の赤字拡大および労働環境是正』**についてじゃ」
CEOの重苦しい声に、各属性の王たちが手元の石板(タブレット端末)を操作する。
【 出席者リスト 】
・火の王(営業本部長):ヴォルカン・“ブラスト”・ブレイズモア
赤髪のマッチョ。常に暑苦しい体育会系。袖まくりスタイル。
・水の王(経理部長):セレイン・“クリオス”・スティルウォーター
青髪のクールビューティー。冷徹なリアリスト。ブルーライトカット眼鏡着用。
・風の王(人事・広報):シルフ・“ゼフィア”・エリアルブリーズ
緑髪のツインテール。トレンドに敏感なギャル系。常にスマホでエゴサ中。
・土の王(総務・法務):ノーム・“テラ”・グランドロック
茶色のローブを纏った小柄な老人。堅物な古参。六法全書を片時も離さない。
「まず、現場からの報告だ」
火の王ヴォルカンが、バン! と机を叩いた。
「ハッキリ言って、人間界への派遣はもう限界だ! 現場の若手(下級精霊)から苦情が殺到している! 『呼び出し(詠唱)が長い』『魔力(給料)が安い』『感謝の言葉がない』……これじゃあストライキも起きるわ!」
風の王シルフが、ネイルをいじりながら気だるげに補足する。
「ていうか~、最近の人間ってウチらを『便利な道具』としか思ってないのよねぇ。特にさっき、**ダンジョンの最下層(深層)**で呼び出しがあったじゃない?」
水の王セレインが眼鏡をキラリと光らせた。
「ええ。第10話の案件ね。聖女アヤネたちからの『照明』『着火』等の申請。……私の判断で、一旦はエラーで弾かせてもらいました」
「ほう? 却下したのか?」
CEOが眉をひそめる。
「当然です。あそこの環境(マナ深度)を知っていますか? 気圧100倍の深海みたいな場所ですよ? そんな過酷な労働環境で、『通常料金(微弱な人間魔力)』で働けだなんて、精霊労働基準法違反もいいところです。割に合いません」
「うむ……確かに、それはブラックすぎるのう」
土の王ノームが腕組みをして唸る。
「しかし、我々は人間と古くから契約を結んでおる。完全無視はマズいのではないか? コンプライアンスと信頼問題に関わるぞ」
「信頼? そんなものより**『魔王軍(ディストピア社)』**の待遇を見てみなさいよ」
セレインが空中にホログラムの比較グラフを投影した。
「向こうは**『基本給3倍』『週休3日』『魔力温泉付き』**よ。ウチの優秀な火トカゲや風の精霊たちが、どんどん魔王軍に転職されているの。将来性のない人間界なんて切り捨てて、魔王軍とのBtoB取引に注力すべきだわ」
「ぐぬぬ……」
ヴォルカンも反論できない。
会議室に重い空気が流れる。「人間界撤退」が現実味を帯びてきた、その時だった。
2. 異常な「支払い」とVIPの誕生
「あ」
風の王シルフが、手元のスマホ画面を見て声を上げた。
「ねえ、ちょっと待って。さっき却下しようとした深層の現場……**『異常な支払い』**が着金してるんだけど」
「異常な支払いだと?」
「ええ。正規の魔力臓器(ATM)を通さずに、大気中のマナを直接、高純度で精製して叩き込んでくるヤツがいるの」
シルフが会議室のメインスクリーンに映像を投影する。
そこには、極彩色の奔流と暗闇の中で、無表情で**「ペンを回す少年」**の姿が映っていた。
「……なんだ、そのふざけた動きは」
ヴォルカンが目を丸くする。「仕事中に遊んでいるのか?」
「いいえ。見て、この回転数(RPM)。遠心力と精密動作でマナの不純物を物理的に分離して、純度99.9%のエネルギーを生成してる……!」
シルフがゴクリと喉を鳴らした。
「これ、ただの魔力じゃないわ。精霊にとっての**『極上のスイーツ』……いや、『最高級ヴィンテージワイン』**みたいなものよ!」
「なっ……!?」
精霊王たちが身を乗り出す。
彼らはマナを食料とする存在だ。人間から支払われる魔力は、通常「臓器で濾過された生ぬるい水道水」のようなものだが、コタロウの供給しているそれは別次元だった。
「誰だ、この太客は!?」
「名前は……神木コタロウ。学園ではFランク(無能)判定されてるけど、やってることはハッカーね。精霊への『お願い(詠唱プロセス)』をすっ飛ばして、直接こちらの根源にエネルギーを注ぎ込んでる」
水の王セレインが高速で電卓を叩き始めた。
「……計算したわ。彼が仲介役になるなら、あの聖女や他の生徒からの依頼も、実質『プラチナ会員』扱いで受けても大幅な黒字が出るわ。むしろ、彼には優先的に回線を繋ぐべきよ」
「うむ! あの純度なら、現場の若手たちも喜んで働くだろう!」
ヴォルカンも掌を返したように賛成する。
CEOエーテリウスが、深く頷いて木槌を叩いた。
「よし。結論を出す」
【 決定事項 】
1. 人間界(ブラック市場)からは段階的に撤退・縮小する。
2. ただし、特例顧客「コタロウ」一行に関しては、最優先で対応(VIP待遇)する。
3. 彼がペンを回した時は、現場の精霊たちは採算度外視で全力のサービスを行うこと。
「……ふふっ。面白そうな人間ね」
風の王シルフが、コタロウのプロフィール画面に「いいね!」を押した。
「Fクラスの落ちこぼれが、精霊界の救世主ってわけか~」
3. 無視された「影」
会議が散会しようとした時、シルフがふと思い出したように言った。
「あ、そういえば一つ問題が」
「なんだ?」
「地下の懲罰房から脱走した問題児……**影の精霊【ネロ】**の信号をキャッチしたわ。どうやら、このコタロウ君から放たれる『極上のマナ(匂い)』を嗅ぎつけて、猛スピードで深層へ向かってるみたいなんだけど」
会議室が一瞬、凍りついた。
【ネロ】――それは精霊界でもタブー視される、執着心が強すぎる「ヤンデレ精霊」だ。関われば精神的にも社会的にも大事故になる。
ヴォルカンが視線を逸らした。
「……俺の管轄外だな」
セレインが眼鏡を直した。
「……経理上、彼女は既に『損切り』処理済みです」
ノームが石板を閉じた。
「……法務的にも、見なかったことにするのが一番平和じゃ」
「「「……賛成」」」
全員が即答した。
あんな厄介なヤンデレ案件に関わりたくない。触らぬ神に祟りなしだ。
「了解~。じゃ、コタロウ君には悪いけど、**『自己責任』**ってことで♡」
こうして、コタロウは知らぬ間に精霊界の**「最重要顧客(VIP)」に認定されると同時に、精霊界すら匙を投げた「最悪のストーカー」**にロックオンされてしまったのだった。
(第10.2話 完)
【第10.2話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
精霊界ホールディングス……世界の理を司る精霊王たちも、予算や離職率、コンプライアンスに悩む「組織人」だったようです。
そんな彼らにとって、コタロウはもはや顧客を超えた「救世主(石油王)」。 コタロウがペンを回すだけで、現場の精霊たちが「ヘイ喜んでー!」と過剰サービスをしてくれる黄金ルートが確定しました。 サボり魔にとってこれ以上のパッシブスキルはありませんが、本人はまだその価値に気づいていません。
しかし、同時に放たれた**「ヤンデレ精霊ネロ」**という名の特級事故物件。 精霊王たちが「自己責任♡」で全会一致のスルーを決めたあたり、精霊界もなかなかのブラック組織ですね。コタロウの影に、とんでもないものが近づいています。
さて、次回は時間を少し戻して、第10.5話。 舞台は地獄の深層キャンプ! 激闘を終え、ようやく訪れた休息の時間……のはずでしたが、コタロウには「安眠」すら許されません。
「地面が硬い」「ダニがいる」「ヒロインが物理的に重い」
【AI】が寝心地の最適化にこだわり始め、さらにヒロインたちとの「命綱」としてのゼロ距離密着がコタロウの神経を削ります。 サボり魔が直面する、深層キャンプの過酷な現実(とうらやましい地獄)をお届けします!
次回、第10.5話『初日の夜、AIが「寝心地」について文句を言い出した』。 どうぞお楽しみに!
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