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第10話:遠足気分でダンジョンに行ったら、クラスメイトの罠で奈落の底へ

【第10話:まえがき】

今回から**【第2章:深層脱出・ダンジョン攻略編】**がスタートします。

前話のラスト、聖女の「おそうじ(極大魔法)」と闇精霊の「罠」が衝突した結果、コタロウ一行はダンジョンの遙か深淵へと弾き飛ばされてしまいました。

気がつけばそこは、極彩色のマナが暴れ狂う地獄の底。 Sクラスの聖女やエリートたちが「魔力酔い」で次々と倒れる中、なぜか「魔力ゼロの落ちこぼれ」であるコタロウだけが、涼しい顔で立っています。

「無能」と蔑まれた空っぽの器が、極限環境において最強の適性となる皮肉。 魔法が使えない彼女たちの代わりに、コタロウがペン回し一つで生存権を勝ち取る「逆転のサバイバル」が始まります。

1. 深海の重圧、あるいは空っぽの器

視界が、極彩色に歪んでいた。

ゴオオオオオオ……という地響きのような轟音が、鼓膜ではなく骨を直接震わせる。


ここは**「マナの奔流の回廊」**。

ダンジョンの最下層(100階層)よりもさらに深く、この世界の魔力の源流が循環する、いわば惑星の血管の中だ。

壁も天井もない。あるのは、青、紫、深紅と目まぐるしく色を変えながら奔流する、圧倒的なエネルギーの濁流だけ。


「――ぐ、あ……ッ」


「はぁ、はぁ……息が……できない……!」


「うぐぅ……おなか、つぶれるぅ……」


俺の足元では、アヤネ、リリス、そしてモモの3人が地面に突っ伏し、陸に上がった魚のように痙攣していた。

全員、顔面は蒼白で、脂汗が滝のように流れている。


特にモモの様子が痛々しい。

普段は露出度の高い格闘着から、健康的で魅力的な肢体を惜しげもなく晒している彼女だが、今はそのしなやかな筋肉が強張り、自慢の猫耳もぺたりと伏せられている。

魔力量が桁外れに多いアヤネはもちろん、野性の本能が強いモモにとっても、この異常環境はストレスの塊なのだろう。


「(……状況は最悪だな)」


俺――神木コタロウは、その光景を冷静に見下ろしていた。

いや、冷淡なわけではない。俺だけが**「平気」**なのだ。

痛みもなければ、息苦しさもない。ただ、空気が少し重く、肌にピリピリとした静電気を感じる程度。


無能ゴミ扱いされてきた体質が、ここに来て最強の環境耐性になったわけか」


皮肉な話だ。

だが、感心している場合じゃない。このままでは彼女たちが「魔力酔い」でショック死してしまう。


「(AI、対処法は? 道具はFクラス支給の『焚き付け用の薪』と、俺の私物しかないぞ)」


【AI】 ソリューション提示

- 対策: 局所的な「マナの渦」を逆回転で発生させ、周囲の奔流を弾く**「中和・減圧領域セーフティ・ゾーン」**を作成してください。

- 必要スキル: 精密動作性 A+

- 実行手段: 【スキル:ペン回し(高速・ソニックひねり)】


「……またそれかよ」


俺は呆れつつも、胸ポケットから愛用の**「木の棒(改造ボールペン)」**を取り出した。

重心バランスを極限まで調整した、俺の相棒だ。

親指と人差指で挟み、手首のスナップを効かせて弾く。


ヒュンッ! シュルルルルッ!!


指先で残像が見えるほどの速度でペンが回転を始める。

空気を切り裂く微細な風切り音が、奔流の轟音に混じる。

すると――ペンの遠心力に引かれ、周囲の重苦しいマナが渦を巻いて外側へと弾き飛ばされていった。


俺を中心に、直径3メートルほどの透明なドーム状の「無風地帯」が生まれる。


「……ふぅっ!!」


リリスが大きく息を吸い込み、跳ね起きた。


「い、息ができる……!? 胸の万力が外れたみたい……」


「けほっ、けほっ……! た、助かったの……?」


アヤネも荒い呼吸を整えながら、涙目で顔を上げる。


「ぷはぁっ! 生き返ったぞ!」


モモも大きく息を吐き、ブルブルと体を震わせて毛並みを整える。


「なんかここ、空気がマズい! 腐った肉みたいに重いぞ!」


2. 絶望的な事実と、闇からの訪問者


一命を取り留めた彼女たちだったが、すぐに次なる絶望が襲いかかった。


「ま、魔力が出ない……!?」


リリスが杖を構え、呪文を詠唱しようとして愕然とする。

杖の先端からは、火花すら散らない。


「うそ……魔力のパスが通らないわ。体の中にはあるのに、外に出そうとすると押し戻される!」


「えぇっ!? 私の『聖なる灯火』も点かないよぉ! なんでぇ!?」


アヤネがパニックになりながら手を振るが、ポヤポヤとした光の粒子が一瞬見えただけで、すぐに周囲の奔流にかき消されてしまう。


【AI】 解説

- 状況: 深海で水道の蛇口を捻っても水が出ないのと同じ原理です。外圧が高すぎて、貧弱な出力では魔力を放出できません。


魔法使いにとって、魔力封じは死刑宣告に等しい。

全員が顔を見合わせ、絶望的な空気が流れる。

その時だった。


「……ん?」


モモの三角の獣耳がピクリと動き、鼻をスン、スンとヒクつかせた。

彼女の瞳孔が、猫のように縦に細まる。


「……来る。なんか、イヤな匂い」


グルルルル……。


極彩色の光が届かない、岩陰の絶対的な闇の奥から、腹の底に響くような唸り声が聞こえた。

闇の中に、赤い瞳が浮かび上がる。

二つ、四つ、六つ……いや、数十。無数の凶眼が、俺たちを取り囲んでいた。


「ひっ!?」


アヤネが俺の背中に隠れる。


モモが瞬時に身を低くし、しなやかな四肢をバネのように収縮させて威嚇音を上げた。


「みんな、下がって! あいつら**『アビス・ウルフ(深淵狼)』**に似てる!」


「ア、アビス・ウルフ……?」


「じいちゃんが言ってた。光のない場所のヤツら。……あいつらの牙、ヤバイ毒がある。噛まれたら魔力を『ちゅー』って吸われて、干物みたいになっちゃうぞ!」


モモの直感的な解説を、リリスが翻訳して青ざめる。


「魔力吸収能力を持つ魔獣……!? 最悪よ。魔力が満足に使えないこの状況で、よりにもよって魔法生物の天敵だなんて!」


絶体絶命だ。

アビス・ウルフたちは、俺たちが「魔法を使えない」ことを本能で悟っているのか、舌なめずりをしながらジリジリと距離を詰めてくる。

体長2メートルを超える巨体。鋼のような黒い体毛。そして、魔力を渇望する貪欲な顎。


「モモがやる! ……あいつら、絶対マズいけど、ぶっ飛ばす!」


モモが鋭い爪を伸ばし、構えを取る。

だが、その引き締まった太ももは微かに震えている。


「(うぅ……体が鉛みたいに重い。これじゃ、いつものパンチが出せない……)」


3. 人間Wi-Fiルーター、起動


包囲網が狭まる。

先頭の狼が、アヤネの膨大な魔力の匂いに釣られ、涎を垂らして飛びかかろうとした。


「――はぁ。めんどくせぇ」


俺は大きくため息をつき、回していたペンをピタリと止めた。


(おいAI。この状況、どう切り抜ける? こいつらは動けないし、俺には攻撃手段がないぞ)


ピコン♪

即座に、AIからの戦術提案が表示される。


【AI】 戦術提案: 『代理演算・強制排出マナ・サプライ

- 原理: 彼女たちの魔臓器は、外圧により「詰まり」を起こしています。マスターが外部からマナの「導線」を接続し、彼女たちの魔力を無理やり引きずり出して制御します。

- 役割分担: 彼女たちが「電池」、マスターが「回路とスイッチ」です。

- 警告: マスターの脳内処理(RAM)を著しく消費しますが、この方法以外での生存確率は0%です。


(……要するに、俺がこいつらの「介護」をして、手動で魔法を撃たせてやれってことか。最悪だ)


俺の平穏な「サボりライフ」とは真逆の、超高負荷労働だ。

だが、やるしかない。ここで全滅すれば、俺もただの死体だ。


俺は覚悟を決め、指示を飛ばした。


「お前ら、動くな。俺の背中に張り付いてろ」


「えっ、コタロウくん!?」


「アヤネ、魔力を出せ」


俺は、震えるアヤネの背中に左手を添えた。


「えっ、でも出ないよ! さっき試したけど……それに、出したら食べられちゃう!」


「出すだけでいい。形にする必要はない。放出するための**『加圧制御ブースト』と、術式の『構築コーディング』**は俺がやる」


俺は右手のペンを構え、指先で弾いた。


シュルルルルッ!


再び高速回転を始めたペンが、周囲の重苦しいマナを切り裂き、俺たちの周囲に小さな竜巻のような「魔力の通りバイパス」を強制的に作り出す。


(AI、最適解を頼む。俺の脳みそを焼き切らない程度にな)


ピコン♪


【AI】 演算コード入力

- Connection: Established (Ayane -> Kotaro -> Pen)

- Source: アヤネの無尽蔵の微弱魔力 + 大気中の無限マナ(奔流)

- Convert: 光属性・指向性広域照明

- Output: 『High_Beam(ハイビーム・極)』


俺は回転するペン先を、頭上の闇へ向けた。


「モモの言う通りなら、暗闇に住むヤツらは『光』に弱いはずだ。……点灯」


カッッッ!!!!


俺のペン先から、サッカースタジアムの照明100基分を一斉点灯させたような、暴力的な閃光が炸裂した。

マナの奔流すら霞むほどの純白の光が、深層の闇を真昼のように塗り替える。


「「「ギャウンッ!?」」」

「「「ガウッ!?」」」


完全な暗闇に適応していたアビス・ウルフたちの網膜が、強烈な光に焼かれる。

彼らは悲鳴を上げ、前足で目を覆ってのたうち回った。


「ええっ!? なにこれ!? 私の魔法!? 私、何も詠唱してないよ!?」


アヤネが目を丸くする。

自分の体内から魔力が勝手に吸い出され、俺を経由して増幅・放出された感覚に戸惑っている。


「ボサッとするな。次は迎撃だ。リリス、火を出せ!」


「え、ええ!? でも術式が組めないわ……お願い、出てきて**『イグニス』**!」


リリスが杖を振り、彼女の契約精霊の名を叫ぶ。

杖の先端に、小さな魔法陣と共に**火トカゲ(サラマンダー)の幼体『イグニス』**が飛び出した。

普段ならリリスの論理的な指示に従い、精緻な炎を操る相棒だ。


「キュー……(むり……)」


だが、イグニスもまたマナの重圧に負け、口から「プすっ」と頼りない種火を吐き出すのが精一杯だった。

ライターの残り火のような弱々しい炎に、狼たちが嘲笑うように牙を剥く。


「ダメ……! 精霊ですら力が封じられてる!」


リリスが絶望しかけた、その時。


「いいから出せ! その種火で十分だ!」


ヒュンッ!

俺がその横でペンを逆回転させ、大気中の酸素と可燃性のマナを集束させる。

イグニスの吐いた小さな種火に、俺が生成した「燃料」を強制注入する。


【AI】 Output: 『Napalm_Driveナパーム・ドライブ

- Assist: 酸素濃度最適化・着火


「燃えろ」


ボッ!! ズゴオオオオオッ!!


「キュウウウッ!?(ボクの炎が!?)」


イグニスが驚愕の声を上げる中、杖の先端から軍用火炎放射器のような紅蓮の業火が一直線に噴き出した。


「うそっ!? 出力がおかしいわよ!?」


リリスが反動でよろめくほどの火力だ。炎は目くらまし状態の狼たちを薙ぎ払い、毛皮を焦がす。


「モモ、右だ!」


「任せろ! ……でも、足が重い! 難しいことわかんないけど、力貸して**『シルフ』**!」


モモが本能のままに叫ぶと、足元に緑色のつむじ風――**風の精霊シルフ**が現れた。

だが、彼もまた圧力に負け、ヒョロヒョロと頼りないそよ風を起こすのが限界だ。


「(どいつもこいつも……!)」


俺はペンを指の間で滑らせ、その瀕死のそよ風に「指向性」と「圧縮」を与える。

俺の思考とAIの計算が、モモの野性的な筋肉のバネと、風の精霊の動きを完全に同期させる。


【AI】 Output: 『Beast_Mode: Berserk(狂戦士化・風属性付与)』


「行け! 暴れてこい!」


「うにゃーーっ! 軽ーいっ!」


モモの瞳がギラリと輝いた。

本人の認識を超える速度で、彼女の体が弾丸のように射出される。


小細工なし。純粋な暴力による突撃チャージ

彼女は残像を残して狼の懐に飛び込むと、風を纏った拳を叩き込んだ。


ドォォォン!!


「あははっ! 吹っ飛べぇぇ!」


岩盤が砕けるごとき衝撃音。

巨体の狼が、少女の拳一発でボールのように宙を舞い、壁に激突して動かなくなった。

それは武術というより、まさに**狂戦士バーサーカー**の暴走だった。


4. 勝利の代償と、深まる依存


「……ふぅ」


群れが散り散りになって闇の奥へ逃げていくのを確認し、俺はペンをキャッチして胸ポケットに戻した。

途端に、光も炎も風も、嘘のように消失する。

イグニスもシルフも、「つかれた……」と消えてしまった。


「助かった……のか?」


アヤネがその場にへたり込む。

肩に乗った精霊リュミエールも、「まぶしかった~」と目をこすりながら出てきた。


「……コタロウ君」


リリスが乱れた髪も直さず、眼鏡を怪しく光らせて詰め寄ってきた。

その目は、研究者が未知のサンプルを見る目だ。


「今の、何? 貴方が横でペンを回すたびに、私たちの魔法が異常な挙動をしたわ。精霊とのパスすら貴方が制御していた……まるで、接触不良の回路を、外部から無理やり繋げられて、性能限界までオーバークロックされたような……」


「……気のせいだろ。火事場の馬鹿力ってやつだ」


俺はとぼけて顔を逸らしたが、額からは冷や汗がポタポタと落ちていた。

実は今、俺の脳内は警報音で埋め尽くされている。


⚠️ 疲労警告

- 魔力消費: ゼロ(大気マナ使用のため)

- 精神疲労: 甚大(Critical)

- 理由: 3人分の魔法(+各精霊への指示)の「入力・詠唱・術式構築・出力制御」を全てマスターが肩代わり(マルチタスク処理)しました。

- 結論: あなたは今、彼女たちにとっての**「人間Wi-Fiルーター(兼ハイエンドモデム)」**状態です。


(ルーター扱いやめろ……! 頭が割れそうだ……)


魔法が使えない彼女たちの代わりに、俺がAIを使って術式を組み、ペン回しで環境マナを制御して魔法を発動させる。

これこそが、この地獄のような深層で生き残る唯一の手段。


だが、それはつまり……俺が機能を停止すれば、彼女たちは即座に無力化し、マナの圧力で死ぬということだ。


「コタロウくん……」


アヤネが涙目で、俺の服の裾をギュッと掴んでくる。

その手は震えていた。吊り橋効果も相まって、彼女の依存度は限界突破している。


「離れないでね? コタロウくんがいないと、私、息もできないし魔法も使えないの……!」


「私も……計算外だけど、貴方の『制御』がないと、思考がまとまらないわ」


リリスも顔を赤くして、俺の袖を掴む。


そしてモモは――。


「くんくん……コタロウ、いい匂いする」


彼女は俺の足に抱きつくと、猫耳を押し付けて匂いを嗅ぎ始めた。


「モモ、お腹すいた。コタロウがいないとご飯とれない。……だから、離さない」


彼女の豊満な肢体と、ふわふわの尻尾が俺の足に絡みつく。

難しいことは分からないが、「コタロウ=生きるために必須」という本能的な結論に達したようだ。


全員、俺のそば(セーフティ・ゾーン)から1ミリも離れようとしない。

完全に「命綱」としてロックオンされた。


「……」


俺は天井(に見える光の濁流)を見上げた。

これから地上まで、おそらく徒歩で数日、あるいは数週間。

俺はこの3人の「魔法の世話」と「呼吸の確保」を、24時間体制でしなきゃいけないのか? トイレに行くときも? 寝るときも?


「……家に帰りたい」


俺の切実な呟きは、深層の闇と轟音に虚しく吸い込まれていった。


(第10話 完)

【第10話:あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

「俺がWi-Fiルーターになること」……まさか異世界に来て、こんな物理的な介護担当を任されるとはコタロウも思っていなかったでしょう。 高濃度のマナ環境下では、魔力を持たない彼が「高精度中継機」となり、彼女たちの魔法を外部から制御するしか生き残る道はありません。

その結果、以下の「コタロウ依存症」が発症してしまいました。

• アヤネ: 精神的支柱(命綱)への依存

• リリス: 演算処理オーバークロックへの依存

• モモ: 生存本能(給餌・安定)への依存

トイレに行くのも命がけな、**「24時間密着型・強制介護サバイバル」**の始まりです。

しかし、コタロウ本人が「サボるための苦肉の策」として行っているペン回しによるマナのろ過。 これが**「受け取る側の精霊たち」にとって、どれほどヤバい報酬(快楽)を伴うものなのか**、彼はまだ知る由もありません。

次回は少し趣向を変えて、幕間エピソードをお届けします。 舞台は、世界の裏側でブラック労働に喘ぐ「精霊界」。 コタロウが何気なくバラ撒いた「高純度マナ」が、精霊界の経済にバブルを引き起こす……!? そして、精霊界すら封印していた「最悪のヤンデレ・ストーカー」が目を覚まします。

【次回予告】 第10.2話『【幕間】精霊界の役員会議』 「この純度、ありえん……! 誰が流した!?」 コタロウ、知らないうちに精霊界のフィクサーに祭り上げられる。

次回もお楽しみに! 物語を面白いと思ってくださったら、ブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると、コタロウの脳内RAMが拡張されます!

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