第8話:実技試験の極意は『手を抜け』? Fクラス流、完璧なるボーダー狙い
【第8話:まえがき】
前話で、副学園長の悪意ある「超難問」を、精霊カンニングによって完封したコタロウたち。 しかし、ここで誤算が生じました。 「やりすぎた」のです。
Fクラスの落ちこぼれが、Sクラスをも凌駕する高得点を叩き出してしまった結果、彼らに待っていたのは称賛ではなく「目立ちすぎる」という新たなリスクでした。
次なる舞台は「実技試験(ダンジョン攻略)」。 コタロウが掲げた目標は、トップ合格ではなく「完璧なモブ」になること。 700点という「記憶に残らない点数」を叩き出すため、全力を出して手を抜く特訓が始まります。
1. 勝利という名の敗北(筆記試験の反省会)
筆記試験終了後。
学園の大講堂前には、魂が抜けて真っ白な灰と化したFクラスの生徒たちが、風に吹かれて頼りなく佇んでいた。彼らの目は虚ろで、口からはエクトプラズムのようなものが漏れ出ている。
そんな地獄絵図を尻目に、俺たち「Fクラス脱獄同盟」の3人は、足早に校舎裏へと移動していた。
目指すは、キャンパスの隅に放置された**「第3演習場」**。 ここはFクラス専用の施設と名ばかりの、屋根に穴が空き、床板が腐りかけた廃屋同然の場所だ。夕焼けが差し込み、舞い上がる埃がキラキラと光っている。
「ふぅー! 終わったぜ! いやぁ、最後の魔法薬学、ボスから脳内に答えが送られてきた時はビビったけど、手が勝手に動いて面白かったぞ!」
モモがベンチにドカッと座り込み、足をぶらつかせながら上機嫌に笑う。
「……ええ。特にあの瞬間、マグダ副学園長が見せた『信じられない』という顔……傑作だったわ。あの鉄仮面がひび割れる音を聞いた気がする。論理的勝利の快感ね」
リリスも眼鏡の位置を直しながら、どこか誇らしげな表情を浮かべている。 二人は完全に勝利の余韻に浸っていた。だが、俺――神木コタロウの表情は、夕闇よりも深く沈んでいた。
俺は錆びついたパイプ椅子をギシギシと言わせながら座り、深刻な顔で胸ポケットのペンを握りしめた。
(【AI】。順位予測を出せ。……嫌な予感しかしない)
ピコン(音符)
【【AI】 筆記試験(4科/1000点満点)採点結果予測】
コタロウ: 860点(2科目250点満点。2科目180点。減点なし)
リリス: 1020点(満点+新理論による特別加点20点)
モモ: 960点(名前の文字が汚い減点以外、ほぼ満点)
【【AI】 学年順位・状況予測】
平均点予測: 500点(マグダの難化調整により、A~Eクラスすら壊滅)
Sクラス(10名): 1000点(無試験合格の固定スコア)
【 推定順位 】
1位: リリス(1020点)
2位タイ: Sクラス10名(1000点)
12位: モモ(960点)
14位: コタロウ(860点)
「……は?」
俺は顔面蒼白になった。
「ちょっと待て……リリス、お前Sクラスの特権階級を力ずくで引きずり下ろして1位になったのか!?」
「ええ。私の知性が、システム化された不平等を上回った。当然の結果よ。問題ないわ。」
「大ありだバカヤロウ!」
俺は勢いよく立ち上がり、演習場の壁へと向かった。 そこには黒板などという上等なものはない。長年掃除されていない、煤と埃で黒ずんだコンクリートの壁があるだけだ。
俺は人差し指を突き出し、壁の分厚い埃をなぞって文字を書いた。 ザラザラという音と共に埃が舞い散り、黒い壁に白い線が浮かび上がる。
『目立ちすぎ = 死』
「いいか、俺たちの目的は何だ? 『2年に進級すること』だろ? 決して『学園の英雄になること』じゃない!」
俺は埃まみれの指を二人に突きつけた。
「今回の試験で目立ちすぎた。Sクラスや教師陣の注目度はマックスだ。このまま明後日の**『実技試験』**でもトップ成績を出してみろ。俺たちの評価はどうなる?」
「……『Fクラスの奇跡』として称賛される?」
モモが首を傾げる。
「違う! 『次期Sクラス候補生』として目をつけられ、面倒な生徒会や王宮からの勧誘、貴族派閥からの嫉妬、そしてマグダからの更なる嫌がらせ(刺客)が殺到するんだよ!!」
俺の叫びに、演習場のカラスが驚いて飛び立った。
「俺が求めていたのは、安眠と平穏だ。勇者として担ぎ上げられて、魔王討伐なんていうブラック労働に従事させられる未来なんて御免だぞ!」
「あ……」
モモとリリスが顔を見合わせる。
「確かに……Sクラスに行くと、毎日決闘を申し込まれるって噂を聞いたことがあるわ」
「げっ、飯食う暇もねーのかよ。それは嫌だ」
ようやく事の重大さに気づいたようだ。
「筆記の高得点はもう消せない。なら、バランスを取るしかない」
俺は指先で壁の埃をバン! と叩きつけた。
「次の実技試験……俺たちは全力で**『普通の点数』**を狙う!」
2. 実技試験のルールと「3人の理由」
実技試験の内容は既に掲示板で発表されていた。 舞台は学園の敷地内にある**「学園内ダンジョンの初層(1~5階層)」**。 人工的に管理された、低レベルモンスターが生息する地下迷宮の浅い階層だ。
ミッション: 地下5階にいるボスモンスターを討伐し、帰還せよ。
制限時間: 3時間。
パーティ人数: 最大4名まで。
「通常、この試験は4人フルメンバーで挑むのがセオリーだ。人数が多ければ『連携点』が稼げるし、役割分担でタイムも縮まる」
俺はあえて、モモとリリスの二人を指差した。
「だが、今回は俺たち3人だけで行く」
「えっ? あと一人、誰か誘わねーのか? ドワーフのガントとか、Fクラスにも暇そうな奴はいるぞ?」
モモが不思議そうに尋ねる。
「人数が増えれば、それだけ『不確定要素』が増える。ガントを入れたらどうなると思う?」
俺は冷ややかに返した。
「あいつは『ドワーフの血が騒ぐ』とか言って、壁に埋まっている金鉱石を掘り始め、命令を無視して寄り道する。絶対にだ」
「……確かに。あいつ、光り物を見たらテコでも動かねーな」
「それに、他言無用の『手抜き作戦』を共有できるのは、共犯者である俺たちだけだ」
俺は【AI】が表示した試験要項の細則を読み上げる。
【実技試験・採点基準(初層エリア)】
基礎点: ボス討伐(500点)
加点要素:(500点)
クリアタイム(早いほど加点)
討伐数(多いほど加点)
罠の解除・回避(スマートなほど加点)
パーティ連携(魔法のコンボなど)
「いいか。これは『初層』だから単純な加点方式だ。だが、専門学部に進んだ後の上級試験(深層)になると話は別だ」
俺は余談として補足する。
「上級試験では、到達階層の深さやレアモンスター討伐数、獲得したお宝のランクによって、点数が『乗算(掛け算)』で跳ね上がるシステムになる。そうなれば、運次第で点数が爆発し、調整なんて不可能だ。……だが、今回は違う」
【AI】が弾き出したシミュレーション結果を、壁の埃に書き込む。
目標:【700点】
「今回の合格ライン、つまり**『進級はできるが、決して目立たない点数』は……ズバリ700点**だ」
「7割…。なんとも中途半端な数字ね」
リリスが眉をひそめる。
「そうだ。赤点(400点)でもなく、優等生(900点)でもない。 成績表を見た教師が『ああ、いたなそんな奴』と記憶から抹消するような、生徒のボリュームゾーンに紛れ込む完璧なモブ点数だ」
俺は二人の目を見て、力強く宣言した。
「俺たちのミッションは、ボスを瞬殺することじゃない。 **『ダラダラ歩いて、適当に罠にかかり、そこそこ苦戦したフリをして帰ってくる』**ことだ! 全力を出して『弱く』振る舞え! これは高度な演技力が求められるミッションだ!」
3. 【AI】による「接待プレイ」指南
「というわけで、今から夕飯までの時間で**『手抜きの特訓』**を行う」
俺の号令と共に、即席のスパルタ合宿(手抜き編)が始まった。 日が傾きかけた演習場に、【AI】によるARマーカーが展開される。
「まず、モモ。お前は一番の問題児だ」
「えっ? 俺、やる気だけはあるぞ!」
「その『やる気』が邪魔なんだよ。学園内ダンジョンの1階層に出る『プチ・スライム』相手に、お前の最大火力『爆裂火球』を使ったらどうなる?」
「えっと……スライムが蒸発して、壁が吹き飛んで、上の階層が崩落してきて……あ、生き埋め?」
「正解だ。そしたら減点どころか、器物損壊で停学、最悪の場合は学園崩壊だ」
俺はモモの額にデコピンをした。
「お前の課題は**『寸止め』**だ。 敵を倒すな。敵が『もう勘弁してください』って顔をするまで、適当に追いかけっこしろ。 魔法を使うときは、威力を今の10分の1……いや、100分の1に抑えろ」
「ひゃ、100分の1!? そんなの、くしゃみレベルじゃねーか! 火種にもなんねーぞ!」
「それがいいんだ。お前は今日から『着火剤係』だ」
次にリリス。
「リリス、お前は『効率化』を封印しろ」
「なっ……!? 非論理的よ! 最短ルートを進むのが正義でしょ!?」
「最短で行くとタイムが早すぎて高得点になる。あえて遠回りをしろ。地図を見るな。分かれ道があったら、あえて『嫌な予感』がする方に進め」
リリスが苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えた。
「わ、分かっているのに……正解のルートが輝いて見えているのに、あえて行き止まりに進むなんて……! 私の知性が、脳細胞が拒絶反応を起こして頭痛が……!」
「我慢しろ。知性を殺せ。それが『協調性』という名の社会スキルだ」
そして、最大の課題は**「ダンジョンの精霊」**への対処だ。
(【AI】、学園内ダンジョンの低層に出現する精霊のデータを表示)
ピコン(音符)
【ダンジョン精霊データ】
環境: 閉鎖空間(マナが澱みやすい)
主な出現種:
土の精霊: 地面や壁に潜む。性格は陰湿。足を引っ掛けて転ばせるのが生きがい。
闇の精霊: 鬼火。性格は構ってちゃん。冒険者を惑わせて毒沼に誘導する。
対処法: 力でねじ伏せると、ダンジョン全体の精霊が敵対して「モンスターハウス(暴走)」を引き起こすリスクあり。
「いいか。ダンジョンの精霊は、外の精霊よりも性格がねじ曲がっている。日当たりが悪いからな。まともに相手にするな」
俺はペンを回し、指先でリズムを刻んだ。 【無限回転(ペン回し)】 モード:ダンジョン・ガイド(接待用)。
「今から【AI】が算出する**『精霊接待マニュアル』を叩き込む。 敵を倒すんじゃない、『あしらう』**んだ。上司の機嫌を取るように、丁重にお帰り願うんだ」
4. 夕暮れの特訓:接待と寸止め
特訓は、予想以上に過酷だった。
「――そこだモモ! ウィスプが近寄ってきた! 誘惑してるぞ!」
「うおっ! 美味そうな光る玉だ! キャンディみたいだぞ! 食っていいか!?」
「ダメだ! 無視しろ! ……でも完全に無視すると拗ねて仲間を呼ぶから、**『へぇ~、綺麗な光だね~(棒読み)』**って褒めてやり過ごせ!」
「うがー! ストレス溜まる! 『へ、へぇ~、美味そうな……じゃなくて綺麗な光だな畜生! 腹減った!』」
モモが引きつった笑顔で、目の前のホログラム(ウィスプ役)に手を振る。顔が笑っているのに目が殺気立っている。
「次、リリス! ノームが床に罠を張ったぞ!」
「……構造解析完了。解除術式を展開して、0.5秒で無効化……」
「違う! そこで華麗に解除したら『加点』されちまう! そこは**『おっと危ない!』って言いながら、わざとらしく躓け!** ドジっ子を演じろ!」
「くっ……! こ、こう!? 『きゃっ、危ないわ(棒読み)』……ドサッ」
リリスがぎこちない動きで、何もない地面で転ぶ演技をする。受け身が完璧すぎて逆に不自然だ。
「下手くそか! もっとこう、ドリフ的に……いや、今はそれでいい。減点対象にはならないギリギリのラインだ」
俺たちは夕暮れの演習場で、滑稽なパントマイムのような特訓を繰り返した。
スライムを撫でて帰すモモ。 分かれ道でサイコロを振って(ワザと)遠回りを選ぶリリス。 そして、精霊たちに「お疲れ様です、ここ通りますよ」とペン回しで極小のマナチップ(通行料)を渡し、戦闘を回避する俺。
あたりはすっかり暗くなり、一番星が光っていた。
「はぁ、はぁ……。ボス、これ……普通に戦うより疲れるぞ……」
モモが地面に大の字になり、泥のようにへたり込んだ。
「魔力を抑え込むのに、こんなに精神力を使うなんて……」
「……同感よ。脳のリソースを『手加減』と『演技』に割くなんて、非効率の極みだわ。IQが20くらい下がった気がする」
リリスも眼鏡をずらし、乱れた髪を直す気力もないようだ。
俺は満足げに頷き、壁の埃を払った。
「だが、これで**『700点』**の動きは完璧だ。 明日の試験、俺たちは誰よりも地味に、誰よりも平凡に、ダンジョンを散歩して帰ってくるぞ。 そして、誰にも注目されずに進級するんだ」
「「オゥ……(おう)……」」
二人の返事は疲れ切っていたが、その目には「やってやる」という奇妙な連帯感が宿っていた。
その時、三人の腹が同時に「グゥ~」と盛大な音を立てた。
「……腹減った。ボス、今日の晩飯は?」
モモが死にそうな声で聞く。
「学食のB定食だ。……もちろん、大盛りでも特盛りでもなく、並盛でな」
「ちぇっ……まあいいや、肉が入ってればなんでも……」
俺たちは夕焼けに染まるボロボロの演習場を後にした。
明日は実技試験。 Fクラス脱獄同盟の、本当の戦い(手抜き)はこれからだ。
(第8話 完)
【第8話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
「全力を出して弱く振る舞う」。 少年漫画の主人公が修行で強くなる展開は王道ですが、「目立たないために弱くなる修行」をする主人公はなかなかいないのではないでしょうか。
爆発魔法を種火にし、最短ルートを無視してドジっ子を演じる。 高スペックすぎる面々が、必死に「凡人」の皮を被ろうとするシュールな姿を楽しんでいただけたら幸いです。
筆記試験でやらかしてしまった分、実技での「700点調整」は、彼らにとって死活問題。 これで完璧に「記憶に残らないモブ」になれるはず……だったのですが。
コタロウの計算はいつも「身内のコントロール」までは完璧。 しかし、あの「重すぎる愛」を持つ聖女様というイレギュラーを忘れていました。
次回、第9話『実技試験の誤算、あるいは聖女という名の『歩く災害』について』。 いよいよ第1章が完結! 完璧な手抜き計画が、音速で飛んできたアヤネによって物理的に粉砕されます。
どうぞお楽しみに!
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