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■ Ep.104 第59話:墜落警報! 嵐の中のハイジャック

【第59話(Ep.104):まえがき】

逃げ場のない高度数千メートル。機内には武装したハイジャック犯『蛇の知恵』、そして機体外壁には命を刈り取りに来た教会の暗殺部隊『断罪者』。


普通なら「詰み」の一言で終わる絶望的な状況ですが、我らがコタロウの脳内は、かつてないほど「不届きな合理性」で満たされていました。……理由はただ一つ、口の中に残る『マナビタンA』の焦げたゴムのような最悪の残響を、一刻も早く安眠シャットダウンで上書きしたいからです。


今回は、極限まで加速したコタロウの演算能力が、飛行船という名の「密室」をどのようにハックし、敵味方の配置を書き換えていくのかが描かれます。リリスのハッキング、モモの影の牙、そしてコタロウの超高速ペン回し。


さらに、コタロウの影に潜み、彼のマナを至上のご馳走として狙うヤンデレ精霊「ネロ」もまた、獲物を前にその残虐な本性を現します。墜落へのカウントダウンが鳴り響く中、Fランクの「持たざる王」による、効率的すぎる反撃が開始されます。

【Ep.104 第59話:本文】

1. 三重苦の狂詩曲ラプソディ

超巨大魔導飛行船『天空の白鯨号』の船内は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


紅い緊急灯が不規則に点滅し、壁に埋め込まれた魔導スピーカーからは組織**『蛇の知恵オピュクス』**による無機質なカウントダウンが流れている。


一般生徒たちは床に伏せ、震えながら神への祈りを捧げているが、その「神」を代行するはずの聖女アヤネは、今まさにハイジャック犯たちの最優先目標ターゲットとして狙われていた。


「(……最悪だ。不味すぎるマナビタンAのせいで、心臓の鼓動がドラムの連打みたいにうるせぇ)」


俺、神木コタロウは、特等室のソファに身を沈めながら、震える指先で漆黒のペン――**【魔導ブラック・バトン】**を回し続けていた。


セフィラ先生への「根源のマナ」納品ノルマは現在 65%。


船が揺れるたびに指が滑りそうになるが、正面に座るセフィラ先生が胃薬を噛み砕きながら「止めたら虚数空間へ放り込みますよ」と無言の圧力をかけてくるため、休む暇などない。


『マスター。外部状況のアップデートです。

風の精霊王シルフによる「気流攪拌シェイク」が激化。

船体の構造疲労度は現在 78%。

このままでは目的地に到着する前に、空中で空中分解する確率が P = 82.4% に達します』


脳内の**【AI】**が、視界の端に無慈悲な数式と赤いグラフを投影する。


「(シルフの野郎、完全に楽しんでやがるな……。

外は嵐、中はテロリスト、下からは暗殺者。

これ、修学旅行のパンフレットに書いてあった『一生の思い出』の範疇を完全に超えてるだろ)」


隣ではアヤネが「コタロウくん、大丈夫ですよ! 私が守りますから!」と、恐怖で顔を青くしたまま俺の腕を力一杯抱きしめている。


その隣ではクラウディアが「なんて凛々しいのアヤネさん……! その怯えながらも虚勢を張る姿、わたくしの魂が震えますわ! さあ、わたくしの胸へ!」と、危機の最中だというのにアヤネへの心酔っぷりを爆発させていた。


「(……この状況で一番平気そうなのは、アヤネの匂いを嗅いで恍惚としてるお嬢様クラウディアだけかよ)」


その時、俺の影がわずかに波打ち、冷たい感覚が背筋を這い上がった。


『――ねぇ、主様。ボク以外の女にそんなに密着されて、嫌じゃないの? ボクなら、その腕ごとアヤネごと、影の中に引きずり込んであげられるよ?』


俺の影に常駐(寄生)している闇の精霊、**【ネロ】**の念話だ。


透き通るような白い肌に、底なしの闇の中に赤い虹彩が輝く瞳を持つ少女。


普段は影と同化している彼女だが、アヤネが俺に触れるたびに、殺意に近い独占欲を滲ませてくる。


『警告。ネロによる精神汚染の予兆を確認。マスター、精神壁の構築を推奨します。……それからネロ、コタロウと喋っていいのはボクだけだと言ったはずですが?』


『……フン。頭の中にいる「別の女(【AI】)」は相変わらずうるさいね。消去してあげようか?』


「(……やめろ二人とも。脳内戦争してる場合じゃない。外敵を先に片付けるぞ)」


2. 『蛇』の宣告と、影の侵入

「黙れ、ガキども! 騒ぐ奴から順に、この高度四千メートルから『自由落下』させてやる!」


特等室の重厚な扉が蹴破られ、魔導短銃を構えた武装集団がなだれ込んできた。


漆黒の戦闘服に、蛇の紋章が入ったマスク。

組織『蛇の知恵』の構成員だ。


「おい、そこのピンクの髪のアヤネと、死にそうな顔でペン回してるガキ(コタロウ)。お前らが『贄』と『器』だな。大人しく来てもらおうか」


リーダー格の男が、歪んだ笑みを浮かべながら銃口を俺たちに向ける。


コタロウはペンを回す手を止めず、薄目を開けて男を見た。


その背後では、セフィラ先生が指の間をパチパチと魔力放電させている。


彼女が動けば一瞬でこの場を制圧できるだろうが、それでは「一般生徒への被害」を抑えきれない。


「(……【AI】、こいつらの魔力波長をジャックしろ。

シンク、全船に繋いだ共鳴網を使って、こいつらの通信をノイズで埋め尽くせ)」


『了解。ジャミング開始。……完了しました。

現在、敵の連携は完全に遮断されています』


コタロウはわざとらしく「ひぃっ!」と情けない声を出し、ソファから滑り落ちるフリをした。


その際、ポケットから一粒の魔石を床に転がす。


「な、なんだお前は。……おい、動くなと言っただろ!」


「す、すみません! 手が滑って! 命だけは……命だけは助けてください!」


俺の演技シャインに、リーダー格の男は鼻で笑った。


だが、彼らは気づいていない。


俺が転がした魔石を起点に、影の中から漆黒のゴシックドレスを纏った少女――**【ネロ】**が、音もなく這い出したことを。


『汚いマナ……。臓器を通した不純物混じりのマナなんて、「泥」と同じだよ。ボクの主様に銃を向けるなんて、死ぬよりも酷い「食事」にしてあげる』


ネロは冷酷に微笑むと、物理・魔法防御を無視する「捕食」の触手で、ハイジャッカーたちの足元を影の深淵へと絡め取った。


彼らが悲鳴を上げる暇もなく、足元が「実体のない泥」に沈んでいく。


さらに船外では、聖教会の暗殺部隊**『断罪者』**が、船底に吸着マグネットを撃ち込み、侵入を開始していた。


「(モモ、聞こえるか。船底に『ハイエナ』が来た。

ネロをそっちに回すから、影のトラップで一人ずつ『お掃除』してくれ。

あくまで『事故』に見せかけるんだぞ。……ネロ、絶対に食べ過ぎるなよ)」


「(へっ、分かってるよコタロウ。

……おいネロ! 遊んでないでこっちに来い!

ご主人様のお掃除の時間だ!)」


「(……チッ。モモ、ボクに指図しないで。……でも、主様のマナを守るためだ。ゴミ掃除、やってあげるよ)」


シンクを通じた念話チャットで、モモの楽しそうな声と、ネロの不機嫌そうな声が返ってくる。


船内ではテロリスト、船底では暗殺者。


どちらも気づいていない。


自分たちが、一人の「サボりたがりのFランク」と、その影に棲む「最恐のヤンデレ精霊」が張り巡らせた蜘蛛の巣にかかっていることに。


3. シルフの悪戯、臨界点へ

ドゴォォォォォォォン!!


突如、飛行船がこれまでにない衝撃に見舞われた。


シルフが遊びを一段階引き上げたのだ。


「天空の白鯨号」の巨体が、まるで巨人の手で握りつぶされたかのように軋み、左舷の第二エンジンが火を噴いて爆散した。


「ヒャハハハ! 壊れる壊れる~!

ねぇ、コタロウ、もっともっと『面白い顔』見せてよ!」


俺の脳内に、風の精霊王の無邪気で残酷な笑い声が直接響く。


窓の外では、巨大な竜巻が船体を追い越し、逃げ道を塞いでいた。


「き、機長! 制御不能です! 補助魔導回路が焼き切れました!」


「高度維持魔術が消失! このままでは墜落します!」


ブリッジからの絶望的な放送が流れる。


蛇の知恵のリーダーも、流石に顔色を変えた。


「チッ、風の精霊王がこれほど暴れるとは聞いてねえぞ!

おい、贄を確保して脱出挺へ向かうぞ!」


「……そうはさせないわよ」


リリス・フレアガードが立ち上がった。


彼女の眼鏡が緊急灯の紅い光を反射し、冷徹に光る。


彼女の肩では、時の精霊**【チック】**が狂ったような速度で針を回していた。


「コタロウ、ハッキングの準備は完了したわ。

換気ダクトを経由して、船体のメインOSへ『魔力ウイルス』を注入した。

あとの『書き換え』は……貴方の仕事よ」


「(よくやったリリス。……【AI】、オーバーライドしろ!)」


『了解。メインシステムを掌握。

ハイジャッカーによる外部操作をカットします。

物理的な制御権、および重心制御魔法……すべてマスターの指先に同期リンク完了』


コタロウは懐から取り出した**【魔導ブラック・バトン】**を、天井に向けて突き出した。


バトンに内蔵された二つの核――**【重力核クリスタル・イーター】と【古代核テュポーン】**が、かつてない共鳴レゾナンスを起こす。


「(……不時着、開始だ)」


4. 質量操作と、絶望の回避

「全生徒、座席の背もたれを掴んでろ! 舌を噛まないように気をつけろよ!」


コタロウが叫ぶと同時に、飛行船全体を「重力の檻」が包み込んだ。


本来、何万トンもの質量を持つ『天空の白鯨号』が、コタロウのバトンから放たれる重力波によって、一時的に「見かけ上の質量」を大幅に減少させられる。


カンニング・【AI】が算出した複雑な慣性制御式が、バトンの回転数と同期し、落下速度を物理法則を無視して減速させていく。


「な、なんだ!? 船が浮き上がって……いや、軽くなっているのか!?」


蛇の知恵の戦闘員たちが、床から浮き上がり、天井に頭をぶつけて絶叫する。


コタロウは彼らだけにかかる重力方向を「横」に捻じ曲げ、壁に貼り付けて無力化させた。


「(シルフ! 目的地へ行くんだろ!? だったら、この気流を道に変えろ!)」


「いいよぉ~! その『必死なペン回し』、合格点だもんね!」


シルフが翼をひと振りすると、周囲の嵐が逆回転を始め、飛行船を抱擁するように優しく包み込んだ。


墜落コースは、いつの間にか「滑空コース」へと上書きされていた。


船の眼下には、雲海を抜けた先に広がる絶望の島――『浮遊島アトランティア』。


その中でも、一度入れば二度と戻れないと言われる未開拓エリア「機械の密林」が、錆びた鉄と狂った植物の色に染まって口を開けていた。


「アトランティア……伝説の古代都市……」


アヤネが窓の外を見て、小さく呟く。


その瞳には、自分の出生にまつわる因縁を察知したような、複雑な色が浮かんでいた。


「(……【AI】、着水、いや、着林ポイントを選定しろ。

できるだけソフトに、でも『墜落に見えるよう』にだ)」


『了解、マスター。衝撃吸収魔法陣の展開座標を固定。

……不時着まであと、3、2、1……Impact!』


5. 機械の密林への不時着

ズガァァァァァァァン!!


爆音と共に、白鯨号の巨体が巨大な機械樹の枝をなぎ倒しながら、森の奥深くへと突っ込んでいった。


ブラック・バトンの重力クッションがなければ、船体は粉々になっていただろう。


しかし、コタロウの精密な「カンニング」のおかげで、船は奇跡的に大破を免れ、土煙を上げて沈黙した。


静寂が戻った船内。


火花が散る照明の下、コタロウは荒い息を吐きながら、止まっていた心臓を落ち着かせた。


手元のバトンは、オーバーヒート直前の熱を帯びて赤く明滅している。


「……ふぅ。……死ぬかと思った」


「コタロウくん! 生きてますか!? 怪我はないですか!?」


アヤネが涙目で抱きついてくる。


「ええ、なんとか……。運が良かったですよ、本当に。

たまたま、気流が味方してくれたみたいで」


俺はいつもの「ラッキーなFランク」の仮面を被り、適当な言い訳を並べた。


だが、その背後ではクラウディアが鋭い視線を俺に向けていた。


「……たまたま、ですの?

あんな精密な質量制御、わたくしでも見たことがありませんわ。

コタロウ様、貴方という方は、やはり……」


その時、俺の影から小さな手が伸び、俺の指をキュッと握った。


誰にも見えない、影の精霊の嫉妬。


『……主様、よく頑張ったね。……でも、帰ったらボクに「あーん」でマナを頂戴ね? そうしないと、このアヤネって女、影の中に閉じ込めちゃうから』


「(……あー、善処する)」


俺は冷や汗を流しながら、窓の外を眺めた。


そこには、学園の教科書には載っていない、狂った歯車と巨大な蔦が融合した、異形の森が広がっていた。


「(……さて、ここからが本当の地獄サバイバルだな)」


飛行船は落ちた。


だが、俺たちの修学旅行は、ここから最悪の形で「開幕」したのだ。


(第59話 完)

【第59話(Ep.104):あとがき】

お読みいただきありがとうございました!


空の上の三つ巴の戦い、そして影の精霊ネロの不穏な暗躍、いかがでしたでしょうか。


もはや「修学旅行」の面影は微塵もありませんが、コタロウにとってはこれが「最短ルートでサボりに戻るための仕事」なのです。


今回のハイライトを振り返ると:


「情報の非対称性」の暴力: 敵がこちらの配置を探っている間に、コタロウは【AI】と連携して敵の神経系(魔導回路)を完全に掌握。ハイジャック犯たちが「自分たちが船を操っている」と錯覚している間に、システムの主導権を奪い取る手際の良さは、まさに構造経済学的な勝利でした。


ネロの不穏な独占欲: コタロウの影に潜むヤンデレ精霊ネロ。彼女にとってコタロウのマナは「純度 99.9% の至上の美食」であり、それを奪おうとする敵や、コタロウに密着するアヤネへの殺意が隠せなくなっています。


リリスとモモのコンビネーション: 理論で場を凍らせるリリスと、影から実力行使するモモ。コタロウが指示を出し、彼女たちがそれを実行する様は、もはや一つの完成された組織のよう。


しかし、激闘の末に待っていたのは、未開の禁足地アトランティアへの不時着……。


空の戦いは終わりましたが、本当の「不届きなサバイバル」はここから始まります。


【次回予告】

第59.5話(Ep.105)幕間:『密林의サバイバル講義』


墜落した豪華飛行船、絶望に沈む生徒たち。


だが、そんな中で一人、焚き火を囲んで「サボり魔の知恵」を発揮する男がいた。


「いいか、これは高エネルギースタビライザー……平たく言えば、超すごいカロリーメイトだ」


偽装された「安心感」と【AI】のカンニングで、コタロウが密林の生態系すらハックし始める!


そして、影の中でコタロウの寝顔を狙うネロの「愛(殺意)」の行方は――。


次回、アトランティア不時着初夜。ご期待ください!


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