第6話:AI教官のスパルタ合宿と、邪魔しにくる聖女様
【第6話:まえがき】
前話で「古代語の論文(中身は取説)」を発表し、一部の教授から評価されたコタロウ。 しかし、そんな小手先の評価だけでは、3週間後の「筆記試験」を乗り切ることはできません。
試験範囲は膨大。残り時間はわずか1週間。 まともな勉強では間に合わないと悟ったコタロウたちは、図書館の地下深くに眠る「禁断の知識(ニート精霊)」を叩き起こしに向かいます。
さらに、コタロウ不足で限界を迎えた「Sクラスの聖女様」も乱入。 勉強合宿は、物理的にも精神的にも修羅場と化します。 果たしてFクラスの面々は、試験前に脳みそを焼き切られずに済むのでしょうか?
1. 図書館の魔導書は読むものではない
試験まであと1週間。
俺たち「Fクラス脱獄同盟(仮)」の3人は、中央図書館の地下深くにある**「第3保管庫」**を不法占拠していた。
ここはカビ臭く、埃まみれで、誰も寄り付かない廃墟のような区画だ。
「……ねえボス。なんでこんなカビ臭い場所なんだ? 勉強なら食堂でもよくね?」
「そうよ。第3保管庫なんて、百年以上前の古い文献しかないわ。最新の試験対策には向かない」
モモとリリスが不満を漏らす。
俺はパイプ椅子に座り、ニヤリと笑って天井を指差した。
「甘いな。俺がただ静かなだけの場所を選ぶと思うか?」
俺は脳内の相棒(カンニング・AI)に問いかける。
(おいカンニング・AI。例のブツはどこだ?)
ピコン♪
【カンニング・AI 探索スキャン完了】
- 場所: 本棚C-4区画、最上段。
- 対象: 知の精霊『ビブリオ』
- 状態: 休眠中(過去112年間、一度も稼働せず惰眠を貪っています)。
- 推奨: この場所を指定したのは、この「生きたデータベース」を強制起動し、学習効率をブーストさせるためです。
「ここに決めた理由は一つ。**『便利な暇人』**が住み着いているからだ」
俺はボールペンを取り出し、カンニング・AIが示した本棚の最上段に向かって、素早く指を走らせた。
【高速記述(フリック入力)】 コードネーム:Wake_Up_Lazy_Spirit.exe
「おい、いつまで寝てるんだ。起きろ、知の精霊『ビブリオ』」
バチッ!
俺の指先から放たれた魔力の刺激が、本棚の頂上で埃を被っていた「丸い塊」に直撃した。
「ホゲェッ!?」
ドサササッ!
雪崩のような本の山と共に落ちてきたのは、一匹の奇妙な生き物だった。
掌サイズのフクロウだ。片眼鏡をかけ、頭には小さな角帽を被っている。
「ホッホー……! い、痛いではないか! 我は知の精霊ビブリオ。この図書館に住み着いて百余年、静寂と惰眠を愛する高貴な存在であるぞ! せっかく『暇すぎて死ぬ夢』を見ていたのに!」
こいつは図書館の主気取りで住み着いている精霊だが、その実態は、カンニング・AIの解析通り、来る日も来る日も棚の上で高いびきをかいているだけの引きこもりニートだ。知識はあるくせに、誰も利用しないから暇を持て余している。
「暇を持て余してるなら、リハビリだ。仕事しろ」
俺はビブリオの前に、分厚い歴史書を突き出した。
「この本の内容をスキャンして、こいつら(モモとリリス)の脳内に直接インストールしろ。納期は今すぐだ」
「なっ、なんと無礼な! 知識の伝達とは神聖な儀式! 我が崇高な脳を、そのようなインスタントな……」
シュッ!
俺は空中のビブリオに向かって、スマホ画面をスクロールするように指を素早く跳ね上げた。
【強制操作:上へスワイプ】 意味:「つべこべ言わずに働け(強制スクロール)」。
「ギョエェェェェッ!?」
ビブリオの目がカッと見開かれ、羽が逆立った。身体が勝手に空中に固定され、翼が強制的に開かれる。
「ま、待て! 強制的にページをめくらせるな! 目が回る! 脳が! 百年ぶりの労働は体に毒だァァァ!!」
「文句が多いな。……ほらよ、残業代だ」
俺は左手で持っていたペンを、指先で高速回転させ始めた。
【無限回転(ペン回し)】 モード:マナ・サプライ(高濃度魔力供給)。
ビブリオの目の前に、大気中のマナを抽出・精製した純度の高い魔力の粒子が「ご褒美」として散布される。
「ハッ……!? こ、この芳醇なマナは……! 図書館の埃っぽい魔力とは違う、極上のヴィンテージワインの如き味わい……!」
ビブリオの表情が、苦悶から陶酔へと一変した。
長年の引きこもり生活で飢えていたのか、目の色がヤバイ。
「もっと欲しいか?」
「ホッホー! 欲しい! 寄越すのである!」
「なら働け。成果に応じてボーナス(魔力)を弾んでやる」
「イエッサー! 我が知識欲(と食欲)は留まることを知らぬ! 百年分の鬱憤を晴らすべく、全力でいくのであるー!!」
ビブリオはマナをキメて覚醒した。
カンニング・AIの情報網で見つけ出した「隠しリソース」を、**「フリック操作(強制労働)」と「ペン回し(餌付け)」**で完全に掌握する。
これが俺の、Fクラス式学習法だ。
2. スパルタ・カリキュラム
そこからは、まさに地獄の合宿だった。
覚醒したビブリオが教官となり、カンニング・AIが作成した**「個別最適化カリキュラム」**を容赦なく叩き込んでいく。
【モモ・イヌガミの場合:条件反射インストール】
「次! 第3問!」
「うがー! 分かんねえ! 燃やすぞ!」
モモの頭の上には、ビブリオが止まっていた。
「ホッホー! 甘いのである! 不正解!」
ビブリオが嘴でモモの頭をペチペチと叩く。
「痛ってぇ! なんだこの鳥!」
「黙るのである! 今、貴様の脳海馬に『歴史年表』を直接書き込んでいる最中である! 抵抗するとバグるぞ!」
俺はビブリオに指示を出す。
「ビブリオ、出力アップだ。モモの脳は『食欲』とリンクさせないと記憶が定着しない」
「承知! 『知識=肉』変換プロトコル起動!」
ビブリオが怪しい光を放つ。
モモの視界が変わった。教科書の文字が、全て「骨付き肉」に見え始めたのだ。
「に、肉ぅぅぅ! 初代国王は……ドラゴン肉を食ってイキった!」
「正解! その調子だ!」
モモは涎を垂らしながら、猛烈な勢いで歴史を(食欲として)吸収していく。
【リリス・アルケミアの場合:高速演算リンク】
「リリス、その回答は長すぎる。0点だ」
「なっ!? なんでよ! この証明プロセスは美し……」
「ホッホー! 無駄無駄無駄ァ!」
ビブリオがリリスの眼鏡のつるに止まり、彼女の視界に直接「赤ペン」を入れていく。
「貴様の思考回路は遠回りすぎる! ここショートカット! ここ削除! ここは結論のみ!」
「ひいぃっ!? 私の脳内で勝手に添削しないで! 気持ち悪い!」
「うるさい! 俺のボーナス(魔力)がかかっているのである! 効率化せよ!」
俺がペンを回す速度を上げると、ビブリオは「キマるぅぅぅ!」と叫びながら、リリスの眼鏡に高速で解答パターンを投影しまくった。
リリスは涙目で、マシンのように手を動かし続ける羽目になった。
そして俺、コタロウは。
「……よし、インデックス作成完了」
ビブリオがスキャンしたデータを、カンニング・AI経由で自分の脳内フォルダに整理するだけ。
俺は一番楽をしているが、ペン回しとフリック操作で指だけは忙しい。
「(……いける。この『ドーピング学習法』なら、Fクラス全員で上位50%どころか、上位10%も夢じゃない)」
保管庫の中は、ページをめくる音、モモの「肉ぅ!」という叫び、リリスのペンの音、そしてビブリオの「ホッホー! 働けー!」という檄で満たされていた。
俺が確かな手応えを感じていた、その時だった。
3. 聖女の襲来
ドォォォン!!
図書館の堅牢な扉が、魔法によって吹き飛ばされた。
舞い上がる土煙。静寂だった保管庫に、場違いなほどのキラキラとしたオーラが流れ込んでくる。
「みーつけたっ♡」
煙の中から現れたのは、白と金を基調としたSクラスの制服に身を包み、背後から後光のような光を放つ美少女――シノミヤ・アヤネだった。
「ア、アヤネ!?」
俺は椅子から転げ落ちそうになった。
ビブリオも驚いて「ホゲッ!?」とモモの頭から落下した。
「なんでここが分かったんだ!? ていうか、ここ立入禁止だぞ!」
アヤネは悪びれもせず、瓦礫を踏み越えてトテトテと歩み寄ってくる。
「だってもぉ~! コタロウくん全然会ってくれないんだもん! 寂しくて死んじゃうかと思ったよぉ!」
アヤネは俺に抱きつこうと両手を広げる。
その瞳孔は少し開いており、笑顔なのに目が笑っていない。「愛」という名の圧力が、物理的な重圧となって空間を歪めている。
「(ヤバイ。こいつ、寂しさでリミッター外れてやがる……)」
アヤネが俺に到達する寸前。
二つの影が、俺の前に立ちはだかった。
「グルルルルッ……!」
モモが四つん這いになり、低い唸り声を上げる。全身の毛が逆立っている。
「ボス、下がってろ! こいつ……ヤバイ匂いがする! 普通の人間じゃねえ、バケモノだ!」
「……同意ね」
リリスが眼鏡を光らせ、冷ややかにアヤネを見据える。
「Sクラスの聖女……。貴女の放つ魔力波長、非論理的で不快だわ。ここは選ばれし賢者たちの研鑽の場よ。部外者は退去して」
Fクラスの狂犬とマッドサイエンティストが、Sクラスの聖女に牙を剥く。
一触即発の空気。
アヤネの足がピタリと止まった。
「……あれぇ?」
アヤネが小首を傾げる。
その背後の空気が、ピシピシと凍りついていく。
「コタロウくん? その子たち、だぁれ? 獣臭い子と、根暗そうなメガネさん……。もしかして、コタロウくんが私に会ってくれないのって……」
アヤネの笑顔が深まる。
背後に巨大な光の巨人(聖霊)の幻影がゆらりと立ち上がる。
「この泥棒猫たちが、たぶらかしているからなの?」
ヒィィッ!!
空気が重い! 重力が倍になった気がする!
これがSクラス筆頭、聖女の威圧感か。モモですら「ひっ……」と尻尾を巻いている。リリスも青ざめて後ずさる。ビブリオに至っては「ホ、ホ、捕食者であるー!」と気絶してしまった。
まずい。このままではFクラス脱獄同盟が、物理的に「浄化(消滅)」させられてしまう!
「(カンニング・AI! 助けろ! 言い訳モード起動!)」
ピコン♪
【カンニング・AI 言い訳生成機能(Social Hacking): 起動】
- 状況: 修羅場(Yandere vs Teammates)
- ターゲット: アヤネ
- 最適解: 彼女の「聖女としてのプライド」と「コタロウへの愛」を同時に満たす嘘をつくこと。
俺は冷や汗を拭い、アヤネの前に飛び出した。
「ま、待てアヤネ! 誤解だ!」
「誤解? 何がぁ? コタロウくん、この人たちと仲良しなの? 私より?」
「違う! 俺たちがここで何をしていたか、分かるか!?」
俺はホワイトボードの「3行要約」と、気絶しているビブリオを指差した。
「俺たちは……**『お前の隣に立つための準備』**をしていたんだ!」
「えっ?」
アヤネの殺気が揺らぐ。
「お前はSクラスの聖女だ。雲の上の存在だ。……俺みたいなFクラスの落ちこぼれが、気安く話しかけていい相手じゃない」
俺は演技たっぷりに俯いた。
「だから俺は……死にものぐるいで勉強したんだ。精霊に頼み込んで、血を吐くような特訓をして……少しでも成績を上げて、お前の隣にいても恥ずかしくない男になるために! こいつらはその協力者だ! 決して遊んでいたわけじゃない!」
「コ、コタロウくん……!」
アヤネが口元を押さえる。
カンニング・AIの完璧な台本通りだ。
『お前のために頑張っている』『身分の差を気にしている』というフレーズは、アヤネのようなタイプには劇薬だ。
「そうだったんだ……! 私、そんなこと知らずに……ごめんね、コタロウくん!」
アヤネの背後の光の巨人が消え、代わりにお花畑の幻影が広がる。
彼女は涙ぐみながら俺の手を握った。
「嬉しい! 私も待ってる! コタロウくんがSクラスに来てくれるの、ずっと待ってるからね!」
「あ、ああ。任せとけ(行く気はないけどな)」
アヤネは満面の笑みで、持っていた大きなバスケットをドンと置いた。
「これ、差し入れ! **王都一の名店『ガトー・ド・リュンヌ(月の菓子)』の『黄金シュークリーム』**だよ!」
その名前に、気絶していたはずのビブリオが「ホッ!?」と跳ね起きた。
リリスも目を見開く。
「……ガトー・ド・リュンヌ? あそこは朝5時から並んでも整理券すら手に入らない、幻の店よ? しかも黄金シュークリームなんて、1日10個限定の……」
「うん! でもね、Sクラスのお友達の公爵令嬢にお願いして、特別に裏口から全在庫を買い占めてもらったの!」
「(……Sクラスの権力、えげつねぇ)」
俺は戦慄した。このシュークリーム一つで、Fクラスの生徒の学費が払えるんじゃないか?
「みんなで食べて頑張ってね! 愛してるよぉ~♡」
アヤネは嵐のように投げキッスをして、上機嫌で去っていった。
4. 嵐の去った後
保管庫に、再び静寂が戻った。
俺たちはその場にへたり込んだ。
「……死ぬかと思った」
モモが震えながら、恐る恐る黄金シュークリームに手を伸ばす。
「でも、匂いはすげぇ……。これが王都の肉(お菓子)か……!」
一口食べた瞬間、モモの目に涙が浮かんだ。「うめぇぇぇ! ボス、あいつヤバイけどイイ奴だな!」
「……非論理的。あんな感情の塊が、これほど繊細な味を選定できるなんて」
リリスも冷や汗を拭いながら、シュークリームを頬張る。「……悔しいけど、脳の糖分補給には最適解ね」
「ホッホー……! このクリーム、絶品である!」
ビブリオも口の周りをクリームだらけにして感激している。「百年ぶりに起きた甲斐があったというもの!」
俺は深いため息をついた。
なんとか誤魔化せたが、アヤネの期待値が爆上がりしてしまった。
これで試験に落ちたら、別の意味で殺されるかもしれない。
「……おい、お前ら。休憩は終わりだ」
俺は立ち上がり、ペンを構えた。
「今のを見て分かっただろ? 俺たちが生き残るには、Sクラスだろうが聖女だろうが、利用できるものは全て利用して這い上がるしかない」
「「……オゥ(はい)……」」
二人の返事には、先ほどまでの反発心はなく、奇妙な連帯感が生まれていた。
「聖女の襲撃」という共通のトラウマと、「極上のシュークリーム」の味が、Fクラス脱獄同盟の絆を強固にしたのだ。
「ビブリオ、仕事だ! 残りの本も全部スキャンしろ!」
「ヒィィ! もう帰りたーい! せめてシュークリームもう一個!」
「甘えるな! ほら、ボーナス(ペン回し)だ!」
「ホッホー! マナが! マナが染みるのであるー!」
決戦の日まで、あと1週間。
監獄の図書館に、ページをめくる音と、精霊の絶叫、そして悲鳴のような学習の声が響き続けた。
(第6話 完)
【第6話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
ニート精霊ビブリオによる「知識の強制インストール」と、聖女アヤネによる「権力に物を言わせた高級シュークリーム」。 飴と鞭(物理)のスパルタ合宿により、モモとリリスの脳内には試験範囲の知識が無理やり詰め込まれました。
それにしても、ヤンデレ化した聖女アヤネのプレッシャー、凄まじかったですね……。 コタロウの「お前の隣に立つため」という即興の嘘がなければ、図書館ごと消滅していたかもしれません。
しかし、頭を使えば腹が減るのが生物の理。 アヤネのシュークリームだけでは、育ち盛りのFクラスの胃袋は満たせませんでした。
合宿を終え、フラフラになりながら寮に戻ったコタロウたち。 そこで彼らを待っていたのは、温かい食事……ではなく、モモとリリスが独自解釈で作った**「特級呪物(闇鍋)」**でした。
次回、第6.3話『決戦前夜、闇鍋カレーと副学園長の冷ややかな視線』。 試験前夜、コタロウは「食中毒」という最大の敵と戦うことになります。 そしてその裏で、副学園長の悪意が忍び寄り……?
次回もお楽しみに!
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