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こんいんばなし

国王の前に立った瞬間、女の体は震えだした。

「そう堅くなるな」

ざらついた声が、砂のように耳を擦る。

「今日は、喜ばしい話がある」

王は挨拶もそこそこに、用件を告げた。

「お前の夫が決まった。アバリシア大臣の息子、コミコスだ」

「……は?」

頭が、真っ白になる。

「夫、とは……私が、その男と結婚するという意味ですか」

「他にどんな意味がある」

王はそれだけ言うと、女から視線を外した。

側近に合図し、赤い酒を運ばせる。

「飲め。祝杯だ」

世界から色が消えた中で、

血のように赤い酒だけが、異様に鮮やかだった。



どうやって部屋に戻ったのか、覚えていない。

気づけば女は、声を殺してアヴェリウスの胸に泣いていた。

「……私は」

涙に濡れた顔を上げ、呟く。

「あなた以外と結ばれるくらいなら、消えた方がいい」

「俺も同じです、姫様」

落ち着いた声が、心臓の鼓動と重なる。

「このままじゃ、引き裂かれるわ」

「そんなことにはなりません」

女は顔を上げた。

「何か、考えが?」

「形だけの婚礼に、意味はありません」

「……アヴェリウス?」

「姫様が誰と結婚しても、俺は姫様を愛し続けます」

その言葉に、女の胸がざわめく。

「それは……裏切りよ」

「許されないことです。でも、俺は構いません」

アヴェリウスは女を強く抱き寄せた。

「姫様と愛し合えるなら」

「……そんなの、罪よ」

「世間が決めた愛の形に、意味なんてありません」

囁きは、毒のように甘い。

「俺たちの関係は、誰にも測れない。周りの連中なんて、いくらでも欺けます」

女の心に、何かが静かに決壊した。

そうだ。

結婚ごときで、私の心は縛れない。

世界が私を拒んできたのなら――

今度は、私が世界を拒絶する。

アヴェリウスの腕の中で、女は決意した。

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