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ふきつのいろ
髪を梳く待女の手が震えている。
その嫌悪を振り払ってしまいたい衝動を、女は飲み込んだ。
堪えなければならない。黒髪に触れるのを誰より嫌がっているのは、女自身なのだから。
今日は念入りに身を清めなければならない。
女の唯一の楽しみのために。
傍らには、密かに仕立てたシンダービーストの毛皮がある。
荘厳なほどの光沢。
あの男なら、きっと美しく着こなす。
「アヴェリウスはまだ?」
苛立ちを隠さず言うと、控えていた待女がびくりと顔を上げた。
「様子を見て参ります」
慌てて出ていく背中を、女は冷たく見送った。
視線はきらびやかな腕飾りへ落ちる。
磨き上げられた金属に、白く整えた顔が映る。
化粧は完璧。だが、どうやっても隠せないものがある。
――邪眼。
黒々とした自分の瞳と目が合い、女は眉を歪めた。
黒い瞳。黒い髪。
不吉の色。闇の色。
これさえなければ。
私はアヴェリウスと――
アヴェリウスは私と――
愛し合えるのに。
あんな小娘ではなく。
「姫様。落ち着いて聞いてください」
待女が息を切らして戻ってきた。
怯えきった顔。嫌な予感が背筋を撫でる。
「何事?」
「アヴェリウス様が訓練中、怪我を……」
言い終える前に、女は待女の襟首を掴んだ。
「案内しなさい。今すぐ!」




