かわごろも
女は自ら、緑石の森へ足を踏み入れた。
城から見えた光の湧いた場所へ、迷いなく向かう。
鼻を突く異臭と同時に、足元で「パキリ」と何かが折れた。折れた弓だ。
「あった」
炎の消えたシンダービーストは、もはや脅威ではない。
完全に火が消えるのは、命が閉じた証。
横たわるのは、動かぬただの肉の塊――
それも戦士たちが羨む見事な毛皮をまとった神獣の死体。
「傷、ついてないわね」
闇色の瞳を爛々と光らせ、女は四肢を撫でる。
両眼が空洞になっている以外、傷は一つもない。
その指が、硬いものに当たって止まった。
「あら……」
血に濡れた貝の欠片。
――否。守り貝などではない。
それは、開いた人間の体を媒体にして、光で敵を射抜き殺す禁断の道具。
昔、大戦の折、命と引き換えに敵を倒す兵士がよく使ったものだ。
今は非人道的として王家が回収しているはずの“魔具”。
だが女は、偶然それを手に入れていた。
シンダービーストを倒すには、この程度の光が必要。
騙せるのは、戦を知らない無知な少年だけ。
不安がなかったわけではない。
それでも作戦が成功した事実に、女は片頬を歪めた。
炎の残り香がくすぶる森に、大粒の雨が落ちてくる。
まるで森を慰めるように。
女は手早く死骸を回収し、体が冷えぬうちに森を抜けた。
粉々になった貝に混じる、少年だったものの欠片には――
一度も目を向けなかった。




