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かわごろも


肉の焼ける匂いで、少年は目を覚ました。

折れた矢が、硬直した手の中に食い込むように握られている。

視界の端で、すでに“物”になりかけた何かが、わずかに動いた。

半身を焼かれた男が、死にかけた目を向けてくる。

その瞳と、少年の恐怖で震える両目が交わった。

地獄の息のような熱風が、少年の顔を撫で回す。

――悪夢だった。

さっきまで一緒に動いていた仲間たちが、焼け焦げた死体になって転がっている。

その中心で、怒りに我を忘れた神獣が咆哮していた。

「た……ず……」

潰れた喉で、男が片手を差し伸べる。

「け……」

原形のない右足が地面を這い、黒い筋を引いた。

「うああああああああああああ!」

男の手が足に触れた瞬間、少年は悲鳴を上げて地を蹴った。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

死にたくない。こんなところで死にたくない。

逃げなきゃ。逃げなくちゃ――。

走る耳に、見捨てた男の断末魔が刺さる。

続いて響くのは、神獣の慟哭。

新しい獲物を定めた爪が、地に深く食い込む気配がした。

熱風が迫る。

地響きとともに、灼熱の塊が背中に張りつく。

「ひっ……ぐ……」

奥歯が鳴る。震えが、幼い体の隅々まで回っていく。

足が縺れた。

地面を舐めるように転び、視界が揺れた。

周囲の草花が、音もなく焼け落ちていく。

立ち上る熱気。鼻を刺す死の匂い。

少年は半身を起こしたまま、固まった。

背後の圧倒的な存在感で、悟る。

もう逃げ場はない。

振り向いたら殺される。

振り向かなくても殺される。

森の奥で、少年とシンダービーストの時間が止まった。

――ほんの一瞬だけ。

獲物を仕留めようと神獣が身を屈めた、その刹那。

少年は胸元に、かすかな希望を見つけた。

『どうしても危なくなったら、お前は逃げていいわ』

あの女が、こっそり渡してきた金色の貝。

水の精霊の力が込められたお守りだと、そう言った。

開けば、炎から身を守れる。

どうしても敵わないなら、命を失うくらいなら――これを使え、と。

その時は、使う気などなかった。

気味が悪いほど優しい笑みが、怖かったからだ。

でも今は違う。

この貝だけが、生きる最後の望みだった。

擦り剥いた両手に力を込め、少年は貝を開いてシンダービーストに向けた。

僕は、こんなところで死ぬもんか。

森が、閃光に包まれた。


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