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つき
月を見つめる女の横顔を、翁は黙って見つめていた。
言葉をかけるのをためらうほど、その姿は静かで、完成されていた。
ああ、なんて美しい。
私の娘。
胸の奥で、何度もそう繰り返す。
拾い上げた日のことを思い出すたび、奇跡だと思わずにはいられない。
この子は、天からの贈り物。
誰よりも清らかで、誰よりも儚い。
土に根を張る人の世には、本来いない存在だ。
だからこそ、守らねばならない。
そう信じてきた。
だが最近、娘の横顔には、かすかな憂いが宿るようになった。
月を見上げる時間が増え、微笑みは薄れ、夜ごと沈黙が深くなる。
翁の胸に、不安が芽生える。
理由のわからない恐れが、静かに広がっていく。
「どうしたのだ、なよ竹の……」
名を呼びかける声は、思ったより弱かった。
老いも、不安も、すべて滲んでいた。
娘は振り返った。
泣いているとも、笑っているともつかぬ表情で。
人の感情を模した仮面のようでいて、
その奥に、決して触れられぬ何かを隠している顔。
「私は、もうすぐ月へ帰らなくてはいけないのです」




