しんじつ
小鳥が一斉に飛び立った。
その羽音に気づいた少女が、女を見つけて微笑む。
「あら。そこにいるのは誰かしら」
逃げるタイミングを失い、女は頭巾を深く被ったまま口元だけで笑った。
「城の下女です。薬草を取りに」
「そうなの。ご苦労さま」
少女は疑いもしない。
身分差に、何の躊躇もない。
「ねえ、少しお話ししない? 薬草なら、あとで私も手伝うわ」
敷物を広げ、木陰に腰を下ろす少女。
女は一瞬迷い、それから頷いた。
「……はい」
「ねえ、城の人なら知っているでしょう。あの噂」
湖面に映る自分を見つめながら、少女が言った。
「噂?」
「闇色の姫様が結婚するって話。本当?」
闇色の姫。
それが自分だと、言わないわけにはいかない。
「詳しくは……ただ、聞いたことは」
少女はくすりと笑った。
「やっぱり。相手はね、アバリシア大臣の長男ですって」
「まあ……」
適当に相槌を打つ女を見て、少女は楽しそうに声を弾ませる。
「不思議よね。私、あの姫様と妙に縁があるみたい」
「……縁?」
「その大臣の息子ね、実はかなりの好き者なの」
少女は肩のショールをずらし、白い首元を晒す。
そこには、歌い手の身分に不釣り合いな金の首飾り。
女の胸が、わずかに疼いた。
「婚約してるのに、私ばかり追いかけてくるの。高価な贈り物まで。アヴェリウスと一緒ね」
「……アヴェリウス?」
女の声が、かすかに揺れた。
「戦隊長の息子よ。綺麗な顔して、野心家で」
少女は何気なく言葉を続ける。
「うまく姫様に取り入って、骨抜きにしてるらしいわ」
頭の中で、何かがひび割れた。
「龍玉も、シンダービーストの毛皮も、全部姫様に貢がせたんですって?」
くすくすと、無邪気に笑う声。
「呪われた色に生まれて、誰にも相手にされなかった女だから、ちょっと甘い言葉をかければ簡単に堕ちるって。金を生む、いい玩具だって」
――違う。
違う。
そんなはずがない。
「でもね、私、そういうアヴェリウス結構好き」
少女は笑う。
「本気じゃないけど。私は誰か一人のものになる気、ないし」
女の手が、震えた。
「……それは、本当のこと、ですか」
喉を絞り出すように問う。
「本当よ。証拠、見せてあげる」
少女は立ち上がり、敷物を掲げた。
そこにあったのは――
見覚えのある、神秘的な毛皮。
シンダービーストの毛皮。
「これ、私がねだったの」
勝ち誇った笑み。
「ね、縁があるでしょう? 姫様と私」
金色の髪が、光を弾く。
女の手の中で、天緑が微かに軋んだ。




