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しょうじょ

婚礼の準備で城は慌ただしかった。

だが女は、最近の日課を欠かさなかった。

薬草作りだ。

訓練中に負ったアヴェリウスの傷は、動かす分には問題ないものの、時折疼くらしい。

そのため、女は自ら材料を揃え、薬を調合した。

天緑――天に届くほど高く育つ緑の植物。

王家にのみ許された特別な鉢で育てると、たちまち万能薬になる。

誰にでも作れるもの。

それでも女は、どうしても自分の手で作りたかった。

そうして薬を塗り込み、アヴェリウスに触れる時間こそが、女にとっての幸福だったから。


村娘のような頭巾を深く被り、女は緑石の森へ向かった。

警備の薄い皇女だからこそできる、密かな外出。

天緑を摘み取る手つきは、もはや皇女とは思えぬほど慣れている。

その時だった。

森の奥から、澄んだ歌声が流れてきた。

透き通るようで、柔らかく、甘い。

女は思わず手を止め、歌声の方へ足を向ける。

湖のほとりで、少女が一人、歌っていた。

腰まで届く金色の髪。

森の緑を映したような明るい瞳。

――見覚えがある。

以前、城の庭で。

アヴェリウスと、あまりに親しげに笑い合っていた少女。

王室専属音楽家の娘。

歌い手見習い。

甘えた話し方。男に媚びる仕草。

女は知っていた。嫌というほど。

だが、歌声だけは違った。

透明で、疑いようのない美しさ。

以前の自分なら、才能に嫉妬し、歯噛みしていただろう。

だが今は違う。

アヴェリウスが言ったからだ。

“側にいられない苦しさを、他の娘で紛らわせていただけだ”と。

私は唯一だと。

愛しているのは私だけだと。

だから――この少女のことも、笑って許してやれる。

哀れな、身代わり人形。


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