覚悟[1/2]
探索任務のはずが、いきなり無言の狂戦士登場
→ ビル丸ごと崩壊
→ ついに真実が口から出た。
「プレイヤー同士の殺し合いが本当のルール」
もう逃げ場ない。
零、初めて人間を殺す覚悟を決めた……
――ピピピピ。
06:30。布団で目覚める。
スマホ画面、シロのアイコンが静かに点滅。
「……零、今日のクエストが来てるわ」
地図アプリを開く。
【緊急任務】
タイプ:探索
ステージ:高層ビル群・屋上エリア
目的:指定のお宝を入手
報酬:不明
失敗罰:不明
制限時間:なし
俺は眉をひそめる。
「……探索任務? 初めてだ」
シロが即座に答える。
「私も聞いたことないわ。
こんな任務、存在しないはず」
「……難易度もめちゃくちゃだな」
シロが冷静に続ける。
「あなた最近、おかしなことに巻き込まれすぎてる。
廃病院の資料、鵺の異常マッチング……
そして今度は“お宝探し”」
俺はスマホを握りしめる。
「……行くしかない」
電気消して、布団に沈む。
◇
――高層ビル群・屋上エリア。
風が強い。
眼下に広がる夜景は無限に続き、
周囲は同じような高層ビルの屋上が、
無数に連なっている。
【システムアナウンス】
『指定のお宝を入手せよ。
形状・内容は非公開。
ヒントは一切なし』
シロが呆れたように呟く。
「……無茶苦茶ね。
お宝の形も教えずに探せって」
俺は屋上を歩き始める。
コンクリートの床、錆びた給水タンク、
折れたアンテナ、風で転がる空き缶。
ギギギ……ギギギ……
背後の屋上扉が、ゆっくり開いた。
出てきたのは、
若い男だった。
20代前半。
ボロボロのジャケット。
右手に、日本刀のような武器を握っている。
顔は俯いたまま、表情が見えない。
俺は両手を上げる。
「なぁ! 参加者か?
もしそうなら武器を下ろしてくれ!
俺は敵じゃない!」
男は無言。
シロが肩から首を伸ばし、
低く言う。
「ねぇ、彼変よ。
ずっと俯いたままだわ」
「おーい! 聞こえるか!
意思の疎通ができたら手を挙げてくれ!」
男が、ゆっくりと右手を挙げる。
次の瞬間、
勢いよく振り下ろした。
キィィィン!!
空気を裂く甲高い音。
目に見えるほどの斬撃が一直線に飛んでくる。
「なっ!?」
俺は咄嗟に影を変化させ、
巨大な盾を展開。
衝撃で腕が痺れる。
「あぶねぇ……!」
シロが叫ぶ。
「感心してる場合じゃないわ!
あいつ突っ込んでくる!」
男は無言で、
一直線に俺たちに向かって疾走してくる。
「なんなんだよ、あいつは!」
「いったん退却よ!」
俺は背を向けて全力疾走。
屋上の端まで10メートル、5メートル――
止まれば即斬られる。
「ねぇ、まさか飛ぶつもり!?」
「……」
「プランはあるの――キャアアアアアアアアアアアア!!!!」
俺は向かいのビルへ全力で跳んだ。
落下しながら、
対岸のビルの壁面に映る俺自身の影を、
ネット状に変形・固定。
ズンッ!
影のネットが壁に張り付き、
衝撃を吸収しながら俺たちは壁面にしがみついた。
「一か八か……決まったぁ……!」
シロが半泣きで叫ぶ。
「やるなら先に言いなさいよ!!」
「ごめん」
振り返ると、
元の屋上の端に男が立っている。
俯いたまま、
無言で俺たちを見下ろしている。
俺は窓ガラスを影刃で割り、
ビル内部へ飛び込んだ。
暗い非常階段。
埃と錆の匂い。
シロが低く言う。
「……来てる」
瞬間、
ガシャアアアアアアアアン!!!
上のフロアから、
大量のガラスとコンクリートが割れる轟音。
「あいつ、そのまま突入してきたのか!?」
「下に降りるわよ!」
俺たちは非常階段へ全力疾走。
ズウゥゥン……
ズウゥゥン……
床全体が震動する。
「なんだこの揺れは!?」
「音が近くなってくる……!」
ドオオオオオオン!!!
天井が爆発的に崩落。
土埃と瓦礫の雨の中から、
俯いたままの男が姿を現す。
刀を振りかぶったまま、
床を踏み抜きながら降りてくる。
「あいつ、床を破壊しながら降りてきてるのか!?」
「早く! 階段を駆け下りて!」
俺は手すりを掴み、
2段3段どころか、
手すりを蹴って前転しながら落ちるように降りる。
シロが半泣きで叫ぶ。
「でも地上に降りたらどうするのよ!」
「分からない! とりあえず距離を取る!」
「今回も任務内容がまるで違う!
どういうことなのこれ!」
俺は手すりと手すりの間をくぐり抜け、
螺旋階段をまるで落下するように一気に最下階まで。
ドウゥン!!
着地の衝撃で膝が痺れる。
次の瞬間、
ドゴオオオオオオオオオン!!!
上から大量の瓦礫が雪崩のように降り注ぎ、
ビル全体が傾き始める。
「まずいまずいまずい!」
俺は正面玄関のガラスドアを影刃で一閃。
ドアごと吹き飛ばし、
道路へ転がり出る。
背後で、
高層ビルが地響きを立てて崩落していく。
轟音と土煙が街を覆う。
俺は這うようにして立ち上がり、
崩壊するビルの影から離脱。
シロが震える声で言う。
「……あいつ、まだ生きてるかもしれない」
土煙の中、
瓦礫の山がゴゴゴと鳴る。
ゆっくりと、
あの男が立ち上がった。
全身は埃まみれ、
俯いていた顔を、
初めて上げる。
「……なぜ、戦わない」
静かな、感情のない声。
「この世界にいる以上、
戦わなければならない」
俺は一歩踏み出し、叫ぶ。
「参加者同士で戦う必要が分からない!
普段の化け物から、全員で生き残るべきだ!」
男が首を傾げる。
「? 何を言ってやがる」
「あんなもんはただのモブだ。
ランキングを上げるための道具に過ぎない」
俺は息を呑む。
「……じゃあ、この夢喰いの真の目的はなんだ?」
男は、
まるで当たり前の事実を言うように、
静かに告げた。
「そんなもん、
プレイヤー同士の殺し合いに決まってんだろ」
次の瞬間、
男が地面を蹴った。
刀が、
真っ直ぐ俺の首を狙って振り下ろされる。
俺は影刃で受け止める。
ガキィィン!!
衝撃で腕が痺れる。
シロが低く叫ぶ。
「零! あいつ、本気よ!」
男は無言で連撃を続ける。
一撃ごとに、
瓦礫が粉々に砕ける。
俺は後退しながら叫ぶ。
「なんでだよ!
俺たちは同じ被害者だろうが!」
男の目が、
初めて感情を帯びる。
――嘲笑。
「被害者?
違うな」
「俺たちは“選ばれた”んだ。
最強の座を賭けて、
最後の一人になるまで殺し合う」
「それが、このゲームのルールだ」
シロが震える声で呟く。
「……零。
あいつ、完全に洗脳されてる」
男が刀を構え直す。
「どうやら今回はお前を殺せば、俺は次のステージに上がれるらしい」
俺は影刃を握りしめ、
「クッ・・・やるしかないか」
男が、
初めて笑った。
「さぁ、
やりあおうか!」
風が止む。
瓦礫の上で、
俺と男は向き合う。
シロが、
掠れた声で言う。
「……零。
こいつを殺さないと、
私たちはここから出られない」
俺は、
静かに呟いた。
「……分かってる」
――第5話・前編 完――
「最後の一人になるまで殺し合う」
これが夢喰いの真実だった……
相手は完全に洗脳済み。
「観察者は俺に言った。お前を殺せば次に上がれるって」
零、もう後戻りできない。




