虚像と実像[1/2]
夢で見た扉が、現実にもあった……
虚像と実像の境界が、崩れ始める。
使徒の正体が少しだけ……!?
――ピピピピ。
06:30。俺は布団から起き上がった。
腕の筋肉がまだ疼いている。
昨夜の航希の叫び声が、耳に残っていた。
スマホを握り、通知を確認する。
同僚からのLINE。昨夜の飲み会で送られてきたSNSスクショだ。
「霧島、これ見てみ。最近バズってる心霊スポットだってさ。ヤバくね?」
添付画像は、廃墟と化した古い病院の内部写真。
崩れた壁のひび割れ具合、埃まみれの非常灯の位置、床に転がった点滴スタンドの角度……
すべてが、俺のスマホ地図アプリに表示された今日の担当エリア「廃病院・地下3階」と完全に一致していた。
「空似じゃない……」
半年間、このゲームで見た廃墟は、現実のものと微妙に違うディテールがあった。
ガラスの割れ方、コンクリートの崩れ具合、錆の食い込み方。
だが、これは違う。
現実の場所が、夢のバトルフィールドに使われている。
心臓が早鐘のように鳴る。
確かめに行かないと、今日の夢が始まる前に気が済まない。
スマホの地図アプリを開く。
「廃病院・地下3階」はまだ赤く塗りつぶされていない。
今日のクエストだ。
「……行くか」
深呼吸して、目を閉じる。
◇
――意識が落ち、廃病院・地下3階に到着。
空気は重く、腐臭と消毒薬の残り香が鼻腔を刺す。
壁はカビだらけ、天井からは水滴がポタポタ落ち、床は血痕と蜘蛛の糸で覆われている。
【システムログ】
本日の参加者:462名
クエスト:廃病院・地下3階の毒蜘蛛群を全滅させろ
討伐対象:78体
「また蜘蛛か……」
廊下の奥から、ガサガサという無数の足音。
大小さまざまな毒蜘蛛が、天井や壁を這いながら一斉に襲いかかってくる。
俺は影刃を生成。
戦闘記憶が自動で起動し、過去の蜘蛛パターンが頭に線として浮かぶ。
最初の波、10体。
跳躍してくる奴の軌道を読み、横に滑って複眼を一閃。
背後から来る3体は、後ろ手で連続斬り。
毒の霧が噴き出し、皮膚がチリチリ焼ける感覚。
だが、慣れた。息を止め、霧の濃度を予測して前進。
20体目あたりで、上位個体が混じり始める。
体長2メートル、黒い棘を飛ばしてくるタイプ。
棘が耳元をかすめ、壁に突き刺さる。
「近いな」
棘の軌道を記憶に刻み、次の1体を脚から薙ぎ払い、複眼を粉砕。
残り30体。連携パターンが複雑化するが、戦闘記憶の予測率80%で外さない。
毒霧が視界を覆う中、最後の一体を貫く。
【システムアナウンス】
『廃病院・地下3階 全滅確認
クエストクリア』
静寂。
……が、いつもの白い光が来ない。
強制目覚めが、訪れない。
「どういうことだ……?」
◇
周囲を慎重に見回す。
倒した蜘蛛の死骸が霧散し始め、床が元のコンクリートに戻る。
すると、奥の壁に――
これまで一度も存在しなかった鉄の扉が出現していた。
重厚な鋼鉄製、錆びた取っ手、表面に奇妙な刻印。
半年で182エリアクリアしたが、こんなものは見たことがない。
地図アプリを呼び出す。
【システムマップ表示】
担当エリア「廃病院・地下3階」は赤く塗りつぶされかけているが、扉の先は真っ白。
システム上、**存在しない空間**だ。
「隠しエリア……?」
好奇心と警戒心が交錯する。
無視して帰る選択肢もあるが、航希の死以来、何か「変わり目」を感じていた。
影刃を長く伸ばし、錠を破壊。
無理やり扉をこじ開ける。
ギギギィィィィッ!!
金属の軋む音が響き、向こう側が露わになる。
薄暗い資料室だった。
埃まみれの机の上に散乱する黄ばんだファイル束、無数の写真が壁にピンで留められ、中央に埃をかぶった古いモニター。
空気がさらに重い。
何かの予感がする。
一歩踏み込んだ瞬間――
【システム音声 異常】
『ギギ……ギギ……強制覚醒まで……残り30秒……ノイズ……』
システム音声が初めて乱れる。
視界の端が歪み始め、吐き気がこみ上げる。
慌てて床に落ちた一枚の写真を拾い上げる。
写っていたのは、
**現実世界の廃病院入り口**。
崩れた門、雑草だらけの敷地、遠くに見える同じ非常灯。
そして、入り口のコンクリートに赤いマジックで殴り書きされた――
【警告】
写真の裏に、手書きの小さなメモ。
次の瞬間、世界が白く染まった。
――ピピピピ。
06:30。布団の中で目覚めた。
汗でびっしょり。
◇
「……マジかよ」
写真の住所をGoogleマップで検索。
同僚が送ってきたSNSの心霊スポットと完全に一致。
都心から電車で1時間半の、立ち入り禁止の廃病院。
「夢の場所が、現実にある……」
今日は完全に会社をズル休みした。
上司に「体調不良」と適当なメールを送り、即座に支度。
電車に揺られながら、写真を何度も見つめる。
SNSの投稿者は「超ヤバい心霊スポット」とキャプション。
コメント欄は「ガチ怖い」「行ってみた人いる?」で溢れている。
午後2時、現地到着。
廃墟の入り口は、写真と寸分違わない。
雑草が膝まで伸び、風が不気味に吹き抜ける。
スマホが震えた。
画面に赤い文字が浮かぶ。
【警告】
心臓が止まりそうになる。
夢と同じ警告。
意を決して中へ。
階段を降り、地下3階まで。
埃っぽい廊下、チカチカする非常灯。
夢と現実の境目が溶けていく。
そして、あった。
”鉄の扉”
夢で見たのと完全に同じ錆び方、同じ傷跡、同じ刻印。
持ってきたバールで錠を破壊。
ギギギィィィィッ!!
扉の向こうは、夢で見た資料室と完全に一致していた。
散乱するファイル。
壁いっぱいの写真。
中央のモニター。
俺は震える手で一枚のファイルを手に取った。
表紙に書かれていたのは――
『夢喰いの使徒 任務概要(抜粋)』
埃を払い、読めたのは最初の数行だけ。
『使徒とは、プレイヤー同様にシステムから任務を与えられた存在。
主な役割:指定エリアのプレイヤー妨害、魂回収補助。
任務報酬:生存延長、スキル強化。
選抜基準:――――――(以下破損)』
「使徒が……俺たちと同じ……?」
その瞬間、スマホが激しく震えた。
【警告】
虚像(夢)と実像(現実)が完全に重なった。
そして、使徒はプレイヤーと同じ……
続きは【第3話・後編】「虚像と実像――使徒も“任務”を抱えていた」で!




