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旧都心ラインの影

――ピピピピ。

アラームが鳴る。

目を開けた瞬間、昨日の“使徒”の複眼が脳裏に浮かんだ。

「……あれ、本当にヤバかったな」

戦闘記憶がエラーを吐いたのも異常だ。

今までの大型個体とはまるで格が違った。

とはいえ、考えても仕方ない。

起きる。会社行く。帰る。寝る。

寝ればまた戦場だ。

スマホを見る。

【累計クリア:183】

【新規エリア開放:旧都心ライン】

「地下か……嫌な予感しかしない」

仕事を終え、風呂、飯、最低限のタスクをこなす。

深夜、布団に沈む。

「……よし、こい」

意識が落ちる。

――気づけば、古びた地下鉄ホーム。

蛍光灯がチカチカ点滅し、湿った空気がまとわりつく。

【クエスト】

エリア「旧都心ライン」

討伐対象:徘徊者

数:不明

「数不明はやめろ……」

影刃を纏わせ、柱の陰を探る。

カサ…ッ。

細長い影。徘徊者だ。

距離を詰め、複眼へ一撃。

「1」

人型に近い体が崩れ落ちる。

階段を降り、暗いトンネルへ。

何かが足に当たる。折れたナイフ。

血がついている。乾いてない。

「最近使われた……つまり参加者が来てる」

半年やって初めての痕跡だ。

――その瞬間。

【警告】

近距離に“曖昧な反応”

識別:不明(参加者/異形)

「曖昧ってなんだよ……」

ガリ……ガリ……。

金属を引きずる音。

速い。

だが使徒みたいな“異次元”じゃない。

俺は一歩横に滑り、すれ違いざまに斬りつける――

カンッ!!

刃が弾かれた。

「は?」

光に照らされたのは、金属バット。

続いて姿が現れる。

黒いパーカー、ボサボサ頭。

険しい目つき。でも、その奥に怯えが混じっていた。

「……お前、参加者か?」

バットの先がかすかに揺れる。

「近づくな」

声は低いのに、震えている。

相当追い詰められてるな。

「俺は敵じゃない。参加者だ」

影刃を解除し、両手を見せる。

男はすぐには信じなかった。

だが、構えはほんの少し緩む。

「……参加者同士が、本当に会えるなんて……聞いたこともねぇ」

「名前は?」

と聞こうとしたところで、

「待て!後ろ!」

反射で振り返る。

ガアアアアッ!!

壁から徘徊者が飛び出してきた。

「クソッ!」

影刃を再生成し、複眼を潰す。

だが――

左右、天井、床。

影が次々と這い出てくる。

「多っ!?」

俺は前へ走り込み、徘徊者を切り捨てていく。

後方では男がバットを必死に振り回していた。

荒いが、当て感は悪くない。

何より、とにかく“死ぬ気で生き残ろう”としている。

「やれるじゃねえか!」

「やれてねぇよ! マジで死ぬ……!」

10体、15体と倒し続けると――

奥の闇が揺れた。

デカい。

腕が刃のように長い。

徘徊者の“上位個体”。

「おい! ヤバいやつ来るぞ!」

「見りゃ分かる!」

上位個体の腕が振り下ろされる。

重い。

影刃ごと押される。

ギギギギッ……

男が叫んだ。

「下! そいつ足元弱い!」

見ると、たしかに脚だけ妙に鈍い。

「ナイス!」

俺は迷わず脚へ滑り込み、刃を突き立てる。

体勢が崩れた瞬間、

複眼へ連撃を叩き込み、頭部を粉砕。

上位個体を撃破。

ドサッ。


【システムアナウンス】

『旧都心ライン 徘徊者 殲滅確認

 クエストクリア』

男はその場にへたり込む。

「……生きた……」

「お前が声かけてくれなかったら死んでた」

「いやいや、ほぼ俺叫んでただけだし……」

「叫びの質が良かった」

少し笑みが漏れる。

半年ぶりに、誰かと笑った。

男は立ち上がり、震える声で言った。

「……相羽航希あいば こうき

 一週間前からずっと、一人で動いてた」

「霧島零。半年だ」

「半年……化物かよ……」

驚きと、安心が混じった顔だった。

「……その。

 よかったらでいいんだけど」

航希は視線をそらしながら言う。

「一緒に動かないか?

 俺、一人じゃ――」

その瞬間、航希の動きが止まった。

「……あれ?」

彼の腹部から、黒い棘が突き出ている。

――いつ?

俺は即座に周囲を見回す。

敵はいない。

上位個体は確かに死んだ。

複眼は完全に潰れて、動いていない。

なのに。

航希が膝をつく。

「航希!?」

駆け寄ると、

彼の腹から紫色の毒が広がり始めていた。

「いつ……食らったんだ?」

航希は苦しげに笑った。

「……さっきの……上位個体の……最後の振り下ろしで

 俺、ちょっと……掠っただけ……だと思って……」

確かに、さっきの重い一撃。

俺は脚を狙って体勢を崩したけど、

その時に飛んだ毒の破片が航希をかすめたらしい。

気づかなかった。

「毒消しとか……ないよな……」

航希は自分の腹を見下ろし、

小さく笑った。

「……やっぱ、一人は……

 無理だったか……」

血の泡を吹き、

航希は前のめりに倒れた。

【システムログ】

参加者 相羽航希 死亡確認

魂喰い完了

俺は、初めて

夢の中で誰かの死体を抱えたまま、

動けなくなった。

強制目覚めの光が差す。

――ピピピピ。

06:30。

アラームと同時に目覚める。

布団の中で、

俺はまだ航希の名前を呼んでいた。

スマホの地図アプリ。

「旧都心ライン」が赤く塗りつぶされた。

勝った。

エリアは制覇された。

到底満たされた気分にはならない。

最悪な気分で一日を迎えた。

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