僕と幼馴染の彼女との日々
教室の窓から見える空は、相変わらず特に変わり映えのない景色だ。 そして、それは教室の中も同じだ、教室の一角に、いつも群がる学生たち、その中心には彼女ーー小川瑞希が居た。
彼女はクラス⋯⋯何処か、この学校の中で彼女のことを知らない人が居ないのではないかと、言うぐらいの人気者だ。 クラスで特に仲がいい女子達が彼女に話かける。
「おっす瑞希! 今日も可愛いなぁ」
「おはよう、そんな~環奈の方が可愛いいよ」
「またまた、瑞希の前では、私達は霞んでしまうわ」
「そんなことないよ~葵の方が可愛いいよ」
彼女達ーー福田環奈と松田葵を始めとするクラスの女子達が朝から彼女を中心に集まっていた。 どうやら彼女の何処かのんびりとした様子や仕草が好印象なんだそうだ。 それにしても、福田と松田! お前ら彼女と距離が近すぎないか、もう少し離れて欲しいのだが⋯⋯。
授業後の休憩時間、今度は男子が彼女に話かけていた。
「小川さん、ちょっといいかな、授業の中でわからない所があってさ、教えてくれると助かるな」
「うんいいよ~どこどこ⋯⋯ああこれはね~⋯⋯こうすればわかりやすいよ~」
「ありがとう! 何時もわかりやすく教えてくれてさ」
「気にしないで~、わからないことがあったら、いつでも聞いてね~」
あいつーー大木勝也がまた、彼女に話かけている。 お互いにニコニコしていて、とてもいい雰囲気だ⋯⋯なあ大木よ、まだ目の前に先生がいるぞ、直接本人に質問しに行けばいいのに。
放課後、彼女がカバンを持ちながら歩いていたら、通行人である生徒たちは様々な反応をとる。 彼女に声をかける奴、彼女を見て声援をあげる奴。 そして、それに笑顔で答える彼女、そしてそれを見て喜ぶ奴ら⋯⋯アイドルなのか? 一般人だぞ彼女は。
学校で何時も誰に対しても笑顔で親切な彼女、そう⋯⋯僕を除いて誰にでも。
僕ーー田中拓海は放課後バイトへ向かう。 内容は頼まれた作業をこなすだけ、時間が来れば次の人と交代して帰るだけ⋯⋯まるで自分をあらわしている様だ。
さて、そんな僕だが、高校入学を機に親から条件付きで、実家を離れて暮らしている。 理由は、早く自立した大人になりたいからだ。 そのはずだったのだが、その条件が⋯⋯
僕は玄関のドアを開けて中に入り前を見る⋯⋯そこには真顔で学生服にエプロンを掛けた彼女が立っていた。
「おかえりなさい、拓海」
「ただいま~瑞希⋯⋯あのさ、なんで毎日玄関の前に立っているの? 部屋でゴロゴロしときなよ~」
「私がそうしたいだけですから。 それより拓海、ご飯にしますか、お風呂にしますか」
「ご飯かな~」
「はい、わかりました⋯⋯すぐに食卓に並べますのでテーブルの前でお待ちください」
彼女ーー小川瑞希はそう言うとキッチンへ向かった、僕も一緒に運ぶと言ったのだが、瑞希は首を縦には振らない。 仕方なく僕は彼女の指示通りにテーブルの前に座る。 何時もこうだ、これは今に始まった事ではない。 覚えている限りずっと変わらない⋯⋯僕は待っている間、彼女との日々を思い出していた。
「おはよう~瑞希、今日も可愛いね」
「はい、そうですか」
「わぁ~瑞希は料理作るの上手だね、きっと将来立派なお嫁さんになるよ」
「そうですか」
「瑞希~勉強が難しくてわからないよ、教えて~」
「はい、わかりました」
「ありがとう瑞希! 全然わからなかったからさ~、助かったよ」
「はい、そうですか」
「瑞希はいいのか? 僕と同居なんて⋯⋯一緒に親を説得しようよ~」
「いいえ」
「なんで! どうして! 理由を言ってよ~」
「そうですね」
「そうですね、じゃなくてさ~⋯⋯はぁ、もういい。 どうなっても知らないんだからね!」
「そうですか」
僕が何か言っても、何時も真顔で「そうですか」ぐらいしか言わないんだから⋯⋯話かけている僕としては、複雑な気持ちだ。
「お待たせしました、拓海」
「あ、うん、いただいたます~」
「どうかしましたか」
「なんでもないよ~、それよりも今日は何時もより料理が美味しいな~、瑞希料理さらに上達した?」
「そうですか」
ずっとこんな関係なのかな⋯⋯僕はそう考えていた。
今日は特にクラスの連中が騒がしい。 嫌でも耳に入ってくる話題に僕の心はざわついた。
「ついに勝也が小川さんに告白するらしいぜ!」
「あの二人、何時も楽しそうに会話してたから、このまま付き合うかもね」
「俺の瑞希ちゃんが彼氏持ちになるのか、まぁ関係なくこれからも推すけど」
「ちょっと、いつからあんたの瑞希になったのよ、私のよ!」
本当に騒がしい⋯⋯僕は別のことを考えることで気持ちをごまかそうとしたがうまくいかず、放課後のバイト中も動揺していた。
帰り道、僕は公園のベンチに座り考えていた。 瑞希に彼氏か⋯⋯そうだよな、僕よりも大木勝也の方が瑞希は幸せかもしれない。 僕は家に帰って瑞希にどんな顔をして、会えばいいのかわからなかった。
悩んでいる内に、気付けば日付がかわりそうになっていた⋯⋯もうこんな時間だろう、瑞希は寝ている。 明日は学校もバイトも休みだし、明日考えようと思い、立ち上がって帰った。 真っ暗な玄関のドアを開けた瞬間⋯⋯僕は驚き固まってしまった。 瑞希は何時も通りそこに真顔で立っていたのだ、そして瑞希は言う。
「おかえりなさい、拓海」
「え!あ、その⋯⋯ただいま瑞希」
「拓海、ご飯にしますか、それともお風呂ですか」
「ご飯⋯⋯え、いいよ自分で用意するから」
「私もご飯がまだなので」
「まだ食べてなかったの! こんな深夜なのに?」
「はい、そうですね」
「そんな⋯⋯瑞希、疲れているよな。 それに彼氏も出来たんだろ? 学校で話題になってたぞ」
「わかりません」
「ほら大木勝也だよ、告白されたんだろ」
「断りました」
「え!そうなの、二人はお似合いだってクラスの人たちが話ていたからさ⋯⋯ごめん勘違いしちゃたね~」
「それよりも、拓海」
誤解だったんだ、心の中で安心していた僕に、彼女はこう言ったーー明日私は買い物に行くと。
次の日の朝、僕は布団でのんびり寝込んでいた、久しぶりにダラダラ出来る。 そう幸せを噛み締めていた時、ドアのノックの音がした。
「おはようございます、拓海」
「おはよう~瑞希⋯⋯昨日は本当にごめんね」
「朝ご飯の準備ができました」
「え! 瑞希昨日遅かったしさ~、もっとゆっくりしようよね~」
「用意ができました、行きましょう、拓海」
「へぇ? わかったって! 行くから~無理に引っ張らないでよ~お願いだから!」
テーブルに食事が並ぶ⋯⋯今日こそはと思い、手伝おうとしたがーー座ってくださいとしか言われず、渋々席に座っていた。 何時も通りだ⋯⋯何時も同じと言えば彼女の服装もだ、休日なのに制服にエプロン姿⋯⋯もちろん僕は毎回、そのことに疑問をもっているし、本人に直接言っているのだが、瑞希は理由を言わない⋯⋯まあこれは昔からそうだし、今更な話ではあるが。 でも僕は知っているぞ、瑞希は学校か僕が居る時以外は私服だってね。
「今日も美味しいよ~瑞希! やっぱり瑞希の作るご飯は最高だね」
「そうですか」
「そうだよ~、毎日瑞希の作るご飯が食べたいもん」
「そうですか」
食事が終わり、今度こそダラダラしようと、部屋に戻ろうとした時、瑞希が話かけて来た。
「買い物に行きます、拓海」
「うん、気をつけてね~」
「行きます、拓海」
「うん? だから気をつけて⋯⋯なんで引っ張ってくるの! ねぇ?」
僕たちは近所のショッピングモールに到着した。 なるほど、荷物持ちだね納得、昨日の件の償いも兼ねてね。
そして瑞希について行く⋯⋯最初の目的地は屋上のようだ。 瑞希の髪が風に吹かれ、柔らかく泳いでいた。
「拓海、ここです」
「いい雰囲気のカフェだね、今日は天気もいいから見晴らし最高だね」
「そうですね」
「それで、何を頼むのかな?」
「はい、これです」
「えっと⋯⋯ハッピーラブラブデートパフェ? すごい名前のパフェだね~」
「そうですか」
「そうだよ! まぁ瑞希が食べたいなら頼むか⋯⋯すみません店員さん」
「いらっしゃいませ! お客様、ご注文はお決まりでしょうか」
「はい、えっと~こちらのハッピ⋯⋯」
「ハッピーラブラブデートパフェを一つお願いします~、それでスプーンは二つくださいね~」
「へ? えっと、あとそれとホットコーヒー二つお願いします」
「はい、ご注文いただきました⋯⋯ハッピーラブラブデート一丁」
『ハッピーラブラブデートイチャイチャ』
突然、店員さんだけではなく、周りの人達が一斉にパフェの名前を言い出した、どうやらこれがこの店では名物らしい、お陰で僕の顔は真っ赤だよ⋯⋯
会計の時も、店員さん達に微笑まれてしまったよ⋯⋯うん気持ちを切り替えて今度こそ荷物持ちだね。
「ここです、拓海」
「えっと『恋愛神社~参拝したら皆結婚』⋯⋯すごいキャッチフレーズだね」
「次はここです、拓海」
「なになに『誓いの泉~生涯永遠に離れない』⋯⋯瑞希このショッピングモールおかしいよ~」
おかしなことは他にもある、さっきから色々な場所に行っているのに、荷物が増えないのだが。
「瑞希、僕は力持ちだからね! だからどんどん買い物してね~」
「そうですか」
「うんそうだよ、だってその為に僕を呼んだよね」
「なんのことで⋯⋯」
「あれ!瑞希じゃん。 こんな所で会うなんて奇遇だね」
「こんにちは瑞希。 所でどうして制服なの学校帰り?」
不意に現れたのは、福田環奈と松田葵だった。 僕は気付かれないように三人から離れて様子を伺った。
「よし! じゃあこれから三人で遊ぼっか、何処行く?」
「屋上のカフェ行きたい、あそこの名物のパフェ食べにいこ」
「賛成、わたし達イチャイチャだから問題ないよね、瑞希!」
「環奈、葵、ごめん~、今日はついでに来ただけだから~、また今度ね」
「え~残念。 しょうがないか。 葵、二人でパフェ食べに行くか」
「そうだね、じゃあまた学校でね」
瑞希がこっちに来る、僕は思ったことを彼女に言った。
「いいのか? あいつらと一緒に遊びに行かなくて」
「はい」
「そうか、じゃ~また会ったらまずいし、さっさと用事済ませて帰るか!」
「終わりました」
「へ? 荷物になる物まだ買ってないけど?」
「帰ります、拓海」
「わかったから~そんなに引っ張らないでよ、お願いだから」
荷物持ちじゃないって、じゃあなんの為に来たんだ。 これじゃただのデートじゃん、僕は恥ずかしくなって瑞希を見れなかった⋯⋯だから気付かなかった彼女の異変に。
次の日、僕はバイト先に行って事情を説明して休みを貰うことができた、ついでに買い物をする。
僕たちが昨日、帰った後、瑞希の様子が明らかに、おかしかったのだ⋯⋯どうやら無理をして体調を崩してしまったらしい。
たたでさえ学校で毎日頑張っているのに、僕の世話までしてくれていた瑞希、彼女の看病をするのは当然のことだ。
「ただいま~瑞稀! 帰ったぞ⋯⋯大丈夫か?」
「びく! 拓海? え、どうして⋯⋯バイトに行ったはずでは」
「休みをもらってきた、こんな状態のお前を放ってはおけないからな」
「こちらを見ないでください、拓海。 着替えたのは失敗でした」
「へぇ珍しい⋯⋯いや初めてじゃあないか僕の前では」
「私のこだわりが、帰ってくる前に着替えればいいと思ったのに、今すぐに着替えます」
「いや着替えなくていいから~と言うか~瑞希が普段どんな服着てるかなんて洗濯物を見たらわかるから~」
「なんですって、盲点でした、しかし私にはこれは大切なことで⋯⋯」
「はいはい早く寝何処に行きましょね~」
今日の瑞希は体調が悪いせいか、よく喋るし、顔もコロコロ変わるからいいなぁ。 昔、瑞希が風邪を引いた時なんかは面会謝絶だったからな⋯⋯その癖僕が体調を崩した時は何時も看病にくるんだから。 よし今日はしっかり看病するぞ。
「拓海、心配ありません。 自分で歩けますから、ほら⋯⋯あれ」
「ふらふらじゃないか、ほら~布団まで運ぶぞ」
「やめ⋯⋯ああふぅ」
「よし、到着っと! あれさっきより顔が赤いぞ」
「ふぅ⋯⋯これは体調不良と関係ないことですので、心配しないでください」
瑞希がそう言うなら問題ないか。 僕は料理に取り掛かる⋯⋯どれどれお味は、まあ僕にしてはうまく出来たじゃないか。
「さあ~瑞希、お粥作ったよ~ 。 やっぱり体調が良くない時の定番はこれだよね! はいあ~ん!」
「あ、いえ、その自分で食べますのでお気遣いなく」
「そんなこと言わずに! さぁ~あ~ん」
「ひぃ、ふぅふぅふぅ」
「あれ、美味しいくなかったのかな⋯⋯どれどれ~うん美味しいね。 はいあ~ん」
「へ、あのそれは!⋯⋯ふぅふぅ⋯⋯とても美味しいです、拓海」
満足してもらえてよかった、じゃあ次は⋯⋯
「瑞希、ご飯を食べたから眠たくなってきたよね!」
「いえ、むしろ目が覚めました」
「えぇ!そんな!⋯⋯でも大丈夫、僕が今から子守り歌を歌ってあげるからね~」
「はい? いいえ、お構いなく⋯⋯私はもう大丈夫ですから」
「ねんねんころりよ~寝転びよ~瑞希は良い子だねんねしな~」
「私の言うことが聞こえてますか、拓海」
「寝転んだなら、おやすみ⋯⋯ぐうぅ」
「拓海が寝るのですか? まったくもう⋯⋯おやすみなさい、拓海。 ありがとうございます」
あれ⋯僕いつのまにか寝てた。 瑞希はいない、僕はキッチンへと向かった
「おはようございます、拓海」
「おはよう~瑞希!大丈夫?」
「はい、おかげさまで体調は良くなりました」
「そうか~よかった! でもまだ病み上がりだから~無理したら駄目だよ!」
「それよりも拓海、お話があります」
「うん!どうしたの~瑞希」
「今後は、わざわざバイトを休んで、看病してもらわなくても大丈夫です。 私なんかの為にあなたの時間を浪費させるのは⋯⋯」
「なんかじゃないよ~瑞希! 瑞希は僕にとって大切な家族なんだから!」
「家族⋯ですか」
「そう!だから~これからもよろしくね!瑞希」
「ふぅふぅふぅふぅ」
「あれ~瑞希、熱まだあるじゃないか!すぐ運ぶね」
「ふぅ⋯⋯え! あの結構ですから⋯⋯本当に大丈夫だから、心配しないで拓海!」
今日も瑞は休みだな⋯⋯学校に連絡しておこうっと
今日も教室から見える景色は変わらない⋯⋯いつもと同じだ。
「今日、瑞稀休みか⋯⋯残念だな」
「体調不良の為、だそうよ、何時も頑張っているからな」
「小川さん、早く元気になるといいな」
「俺の瑞希は何時も心の中にいるから問題ないよ」
クラスの連中が瑞希が休みの件について話ていた⋯⋯最後の奴は僕一言言った方がいいかな
学校が終わり放課後、バイトへ行く。 昨日、突然休みをもらったぶんしっかりと働いた。 向こうは全然気にして無いどころか、何かあったら休んでいいと言ってくれた⋯⋯本当にありがたい話だ。
そして、何時も通り、玄関のドアを開けて⋯⋯中をみた僕はドアを閉めた。
「おかえりなさい、拓海⋯⋯どうしたのでしょうか、何故ドアを閉めたのです?」
「えっといや、なんとなく」
「そうですか」
「そういえばどうだ⋯⋯体調は良くなったか」
「おかげさまで」
「それはよかった、じゃあ明日は学校に行けるな」
「そんなことより、拓海。 ご飯にしますか、お風呂にしますか⋯⋯」
瑞希は僕をじっと見つめてくる、そんなの答えは決まっている僕の答えは⋯⋯




