同僚⑤
日課の連絡通路の掃除!
…なのだが…
「知らない奴!知らない奴!」
「うるさい奴!うるさい奴!」
「っんでオレがお前なんかと一緒にやらなきゃなんねぇんだよ!そのゴブリンども黙らせろ!」
「あ、アンデイルさん、どうどう…」
「くそっなんなんだよここ!なんでこんなにだだっ広いんだよ!」
「それは私のせいじゃないです」
何故か今日から連絡通路の掃除担当が2人になったのだ。
ライルさん…ルンバさんに言われたこと間に受けたのかな。
私は固定だがもう1人が日替わりで、本日はアンデイルさん。
狼の尻尾と耳の生えた気性の荒い男がお供である。
よりによって初日この人…
「ったく…今まで1人でやってたんならそれでいいだろが…んでオレが…」
ぶつぶつ消えない文句を垂れ流しながらモップを雑に濡らすアンデイルさん。
「あっ待ってくださいアンデイルさん!」
「ああ?」
「中央通路の掃除は最後の方がいいんです」
「あ?なんでだよ」
「一番人が通るのでかなり汚れてるんです。雑巾がダメになっちゃいますから最後です」
「ぞーきん?なんだそれ。なんかの菌か」
え、雑巾知らないの?
箒とかモップはバリバリ現実世界の物なのに…雑巾だけないの?変なの。
「濡らした布で汚れを擦るんです」
「あ?水モップで全部擦ればいいだろうが」
もーなってないなぁ。
「いきなり水モップかけたらすぐにモップが汚れきってしまいます。まずは箒である程度のゴミをとってからモップ。で、最後に濡れ雑巾でこべりついてる汚れを擦り取るんです。本当はスポンジとかあれば…」
「は、はぁ?なんだその手間…そんなことやってたら日が暮れるだろうが!」
「ここは全ての国に繋がる入り口です。綺麗にする価値と意味のある場所です。毎日いろんな人を見送って汚れてるんだから毎日綺麗にするんです!」
「毎日…って毎日か!?」
はぁ?毎日以外のエブリデイがあるか。
「アンデイルさんは連絡通路の掃除やったことあるんですか?」
「あるわけねぇだろこんなダルいとこ。いつもやめて欲しいやつに押し付けて…あ」
「……」
アンデイルさんが口を押さえる。その行為が余計抉ってくるが…。
まあいい。そんなこと言われなくてもわかっている。ただ言葉にされるとムカつくだけだ。
「ふん、別に気にしてませんけど?」
「ふ、ふん。何強がってんだよ」
「強がってませんし。それに私連絡通路の掃除だるいなんて思わないんで。残念ながら私をやめさせるのは大変だと思いますよー」
べっと舌を出してやる。
「…クソ人間」
あー!
言いやがったなぁ!
「くそオーカミ」
「あ"あ?」
ぱ、パワハラ〜
たしけて〜
「チッ…埒が明かねぇ。さっさと終わらせろ」
「おーせのままにー」
「くっそやろ…」
わかってきたぞ。
アンデイルさんに対しては、無駄にガン飛ばしてるからと言って怖気付いてはいけない。
現実世界のコンビニに生息するヤンキーみたいなタイプだ。恐れれば恐れるほど調子に乗る。
「アンデイルさんはそこで見ててください。次回からできるようにっ」
「言われずとも見張っててやるよ。クソ人間がヘマこかないようにっ」
けっ。
なんだ、私がビビってただけか。
未知のルンバさんに比べれば可愛いもんよ!
私はいつも通り淡々と仕事をこなすだけ。
「おい人間」
「…なんですよ」
掃除を始めて間も無く…。
すぐさま茶々を入れてきたのかと思ったが。
「その箒、おかしくね?」
「え?いつも使ってる私の箒ですよ?元は用具倉庫にあったやつです」
毎日使っているお気に入りのMy箒。
柄が細くて軽めなのでかなり使いやすい。
長持ちするようにちゃんと手入れもしている。
「は?そんなのねぇよ」
「なっありましたよ!別に嘘ついてないし」
「ねぇよ、倉庫にある箒は全部同じ種類のはずだ」
「そんなこと言われても…私は倉庫にあった箒の中から適当に選んだだけです」
何一つ嘘は言っていないが。
「なんで木製のはずの箒の柄がそんなに黒いんだよ。しかも普通のより断然細ぇじゃねぇか」
「知らないですよ!集中できないんで黙っててください!」
「あぁ!?先輩に向かってなんだとこの野郎!」
「ここの掃除に関しては私が先輩ですー!」
はい遮断遮断!
手際よくゴミを集める。
…灰色の毛がいっぱい落ちてる。絶対アンデイルさんのだ。
あーもう!毛が軽いからゴミが舞い上がっちゃうじゃん!
あ、そうだ!こんな時はアレを使おう!
「おい人間」
「…」
「おいクソ人間!」
「あーもっなんですか!」
遮断を突破してきやがった。
「何してんだよ。なんで自らゴミ撒いてんだよ」
「ああ、これはゴミを撒いてるわけじゃなくて、比較的軽いチリや毛!を…誰のとは言いませんが…毛!みたいな舞い上がりやすいゴミを効率よく集める方法なんです」
「は?なんでくしゃくしゃに丸めた紙玉を撒いたら効率よくなるんだよ。ゴミが増えるだけじゃねえか」
ふっ…
これだから異界の人はなっちゃいねぇなあ!
「これはただの紙切れじゃなくて魔法の紙切れなんデース」
「魔法だと?」
「見ててくだサイ。このふわふわ踊る毛!のようなチリゴミの近くにーこの魔法の紙を落としマース」
「ほう」
「そして箒で掃けば…」
「うおっチリカスが紙にくっついた!?」
「こうすることで舞い上がりやすい小さなゴミも毛!も綺麗にまとめられるのです!」
「おっお前人間のくせに魔法使えんのかよ!」
くっくっくっ
単純なワンちゃんだことっ
「なんてね。魔法じゃないですよ」
「え?」
「この紙玉に霧吹きで水をかけただけです」
「は?水?」
「はい。濡らした紙を撒いてゴミと一緒に掃けば、チリも毛!も湿ってくっつくからこうして簡単に集められるんです。魔法じゃなくて豆知識!」
「豆知識…」
あ、やば。怒った?
からかったようなもん…?
こ、殺される?
「人間…」
「は、はぃ…」
ギラリとアンデイルさんの目が光る。
「お前すげぇな!」
「え?」
「世間はこれからの時代は魔法だとかほざいてるけど魔法じゃこれはできないぜ!ハッ!魔法なんて大したことねぇな!」
おおー。
興奮気味のアンデイルさん。目がキラキラしている。
そういえば…獣人は人間同様魔法が使えない種族だから魔法を毛嫌いしてるって聞いたことある。
時代は魔法か…。
なるほどぉ、この世界は魔法が使える種族と使えない種族がいるからそういう差別の問題もあるのかな。やっぱどこでも多様性って大事。
「お前の掃除ずっと見てたけど、魔法使う奴らなんかより断然綺麗だし早いし…やるじゃねぇかお前!」
「そ、そうですか?」
なんだなんだ?
なんか急にキャラがブレてきたぞ?
「見事な腕前だ!まあお前生意気だから言わなかったけど」
「それはアンデイルさんが喧嘩腰だからですよ」
「じゃあオレが喧嘩腰じゃなかったら生意気じゃなくなる?」
黄色い目をきゅるんっとこちらに向けてくる。
私より背が高いはずなのに子犬に見える…
狼も似たようなものなのか?
「もちろんですよ」
「じゃあ喧嘩腰やめる!」
あ、あっさりだ…
なんだったんだ…今までの態度は…。
そんなに魔法が嫌いかい君は。
「オレにもその豆知識とやらを教えてくれ!」
「良いですけど…でもアンデイルさんって人間…というか私の事嫌いなんじゃないんですか?」
「え?」
「だってクールオンやめさせようとしてたし、人間は弱小種族だから…」
言ってて気持ちの良いことでもないが。
しかし私を見るアンデイルさんの目はきょとんとしている。
「はあ?獣人族が人間を嫌うわけないだろ」
「え?」
「なんだ知らないのか?獣人族と人間族は長く同盟関係だったんだぞ。その名残で今でも獣人と人間は仲がいい。時代変化とともに人間はシプトピア、獣人はメラオニアに生活拠点を移しちまったけど…魔力のない種族同士共生関係だったんだ」
そうなの!?
やば、勉強不足だった…。
ボロになってないと良いけど…アンデイルさんなら大丈夫か(とても失礼)
「てっきり嫌われてるんだと思ってましたよ」
「いや…まあお前を嫌ってたのは人間のくせに気が強いし、このだだっ広い連絡通路をたった1人で掃除できるくらいだから、本当は魔族なのに嘘ついて弱小種族のふりしてると思ってたんだよ」
え、なんでわざわざ弱小種族を騙るのよ。
あれか?謙遜して保険かけるやつか?
「なんで嘘つく必要があるんですか」
「たまにいるんだよ、人間のフリをする魔族。人間は他の種族に比べて就職しやすいから」
え、予想の斜め上の解答。
「弱小種族だから歯向かってこれない上に、人間って頭がいいだろ?だから種族別就職率ランキングは毎年人間がダントツで1位なんだよ」
そんなのあるんだ。
てか歯向かってこれないからって…超ブラック企業の発想じゃん。
…種族別就職率ってめっちゃ言いづらそ。
「でもお前の掃除見てたら魔法なんて使ってないのは一目瞭然だった。あれは毎日やってないとできない技だ」
「ふっそうですよ!人間は効率の良さを見出すのが得意なんです」
「そうみたいだな。お見事だよ」
ほっ褒められたぁ!
「悪かったよ、クソ人間なんて言って。お前すげぇな。毎日1人でここ掃除してたなんてさ」
「私も…ごめんなさい。クソオーカミって言ったの取り消します」
「じゃあ今からオレたちは同盟関係だ!」
「はい!」
なんだ…
身体が大きいからって先入観で私が変に身構えてただけだったんだ。
アンデイルさん、悪い人じゃないみたい。
まあ…ライルさんの元で働いてる人に悪い人なんていないよね。
ブンブンブンブン
「あっちょっとアンデイルさん!」
「ん?」
「尻尾振らないでください!毛が散ります!止めて!」
「えっ…急には難しい」




