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崩壊②



「第四通路終わりましたー!」


…あれ?


「ルンバさーん?」


…。

あれれ。いないのかな。

第一通路を覗いてみる。


「ルンバさん?」

「ああ…うん大丈夫。ごめん、もうちょっとかかる」


通路の壁にもたれかかっていたルンバさん。


「手伝いますよ」

「ありがとう」



日課の連絡通路掃除。

本日はルンバさんとペア。


昨日はメラオニアから約束通り日暮れ前に帰ってきた私を見て安堵していたルンバさん。

明日は一緒だから早く終わらせてお出かけでもしようねーとか言っていたのに…なんだかいつもより手際が悪い。



「どうしたんですか?」

「いや…なんてことないんだけど…」


吐息混じりの声。

少し虚ろな瞳と目が合う。


「なんか…今日の連絡通路、空気悪くない?」

「え?」


いつもより輝きの少ないルンバさん。

深いため息をついて通路を見回す。


「なんかここに来てから身体だるくってさ」

「えっ大丈夫ですか?」

「ヨシダちゃんは平気?」

「私は特に」


いつもと同じだと思うけど。空気が悪いってなんでだろ。毎日掃除してるんだけどな。

いまいち共感できず深呼吸してみるがやはり異常は感じない。


「機械の調子も悪くって…何故か出力が落ちてるんだよね」


出力…って力が出ないって事?

それ大変な事じゃない?


「ルンバさん、今日はもう戻って休んでください。あとはやっておきますから」

「いやいいよ。あとちょっとだし」

「でも具合悪いんでしょう」


病気かもしれない。休んだほうがいいよ。

この世界に風邪という概念があるかは知らないけど…生きてりゃ誰だって具合悪くなることはある。



「なんだか…不吉な予感がするんだ」


…不吉?

ルンバさんの瞳が少し鋭く光る。


「ヨシダちゃんを1人ここに残すのは気が進まない」

「じゃあ…座って休んでてください。掃除は私がやるので」

「別に動けないわけじゃ…」

「いーから!ほら座ってください」


ルンバさんの肩を押して座らせる。

不吉なんて言われたら1人でここに残りたくなくなってしまう。


「…ごめんね」

「早く終わらせて戻りましょ!」



不吉か。

言われてみれば思うところもある。

プラシーボ効果でもなく、明確に違う点は確かにある。


普段は掃除中でも多くの種族が行き交う連絡通路。

でも今日は他の種族を一切見かけていない。

私達以外誰もいない。こんな事今までにはなかった。

いろんな種族が絶えず利用するのが連絡通路のはずなのに…今日はひどく静かだ。


…気味が悪い。

早く終わらせよう。


第五通路のモンスター退治は後回しだ。

ルンバさんをここに放置して行くのもアレだし…上がってから戻って来よう。



「出力が…」


しばらく1人で掃除していたら不意に呟いたルンバさん。

左腕に表示された画面を見て目を見開いている。


「ルンバさん?」

「今までにないほど出力が低下してる…」


…今までにないほど?


「故障ですか?」

「いや、故障じゃない…能力のみの低下、まるで弱体化だ」


弱体化…?それって…

ルンバさんが眉間に皺を寄せて顔を上げる。


「不備魔力…」


空気が悪い…不吉な予感…寄り付かない他種族…

そして弱体化。


黒魔気…


「…第五通路見て来ます」

「待ってヨシダちゃん」


ふらつく足で立ち上がるルンバさん。


「1人で行くのは危険だ。俺も行く」


あまりにも足元がおぼつかないので慌てて支えに寄る。



「人間…人間…」

「力が…力が…」


中央通路に差し掛かった時に聞こえた特徴的な喋り方。これは…


「ゴブリンさん?」


私達の元へよろめきながら近づいて来たのは外界通路を警備するいつものゴブリン2匹。

なんだか様子がおかしい。


「どうしたんですか?」

「力が出ない…力が出ない…」

「具合悪い…具合悪い…」


私の元へ辿り着くとプシューと息を吐いて倒れ込む。思わず支えると身体がひどく冷えていた。


「ゴブリンさん!」

「人間…人間…」

「助けて…助けて…」


…何?何が起こってるの?

思わずルンバさんを見ると険しい顔をしていた。


「人間のヨシダちゃんだけ平気ってことは…やっぱり不備魔力の可能性が高い」


不備魔力…


「第五通路に行こう。何かが起きてる。ゴブリン、イーデア城に行って連絡通路の異変を知らせてくれ。衛兵を向かわせるように言って」

「かしこまり…かしこまり…」

「気をつけて…気をつけて…」


ルンバさんは鋭い目を第五通路の方角へ向けた。


「念の為ライルさんにも連絡を入れておこう」




第五通路へ近づくにつれて暗くなっていく通路。

ルンバさんの後ろに続いてその道を進む。

すごく静かだ…いつもならここまで来ればモンスター達の声が聞こえるのに…


第五通路へ踏み入れると途端に視界が悪くなった。

黒い霧のようなものが広がっている。

ここまでこれば流石の私にも分かる…不吉な予感。



「うっ…」


唐突に前を歩くルンバさんが見えない何かに潰されるように前屈みになった。


「ルンバさん!」


肉体の方の腕を支える。

冷たい…そして重い。ゴブリンさん達と同じだ。


「なんだこれ…体…重っ…」


まさかこの黒い霧…全部不備魔力?


ルンバさんは過去にブラトフォリス内に踏み入っている。国内には黒魔気が充満していたはず。でもここまでにはなっていなかった。

ブラトフォリスの中でさえ黒魔気がこの霧のように目に見えることはなかった。

つまり…第五通路は今、ブラトフォリス内よりも不備魔力の濃度が高い。


「尋常じゃない…なんだこの量…」


黒魔気の増加…

昨日まではこんな事なかったのに…。



「ヨシダちゃん、俺の後ろから出ないでね。奥に行ってみよう」

「はい」


少しでもルンバさんの役に立ちたくて、ふらつく体を支えるように冷えた彼の腕を自分の首に回す。

私の方が背が低いので支えになっているかは分からないけど…


「後ろじゃなくて隣にいます」

「…ありがとう。心強いよ」



と、その時


ー ピリッ


!!



ルンバさんと同時に素早く顔を上げる。

今の…


「…ヨシダちゃんも分かった?」

「…はい」

「これは殺気…?」


いや…殺気じゃない。

これは…気配だ。モンスターの気配。

それも……


「…これ」

「うん」

「ルンバさん…この気配…」

「うん…」


これは間違いなく…


「とんでもなくとんでもないヤベー奴です」

「…ん?」

「とんでもなくとんでもないヤバめの奴です」

「ん…うん」

「これは…まじでとんでもねぇです」

「…ふ」


支えていたルンバさんの体が少し揺れた。


「そうだね。その通りだよ」

「はい」

「ありがとうヨシダちゃん。おかげで緊張がほぐれた」


え?

至近距離にあるルンバさんの顔。何故か微笑んでいる。

別に私、緊張ほぐそうとなんてしてないけどな。


「絶対に守ってあげるから俺の言うこと聞くんだよ」

「…ルンバさん?」




シャアアアッ!!


!!


途端、耳をつんざくような鳴き声が第五通路をビリビリと揺らした。

モンスターの重い気配が確実なものになって身体にのしかかる。


「なんだ…あれ……」


私達の前方。黒く淀んだ霧の向こう。

第五通路の一番奥…赤く光る五つの点が揺らいでいた。


「あれは……目?」



シャアアアッ!!


再び響く耳が痛くなるような鳴き声。音に遅れてものすごい風が吹く。

淀んだ霧が渦巻いて晴れる。そして姿を表す…鳴き声の持ち主。


「…蛇……」


赤く光る五つの目。不規則に並ぶ大量のどデカい牙。紫と黒が編み込まれた縄ような肌模様。鋼鉄のように分厚いのが見て分かる。

決して狭いわけではないはずの第五通路に窮屈そうに押し込められている。とてつもなく太く長い体。


その姿はまるで…大蛇。


ビル一つくらい簡単に潰してしまいそうな巨体。とぐろを巻いていなければ全通路を埋め尽くしてしまいそう。

大きく裂けた口をゆっくりと開く。さらに隠れていた牙達が姿を見せる。

五つの目は完全に私達を捉えていた。



ピピッと隣のルンバさんから機械的な音が鳴る。


「うそぉ…」


消えそうに呟いたルンバさん。


「な、なんですか」

「スキャンしても正体不明…強さに関しては…俺がスキャンできる数値をカンストしてる…」


か、カンストぉ!?


「それって」

「俺が今までに戦って来た敵とは比べ物にならないほど強いってこと…」

「過去イチ…?」

「いぇす…」

「おう…まいが…」



シャアアアッ!!


「ひぃぃ!!」

「ヨシダちゃん下がって!」


ルンバさんが体勢を低くして私の前に躍り出る。


「ルンバさん!?戦うつもりですか!?」

「仕方ない!」

「で、でもルンバさんは今っ」


弱体化してるんだよ!?

無理だよ!過去イチなんでしょ!

死んじゃうよ!


「逃げましょう!戦っちゃダメです!」

「アイツは俺達を認識してる!逃げても追ってくる!あの巨体が暴れれば通路を破壊し尽くす!」


嘘おお!?


「通路外に出すわけにはいかない!俺だって軍人だ!敵を野放しにはできない!」

「でもっ」

「ヨシダちゃんは隙を見て逃げるんだ!」


そ、そんなこと言ったって…

ルンバさんをここに残したらやられちゃうよ!歩くことすらギリギリだったのに!


機械の左腕を構えるルンバさん。

ガシャンと音を立てて人型の手から銃のような形に変わる。



シャアアアッ!!


ルンバさんの戦闘体制に反応してガバッと牙まみれの口を開くモンスター。

その悍ましい気迫に足がすくみ、その姿をただ凝視するだけの私……の視界に、牙で埋め尽くされたモンスターの口内が映る。


…?

紫…に光ってる…?


「っ!」


アレ知ってる!

エンモグラと同じ光り方だ!



「ルンバさん!火です!火が来ます!!」

「火ぃ?」

「銃じゃ相性が悪いです!相手は広範囲の攻撃です!」

「なるほど…っ」


再び左腕をかざし直すルンバさん。

ガシャコンと音を立てて今度は盾のような形に変わる。


「ヨシダちゃん!俺の後ろに!」

「はいっ!」


ルンバさんの背中側に飛び込んだ瞬間、ゴオオッと派手な音を立てて熱風が吹いた。

盾に直撃する火の柱。押し返されるルンバさんの背中を倒れないように支える。

真後ろの私をギリッギリ避けて火の壁が通り過ぎた。


危機一髪…だったけど少し前髪の先が焦げた…。

あまりの威力に息をすることも忘れて唖然とする。


「なんつー威力…盾が…」


ルンバさんの掠れた声。恐る恐る顔を出すと盾がボロボロになっていた。

いくら弱体化しているとは言え、一発でここまでとは…。ごくりと生唾を飲み込む。



「ヨシダちゃん…攻撃のタイミング分かる?」


ルンバさんが静かに言った。

…まさかまだ戦うつもりなの?


「今のと同じものなら…でもっまた同じ攻撃を受けたらルンバさんは」

「攻撃が来る時は教えて」

「ルンバさん…」


再び左腕を銃に変形させる。


「出力の低下が激しい…戦闘システムがダウンするのも時間の問題だ」


ルンバさんのこめかみを汗が伝う。


「衛兵が来るまでなんとかもたせる。戦う以外の選択肢はない」



…私も戦える。

弱体化していない私ならルンバさんよりも時間を稼げる。


でも…できない。

“外界人”という肩書きが邪魔をする。


私にできるのは…彼がボロボロになっていくのを見ていることだけ…?


本当にそれでいいの?

また大切な人を目の前で失って…私は生きていけるの?


……


きっと…いや、“絶対”

耐えられない。


「…箒く」



「ルンバ!ヨシダ!」



!!



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