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崩壊①



メラオニア 反乱軍基地


へ、向かっている私。

日暮までに戻ることを条件に、ライルさんからメラオニアに行く許可を得た。

なかなか説得が大変だった。ライルさんを突破してもルンバさんという強敵が現るし、純粋無垢に心配してくるアンデもなかなかに手強かった…。


ぐったりしながら赤の森を抜け、反乱軍基地に到着する。


「吉田ちゃん」

「先輩!」


小屋の前で相変わらずクールに制服を着こなした先輩が出迎えてくれた。


「久しぶり…と言っても2週間くらいか」

「なかなか来れなくてすみません。上司の説得が難しくて」

「…部下想いなんだね」


…はい。とっても。



基地には既にみんなが揃っていた。


「吉田ちゃん!」

「奈々恵さん。こんにちは」

「相変わらずエンジェル…ホットミルク飲みますか?クッキーもあります!」


あ…どうもありがとうございます。大丈夫です。


「毎日顔出さないくせに召集かけるたぁ何か有益な情報持ってきたんだろうな」

「祐樹くん…顔うざい」

「はぁ?」


そう。今回みんなを集めたのは私だ。

ゼル王から聞いた情報を共有するために集まってもらった。



「反乱軍のこと?ラスボスのこと?何が分かったの?」


瀬戸口さんが目をキラキラさせて近寄ってくる。


「期待を裏切るようで申し訳ないんですが…とても大きな情報というわけではないです」


私の言葉に分かりやすく落胆する祐樹くん。

その頭を小突く奈々恵さん。


「なんでもいいんだよ。吉田ちゃんが来てくれただけで俺は嬉しいから」


そう言ってソファに腰掛ける先輩。

自分の隣をポンポンと叩いて私に座るよう催促する。

それを見たみんなも各々の位置へ座る。


「私は立ったままで結構です。日暮までには戻らなければならないので長居しません」

「…そう」

「単刀直入に言いますね。コマンドの共有」


フォンとパネルが現れる。



ーーー


名前   

種族   不明

年齢   18

スキル  〈掃除Lv105〉

     〈整頓Lv82〉

     《一掃Lv.45》

     《掃滅Lv.1》

アイテム 箒(銀)Lv26

     帰還石

     ゾネルビンの酸12

     ニアの葉のミサンガ1

     黒の加護

     作業着

役職   清掃員Lv6

弱点   川 海


ーーー



「ご覧の通り私の種族は……って、え?何このスキル」


自分で開いたコマンドに驚く。

掃滅…?

待って、色々知らないことになってるんだけど…

清掃員?

役職が変わってる…。



「え、この短期間でまたレベル上がったの?」


瀬戸口さんがパネルに食いつく。


「多分エンモグラと戦った時だと思いますけど…」

「…すげぇな。え、これ新しいスキル解放したの?」

「清掃員に昇格してるので…おそらくその時に」


知らなかった。

もっと大々的に教えてくれないかな。多分気失ってた時だよね。


「掃滅…物騒な言葉だなおい」

「これ多分S級だよ…」


瀬戸口さんが目を丸くしている。


「転生者のスキルっていくつあるんだろ」


あ、そう。転生者。

そのことを話しに来たんだった。


「すみません話が逸れました。えっと今日伝えたいのは私のスキルのことではなく…この種族のことです」

「種族?」

「はい。『不明』になってますよね。でも皆さんはちゃんと『人間』になっているはずです」

「そうだね」


私が『人間』でないのには、ちゃんと理由があった。

このコマンドは全て正確に表記されているんだ。



「私は…皆さんと同じ転生者ではないそうです」

「…え?」

「私は転生者ではなく、外界人です」


外界から来たる者。多くの国で招かれざる生き物。罰せられるべき存在。


「私は…反乱軍ではありません」


みんなの…同胞ではない。


「…どういうこと」


先輩の低い声が響く。


「何故そう言い切れるの」

「…とある人にそう言われました。私達より圧倒的に強く、長くこの世界を知る偉大な人です」



ブラトフォリスの王。最強種族である悪魔族のトップ。

ゼル王はそう言い切った。

そして私も…その事実を受け入れた。

何故ならゼル王が言った通り…


私は元の世界で死のうとしていたから。


何故それが外界人に繋がるのかはわからない。

だがゼル王の言った言葉は紛れもなく事実であり、実際私はここにいる転生者のみんなとは違う。

シナリオにもいない、種族も役職も違う。私は貴方達とは違う、完全なる余所者だ。


でも私がみんなにとって必要のない人物ならそれに越したことはない。

何故なら私はみんなと違い、元の世界に帰ることを心から望めないから。

そんな曖昧な精神状態でみんなと同じ土俵に立つのは荷が重い。

私は決してみんなにとってのキーパーソンなどではない。それを伝えに来た。



「反乱軍は全部で4人。私を除く、あなた方転生者です。私がいなくとも物語は進みます。私は皆さんにとって必要のない存在です」

「……」

「あ、もちろんだからと言って皆さんとはもう関わりませんとかそういう事を言いたいわけではないですよ。ただ…私はみなさんと違う生き物であること、反乱軍として戦う上で私の存在に固執する必要がないことを伝えようと思ったんです」


奈々恵さんが悲しそうな顔をしている。

祐樹くんは目を伏せている。

瀬戸口さんは私ではなく先輩を見ていて

先輩は…冷酷な目をしていた。



私が居る居まいにこだわっていては効率が悪い。

もちろん協力はする。だが私をみんなと同じ転生者に含めない方がいい時もあると思う。

私個人の存在も情報も、みんなにとってはあまり利益にならない。

それどころか…逆に足枷になる時があるかもしれない。例えば…そう。私の正体が世間にバレた時。


「外界人の存在はこの世界では御法度です。もし私が衛兵に見つかるようなことがあれば…私と接触していた皆さんにもよからぬ疑いがかかり、反乱軍として動きづらくなるかもしれません。だから反乱軍として活動する時はなるべく私との接触を避けるべきだと…」

「吉田ちゃん」


私の言葉を遮った先輩。

真っ直ぐ、喜怒哀楽の分かりづらい目を向けている。



「吉田ちゃん。こっちにおいで」


私に向かって手を伸ばす先輩。

しんとする空間。

何故か足が進まずその場で立ち尽くす私。


「ヨッシー…行ったほうがいいよ」


瀬戸口さんがボソリと言った。

ゆっくり近づいてみる。

私の腕を引いて隣に座らせる先輩。

私の顔を至近距離で見て、ふと悲しそうな表情に切り替わる。


「俺達はね。君が外界人だろうが転生者だろうがどうでもいいんだよ」

「…」

「吉田ちゃんは俺達の仲間。たとえコマンドの表示や設定が外界人だろうが、俺と一緒に元の世界に戻ることだけが目的なんだ」


元の世界に…戻ること。


「だから転生者かどうかなんてどうでもいい。君は俺達にとって必要のない存在なんかじゃない」


その言葉に深く頷く奈々恵さんと祐樹くん。


「必要なんだよ。元の世界に戻るのは4人じゃない。5人だ」


……



「接触を避けるなんてダメだよ」

「でも…」

「でもじゃない。絶対にダメだ」


先輩…

整った切れ長の目が少しだけ鋭くなる。

先輩の手が私の髪を耳にかける。そして優しいような…冷たいような声を出す。


「吉田ちゃんの居場所はここにもあるんだから」


……


「…ありがとうございます」


先輩の目から視線を外し、少し下を向いて言った。



…先輩達には分からないと思う。いや、分かれなんて無理な話だ。

この中で実際に外界人なのは私だけ。この大罪を犯し続けるという現実に向き合う事ができるのは私だけなんだから。


種族表記なんてどうでもいい、そう言われたって私にとってはそれだけの問題ではない。

理不尽に背負うことになったこの罪の重みを、最近ようやっと理解したのだ。

正体がバレ、犯罪者としてこの名が知れ渡った時、私の近くにいた人にも火の粉が降りかかるかもしれない。

その可能性を知った上で、それでも嘘をつき続けることがどれほど苦しい選択か。

私以外の人には分かり得ないことなんだ。



極刑になるのが怖いわけじゃない。

転生者じゃないのが嫌なわけじゃない。


ただ…大事な人達に嘘をつき続けるのが嫌なんだ。




ーー




「…誠」

「はいはい」


陽が落ち切ったメラオニアの乾いた夜。

部屋に残っていた金髪の青年とそばかすの青年。


「…」

「うわ…イライラしてるねぇほーじょーセンパーイ」

「俺を先輩呼びしていいのは彼女だけなんだけど」

「へいへい」


金髪の髪をかきあげて深いため息をつく。

その横顔からは明確な苛立ちが伺える。


「反乱軍は5人いないとダメなんじゃないのかよ」

「ヨッシーがあの情報を誰に聞いたかはわからないけど、まあ反乱軍であることを話してるってことは大方悪魔族のお偉いさんとかだろうね。もしそうなら信憑性は高いと思うよ」

「これじゃ反乱軍の条件を満たす口実で吉田ちゃんを呼びづらくなるだろうが…」

「それどころか元の世界に帰らなくてもいい理由ができちゃうかもね〜」


誠を睨む楓。

己の望む風が吹かなくなってきた状況に余裕がなくなっている。


「うわ怖い顔。まあ心穏やかなわけないか。今日は自分は僕らの仲間じゃないって言いに来たようなもんだもんね」


呑気な誠の声色に舌打ちで返す楓。



「吉田ちゃんについて分かったことは」


雑に制服を脱ぎ捨て、誠に投げる。


「はいはい。えーと、クールオンっていうライル・ブラネードが代表でやってる清掃会社に勤めてる。同僚にサイボーグのルンバ・ハートンと狼系獣人のアンデイル・ボックスがいる」

「それだけ?」

「あーなんかエルフがスパルタすぎて次々にやめていった結果、今はヨッシー含めて4人」

「少人数か…まあそれはそれで都合がいい」


怪しげに口角を上げる。

白の制服の下から出て来たのは真っ黒の味気ないTシャツ。


「…都合?」

「俺はね、誠。ちまちましたカスみたいな成果を積み上げていくなんてたるい事、好きじゃないんだよ」

「絵描きのくせに」

「だから小さな種を一つずつ消すんじゃなくて、一番大きな種を最初に潰してしまおうと思って」

「一番大きな種…」


白い制服より、彼は黒い服の方が似合う。

闇に映える金髪が建て付けの悪い窓の隙間から入り込んできた風に揺れる。


「吉田ちゃんがこの世界に留まりたいと思う一番の理由は、ここに居場所を見つけたから」

「…」

「だったら…その居場所をなくせばいいんだよ」



爽やかな笑顔を浮かべる楓。

誰が見ても美しいと言うであろう骨ばったフェイスライン。嫌に優しい瞳だが一切の光が入っていない。

誠は気味が悪くなりブルっと身震いする。


「彼女は外界人。そして外界人は…彼女が暮らすイーデアでは犯罪者だ」

「……」


「お堅い元軍人のライル・ブラネードが…犯罪者を受け入れられるわけがないんだよ」



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