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黒の王様②



「小説…捏造の世界ってことか」

「はい。でもあくまで基盤がという話です。実際は小説の世界とここでは異なることが多くあります」

「へぇ〜不思議なこともあるもんだね」


黙り込んでしまった私を見かねて他の転生者達とどんな交流をしたのか質問してきたゼル王。

どうせ転生者のことがバレてるなら隠す必要もないと思い小説のことを話した。

他にも祐樹くん達と交流した話やラスボスを倒せば元の世界に帰れるかもしれないという憶測も。


自分達の生きて来た世界が捏造のものですなんて言われたら良い気はしないだろうけど…。

恐る恐るゼル王を見る。片目で無機質にどこかを見つめている。



「んーその小説が書かれる何百年も前からこの世界はあるはずだけど。どういう原理なんだろうね」

「それはもう全くもってわからないです」


そもそも転生すること自体がふざけた話だ。

この現象に説明なんてつくわけがない。


「でも…この世界に生きてる者達にはそれぞれにちゃんと自分で創り上げた歴史や生活がある。たとえ誰かの捏造が軸だとしても、ここは俺達にとって紛れもなく現実だ」


さっきまでのほわんとした間の抜けた雰囲気とは違い、はっきりと言い切ったゼル王。


「どんな世界だって同じだ。全ては所詮誰かが作り出した世界。存在する世界の数だけ“神”がいる」


長い足をゆっくりと組むゼル王。

赤い右目を細くして微笑む。


「誰だって“神”にはなり得るってことだね。たまたま俺達の生きるこの世界の“神”がその小説を書いた人間だっただけだ」


キロルくんよりは穏やかでクロードさんよりは鋭い目つき。

王子兄弟の美形は確実にこの人から受け継がれたのであろう整った顔立ち。それを柔らかく崩したまま私を見る。


「実際世界を動かしていくのは“神”ではなくそこに生きる者達だ。だから小説だろうが捏造だろうが割とどうでもいい話。まあ転生した者達にとってはその小説の存在は大きなものだろうけど…多分そんなに重要じゃないと思うよ。結末も過程も全て変わっていくし、変えられる」


変えられる…。そうだ。

実際大きく異なる小説の世界とこの世界。

誰にでもどんな風にでも変えられる。



「現時点で違いが存在しているのなら、その小説は必ずしも君達の手引きになるとは限らない。説明書にがんじがらめにならない方がいい。視野が狭くなる」

「は、はい!」


か、かっこいい…最強種族の王様。

その肩書きを背負うに相応しい凛としたオーラ。

思わずごくりと生唾を飲んだ。


「それに…もしかしたら小説が後かもしれないよ?」

「え?」

「この世界が先、小説が後」


小説が…後?


「えっと…小説がこの世界の元になっているのではなく…この世界が小説の元になっているってことですか?」

「もしかしたらね。だって事実君達みたいに転生してきた人間が現代にいるんだから、過去に同じようなことがあったとしても不思議じゃない。その小説を書いた人間が実体験を記録しただけかもしれない」


なるほど…。


「ま、可能性は低いけどね。でも転生者が君達だけとは限らないだろ」


…それはそうだ。

事実この世界には転生者という言葉が存在し、伝説として語り継がれていた。

その元になった出来事はあるはずだ。

考えたところで分かりようはないけどね。



「それでさっきの話に戻るけど、同郷の転生者達は元の世界に帰る方法を探してるんだよね」

「あ、はい」


私は別に…そんな帰りたいわけではないけど。


「なるほどねぇ…ラスボスか。まあ…思い当たる節がないわけではないけど」

「え?」

「いや。ま、でもさっきの君の話だと色々と間違ってる点があるね」


間違い?


「まず大前提として君が転生者ではないってこと」


ゼル王の長い指が私を指差す。

爪の先が黒く尖っていて刺さったら痛そう。

所々悪魔族感の漂うゼル王。その赤い片方の瞳が私を観察するように見る。


「そうですね…私は外界人のようですから」

「だから必ずしも転生者が5人居なきゃいけないってわけじゃないと思うんだよね。そもそも不可能だし」


確かにそうだ。

先輩や祐樹くんは5人の転生者が揃わなきゃ帰れないと言っていたが、私が転生者でないのならそもそもそれは実現不可能だ。


「俺の憶測だけど多分人数は関係ない。この世界にいる転生者が全員集まっていれば問題ないと思う」


転生者が全員…。

私を除く4人のメンバー。


「聞いた感じだと転生者達の能力はすごくバランスがいい。攻撃2人と回復1人、それから補佐に回れる発明。これだけいれば小規模の軍としては立派に成り立つ。全員揃わなきゃいけない理由は、部隊として成り立つかどうかってとこじゃないかな」


確かにみんなの役職は“反乱軍”となっている。

軍として成り立ちさえすれば戦うことはできる。

つまり私は…みんなにとって必ずしも必要な人間ではないということになる。



「だったらヨシダはあの転生者達にとって別に必要な存在じゃないってことだよね」


黙っていたキロルくんがそう呟いた。

まあ私も今そう思ったけど…誰かにはっきり言われるとちょっと悲しいな。


「まーそうなんじゃね?」


軽いな。王様軽いな。

こちとら人生かかってんのよ?


「…じゃあ」


キロルくんの赤い目が私をジッと見ている。


「もう会わなくてもいいんじゃない?」

「え?」

「もうあの転生者達に会う必要ないでしょ」


え…

いやー…それとこれとはまた…

違うと言うかなんと言うか…


「いやぁ…それでも同胞だからね。知らん顔はできないよ」

「……」

「あ、それにほら、先輩には長くお世話になってるし」

「僕そのセンパイって奴嫌い。生理的に無理」


えっ

なんでよ!


「キロル…?」



キロルくんが気持ち悪いものを思い出すように眉を顰める。


「あいつには関わらない方がいい気がする」

「ちょっとキロルくん何言ってるの」

「極力接触を避けるべきだよ」

「キロルく」

「会う必要ないならそうしろよ。問題ないだろ」

「ちょ」

「笑い方胡散臭いんだよ」


なっ


「ちょっとキロルくん!」

「…なんだよ」

「先輩のことよく知らないでしょ?そんなこと言わないでよ」

「…」


今の私があるのはあの人のおかげだ。

私の恩人なの。悪く言われると腹が立つ。


「先輩は親切な人だよ。他人の私のことまでちゃんと考えてくれる良い人。私の方が先輩と付き合い長いんだから」

「……」

「悪口言わないでよ」

「……ふん」


何故か不機嫌なキロルくん。分かりやすく視線を逸らす。

もうっどうしちゃったのよ。


「もしかして修羅場?なあクロード、これ修羅場?」

「父上、黙るべきかと」

「息子の修羅場目撃できるとかやば〜。クロードもよく見ておけよ。夕飯の時に揶揄おうぜ」

「父上、黙ってください」

「どうするよっどうするよキロルっ」

「父上、黙れ」



「…ヨシダはわかってない」


え?

低い声でそう言うキロルくん。


「男だからわかることもある」

「え、なにそれ」

「…僕の警告、絶対忘れるなよ」

「キロルくん?」


あ。

赤い目でジッと私を見た後、音もなく消えてしまったキロルくん。


「…何?」



ぽかんとする私を楽しそうに見ているゼル王と申し訳なさそうに見ているクロードさん。


「どうなったの?キロルの負け?」

「父上、後でキロルに一発殴られてくださいね」

「え、なんでよ」


コホンと咳払いをして、クロードさんが私に軽く頭を下げる。


「ごめんねヨシダさん」

「あ…いえ…」

「キロルも年頃なので…また落ち着いたら会いに行くと思います」

「はい…」


クロードさんが気を遣ってくれる。

なんだか申し訳ない。


「イーデアまでお送りします」

「あ、大丈夫ですよ」

「ですが…」

「行きも歩いて来たので」

「そうですか」

「はい。お気遣いありがとうございます」


とりあえず…帰るか。

今彼の言葉の意味を考えたって分からないだろうし…。



出口に向かおうとした足を止めて振り返る。


「あの、王様」

「んー?」

「今日はありがとうございました」

「いえいえ〜楽しかったよ。またおいで」

「はい」

「それから…一応言っておくけど」

「え?」


赤い右目がギラリと光る。

微妙に口角を上げているが目は笑っていない。


「キロルの勘は割と当たるよ」


……


「それだけ〜。じゃあねヨシダちゃん。これからもキロルと仲良くしてやってね」

「あ…はい…」


最後まで申し訳なさそうにしていたクロードさんに見送られ、黒の城を後にした。



「父上…彼女、本当に外界人なんですか?」

「だと思うよ〜」

「転生してきたのに?おかしな話ですよ」

「世の中に絶対はないんだよ。クロード」

「はあ…」

「訳アリみたいだねぇ彼女。良い名前持ってるのに」

「名前…ですか?」


「さて、キロルはあの子を守りきれるかな」




ブラトフォリス



重い足取りで黒の街を進む。

キロルくんどうしちゃったんだろう…。

モヤモヤするなぁ…。何か誤解してるのかな。

今度会った時にちゃんと話してみよう。私もついカッとなっちゃったし…

ちゃんと話せばきっとわかってくれるよ。


ドン


「わっ」


考え事をしながら歩いていたせいで何かにぶつかってしまった。

後ずさった私と尻餅をつく何か。

やばっ!人にぶつかったっぽい!


「す、すみませんすみません!ボケッとしてました!ごめんなさい!お怪我はないですか?」


ろくに相手も確認せずとにかく頭を下げて謝る。

悪魔族だよね…怖い人だったらどうしよ…



「あら?あらあら!あーらあら!」


…へ


「やだー!人間ちゃんじゃない!?」

「…え?」


聞き覚えのあるハスキーな声。この懐かしい響きは…

ゆっくりと顔を上げる。

そこには朗らかな表情をした、角の生えた…


「れ…レイランおばちゃん!」

「あらまぁなんてこと!久しぶり人間ちゃん!」



半年前。

私がこの世界に転生して間もない頃。

何もわからない私に手を差し伸べてくれた親切なおばさま。レイランおばさん。

懐かしいその姿がにっこりと笑っていた。



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