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黒の王様①



「お疲れ様でしたー!」

「待てヨシダ」


え?

早々に仕事を片付け、お昼過ぎに上がろうとした私を呼び止めるライルさん。


「なんですか」

「今日は朝から元気よく働いてたみたいだが…」

「はい!」

「そんなに焦ってどこに行く」


前回のメラオニア事件があってから一週間ほど経った今日。

あれからライルさんをはじめ、ルンバさんやアンデまで私が出かけようとすると毎回確認してくる。

本当に子供みたいな扱い。


「キロルくんのところです。お呼ばれしてるので!」

「は、またブラトフォリス?あー…まあ、そう」

「行ってきます!」

「遅くなるなよ」

「はーい!」



元気よく出ていく人間の雌。

入れ違いで現れたサイボーグと狼獣人。

ポニーテールを揺らして駆け出ていく吉田を不思議そうに見つめる。


「またブラトフォリスっすか?」

「らしい」

「前から思ってたけど…なんでヨシダちゃんと黒の王子ってあんなに仲良いの?」

「さあ」


ルンバが不満気にタンタンと足で地面を叩く。


「仮にも王族でしょ?貴重な加護までヨシダちゃんにつけてるし」

「ヨシダの性格なら誰とでも仲良くなれるんじゃないすか?ルンバさんも簡単に絆されたみたいに」

「…アンデだってそうじゃん」

「ヨシダいい奴っすよ」

「…分かってるし」


2人の会話を流し聞きながら横目で事務所の出口を見る褐色のエルフ。

小さなため息に混じり、ボソリと本音が溢れる。


「あいつに害がなければなんでもいい」


聞き逃さなかったルンバとアンデがニヤッと笑う。


「過保護っすねぇ」

「愛されてるなぁヨシダちゃん」

「……お前ら仕事追加な」

「ええー!」

「理不尽っすよライルさん!」




ブラトフォリス



「なあんだってェェ!?」

「オーバーリアクションだな」


黒の城、キロルくんのお部屋。

いっぱい貝殻が飾ってあるおしゃれな空間。

お茶菓子まで用意してもらって、一般人が王子にもてなされているという不思議な状態。

豪華なベットの上に座る私。箒くんと戯れている王子様。そんな中、キロルくんの言った言葉に目ん玉が飛び出る。


「お父様転生者のこと知ってたの!?」

「うん。昨日の夕飯の時にさりげなく父上に聞いてみたんだよ。転生者って知ってるー?って」


キロルくんの父上ってことは…ブラトフォリスのキング!

まさかのまさか。なんと彼のお父様、つまりキングが我々転生者のことを存じ上げていたと言うのだ!


「そしたら最近4人来たよねって」

「言ったの!?そう言ったの!?」

「うん。転生者が来てたことは知ってたらしい」

「なんで!?」

「さあね。気配でわかるんじゃない?最強の鑑定眼とか」


ひえ〜

やっぱ悪魔族すぎょ〜



「あはは、生きてるみたいだな」


バサッ♪


キロルくんの周りを楽しそうに飛んでいる箒くん。

なんか懐いてるし。

銀級に昇級して動くようになったことを伝えた矢先、箒くんが飛び出してきてキロルくんに構ってもらっていた。まるでペットじゃないか。武器としての威厳はないのか君に。



それにしても…転生者にすら気づいてしまうキングってやっぱすごいな。

てか軽いよね。最近4人来たよねーって、そのくらいのノリで言ったんでしょ?気づいてたってことでしょ?

すごいなぁ……ん?


「…え、4?」

「んーそうなんだよ」

「4人?」

「うん。でもヨシダ5人って言ってたよね」


えぇ…いや、間違いなく5人よ?

私を含め…て


あ。え、ちょっと待って。

そういえばみんなの種族表記は人間…

でも私だけ不明……

え、まさか…私が違う説ある?


「もしかして…私?」

「僕もそう思ったんだよ。この前言ってただろ?ヨシダだけ外界人扱いで他の奴らはそうじゃないって」

「うん」

「だから今日はヨシダが転生者なのかどうかを確認するために呼んだんだよ」

「確認できるの?」

「できるよ。僕じゃないけど」


…え?

あ…まさか…




「へぇ〜君が摩訶不思議にも他所の世界から転生してきちゃったっていう人間ちゃん?」


…あ


「ああごめんね、挨拶遅れちゃって。一応ブラトフォリスの王様やってまーす。ゼルロック・ブラックビルでーす。ゼルって呼んでね」


悪魔王だぁぁっっ!



キロルくんに案内されたのはだだっ広いホールのような空間。

そこへノロノロと現れたのが、このゼルさんというお方。あ、ゼル王の方がいいのか?

申し訳程度に置いてあった黒い椅子にだらんと座っている。


見た目はかなり若くライルさんやルンバさんと同じくらいに見える。だがしかし見えるだけ。

キロルくんやクロードさんのような息子さんを持っているくらいだし…何よりこの世界での年齢感覚は人間と全く違う。

それに…なんというかうまく言葉にできないのだが、凄まじいオーラを感じる。


「はっ初めまして!人間の吉田です!き、キロルくんっにはいつもお世話になっております!」

「こちらこそ〜キロルからよく君の話を聞くよ。大変だったねぇ」

「い、いえ…」

「いきなり異世界に飛ばされるなんてたまったもんじゃないよねぇ」


それは…まあ。

果てしなくそう。


ゼル王が着ている服は王様というくらいなのに全く豪華なものではなく、ただの黒パーカー。

フードをかぶっているため顔はほとんど見えない。

み、ミステリアス〜!



「あの…王様は転生者がこの世界に来たことに気づいてらっしゃったんですか?」

「あーまあね。確か3、4ヶ月くらい前に1人目が来たんだったかなぁ。流石にちょっとびっくりしたよ」

「な、なんで分かったんですか?」

「えーそりゃあ…こちとらおーさまですから」


うわーその濁し方強者っぽー!

悪魔族はこの世界で最強種族と呼ばれている。

その最強種族の頂点に君臨する王様。想像もつかない力が使えるのかもしれない。


「なんてね。鑑定眼に似たような能力だよ。空気が乱れるから分かるんだ。ま、言ってもわかんないか」

「そ、そっすね…」

「でも…どうやら君は少し違うみたいだね」


フードの闇の中に赤い光が一つだけ。それが私を見ているのが分かる。


「…はい。転生して来たのは事実なんですが…。1人目は3、4ヶ月前っておっしゃいましたよね」

「うん」

「それは私ではありません。おそらく他の転生者です」


4ヶ月前にこちらに来たのは先輩だ。


「私がこの世界に来たのは半年前です」

「半年前か…」



ここは地球人の作者が作った小説世界が元になっているから時間の感覚は地球と同じ。

一日は24時間だし365日で一年だ。

そして楓先輩が自分が転生するより前に私が失踪したと言っていたから…おそらく時間の流れも一致してる。


「半年前には異世界人の気配なんて感じなかったけどなぁ。なんか変わったことあったかな」

「兄さんに聞く?」

「おーそうしよう!キロル〜クロード呼んできて」

「はいはい」


お兄さん?


「クロードはまめだから毎日の出来事を全て記録してるんだ」

「そうなんですか」

「優秀でしょー?誰に似たんだろうねぇ」


キロルくんは王様はかなりのめんどくさがりだと言っていたけど…

間延びするようなゆったりした喋り方と、悪魔王という割には気の抜けるようなオーラは確かに独特だ。



少ししてキロルくんがお兄さんを連れて戻ってくる。

クロードさんはパーカーの王様やキロルくんとは違い、ちゃんと王子らしくきちんとした格好をしている。高貴なオーラムンムンでごわす。


「いらっしゃいヨシダさん」

「お邪魔してますクロードさん」


ライルさんをちょっと上品にした感じ。

似てると思うのは髪型のせいだろうか。


「ねーねークロード。半年くらい前に何か変わったことあったっけ?」

「半年前ですか」

「俺のぼやきも全部記録してるでしょ?」

「…まあ。父上は何に対しても無関心なので、稀に独り言で聞き逃せないような重要なことをぼやきますからね」

「ごめんってー」

「ちょっと待ってください」


何もない空間に手をかざすクロードさん。

紫色の丸い光が浮かびあがる。それをじっと見つめている。



「半年前だと…あー父上の推してるニンフのアイドルにドワーフとの熱愛報道が出て活動休止してますね」


は。


「あああ!!思い出したァァ!最悪っ!忘れかけてたのに!」

「そのせいで父上がただでさえやらない仕事をさらにサボって私が大変な目にあいました」


はえ…


「だってドワーフだよ!?ドワーフ!小さいおじさんじゃん!俺の方が絶対かっこいいのに!」

「リアコ同担拒否は害悪オタクですよ父上」

「節度は守ってるよぉ!」


まあ王様だって1人の生き物だからね。

推し活くらいするよね。


「異変的なことだと…その時期にブラトフォリス内に外界人が迷い込んでたんですが、例の如く父上が仕事をサボってたので…あっ父上がただでさえやらない仕事をさらにサボってたので」

「わざわざ言い直さなくていいよ」

「特に対処はせずそのままにしてますね。まあ害もなさそうでしたので私も衛兵達もノータッチでした」


外界人…

え、もしかしてそれって…


「ヨシダのことかな」


キロルくんが頭を抱える王様を無視して私を見る。

半年前にブラトフォリスに来たのは私だ。

てことは…やっぱり私って転生者じゃなくて外界人?



「父上、転生者と外界人って違うの?」


キロルくんが淡々と聞く。

項垂れていた王様が雑に頷く。


「違うよ。転生は生まれ変わりだからね。外界人みたいに外から来たわけじゃない。この世界に呼ばれて来たのに余所者扱いじゃ理不尽だよ」


それな。本当それな。


「でも…君は転生者ではないみたいだね」

「やっぱり違うんですか」

「違うね。俺の鑑定眼で見ても君は外界人だ。おそらく君の身に起こったことは“異世界転生”ではなく“異世界転移”だ」


異世界…転移。

つまり…外界人。


「…じゃあ…私は何故ここに」


ジッとフードの中から私を見る王様。



「もしかしてだけど…ヨシダちゃん、だっけ?」

「はい?」

「君さ…」


王様が少し前のめりに座り直す。

そして先ほどより低い声を出した。



「…元の世界で死のうとした?」



……。


「……ヨシダ?」

「……」

「なるほど。そういうことか」


王様は前のめりになっていた身体を再び戻して椅子にもたれかかる。

黒いフードから覗く血の気のない口元がニヤリと笑う。


「うん。やっぱり君は転生者じゃない」


ぱさりとフードを外すゼル王。

キロルくんやクロードさんと同じ真っ白の肌と真っ黒の髪が現れる。

左側の眉毛から頬にかけて深い切り傷が入っていて左目が潰れている。

キロルくんより深く濃い赤色の右眼が真っ赤に光っている。



「君は、外界人だね」



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