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異変④



「ヨシダ!」

「キロルくん?」


え、どうしてここに?


連絡通路に向かっていた転生者4人の元に、おそらくテレポートで来たのであろうキロルくんが焦った顔で現れた。


「あの人が…黒の王子」

「あ、悪魔族…」


昨日キロルくんのことを話したので悪魔族の王子を前にみんな少し身構えているようにも見える。



「なんでここに?」

「よかった、無事だったんだな」

「無事って…なんで?」

「加護だよ、僕がヨシダにつけたやつ。あれはヨシダがピンチになると僕にそれを知らせる信号が送られてくるんだ」


そうなの?便利ぃ…

対エンモグラに苦戦したからかな。


「え…わざわざ来てくれたの?」

「はぁ?当然だろ。友達なんだから」


キロルくん…


「…ありがとう」

「無事でよかったよ」


ほっとしたように笑うキロルくん。

心配してくれたんだ…嬉しいな。



「で…なんでヨシダは支えられてんの?」


ようやっと他のみんなを認識したキロルくんがぽかんとしてる転生者達を見回す。


「あ、よ、吉田ちゃんはまだ万全じゃないんです」


奈々恵さんが咄嗟に答える。

どこか堅苦しく緊張しているのが分かる。


「あ…そう。てか誰?」

「あーえっと…」


キロルくんの目が赤く光る。

もしかして鑑定眼使ってるのかな。


「反乱軍…?あ、もしかして同胞?」


どこかを見つめていたキロルくんが目を開いた。


「そうだよ。みんな仲間」


彼には正体を知られても大丈夫だと伝えるつもりでみんなと目を合わせる。

先輩が浅く頷いた。


「…やっぱりそうだったか」


やっぱり?


「エルフ達がヨシダはメラオニアの人間に会いに行ったかもしれないって言ってたんだよ。人間って聞いてもしかしてと思ってさ」


な、何故メラオニアに行ったことがバレてるの…。

ライルさん…恐ろしや…。



「ここにいる人間は全員転生者?」


そう言って再びみんなを見回すキロルくん。

珍しいものを見るような目だ。

そりゃそうか。私だって現実世界で非人間が集まってたらびっくりしちゃうもん。

私達の存在が“当たり前”なのは元の世界だけだ。


キロルくんの赤い目を不思議そうに見る祐樹くんとちょっと怯えている奈々恵さん。先輩は…なんだか冷たい目をしている気がする。


「そう。みんな私と同じように転生してきたの」


鑑定眼を使っているのか、みんなの顔ではない不自然な空間を見つめるキロルくん。


「本当だ…レベルがある。この世界の生き物じゃないね。…ん?え、種族人間じゃん」


そーなのよー!

やっぱ気になるよね!


「なんでヨシダだけ種族不明なの?」

「それがわからないのよー。転生者は外界人扱いじゃないんだってさ」

「そうだったんだ…一緒だと思ってた。え、じゃあヨシダは何?」

「だからわからないんだってば」


転生者だって外界の生き物じゃんね。私間違ってないと思うんだけど。



「種族なんてどうでもいい。吉田ちゃんは俺達の同胞だ。気にかけてくれてどうもありがとう。黒の王子様」


先輩が意味深に微笑む。稀に聞くいつもより低い声。

キロルくんの眉毛がピクリと動いた。


「ごめん。情報共有してるうちにキロルくんのこと話しちゃったの」

「ああそれでか。別にいいよ、隠してないし」


私達の会話を遮るように徐にキロルくんとの距離を詰める先輩。


「スキルかなんだか知らないけど、人の個人情報を勝手に盗み見るのは感心しないね」


先輩は相変わらず静かに微笑んでいる。


「俺達が転生者だってことを他にバラさない確証は?それがないなら危険だよ。吉田ちゃん」


キロルくんを見たまま私に言う先輩。



「確証って…」

「キロルくんは大丈夫です」


言葉を濁したキロルくんを遮って言う。


「ね。キロルくん」

「…ああもちろん。僕はヨシダが危険になるようなことは絶対しない」

「むしろ私が今日までバレずにいられたのはキロルくんのおかげなんです」


彼は信用できる人だ。悪魔族だからなんだってんだ。私はこの目で見たものを信じる。

キロルくんは出会った時からずっと私の味方でいてくれた。


「彼は私の大切な友達です」


少し牽制するように先輩を見る。

キロルくんから離れて私を見る先輩。


「…そっか」


にっこりと笑った。



「あ、そんなことよりヨシダ。早く戻らないとエルフ達がお前を探してる」


げ…げろ。

忘れてた大問題。


「やっぱ…激おこ?」

「さあね。自分で確かめな」


ひぃ…

髪の毛むしり取られるかもしれない…ハゲになっても友達でいてね。


「とにかく僕はヨシダが他の転生者と接触してる可能性を考えてエルフ達より先に来たんだ。どうやらビンゴだったみたいだけど…この状況上手く説明できないだろ?」

「はい!」

「じゃあ早く戻れよ。不自然に人間が集まってたらどう言い訳してもあの鋭いエルフは疑ってくるぞ」


だ、だよね〜…

どどどうしよう!ナイスな言い訳なんて思いつかないよぉ!



「大丈夫だよ吉田ちゃん。俺が説明するから」

「先輩…」


先輩がこれまで何度か見た少し冷酷な笑みを浮かべて言った。


「俺が上手く言ってあげるから。だから…」


先輩が今度は私との距離を詰める。

隣でキロルくんの体が緊張したのが分かった。


「とにかく…ライル・ブラネードに会わせてくれ」


…先輩?


そんなに会いたいのかな。

イーデア軍だし…あ、ファン?

いや…それにしては先輩の顔が怖いような…


「ヨシダ待って…そいつ……」




「ヨシダァァ!!」

「へ」


この声は…


「見つけたァァ!」

「アン、でゅふぉっ!」


ものすごい勢いで走って来た狼獣人に抱きつかれ、状況理解もままならぬまま床にビターン。


「無事かぁ!!」

「…今の衝撃で無事から少し遠いた…」

「敵襲かっ!」

「あんたがねっ」


私に覆い被さったまま黄色い目をカッ開いているアンデ。

なんでアンデが飛んできたの?



「ヨシダちゃーん!」

「ルンバさん?」


寝転がったまま声のする方を見る。

駆け足のルンバさんとズカズカと早歩きで向かってく…る……


「ひぃっ!!ライルさんっ!!」


きっ来たぁぁ!!鬼ぃぃ!!

般若だ!般若だよおお!!

見つかっちゃったよおおお!


「アンデ守ってェェ!!」

「敵襲かっ!?」

「敵の方がマシぃぃ!」


おたすけぇぇ!

ギラギラ光る目で近づいて来たライルさんが転がっている私の前で停止する。

アンデがサッと退く。死んだ虫みたいに縮こまる。


「ヨシダ」

「ごめんなさいぃ!」

「ヨシダ」

「命だけはァァ!」

「違う、ヨシダ」

「あ、せめて遺書書かせてっ」

「ちょ、聞け」

「来世は骨格ウェーブにしてぇぇ!」

「馬鹿聞け阿呆馬鹿」


え、馬鹿って2回言った?

ぎゅっと瞑っていた目をゆっくり開ける。

呆れ顔のライルさんが逆さまに見える。

転がっている私を頭側から覗き込んでいる。


「元気そうだな」

「あ…いやあの……すみません」



ぱし

と、私の左手を掴むライルさん。

じいっと腕を見ている。


「…お前怪我したのか?」

「へ?…あっミサンガですか!?」


そうだ!端っこだけちょっと枯れてるって奈々恵さんが言ってた!


「す、すみません…色々あって……」

「お前は本当に色々あるな」

「おっしゃる通りです」

「加護が反応するほどの怪我だったのか」


えっとぉ…



「火事に巻き込まれて火の煙を吸いすぎたんです」


背後からそう声を飛ばしたのは先輩。

ライルさんが振り向いて先輩達を認識する。


「……誰だお前」

「彼女の同郷の友達です」

「人間か?」

「はい。カエデと申します」


先輩が礼儀正しくお辞儀をする。

そして機械的に笑う。


「…お前らもか?」


ライルさんの緑の目が奈々恵さんと祐樹くんを見る。


「あっはい!俺ユウキです!」

「ナナエです」


ライルさんの悍ましい気力にピシッとかしこまる2人。


「会いに行ってたのはこいつらか」

「はい。すみません…今日には戻るって言ったのに…」

「張り紙に書いただけだろ。そういうことはちゃんと直接言え」

「すびばせん…」


私に興味ないかと思って…



「我々人間にとって物が燃えた時に発生する煙は有毒です。吸いすぎると命に関わります。吉田ちゃんはその煙を多く吸ってしまって…。ですが先ほどポーションで治療しました。まだ万全ではないですが今は大丈夫です」


先輩がスラスラと言う。

あ、そっか。奈々恵さんが回復魔法使えることは言っちゃダメなんだ。さすが先輩。


「…なんで火事なんかに巻き込まれたんだ」

「火を扱う外界のモンスターです。近頃外界の敵の増加が見られます。メラオニアの国内に戦場を抜け出した外界の敵が潜んでいることも珍しくありません。この度は運悪くそいつらに遭遇してしまいました。幸い私が武器を持っておりましたので応戦できましたが」

「お前…イーデアの兵士か?」


ライルさんが先輩の服装を見て言う。

イーデア兵の制服だ。


「はい。イーデア兵王家防衛部隊第一班です」

「王族の護衛か…。エリートだな」

「とんでもございません。ブラネード元師団長のお噂は予々伺っております。お会いできて光栄です」


兵隊モードの先輩…かっこいい…。



「まあなんでもいい。問題は…」


と言って私を見るライルさん。

な、なんでそんなに笑顔なんですかっ?

怖いです!怖いですぅぅ!


「この馬鹿が勝手にメラオニアに行ったことだ」

「ええっ!なんでダメなんですか!」

「メラオニアは危険だってあれほど言っただろうが!しかも戦場の近くに行ったらしいな!」

「なんで知ってるんですか!?」

「ってことは行ったんだな?」

「あ…」


自滅ぅ…


「自分が弱小種族だってことも覚えてられねぇのか馬鹿!」

「ひーん!」

「外界の敵が潜んでるかもしれないって言ってあっただろ!」

「だってぇ…」

「だってもクソもねぇわ!」

「ごめんなさいいい!!」


おろろぉぉ!



「ブラネード元師団長。彼女をここに呼んだのは我々です。彼女は悪くありません」

「え、我々ってことは俺も?」

「祐樹くん黙ってて」


先輩…みんなぁ…


「申し訳ありませんでした」

「申し訳ありません」


先輩と奈々恵さんが頭を下げる。

納得いっていない祐樹くんの頭を押さえつける奈々恵さん。


「まあライルさん。お友達もそう言ってますから」


ルンバさんがまあまあと宥める。

とにかく精一杯の反省の顔を向ける。


「差し支えなければ、私の方から何があったのか詳しくご説明いたします。ブラネード元師団長」


先輩がライルさんに近づく。


「その呼び方はやめろ」

「…失礼しました」


先輩の機械的な笑み。

ライルさんは緑色の感情のない目を冷たく向けた。



「おいエルフ」


と、変な沈黙を破ったのはキロルくんだった。

先輩から視線を外すライルさん。


「話ならヨシダから聞けばいいだろ。ヨシダもまだ万全じゃないんだし早く戻ったほうがいい」


え、私に聞かれたら困る。


「……」


割って入ったキロルくんを冷めた目で見る先輩。


「しかし彼女は…」

「最初からヨシダに聞くつもりだ。帰るぞお前ら」

「はーい」

「うーす」


先輩の言葉を遮るライルさん。

えぇなんでよぉ…

先輩から説明したほうが絶対いいのに…


「そういうわけだから結構だ。お前もそろそろ仕事の時間だろ」

「……お気遣い…ありがとうございます…」


煮え切らない返事をした先輩が横目でキロルくんを見た。



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