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異変③



「吉田ちゃん!吉田ちゃん!」


うう…


「吉田!」

「ヨッシー」


頭が…


「吉田ちゃん」


ん…


「う…」

「吉田ちゃん!大丈夫?」

「んえ…?」


重い瞼を持ち上げる。視界に入ったのは木の天井。それから私の顔を覗き込む奈々恵さん。その後ろには祐樹くんと先輩、少し離れた所に瀬戸口さんもいる。


「ここは…」


鉛のように重い身体をえいこらと起こす。

あれ…私何してたんだっけ。

あ、そう確かモグラ倒して…それで…



「まだ動いちゃダメですよ。回復魔法かけてるけど万全じゃないですからね」


奈々恵さんの優しい声。

祐樹くんと先輩が私を見てホッと息を吐く。


「あれ…私森の中にいたはずじゃ…」

「エンモグラ達を倒しても吉田ちゃんが帰ってこなかったから探しに行ったんだよ」


先輩が私の虚ろな目を見て眉を顰める。


「そしたらお前の箒が俺達を呼びに来たんだ」


祐樹くんが私が寝ているベットに同じように横たわる箒を指差した。


「箒くんが…」

「箒に着いて行ったらお前が森の中で寝てたから」

「慌ててここまで運んだんだよ」

「えっありがとうございます…すみません」


運んでくれたのか…

やだ、重くなかったかな。



「煙を吸いすぎて意識を失ってたんです。あのままだったら危なかったんですよ。傷だらけだったし」

「すみません…苦戦しちゃって…」

「やっぱり吉田ちゃんが倒したの?」


先輩が目を開く。


「俺達も苦戦したからその間にありったけの仲間を呼ばれたと思ってたんだけど…実際見える範囲にしかエンモグラ達はいなかったんだ」

「でもモンスターの反応は森一体に広がってた」


後ろから瀬戸口さんがパソコン?のようなものをいじりながら声を飛ばした。


「ヨッシーが飛んで行った方向からモンスター反応が次々消えてったんだけど…まさか本当に1人で倒したの?」

「まあ…箒くんも頑張ってくれたので」


わおと目を丸くする瀬戸口さん。


「な!だから言ったろ!吉田は強いんだって」


祐樹くんが興奮気味に言う。


「俺が弱いんじゃなくて吉田が強いの!」

「にしてもあの量を1人で討伐できるなんて…。お疲れ様。女の子1人にたくさん任せちゃってごめんね」


先輩が私の頭を撫でる。

奈々恵さんの回復魔法の温かい光が私の体を包んでいる。安心感からさらに身体が重く感じる。



「先輩達は大丈夫でしたか?」

「なんとかね」

「北条さんが薙ぎ払ってくれたよ」


おお…さすが現役兵士。

ちょっと見たかったな。


「祐樹はダメダメだったね〜」


瀬戸口さんが嫌味ったらしく言う。


「だーかーら!相性が悪かったんす!俺のスキルだって炎属性なんすから!」

「へーへー」


一丁前に煽ってる瀬戸口さんは颯爽と小屋の中に逃げ帰ってたけどね。



「傷の具合はどうですか?かなりの怪我でしたが…」


奈々恵さんが男どもを無視して言う。


「大丈夫です。ありがとうございま…す」


怪我……?

けがって…あっ怪我!!


「ミサンガ!」

「え?」


パッと左手につけたミサンガを見る。

編み込まれたニアの葉の回復効果を使い切ったら枯れてしまう…っ

これは枯れてるの!?どうなの?


「奈々恵さん!これ…これの葉っぱ枯れちゃってますか…?」

「え?あ、これニアの葉が編み込まれてるんだ。んー…端の方が少しだけ枯れかけてるけど…大丈夫ですよ。ほとんど枯れてないです」


食い入るように左手を見せていた私の肩を落ち着けというようにぽんぽん叩く奈々恵さん。


「よかったぁぁ…」

「急に近づかれたらドキドキしちゃいますぅ…」


クネクネしている奈々恵さんを横目に、ホッと左手を胸に抱えた。



「大事なものなの?」


先輩が私の手を覗き込む。


「はい。貰い物なんです」

「貰い物?」

「あらぁ!ニアの葉のミサンガをプレゼントするなんてロマンチックですね!」

「ニア…?」


奈々恵さんがにっこりと笑う。

ロマンチック…ってなんで?


「なんでですか?」

「知らないんですか?ニアの花には花言葉があって…」

「回復効果があるから葉を使った贈り物は一般的だよ」


奈々恵さんの言葉を遮る先輩。そして奈々恵さんの肩を後ろに引いて間に入ってくる。


「誰に貰ったの?」

「へ?」

「誰に…貰ったの?」


ミサンガに視線を向けたまま、先輩っぽくない低い声が響く。


「えっと…上司です」

「男?」

「え?あ、はい」

「へぇ…」


にっこりと機械的に笑う先輩。


「…いい上司なんだね」


良い上司…。

…うん。とっても…。


「はい。素敵な人です」

「……」


ミサンガを見せる。しかし先輩の笑みは一ミリたりとも動かなかった。



「その色吉田ちゃんにとっても似合ってますね」


先輩の後ろからひょっこり顔を出す奈々恵さん。


「そ、そうですか?」

「贈り物がミサンガだなんて素敵です!大事にされてるんですね!」


えっ


「いっいやいや!そんなんじゃないですよ!ただ私がよく怪我をするからって…らっライルさんは別に他人に興味ないし…」


慌てて謎の弁解をする私をニヨニヨと見つめる奈々恵さん。


「ライルさんって言うんですねぇ」


あ。


「どんな人ですか?かっこいいですか?」

「かっこっ…かっか…褐色の…エルフさん…です」


なんとなくかっこいいと言うのが恥ずかしくなってしまい変な誤魔化し方をする。



「褐色のエルフ?」


え?

しかしそんな誤魔化しに反応した先輩。

さっきまでとは打って変わり、真面目な顔をしている。


「褐色のエルフで…ライル?もしかして…ライル・ブラネード?」

「え、ライル・ブラネードって…あの?」


瀬戸口さんもガタッと席を立って反応する。

あ、そっか。ライルさんって有名人なんだった。しかも先輩はイーデアの衛兵。

偉大な功績を残したライルさんを知らないわけがない。


「吉田ちゃんの上司ってライル・ブラネードなの?」

「まあ…はい。実は」

「うっそ…ヨッシーの周りやばくない?黒の王子に伝説の元師団長って…」

「たまたまなんですけどね」


出会いには恵まれたみたいです。



「…そう、か……ライルブラネード…あーまじ…?」


先輩が何故かだるそうなため息をつく。


「どうかしましたか?」

「…いや…なんでもないよ」


にっこりと例の機械的な笑みを向けてくる。


「元師団長が清掃会社やってんの?」


祐樹くんがどゆこと?と眉を顰める。


「はい。だからもー超怖いです…よ…」


……あ


「ああっ!!」

「うお、急に叫ぶなよ吉田」

「今何時ですか!?」

「え?」

「やっやばい絶対遅刻してる!殺される!!」


明日には戻るって宣言したのに!

やばいやばい…ライルさんの鬼の形相が浮かぶ…


「私戻ります!仕事行かないと!」

「え、でもまだ体が万全じゃないですよ」

「大丈夫です!行きます!」

「ちょっと待って吉田ちゃんまだ…」


慌てて立ち上がる…が、くらっと眩暈がして倒れそうになる。

先輩がおっとーと支えてくれる。


「落ち着いて吉田ちゃん。1人で動いたらダメだよ。とりあえず一緒に行こう。上司さんには俺からうまいこと説明してあげるから」

「す、すみません…」


これじゃ箒には乗れない…

仕方ない…歩いて行くか。




他の皆もそろそろ仕事の時間だったらしく、今日お休みの瀬戸口さんだけを小屋に残して4人でぞろぞろと森を出る。

私はまだ眩暈が酷いので奈々恵さんに支えてもらいながら一緒に歩いている。


「なんて説明するんですか?転生者だなんてバレたらやばいですよ」

「んーそうだな…祐樹とは前から知り合いなんだっけ?」

「はい。ライルさんのお友達の鍛冶屋で祐樹くんが働いてるんです」

「そうそうルーさんね。一週間くらい前に吉田が店に来たんだよ」

「じゃあまあ…そこで同族の集会を開いてたら、外界の敵が襲って来たって言えばいいかな」

「まんま事実ですね」


事実ではあるけど…あの鋭いライルさんが素直に信じてくれるかしら…。



「それにしても…今まで一度も私達以外の生物があの森に入って来たことなんてなかったのに…」


奈々恵さんが首を捻る。


「それな。地面の下からなら入って来れちゃうんだな」

「でも穴を掘って地中に住むモンスターはエンモグラ以外にも居ますよね」

「そうだね。なんで急に現れたんだろう…」

「…何か、異変が起きてるんでしょうか」


異変…。

私が…あの森に入ってすぐ……


「自分のせいかもって思ってる?吉田ちゃん」

「え?」

「そんなような顔してたから」


見透かしたように私を見る先輩。


「だって…今までと違う事といえば…私があそこに居たことくらいしか…」

「吉田ちゃんのせいじゃないよ」

「…」

「多分外界の敵の増加が原因だ。イーデア軍でも日に日に数が増えていく敵のことは問題視されてる」


外界の敵の増加…


「吉田ちゃんは関係ないよ」

「先輩…」

「だからそんな暗い顔しないの。それにちゃんと倒してくれたじゃん」

「そうだぞ吉田!お前にモンスターを呼び寄せる能力なんかあるわけないだろ!」

「むしろ吉田ちゃんが居なかったら私達ピンチでしたよ」


祐樹くん、奈々恵さん…


「俺達は数少ない同胞だ。支え合っていかないとね」


先輩が綺麗に笑う。

そして私の頭を撫でた。


「ありがとうございます」


やっぱり…私は出会いには恵まれているようだ。



「北条さんよく吉田の頭撫でますよね」

「え?」

「私も思った。吉田ちゃんへのスキンシップ多いよね」

「そう?」

「なんすかなんすか!やっぱJKには優しいんすか!」

「そういうわけじゃないよ」

「吉田ちゃんだから、ですよねぇ?北条さん」


揶揄われている先輩。

やっぱみんな仲良いのね。


「私も吉田ちゃんにすりすりしてもいい…?」

「え?」

「ちょっとだけだから」


唐突にガチトーンで言い出す奈々恵さん。


「えっと…」

「やめなさい奈々恵ちゃん」

「えー!なんで北条さんはよくて私はダメなんですか!」

「下心が丸見えだからだよ」

「ずるいですずるいですー!」


「ふふ」

「あ、吉田笑った」

「笑うでしょ。だっておかしいもん」

「か、可愛い…可愛いわ吉田ちゃんっ」

「奈々恵さん息荒いっすよ」


クスクス笑う私を、少し離れた所から先輩がとびきり優しい顔をして見ていた。




「ヨシダ!」


へ?

突然聞こえた声はここにいる同胞達とは違う人物。


「ヨシダ!あーよかった!僕が先に見つけられた!」

「え、キロルくん?」


誰もいなかった場所に突如現れた赤い目の青年。

私の呼んだ名前に奈々恵さん達がピクッと反応する。


「あの人が…黒の王子?」

「悪魔族だ…」



「…キロル・ブラックビル……」


先輩の低い声が少しだけ響いた。



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