異変②
ピンチ!ピンチピンチ!
「一掃!!」
白い風が空気を切り裂いた。
キィィ!キィィ!
確実に数は減っている。穴から這い上がってくるエンモグラの勢いが弱くなった。
それもそのはず、私は攻撃対象をエンモグラから地面そのものに移したのだ。
祐樹くんと戦った日、私の『一掃』は地面や木を削るほどの威力があることを知った。
だからモンスター達が掘った穴を攻撃して、その入り口を塞ごうとしたのだ。
作戦は案外上手く行った。地面はメチャクチャ。吹っ飛ばされた土が穴を埋めて次々に入り口を塞いで行く。
再び掘られる前にすぐさま攻撃を繰り返す。
確実にこちらが押してはいる…が
「ゲホッ…ゴホッうぅ…」
当然攻撃しまくる私をモンスター達が無視するわけがない。ものすごい抵抗だ。
さらに私の攻撃対象が地面になったことで、安全圏の上空からの攻撃ができなくなった。
つまり地面付近、モンスター達と至近距離で戦わなければならない
エンモグラ。
炎属性のモンスター。
火炎放射のような火の攻撃。
駆け回る私を追って反撃してくるおかげで辺り一体は火の海だ。
かなり煙を吸ってしまい、せきこむ上に頭も痛くなってきた。
さらに絶え間なく攻撃をしているせいで体力はもう限界。エンモグラ達の反撃をモロに喰らうこともある。
「数が多すぎる」
滅茶苦茶強いわけではない。一掃で十分太刀打ちできる。この前戦ったゾネルビンのボスの方が全然強いと思う。
だがやはり数が多すぎる。
私の攻撃は決して広範囲に効くわけではない。かといって狭いというわけでもないのだが…流石に背後までは届かない。360度に散らばるモンスター全ての相手は到底できない。
「ゲホッゲホッ」
何よりダメージになっているのは木が燃えたことで発生している煙。
絶え間なく一掃を放っているため箒で飛ぶ余裕はない。煙を避けようがない。
「やば…クラクラしてきた…」
遠のきかける意識。
足元がふらつく。
運の悪いことにメラオニアはかなり乾燥している。火の回りも早い。早く収めないと森が燃えきってしまう。
「はぁ…はぁ」
キィィ!
ゴオオッと火の塊が飛んでくる。
避けようと箒に足をかけたがバランスが取れずどさっと尻餅をつく。
「うあまずいっ!」
バサッ!
と思わず目を瞑った私の前に手元からすり抜けた箒くんが躍り出る。
「箒くん!?」
ビュンッとひとりでに弧を描く箒。
一掃ほどは威力がないが、白い風が間一髪で炎の柱を打ち砕いた。
私が触ってなくても攻撃できるの?それすごくない!?
「ありがとう箒くん…でも庇わなくていいからね。君木製でしょ?燃えちゃうよ」
バサッ
さすが銀級。エンモグラの攻撃程度では無傷。
「あーもっ!超辛い!死にそう!」
煙にむせて涙目になりながらヤケクソで立ち上がる。
先輩達は大丈夫だろうか。
小屋からかなり離れてしまったので先輩達の様子はわからない。
でも彼はイーデアの兵士だ。こんな雑魚モンスターにやられるわけがない。
「埒が明かない。体力も限界だし…なんとか一気に片付けられれば…」
私のスキルは三つ。
強力な攻撃技の一掃。
空間把握能力を高める整頓。
近距離通常攻撃技の掃除。
やっぱり使えそうなのは一掃だけか…。
「ゴホッゴホッ…」
時間がない…
とにかくここら一帯だけでも…
クラクラする頭を無理矢理起こしてなんとか箒に乗る。
かなり上空まで飛び上がり、きーこら鳴いているモンスターを見下ろす。
そういえば魔力増加ポーションがあったはず…。
あれはこの世界の人間には効かないけど…私達転生者なら使えるかもしれない。
「コマンド…」
ーーー
名前
種族 不明
年齢 18
スキル 〈掃除Lv99〉↑
〈整頓Lv77〉↑
《一掃Lv.40》↑
《ーーー》
アイテム 箒(銀)Lv19↑
ゾネルビンの酸20
魔力増加ポーション1
ニアの葉のミサンガ1
黒の加護
作業着
役職 清掃アルバイターLv39↑
弱点 川 海
ーーー
「ゾネルビンの酸…?」
ポーションを取り出そうとした手を止める。
ゾネルビンの酸と書かれた欄が目に入る。
キロルくんと一緒に戦った時に手に入れたやつだ。
「これって確か溶かすんだよね…」
バサバサ
「…使えると思う?箒くん」
バサッ
「よし…残りの体力全部使ってでもやってやる。一気に掃除するよ!」
まずは魔力増加ポーションを取り出す。
そしてそれを…
バサバサ
「え?箒くんに?…わかった!」
私が飲む…のではなく、箒くんに魔力増加ポーションをかける。
果たして効果があるのかはわからない。だが箒くんが自分にくれと言っている気がしたのだ。
青色に光る液体が瓶から注がれる。
箒くんの柄から穂先へ、その光が伝っていく。
そしてゾネルビンの酸を取り出す。
入れた覚えはないが大きな瓶に入っている緑色の液体。
バサッ!
青色に光る箒。穂先を逆立ててやる気に満ち溢れている。なんだか足元の箒から私にまで力が伝わってくる。
「行くよ!箒くん!」
さらに上空へ上がり、急ブレーキをかけて方向転換。地面に向かって一直線に落ちて行く。
瓶の蓋を開け、ゾネルビンの酸を目の前に撒き散らす。そして足元の箒を手に持ち替え、大きく振りかぶった。
「一掃ッ!!」
撒き散らしたゾネルビンの酸を巻き込み、いつもより何回りも大きな白い風が箒から発せられた。
ジュンッ!!!
ものすごい音と共に緑色の液体が四方八方に飛び散る。
キィィ!キィィィ!!
エンモグラ達の鳴き声が響く。
私はすぐさま箒に乗り直そうとしたが目眩でバランスが取れず、背中から地面に落ちた。
「痛ったぁ…もう嫌だぁ…」
バサバサ
「箒くん無事…?さっきの一掃すごかったね」
箒くんが私の背中を押して起き上がるのを手伝ってくれる。
体が重い…煙を吸いすぎた。
「モンスター…は?」
バサッ
「おお…みんな…いなくなったね…」
逃げられたのか倒したのかはわからないが、エンモグラの姿は跡形もなく消え失せていた。
今の一掃の勢いで穴も塞がれたようだ。
燃え上がっていた炎も黒い煙を出して消えている。
とりあえず…私の視界に入る範囲にはもうエンモグラはいない。火も消えた…。
任務、完了…。
「ちょっと……疲れた…」
起き上がる体力がない。頭がクラクラする。気持ちが悪い…
「も…無理」
ドサッと地面に潰れる。
バサバサ!
「箒く…コマンドに……戻…て……」
急激な眠気に襲われ、私は意識を離した。
ピコン
ーーー
役職 清掃員Lv1↑
〜清掃アルバイターから清掃員に昇格しました〜
〜S級以下のスキルが使えるようになります〜
スキルS 《掃滅Lv1》↑
ーーー
イーデア クールオン
「なんで加護つけてんのに居場所が分からねぇんだよ!」
「僕の加護にはそんなストーカーみたいな効力はないんだよ」
事務所内で言い争う狼獣人と悪魔族。
深妙な顔つきで何かを凝視するサイボーグ。
腕を組んでイライラしている褐色のエルフ。
何やら空気が悪い。
「ヨシダはどこだ!」
「だから僕も分からないから心配で来たんだろうが」
「静かにして。今探してる」
ルンバが機械側の左手首をジッと見て言った。
腕時計のような位置に表示された画面。
「なんすかそれ。え、それで分かるんすか?」
「…まあ」
「え、発信機でもつけてんの?」
「……」
キロルの問いを無視するルンバ。
アンデとキロルが青ざめる。
「は、なんで黙るんすか。え?まじでつけてんの?」
「…ヨシダちゃんはトラブルメーカーだから…念の為」
「こっわ…このサイボーグやばいだろ。ストーカーじゃん」
「ルンバさん…確かにその気質ありそうとは思ってたんすけど…マジすか」
2人の軽蔑の目をもろともしないルンバ。
ひたすら腕を凝視する。
「なんでもいい。ヨシダの居場所はわかったのか」
ライルが苛立ちの残る口調で聞く。
「メラオニア…のようです。でも反応が乱れてます」
「メラオニア?なんでそんなとこに」
キロルが腕組みをする。
ライルの眉がピクリと動いた。
「あ」
と、会話を聞いていたアンデイルが声を上げた。
いち早く反応して鋭い目でアンデイルを見るライルとルンバ。
「なんだアンデ。何か知ってんのか」
「あー…えっと」
言葉を濁すアンデイル。視線を泳がせる。
「一応…ヨシダには口止めされてたんすけど…」
「口止めねぇ…俺に隠し事とは良い度胸だなあいつ。緊急事態だ。言え」
ライルの鋭い目に逆らえるはずもなく、アンデイルはしぶしぶ口を開く。
「この前…ヨシダが異常にメラオニアに行きたがってたじゃないすか」
「あールドルフのところか。あったな」
「かなり取り乱してたのに次の日にはやっぱり良いって言ってたよね。気になってたんだよ」
あの時はああ言ったがやはり納得していなかったルンバ。
アンデイルの言葉に食いつく。
「実はあの日の夜…ヨシダ、メラオニアに行ってたんす」
「…あ?」
眉を顰めるライル。
「知り合いに会いに行ったって」
「ルドルフのところに居たっていう人間のことか」
「おそらく」
「人間…?」
ライルの言葉に反応したのはキロルだった。
「でもどうやって?あの日の夜は俺もライルさんも事務所に残ってた。外に出ようとしたら気づくと思うけど」
「窓から出たらしいっす」
「え、あの高さの?飛び降りたの?」
「まあ…そういうことじゃないすか」
赤い目を揺らして焦り出すキロル。
「あー!よ、ヨシダ木登り得意って言ってたから!多分木を伝って降りたんだよ!」
「あーそう言ってた」
「へぇ…」
事務所の窓から見える高い木を横目で見るライル。
過去に吉田を抱えて飛び上がった時の反応を思い出す。
「飛び降りた…ねぇ」
「メラオニアってことは、もしかしたらその人間に関係あることかもしれないっすよ」
「…人間か」
くしゃっと吉田の残した張り紙を握り潰すライル。
「…人間…会いに行った…?まさか……」
キロルは唯一吉田の正体を知っている。
その存在が決してこの国では受け入れられないことも。
そしてその彼女が取り乱すほど会いたがった同族。
仕事に関しては真面目な彼女が無断で飛び出すほどの一大事。
嫌な予感はみるみる膨らんでいく。
「メラオニアに行くぞ」
「はい」
「うす」
ズカズカと出口へ向かうクールオンのメンバー。
慌てて扉の前に割り込むキロル。
「そ、そんなすぐ行かなくても!あー…あんたら仕事あるんでしょ?僕が行くよ!ヨシダ連れて戻って来るからっだから…」
今一緒にいるのは彼女の同胞かもしれない。
外界人、そして転生者であることがバレたら吉田の命はない。
そう思ったキロルはなんとか三人を食い止めようとする…が。
「部下の尻拭いは上司の仕事だ。部外者は首を突っ込むな」
「ぶ、部外者って…僕はヨシダの友達です」
「俺はあいつの上司だ。仕事に遅刻した部下を叱りに行くだけだ」
「あー待って待って!」
「行くぞ」
キロルの言葉を無視して3人が出て行く。
ぎりっと歯を食いしばったキロルの目が赤く光った。
「あぁまずい…なんとかしないと」




