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先輩①



「吉田ちゃん?」

「先輩…」



北条さん。

他の3人がそう呼ぶ最後の1人、転生者。

今日初めて会う…はずの……


白の衛兵の服を着たスレンダーな男性。

目をまん丸にして互いを凝視する。


私は…彼を知っている。



「え、吉田ちゃん…だよね?」

「せんぱ…え、来てたんですか…」

「すごい…偶然だね」


驚愕したまま私との距離を詰める背の高い男。


「え、まさかお知り合いですか?」

「うそー…そんなことあるんだ…」


瀬戸口さんと奈々恵さんが私達を交互に見た。




彼の名は北条楓。

職業はイラストレーター。美術教室の講師などもやっていて、一時期世間でイケメンイラストレーターとして話題になったこともある。


艶のある金髪の髪。憧れるほど綺麗な白い肌。切長で整った目元とそこから伸びる高い鼻。それこそイラストのような綺麗な口元と、シュッとした顎のライン。

背は高くスラッとしていて姿勢によっては時折二度見するほど足が長い。

神様に贔屓されすぎたその容姿を生かして、雑誌や広告モデルのバイトもやっていたらしい。


と、何故私が彼についてこんなに詳しいかと言うと…



「ええっ!?バイトの後輩!?」


奈々恵さんが目をまん丸にした。


「うん。俺の親戚がやってるカフェで一緒にバイトしてる」

「まさかこんなところでお会いするとは…」

「ね。でも…よかったよ。俺がここに来る前に急に吉田ちゃんと連絡が取れなくなって…心配してたんだ」

「ご心配おかけしました」

「あーほら…家のことで何かあったのかと思って…変に詮索することはしなかったんだけど、まさかここに来てるとはね」


先輩が眉を顰めて笑った。



そう。彼は現実世界でのバイト先の先輩なのだ。

駅の近くにあるお洒落なカフェ。私は高校一年生の夏からそこでバイトをしていた。三年生の現在でも続けており、バイト歴3年目に突入したベテランだった。

彼はそんなバイト歴3年の私よりも前から働いていた先輩。

先輩の親戚の方が店長さんで、イラストレーターや美術講師のお仕事と並列してお手伝いをしているらしい。


私とも3年の付き合いでこちらの家庭事情も少しだけ知っている。

お金のない私のために店長がいない時は先輩が賄いを作ってくれた。

とにかくお世話になっている人だ。


でもご覧の通り人間国宝並みの美貌を持ってらっしゃるので、出勤が被ると先輩ファンが大勢訪れて超忙しい。

シフトが高確率で一緒なのはちょっとだけ嫌だった。



そんな先輩とまさかの異世界での再会。


白色の衛兵の制服は、もはやあなたのために作られたのではないかと思うほど似合っている。

なんか神々しいよ…。


でもでも!ウチのライルさんだって負けてないからね!ルンバさんもイケメンだし!

あの2人は作業着でさえ着こなすもんね!

あ、もちろんアンデも。と、謎に心の中で張り合う。




「へぇ吉田ちゃんは半年もここにいるんだ」

「はい」


他のみんなに説明したことを今度は先輩に伝える。

それから私が小説の主人公ポジションには当てはまらない事、5人目の反乱軍かどうかわからない事、ラスボスについての考察…など。

かなりの情報量だったと思うけど、混乱する事なくなるほどねーと秒で理解してくれた。


眠っている祐樹くんを冷めた目で見る。

これで追いついてないのはあんただけよ…。



「俺はここに来てもうすぐ4ヶ月くらい。ありがたいことにスキルで剣術が使えるみたいだから、今は幼い頃から剣術を習ってた人間ってことにしてイーデアで王族の護衛をしてる」


大国のお城に就職かぁ…エリートだぁ。


「ラスボスについては俺も同意見。俺はイーデアの国王を割と近くで見てるけど…特に悪役要素はないかな。普通の王様だと思う」


やっぱりそうだよね…

んー…結局振り出しかぁ。



「でも吉田ちゃんすごいね」

「へ?」

「俺もこの小説は読んだけどここまで考えられなかった」

「いえいえ、私も1人では無理でしたよ。気づいたきっかけは祐樹くんの発言ですし」


そこで寝てるけど。

ほぼ答え出てんのに作者がラスボスとか意味わかんないこと言ってたけど。



「なんか…半年も見てなかったからかな。何だか大人になったね」


綺麗な顔でふわりと笑いかけてくる。

そういう表情を向けられると軽率に惚れそうなのでやめていただきたい…と思い続けて三年。やっと見慣れてきたと思っていたが、半年ぶりに喰らうとやはり危険だ。


「この半年間1人で生きていかなければならなかったので。嫌でも成長しますよ」

「よく頑張ったね」

「色んな人に助けられてばかりでした」

「あーそれ吉田ちゃんの能力だよねー。一緒にいると助けたくなるんだよ」


ええっ

私そんな手かかる?


「良い意味でだよ」


クスクスと笑う先輩。

ほんとかなー。



「とにかく…君が無事でよかった。会えて嬉しいよ」


お…おうふ……

わざとやってんのかな。

こりゃファンもつくな…。


「先輩も。無事で良かったです」


なんだか…現実世界を思い出す。

家より好きだったバイト先。

働いている時は嫌な事を忘れられた。

先輩が作ってくれる賄いは…特別美味しかった。

私の、現実世界での数少ない良い思い出。



「感動の再会を邪魔して申し訳ないんだけど、ラスボス問題解決しないと僕達帰れないよ?」


謎に見つめ合っていた私達をジトーッと見る瀬戸口さん。


「ちょっと誠さんっ今いいところだったのにっ!何邪魔してくれてんですか!!」

「痛っった!え?強っ」


バシッと奈々恵さんに叩かれた瀬戸口さん。


「あはは、ごめんごめんそうだよね」

「すみません北条さん」

「いいのいいの奈々恵ちゃん。コーヒーもらってもいい?」

「はい」


カウンターに向かう奈々恵さん。

制服のジャケットを脱ぐ先輩。そのジャケットを受け取ってタンスにかける瀬戸口さん。

ふーっと息を吐いてソファに座った先輩がちょいちょいと私に手招きする。


なんか、すごいスムーズな流れ。

家族みたい。



小走りで先輩に寄ると自分の隣をぽんぽんと叩く。座れってことかな。ぺこりと頭を下げて先輩の隣に座る。


「奈々恵ちゃん、吉田ちゃんにもコーヒーを」

「はーい」

「あ、なんかすみません」

「いいのいいの」


ジャケットを片した瀬戸口さんが少し離れた椅子に座る。

あ、この一連の流れの最中も、もちろん部屋のど真ん中では祐樹くんが寝ています。



「なんか皆さん家族みたいですね」

「はは、なにそれ」


コーヒーを二つ持ってきて私達の前の机に置く奈々恵さん。

そのまま小さい椅子に座る。

奈々恵さんも瀬戸口さんも先輩の方を向いている。

なんか…先輩のリーダー感がすごいんだけど。


「いつもこんな感じなんですか?」

「んーまあ?」

「大抵最後に帰ってくるのは北条くんだからね。仕事も忙しいし、僕らが家族だとしたら大黒柱は北条くんだよ」


瀬戸口さんが北条さんに両手を向けてひらひらと動かす。

おー大黒柱だって。


「ここにある家具や食べ物はほとんど北条さんのお仕事のおかげで手に入ってるんです」


奈々恵さんが部屋を見回す。

そうなの?マジで大黒柱じゃん。


「衛兵は給料がいいからね。どうせ元の世界に戻ったら稼いだお金は無くなるんだから貯めたって仕方ないし。まあ…とは言ってもある程度は残してあるけど」

「ある程度って言ってるけどかなりの額だよ」

「こーら誠。人の懐事情を」

「すいやせーん」


さすが社会人。

抜け目ない。



「吉田ちゃんも気兼ねなくここで暮らしていいんだよ。生活は十分できるから。部屋だってあるよね」


え?


「はい。元からここは転生者達が集うための場所なので部屋の数は5人分ありますよ」

「欲しいものは言ってくれたらなんでも用意するから」


あ、いや私は…


「奈々恵ちゃん、後で吉田ちゃんの部屋掃除してくれる?」

「分かりました」

「誠、吉田ちゃんの部屋にも冷暖房つけてあげて」

「おけー」


いや、ちょっと…


「ちょっと待ってくださいっ」


放っておいたら大変なことになりそうだったので慌てて止める。


「ん?」

「わ、私は住み込みのバイトしてるので大丈夫です」


お心遣いはとってもありがたいんだけど…

私には帰る場所があるから。


「住み込み…?」

「はい。お世話になってる方がいるので」

「…そうなの?」

「お気遣いありがとうございます。帰る場所はあるので大丈夫です」


ぽかんとする先輩を瀬戸口さんが横目で見ている。



「でも…怖くないの?知らない世界で知らない生き物と暮らすなんて」


先輩がふと真面目な顔になって私を覗き込む。

…確かに、簡単に受け入れられるような状況ではない。私の生活は現実世界で生きてきたみんなからしたらありえないものだと思う。

でも…。


「怖くないです。私は半年ここで暮らして居場所を見つけたんです。本当は…ここに残ってもいいと思ってるくらいです」

「吉田ちゃん…」


奈々恵さんが力ない声を出す。


「あ、もちろん協力はしますよ。転生者としてやるべき事をやります」

「……」


先輩が綺麗な目で私を見据える。


「でも…今の私には帰る場所があるんです。受け入れてくれる人もいるんです。だから、せめていつか元の世界へ戻るその時までは…私はそこにいます。

何も怖くなんかありません。この世界は素敵な所です」


本当に。

ずっと居たいと思うほど…素敵な世界だ。



「……」

「……」


しんとする空間。


「そっか…すごいね吉田ちゃん」

「え?」


隣に座る先輩がやたら綺麗な笑みを向けて私の頭に手を置いた。


「半年の間に強くなったんだね」


…そう見えるんだったら…それはライルさん達のおかげだ。



「でもね、俺達は地球に生を受けた人間だ。生きるべき世界はここじゃない」

「……分かってます。だから少しの間だけでいいんです。私は自分の居場所を大切にしたい」


いつか……失わなければならない今の居場所を

せめて、大切にできる時間は目一杯。



「……そっか」


そう言って、先輩は

口元だけで笑った。



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