ズレ②
この世界は小説の中の世界…かもしれない。
まあそれはいい。
正直、この世界の本質などに興味はない。
だがしかし…わざわざ同胞達のところへ出向いたにも関わらず、結局私については何も分からないどころか…余計に謎が深まってしまった。
あーん五里霧中。
ふーあむあい!
ちーんと消沈する転生者4人。
「奈々恵さんが言ったんだよ…5人目が揃えばきっと帰る方法が見つかるって」
「きっとって言ったでしょ。絶対とは言ってない」
「屁理屈」
森本くんがブーブーと口を尖らせている。
「あの…なんかごめんなさい」
「ヨッシーは悪くないよ。僕らは振り出しに戻ったとかじゃなくて、最初から一歩も進んでなかっただけだから」
慰めにしてはポジティブになる言葉の一つもないじゃない。
「とにかくラスボスを見つけないと何も始まりませんね」
奈々恵さんが再び小説を開く。
「ラスボスって何だよ。大雑把すぎんだろ。ラストのボスってそりゃそうだろうよ」
「やっぱブラトフォリスの王様とかじゃないの?」
なっ!
瀬戸口さんの言葉に思わずカチンとこめかみが動く。
「違いますよぉ!」
「うわ、でかい声出すなよ吉田」
「違うって?」
「悪魔族ってだけで悪者にするのは良くないです!それにキロルくん曰く黒の王様は極度のめんどくさがり屋らしいので多分違います!悪魔族の皆さんは倒されなきゃいけないような方達じゃありません!」
とっても親切で温かい人達だ。
キロルくんもおばさまも。私の命の恩人達だ。
「キロルくん…ってどなた?」
「あ、友達です。悪魔族の」
「吉田…悪魔族にまで友達いんの?」
「まあ…はい」
王子様のね!
「でも大抵こういう系の敵って魔王じゃね?」
「魔王って何よ。魔法が使える王様のことだったらどの国の王様もそーじゃーん」
森本くんに嫌味ったらしく言う。
私を見て舌打ちで返す。
「じゃあ誰なんだよ」
「知りゃーせんそんなこと」
「こんにゃろっ」
べーだ。
「はいはい喧嘩しないの、未成年組」
瀬戸口さんが呆れたように言った。
「ラスボスの手がかりすらないですからねぇ…」
奈々恵さんが大きなため息をついて私の隣に座る。
んー…ラスボスか。
そいつを倒せば本当に私達はこの世界にとって不要になるのかな。
…私は別に元の世界に戻りたいわけではない。
でもみんなは違う。
自分のことだけを考えれば協力する義理はない。だけど私は…そういう人間ではない。
ありがたいことに母親がいい反面教師になった。
ここで路頭に迷う同胞達を私は決して見捨てない。
ライルさんやおばさまが死にかけの私を拾ってくれたみたいに…私は誰かに助けられて生きている。
だったら、同じように誰かを助けるのは当然のことだ。
「吉田ちゃんは半年ここにいて何か…それっぽい人とか事件とかなかった?」
それっぽい…?物語が展開しそうな何かってこと?
まあほのぼのライフではなかったけど…
転生してきてから今日までの出来事をざっと振り返る。
やっぱり大きな事と言えば…キロルくん達も原因がわからない『不備魔力』『黒魔気』の暴走。
あとは外界の敵の増加。
でもこれだけの情報ではラスボスとやらには辿り着けない。
「事件がなかったわけではないですが…ラスボスの手がかりになりそうなものは特に…」
「何が手がかりになるかわからない。知ってる事は全部教えて欲しい」
瀬戸口さんが奈々恵さんと逆側の私の隣に座る。
森本くんがソファに座り損ねて、仕方なく地面であぐらをかく。
「環境的な異変です。地球で言う異常気象みたいな。悪魔族の力の根源になる『黒魔気』の暴走と、外界の敵の増加」
「誰かが原因で起きたわけではないってこと?」
「いや、原因がわからないのでなんとも言えませんが…少なくともこれらは小説内では起こっていません」
「また『違い』ですね…」
「んーなんでこうも違うんだ?」
小説とこの世界がこうも違うのは何故…。
「この世界の住人はちゃんと生きててNPCみたいにプログラミングされているわけじゃない。だから必ずしも小説と同じ展開になるとは限らないってのは分かるけど…それにしても違いが多すぎない?環境的な違いだったらなおさらだよ。根本から違うじゃん」
瀬戸口さんが頭を抱えて言った。
森本くんのみハテナを浮かべている。
「何かあるんですかね。細かいものじゃなくて、そもそもの元から違うような…小説とこの世界の決定的な違い」
奈々恵さんが腕を組んでソファに深くもたれる。
んー…決定的な違い…か。
小説ではこっちで起きている異変のようなものは一切ない。
瀬戸口さんの言った通り、環境的な違いとなるとそもそもの国の在り方自体がズレている可能性が出てくる。
環境に影響を及ぼすのは…例えば、国民の生活の仕方。法律や環境に対する取り組み。ここではそれらを取り締まっているのはイーデア。そしてそれは小説内でも同じ。
一番の大国で、一番の影響力を持つイーデア…
…ん?
イーデア?
イーデア…
あ。
「あの、奈々恵さん。もう一度小説を見せてください」
「え?あ、はい」
一つ、連絡通路の存在。
二つ、メラオニアの戦い。
三つ、ブラトフォリスへの干渉。
四つ、外界人への対策。
そして…黒魔気の暴走などの環境的異変。
そうか…。
これらの大きな違い、全てに共通することが一つだけある。
「イーデアかもしれない」
「え?」
小説の世界とこっちの世界。
一番大きな違いはイーデアかもしれない。
「イーデア?」
「どういうこと?何かわかったの?教えて」
瀬戸口さんが食い入るように前のめりで聞いてくる。
「あくまで憶測ですが、小説とこの世界の一番の違いはイーデアかもしれません」
「イーデア…」
そう。イーデアの影響力の大きさを考えれば分かる。イーデアが違えばこの世界は全て変わる。
「まず、この世界で連絡通路を作ったのはイーデアです。全ての国につながる場所。国間を行き来しやすくして、さらにメラオニアの入り口や外界通路には警備を施した。
でも小説内のイーデアは国境を作っただけです」
小説内ではほぼ語られない、国間の行き来の仕方。
曖昧な設定。
「それからこっちの世界のメラオニアの戦いで主力になっているのはイーデア軍です。最前線に立つのも白の兵士達。
でも小説内のイーデアはメラオニアの戦いに関してはほぼノータッチだった」
過去のライルさんやライルさんのお父さんもイーデア軍として最前線で戦っていた。
ここではイーデアに限らず、全ての国が戦争に関わっている。その理由はトップであるイーデアの命令。
「ブラトフォリスもそうです。第五通路のみを設置し、それ以外はイーデアからブラトフォリスへは何も干渉していない。イーデアが干渉しなければシプトピアやメラオニアも同じようにするでしょう。実際この世界のブラトフォリスはかなり独立しています。
しかし小説内のイーデアは、戦争を仕掛けたり悪魔族を処刑したり…とにかく黒の国にややを入れたがります」
メラオニアの戦いに悪魔族を引き入れたいという話はあったが…白の国は自分達では行動せず、誰かが動くのを待っていた。
ブラトフォリスからは積極的に身を引いている。
「そして外界人に関する法律。見つけ次第極刑…極端なまでの外界人の差別化。そんな法律が制定された過程もイーデアが発端になっています。
でも小説内のイーデアが作った法律は、あくまで国内に関するもののみ。外界のことなど重要視されていなかった」
イーデアの支配から孤立しているブラトフォリスでのみ、外界人の存在が許されている。
それはつまり、外界人を差別し始めたのはこの世界のイーデアだということになる。
「なるほど…」
「確かに…」
瀬戸口さんと奈々恵さんが大きく頷く。
「え、ちょっと待って。話についていけないの俺だけ?」
「あとで猿でも分かるように説明してあげるからちょっと静かにしてて祐樹」
「うーす…」
「イーデアが違えば4国の在り方もかなり変わってきます。そして国の在り方が変われば…」
「環境的な違いが出てきたとしても…説明がつく」
「そういうことです」
連絡通路がいい例だ。
国を行き来するのに使う場所を一点に絞れば、物や人の動き方も大きく変わる。
小説よりも他国へ行きやすくなっている。シプトピアとイーデア間をアトランティスラインで簡単に行き来できるのもそうだ。
そういった事が環境へ少しずつ影響を与えたのかもしれない。
もちろん言い切ることはできないが、少なくとも小説とこの世界のイーデアは同じではない。
「小説よりこの世界のイーデアの方が…なんというか
“まとも”だと思います」
「まとも…ねぇ」
白の国、イーデア。
もしかしたら大きな鍵を握っているのは…
ここなのかもしれない。




