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ズレ①



……。

……。


「すっげぇ!本当にコマンド共有できんじゃん!」

「うっわ…祐樹めっちゃレベル上がってんじゃん。なんか嫌なんだけどー」


……。

……。


「吉田の箒すげぇ!生きてる!なっ俺も乗せてよ!俺乗せて飛んでよー!」

バサッバサッ

「嘘……銀級だ…初めて見た…感動なんだけど…」


……。

……。


「なあ箒!この前のやつやってよ!白い風出すやつ!俺とバトルしようぜ!」

「マ○ラタウン出身みたいな事言うじゃん」

「あ、あのー祐樹くん誠さん。ちょっと静かにした方が…」


……


「イッテェな!この箒チクチクしてくるんだけど!」

「銀級武器…神々しい……僕にも触らせてよ!」

「2人とも〜…吉田ちゃんがそろそろ…」


…ぶち


「っだぁぁぁ!!うるっさいなぁ!!今集中して読んでるんだら静かにしててよ!」

「ぎゃー清掃アルバイターが怒ったー」

「銀級武器の使い手が怒ったー」


もおおおお!!



現在、最後の1人北条さんを待つ時間を利用して『転生して反乱軍になりました!』というこの世界の元になった小説を読んでいる…のだが。


この男どもがうるさすぎて集中できない。

年下にキレられるもうすぐ成人する男性と成人男性。

勘弁しておくんなまし。



「箒くん、コマンドに戻ってて」


バサバサ


「嫌だじゃないの。汚されるよ」

「え、箒の言葉わかるの?」

「銀級…まじヤバい…」


私の箒を興味津々に見る森本くんと、何故か拝みながら感動している瀬戸口さん。


「おいで箒くん」


バサッ


ふわりと飛んできた箒くんが私のコマンドに帰っていく。

あーんと泣き喚く男2人。


箒くん最近勝手に出てくるんだよね…。

私の異変やピンチを察知して出てくるみたいだけど…ライルさん達の前で出て来られると非常に困るから後でよく言っておこう。


ようやっと落ち着いた男2人を睨みつけてもう一度小説に向き直る。



「銀級ってどんくらいすごいんすか?」

「祐樹の使ってるハンマーより階級が2つ上」

「え…2つ?俺のハンマー結構強いのに?」

「一番上が金級。銀はその一個下」

「馬鹿強えじゃん。貸してくんないかなー」


嫌じゃぼけ。


「貸してもらっても使えないよ?祐樹のハンマーと同じで転生者の武器は持ち主以外には武器として扱えない」

「えー同じ転生者なのにー?」

「普段使ってるアイテムが武器化する転生者の能力なんだから、普段使ってる人以外使えなくて当然だろ」


小説を読みながらも2人の会話が耳に入ってくる。

確かにこの小説にはそう記されている。

キロルくんの言っていた武器化の能力は存在していたんだ。


確かにこの小説はこの世界を表しているようだ。

国の名前だけでなく、それぞれの国の特徴や種族のこと…一致している点は多くある。

でも…全てではない。

小説の世界とこの世界……『ズレ』がある。



パタンと小説を閉じた。


「あら、もう読み終わったんですか?」

「本読むの好きなので。ありがとうございました近藤さん」

「近藤さんだなんてやめてくださいよ。堅苦しいです」

「えっと…じゃあ…奈々恵さん?」

「でへへぇ…」


…え?


「あっいや、あの…なんでもないです!じゃ、じゃあ私も敬語やめちゃおうかな!あはは!」


一瞬とろけたような顔をした近藤さ…奈々恵さんは慌てたように笑った。



「ゴホン。それで…どうだった?」


あ、うん。

手元の小説に目を落とす。

『転生して反乱軍になりました!著・辻崎聖悟』


「確かにこの小説の舞台はこの世界だと思います。でも…私が半年間見てきたこの世界と小説の中の世界とでは、違うところが大きく4つあります」

「4つ…」


馬鹿やっていた男子2人も真面目な顔で寄ってくる。

この小説の舞台はこの世界。だが、決して同じ世界ではないと思う。

今からその理由を話す。




「一つ目は、この小説には『連絡通路』が存在しないこと」

「連絡通路…確かに出てこなかった」


最初に気づいた。私の大事な職場がこの小説内には登場しないことに。


「小説内では国境があるだけで、それぞれの国が隣り合わせに存在しています。国同士を行き来する描写が少なく、章が変わるたびに別の国の中から物語が始まります。他の国へ行く方法はほとんど記されていなかった」


連絡通路はこの世界では重宝されている。

多くの種族が行き交うし、24時間体制で警備ゴブリンがいる。上空からの他国への侵入を防ぐため、あの荊の森も作られている。

もし小説の世界にも連絡通路が存在しているのなら、一度もその名前が出てこないのはおかしい。


つまり連絡通路はこっちの世界にしかない。

これが一つ目。



「二つ目は、メラオニアの戦い」

「すぐそこで起こってる戦争よね」

「毎日毎日飽きないよね〜」


そう。メラオニアが闘いの国と呼ばれる理由になっている、外界人との戦争のこと。


「この小説内でのメラオニアの戦いはこっちの世界とは大きく違い、かなり悲惨なものになっています。戦争というかもはや無法地帯です。だからこそ主人公が森の中へ逃げ込む余裕があったのかもしれませんが…」


小説では戦いの主軸になっているのは乱暴な獣人族だった。国は外から戦場を結界で覆っただけでそれ以外の処置は施していない。『見捨てられた国』とさえ呼ばれていた。


でもこっちの世界では決してそんなことはない。

イーデアからもシプトピアからも衛兵が派遣されている。作戦会議を頻繁に行うほどちゃんと処置もされている。これが二つ目。



「三つ目は、ブラトフォリス」

「出た。怖い国」

「僕嫌〜い」


不備魔力の効力や悪魔族が最強種族というポジションには変わりなかった。

でもこの小説を読んだだけではブラトフォリスをただ単に恐ろしい厄介な国としか思えないだろう。

まさしく森本くん達のように。


「小説では白青赤の国が黒の国に対してものすごい敵対意識を持っていて、途中で大規模な戦争を起こそうとしますよね。主人公達によって鎮圧されてしまいますが、戦争をしかけてブラトフォリスを国ごと追放しようとしていました。国境に大きな壁を隔てて差別化したり、他国で悪魔族を見かけたら処刑するという法律を制定したり…悪魔族は敵という認識が国民に広まっていました。しかしこっちの世界では違います」


この世界では白青赤の国は全くと言っていいほど黒の国に干渉していない。

悪魔族を見かけても怯える程度。第五通路には近づかないし、ブラトフォリスがただ単に独立しているだけ。攻撃することも同盟を結ぼうとすることもなく、ほとんど接触がない。

これが三つ目。



「四つ目は、外界人の存在」


私達…いや、私に関する重要な違い。


「小説でも何度か外界人という言葉が出てきますが、小説の世界では外界人に関する対策はほとんどありません。メラオニアの戦場を免れ、外界から入ってくる生き物とだけ記されており、せいぜい部外者と嫌われる程度。でもこっちの世界では外界人が国に踏み入ることは極刑レベルの大罪です。見つかり次第処刑になる」


小説内での悪魔族とこの世界での外界人の扱いが逆になっている。

小説の世界では悪魔族が、こっちの世界では外界人が、それぞれ処刑の対象になっているんだ。

これが四つ目。



「他にも多少の違いはありますが、大きく私が気になったのはこの4つです。小説の世界とこの世界は同じ世界と同時に違う世界でもあると思います」


何故中途半端に同じで中途半端に違うのか。

この違いには何か明確な原因があるのか…。

それともたまたま似ているところがあっただけで全く別世界なのか…。

真相は微塵もわからない。


「ありがとう吉田ちゃん。やっぱり半年も生活してるあなたの方がいろんなことに気づきますね」

「いえ。まだ見落としてるところはあると思いますけどね」



ところで。


「あの」

「ん?」

「これって一巻完結じゃないんですよね」

「あー…うん」

「ラスボスが出てくる前に終わっちゃったんですけど、ラスボスを倒して元の世界に戻る展開は二巻ですか?」


かなり中途半端なところで終わってしまった。

結局この小説内ではラスボスの足がかりも見つけていない。ラスボスを倒せば帰れるという事実に辿り着いて終わる。

私達にとって重要なところがない。二巻も見たい。



「それが…この小説はここで終わりなの」


…え?


「正確には…打ち切りなんだけど」

「…打ち切り?え、でもさっき奈々恵さん、結末教えてくれたじゃないですか」


ラスボスを倒して無事に元の世界に戻るって…


「それは打ち切りになっちゃったからって作者が結末だけネットに公開したの」

「えっ」

「かなり大雑把に。この後主人公達はラスボスを倒して元の世界に戻ります…ってだけ」


…え?それだけ?


「じゃ、じゃあラスボスの正体は?」

「この小説を読んだだけじゃわからないの」

「ええ!?」

「ごめんねー先に言えばよかったね」


そんなァァ!


「ラスボスが分かってたらわざわざ吉田を探す前に俺達が合流した時点で戦いに行ってるよ」


森本くんがケッと私を見た。

それもそうか…


「だから…主人公に位置する人を見つけられればラスボスがわかるかなって思ってたの。主人公ってことは物語の大きな動きはその人の元で展開されていくはずだから…」


奈々恵さんがチラリと私を見る。

あー…そゆこと…。

申し訳ないが主人公じゃない上にラスボスのラの字も知らぬ。



…ん?

ということは、あなた方は私が主人公であり、ラスボスを知っていることに懸けていた。

だが実際私はそのどちらにも当てはまらなかった。

つまり、今私達は…


「どん詰まりだねー」


瀬戸口さんが乾いたように笑った。



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