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反乱軍④




ーーー


名前   

種族   不明

年齢   18

スキル  〈掃除Lv95〉

     〈整頓Lv73〉↑

     《一掃Lv.32》

     《ーーー》

アイテム 箒(銀)Lv15↑

     帰還石

     ゾネルビンの酸20

     魔力増加ポーションA級

     ニアの葉のミサンガ1

     黒の加護

     作業着

役職   清掃アルバイターLv32

弱点   川 海


ーーー



「…え?コマンドって共有できるの?」


私の前に大きく現れたパネルを見て目を丸くする3人。森本くんがそう呟いた。


「できるよ。やろうと思えばだけど」


私の言葉に返事はなく、3人はパネルを凝視している。



共有のことは知らなかったんだ。小説に書いてなかったのかな。

あー…小説って文に書き起こせるからわざわざ見せる行為が必要ないのか。


小説にないことも起こるってことは…全てが全てシナリオ通りではないんだ。

この世界はちゃんと生きてる。ちゃんと存在している。プログラミングされたNPCのような人もいない。脚本通りに世界自体が決められた線をなぞっている訳ではないんだ。


たとえ軸が小説であったとしても、私の半年間は誰かによって作られたものではない。

あくまでここに生きる者達が創り上げた世界なんだ。


必死こいて生き抜いてきたこの世界が捏造のもので、全てはシナリオ通りに進んでいますなんて言われたらたまったもんじゃないもの。

ライルさん達もキロルくん達も私の人生の登場人物であって、物語の仮想キャラクターなどではない。



「…スキル…掃除?」


まじまじと私のコマンドを見ていた近藤さんが呟く。


「はい。仕事や日常的な行為がスキルになる。皆さんももそうでしょう。私は普段剣を扱うことも泥遊びもしません。私は清掃アルバイターです。残念だけど主人公とはスキルさえ…何一つ一致してない」

「じゃあ…吉田ちゃんは…」


私は…


「この小説内には登場しない、全く別の何かです」


…何かって何よ。

自分で言った言葉に呆れる。


「なんでそんなことが…」

「……」


近藤さんが諦めたように深いため息をついた。



…でも、私はこの世界で生まれ育ったわけじゃない。

みんなと同じように転生してきた紛れもない日本人だ。


「しかし私が転生者なのは事実です。たとえその小説に記されてなくても、皆さんの仲間です」

「吉田ちゃん…」

「全てが小説通りではない。ならば主人公でなくても…ラスボスに勝つことさえできれば元の世界に繋がる扉を開くことはできるかもしれません」


主人公枠がいないからと言って諦めるのは早い。


「シナリオはあくまでシナリオ。何もかもその通りになるとは限りません。生きてるんだから当然のことです。私達は作者の駒じゃない」


誰かの書いた捏造の文章に運命を決められるなんてごめんだ。

これは私の、私達それぞれの人生なんだ。



「今の私達にとっての現実はこの世界です。怪我だってするしお腹も空く。だったら自分達の道を自分達で切り開くことだってできるはずです」


この世界は全てが作者の作ったものではない。ここに生きる者達が自ら創り上げたもので溢れているはずだ。

だったら私達もこの手で創り上げればいい。私達に相応しい結末を。


「…」

「…」


近藤さんと瀬戸口さんが不安気に顔を見合わせる。

シナリオを基準にこの世界で生きてきたみんなにとってはシナリオを無視しろなんて簡単なことじゃないとは思う。

でもここが今の私達にとっての現実世界。それは逃れようのない事実だ。

その小説は取扱説明書でも攻略本でもない。



「俺は吉田の言う通りだと思うぜ」



「事実その小説と違う事がいっぱい起きてるんだろ?対して頼りにならねぇよそんな本」


淡々とそう言ったのは森本くんだった。


「むしろシナリオを持ってるんだったらあえて違う道を選ぶことだってできるじゃん。その本に書かれてること以外、今更この世界に作者は干渉できないんだからさ」


そう…その通りだよ森本くん!


「私達にはどうとでもできます。だってこの世界でリアルに生きてますから」


大きく頷く森本くん。私を見てニッと笑った。



「実際道を選ぶのは私達…ということですか」


近藤さんが呟く。


「確かに…どこの誰かも知らない作者の都合に振り回されるのはナンセンスだよねー」


瀬戸口さんがふっと軽い息を吐いた。


「この先の展開を、未来を決められるのは今の私達だけです。小説にがんじがらめになってはいけません。シナリオを変える方法は数多とあるはずです」


勢いに乗って声を大にして言う。

そんな調子に乗っている私を見て3人の表情が確かに緩んだ。


「確かに…そうですね。その通りですよ」

「ラスボスぶっ倒せばいいってことさえ分かってりゃ充分だぜ!」

「祐樹のくせに的を射た事言うじゃん」

「え、なんすかそれ。くせにってどういう意味すか誠さん!」


食ってかかる森本くんを見て笑う近藤さんと瀬戸口さん。

その目にはもう不安の色など浮かんでいなかった。

流石は転生者。伊達にこのファンタジーの世界に選ばれ、生き抜いてきた人間ではないということかな…。




「よっしゃあ!じゃあさっさとラスボス見つけるぞ!まずは手掛かりになりそうな…」

「あ、ちょい待って」

「どぅえ」


張り切って声を上げた森本くんをピシャリと遮る瀬戸口さん。


「もーなんすかぁ」

「いや…ちょっと気になることがあって」


気になること?

瀬戸口さんの見かけにしては低い声が響いた。


「これ…なんかおかしくない?」

「え?」


神妙な顔つきで指を差す瀬戸口さん。

その指の先にあるのは…開きっぱなしだった私のコマンド…?


「おかしい?私のコマンドがですか?」

「うん。ヨッシーのコマンド僕のとは色々違う」

「え」

「変だよ」


えーそれ私のがおかしいとは限らなくなーい?

コマンドの共有知らなかったんだから他の人のやつ見たことないんでしょ?

そっちがおかしいかもしんないじゃーん。


「それ私が違うんですか?瀬戸口さんのが違うんじゃなくて?」

「僕らは最初に集まった時に口頭で確認してるよ」


ええー。

でも前に見せてもらったルンバさんのコマンドとは似たような感じだったよ?



「よく見て。僕らと明確に違うところがいくつかある」

「え?」


私のパネルをもう一度見る近藤さんと森本くん。


「ほらここ。種族が不明になってる」


種族?

そりゃそうでしょ。こちとら外界人の転生者だぜ?


「外界人は種族が不明になるはずですよ」


キロルくんが言ってたよ。

白青赤黒のどこかの国民にならないと種族は表記されないって。



「“外界人は”でしょ?僕らは外界人じゃなくて転生者だよ」

「え…外界人と転生者って同じ扱いのはずでは?」


4国の外から来たる者。

私達は別世界から来てるんだから外界の生き物だよ。


「違うよ。外界人は4国の外からやってきた奴らのこと。この世界の7割を占める外界に住む種族」

「地球もその7割の中にあるんじゃないんですか?」

「地球を含む壮大な銀河が7割に入るなら、この4国は残りの3割を締められるくらい広いはずでしょ?でも4国合わせたとしてもここはそんなにデカくない。それどころか地球より断然狭い」


…た、確かに。


「僕達は外からここに移って来た訳じゃない。“転生”なんだよ。“世界線”ごと変わってるんだ。転生は生まれ変わり。僕達はこの世界の住人に一時的に生まれ変わってるんだ。だから種族はちゃんと表記されるはず。実際僕らはみんな『人間』って書いてある」


…そうなの?

キロルくんも恩人のおばさまも転生者は外界人だって言ってたけど…違ったってこと?

え、待って…じゃあなんで私は不明になってるの?



「それから名前。なんで名前が書いてないの?あと役職も違う」


役職?それは別に間違ってなくない?

私は紛れもなく清掃アルバイターだよ。


「確かに…反乱軍じゃない」

「清掃アルバイターになってる」


…反乱軍?

反乱軍って…あの伝説の?


「皆さんは反乱軍なんですか?」

「ああ。みんな反乱軍。普段は別の仕事をしてるけど、コマンドには反乱軍以外の表記はない」


え…


「私は…反乱軍じゃないってこと…?」

「…わからない。僕らと同じ転生者なら反乱軍のはずだけど…」



シナリオに登場しない私の立場…。

同じく転生者のはずなのに私だけ種族は外界人。この世界で招かれざる生き物…。

さらに私のみ反乱軍の肩書がない…。


「……」


じゃあ…なんなの?


「私って……何?」

「…吉田ちゃん……」

「……」


しんとする空間。

誰も答えなんてわかるはずがない。


「…私は……誰」




「転生者だよ」


え?

堅苦しい雰囲気に臆せず淡々と言ったのは…やはり森本くん。

近藤さんや瀬戸口さんとは違い一切の動揺をしていない。さっきまでと同じようにそこにいる。


「吉田は俺達と同じ転生者。俺らの仲間。そうだろ?」

「…森本くん」

「別に表記とかどうでもよくね?たかが文字、気にすることじゃねぇだろ。さっきシナリオに囚われるなって話してたじゃん。同じだよ。コマンドが全てじゃない」


……。

自分のコマンドをもう一度見る。

たかが文字…か。


「良いじゃん謎キャラ。かっこいいじゃん」


相変わらず感情の読みづらい吊り目で私を見据える。そしてソファに座る私の目の前に屈んだ。


「俺達は同胞だ。それ以外の何者でもない。吉田は吉田。日本人」


……。


「そうだろ?」

「……」



あー…もうよくわかんないや。考えるのやめよ。性に合わん。考えたところでこれの真相なんて分かるわけがない。

だって私、お馬鹿だもん。ライルさんお墨付きのお馬鹿だもん。


「うん。アイアムジャパニーズ」

「おう、ミートゥー」



森本くんはにっと笑って私の頭に手を置くと、何故かドヤ顔で近藤さんと瀬戸口さんを見た。


「はい、5人目。言った通りちゃんと連れて来ただろ」


「……」

「……」


ぽかんと顔を見合わせるお二人。

森本くんのドヤ顔を見て、やがて盛大なため息をついた。


「はぁ…さすが頭空っぽ祐樹。まっいいか。悔しいけど祐樹の言う通りだし」

「やっぱり祐樹くんには敵わないですね」



森本祐樹、近藤奈々恵、瀬戸口誠。

そして私。

同じ国で生まれ育った同胞達。


ここに集ったのは偶然か、必然か。

その答えは否が応でも、いずれ分かる。



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