表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

反乱軍③



「シナリオ?」


近藤さんが言った言葉を繰り返す。

シナリオって…何?


「…」

「…奈々恵ちゃん」

「はい」


瀬戸口さんに呼ばれた近藤さんがどこかへ向かう。

カウンターの奥から鞄のようなものを取り出して漁っている。


「あの…どうしたんですか?」

「吉田。今から俺達が分かっているこの世界のことを話す。多分情報量やばいと思うけど頑張って聞いて」


この世界のこと…。


さっきとは打って変わって真面目な顔をした3人が少し不安げに私を見る。

…知らなければならない。この世界のこと、私が転生した理由。


「分かりました」



カウンターから戻ってきた近藤さん。その手には一冊の本が握られている。

…小説?

本の表紙には可愛らしい二次元のキャラクターが描かれていた。

よく見るラノベの小説みたいだ。

近藤さんがその本を私の前に差し出した。


…?

『転生して反乱軍になりました!』

それっぽい題名だけど……何これ。


「吉田ちゃん。今から全て説明しますね」


……。


「はい」




「これは現実世界の小説。『転生して反乱軍になりました!』辻崎聖悟っていう人が書いた、そんなに人気は出なかったけど一応書籍化されたライトノベル」


ラノベ…。

現実世界で幅広く流行っていた異世界転生物だろうか。


「簡単に物語を説明すると、主人公が車に轢かれて異世界に転生するの。最初は混乱してるんだけど、なんとか異世界で生活していく中で、ある日自分と同じように転生してきた日本人に出会うの」


はあ。まあ珍しい展開ではないよね。


「2人は元の世界に戻る方法を探すことになるんだけど…物語が進むに連れて、続々と同じような転生者達が集まってくるの。最終的に転生者は全部で5人になる」


5人…?


「そして5人は旅の中で出会ったとある魔法使いに予言される。反乱軍としてこの世界の闇に立ち向かい、見事打ち勝つことができれば…元の世界に戻れるだろうって」


……。


「5人は予言に従ってその世界の闇を暴き、強大な敵と戦うっていうストーリー。最後は見事勝利してみんな元の世界に戻っていくらしいんだけど…」


まるで…ライルさんから聞いた反乱軍の伝説みたいだ。



「そしてこの小説で描かれている異世界は、4つの国が舞台になってる」


…4つ?


「白の国、青の国、赤の国…そして黒の国」


っ!

え…ま、まさか…。


「国の名前は…イーデア、シプトピア、メラオニア、そしてブラトフォリス」


嘘…


「この小説で主人公達転生者、後の反乱軍は…メラオニアの森の中にある小屋を基地にしてる」


メラオニアの森…赤の森?


「それが、この場所」


まさかシナリオって…


「ここはただの異世界じゃない。この小説の中の世界なの。私達が転生したのは、この物語の舞台になっている異世界。多分…物語の中」



ジジっと脳内で今までの出来事が蘇る。


通じる日本語。

現実世界と同じ名前の道具。

仏教を連想させる伝説。

実例のない反乱軍の伝説。

ゲームのようなコマンド。

魔法の概念と同等に存在する現実世界の常識。

曖昧な設定。


なるほど…捏造の世界…辻褄が合う。

森本くんの言っていた『都合』っていうのは…作者の都合のことだったのか。



「ここまで大丈夫ですか?」

「はい…なんとか」

「異世界物の小説で物語の中に転生するパターンはかなり王道です」

「そうですね」

「だから私達もそれと同じケースだと思っていたんです。でも問題はこのあと」


問題?


「私、祐樹くん、誠さん、あと1人の北条さん。この4人には多少違いはあれど、ほとんど小説の展開と同じことが起こってた」


小説と同じ展開…?

あ、もしかしてそれがシナリオ?



「まず転生して目を覚ました場所。性別や年齢は違えど、みんな小説内で語られているキャラクター達と一致していた。私はシプトピアの浜辺に転生しました。小説内に出てくる回復魔法を使う『花園茜』というキャラと同じ。そして私が使うスキルは治癒魔法。病院に勤めてるところも同じです」


「俺はメラオニア。『久城光留』っていう主人公のライバルキャラと同じ。久城光留は村の鍛冶屋じゃなくて赤の城で雇われてる鍛治職人だったけど、まあ職種は同じだ」


森本くんが言った。


「僕は『桜木梨里杏』っていう女の子のキャラと同じ。シプトピアの街中に転生した。彼女は発明の天才で、料理と同じ方法であらゆる機械や武器を作り出すスキルを持っていた。僕のスキルも似たような感じ」


瀬戸口さんが言った。


「そして北条さん。彼はヒロインキャラの『一ノ瀬乃亜』。目を覚ました場所はイーデア。スキルは剣術。仕事は王族の護衛。このどれもそのキャラクターと同じでした」


護衛?ヒロイン護衛してるの?

で、その北条さんとやらはそのキャラと完璧に一致していると…。



「私は転生前からこの小説を知っていました。だから転生した時に私の他にも転生者がいるかもしれないと思ったんです。自分が『花園茜』と境遇が一致していたことにピンと来て、小説内で他のキャラが居たところへ探しに行けば、私と同じようにキャラと境遇が一致した転生者とコンタクトが取れるかもしれないと」


なるほど…。

小説の展開と同じことが起こっていると予測して、そのシナリオを頼りに仲間を探したのか。


「そして北条さん、誠さん、祐樹くんと合流した。でも……」


近藤さんの目が僅かに泳ぎ、私を見る。


「でも主人公と一致する人だけは見つからなかった」

「……」


5人目…。

今の話だとおそらくそこに位置するのは最後の1人である私…。

でも私は別に探した上で見つけられたわけではない。

たまたまライルさんとルドルフさんの繋がりがあって私と森本くんが出会った。



「小説通りだと主人公が車に轢かれて転生し、最初に目を覚したのはメラオニアの戦場なんです」


え…メラオニア?私と違う…。


「主人公は訳がわからず逃げ惑い、結界の張られた森を見つけるんです」


それがこの赤の森…?


「主人公には北条さんと同じく結界破りのスキルがあった。だから森の中に入ることが可能だった。そしてこの小屋に辿り着くんです」


結界破りのスキル…そんなの私は持っていない。


「そしてメラオニアのこの小屋で生活を始めた主人公はお金を得るために働くんだけど…小説通りだとヒロインと同じく白の城で衛兵になるはずなんです」


衛兵…ではない。

私はただの清掃員。


「私達はその情報を頼りに主人公を探しました。でも見つからなかった。メラオニアの戦場で目を覚まして、小説通りに逃げられず死んでしまったのだと思っていました。実際私達4人の中でこの小説を知っていたのは私だけ。シナリオを知らなければ、森の中に逃げることも小屋があることも知り得ませんから」


めちゃくちゃだなおい。

こういうのって普通愛読してる人が転生するもんじゃないの?

5人中1人って…。



「小説に記されてる転生者はこの5人だけ。それ以外にはいないはず。だから最初に祐樹くんから吉田ちゃんの存在を聞いた時、主人公がやっと見つかったんだと思いました。小説通りだとラスボスを倒すのは主人公。主人公と一致する人がいないと私達は帰れないかもしれない」


…なるほど。

だから森本くんはあんなに必死に私を引き入れようとしていたんだね。


「だから5人目の転生者が見つかったと知って心の底から安心しました。今までも完全に小説と一致していた訳じゃなかったから、どこかで行き違いがあってたまたまイーデアの清掃会社に入ってしまっただけだと思ってた…でも……」


でも…。

今聞いた主人公の情報と私の境遇はまるで一致していない。似てもいない。何一つ同じ箇所がない。



「でも…吉田ちゃんの転生先はブラトフォリス。しかも半年も前。私達4人は転生してきた順番も小説通りでした。小説によると主人公は祐樹くんと…つまり『久城光留』と同じタイミングで転生してくるはずなんです。でも…それもズレてる」


森本くんと戦った日、私が半年前からここにいると言った時の彼の反応が蘇る。

聞いてた話と違うって言ってたのはこれのことだったのね。


「目を覚ました場所、転生した時期…。そのどちらも一致しないということは…吉田ちゃんは主人公の位置ではないのかもしれない。でもそうすると、あなたの存在は小説に一切記されていない」


…じゃあ…私は一体何故転生したの?

私は…何者なの?



「吉田ちゃん。あなたのスキルは…剣術?」

「え?」


浅く深呼吸した近藤さんが変わらず真面目な顔で私を見る。


「小説の主人公が持つスキルはヒロインと同じく剣術。そして物語の後半で新しく取得するスキルが…大地の魔法」

「大地の魔法…」

「ええ。でも大地と言っても小説内で主人公が使うスキルは泥魔法なんだけどね。主人公が切り札を使うたびに仲間達が泥まみれになるっていう流れがお決まりだったの」


……。


「もし…もしスキルだけでも一致していれば…あなたが主人公に位置する人間だと言えないことはないかもしれない」


…森本くん。あなたが見たはずの私のスキルの話はしていないんだね。

チラリと彼を見るとその吊り目で私を見据え、諦めたように俯いた。



…。


「これを見れば分かります」

「…え?」


残念ながら私のスキルは剣術でも泥魔法でもない。

むしろ真逆だ。

汚す側の泥ではなく、掃除する側のスキル。


私は、ちょっと強い清掃アルバイターだから。



「コマンドの共有」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ