反乱軍①
本日も無事仕事終了!
今日は爆速で連絡通路の掃除を終わらせた。
あまりの急ぎ具合にペアだったアンデが引いてた。
「お疲れ様です!仕事終わりました!今日は失礼します!」
「え、まだ午前中だぞ」
「今日は連絡通路だけです!」
「食堂はいいのか?」
「昨日の夜のうちにやっておきました!事務所の掃除も早朝に終わらせました!」
「あ…そう」
「では!失礼します!」
バタンと大袈裟な音を立てて人間の雌が事務所を出て行く。
「…なんだあいつ気味悪いな」
「連絡通路も爆速でしたよ」
「なんかあんのか?」
「詳しくは教えてもらえなかったんすけど、知り合いに会うって言ってました」
「知り合い?あいつ知り合いいんの?」
「人間の知り合いらしいっすよ」
「へぇ…」
自分の部屋に駆け込む。
作業着を脱いで初めての給料日に買った黒スキニー&黒シャツに着替える。
そして同様、給料日に買った黒のローブを羽織る。
いつ転生者だとバレて逃亡生活をしなければならない日が来るかわからなかったので、早めにこういった目立たない服を用意しておいたのだ。
コマンドから箒を取り出す。
左手に硬く巻いたミサンガを確認。あれから一週間、毎日必ずつけているお守りだ。
さて。目指すはメラオニア。
そう。今日はモーリーもとい、森本くんからお呼び出しがあった。
私と同じようにこの世界に転生して来た同胞達に会いにいくのだ。少し緊張する。
先日、連絡通路を掃除していたら見慣れない青色の鳩が飛んできた。
この世界の鳩って青いのかぁすげー。とか思っていたら足に巻かれている紙を見つけた。伝書鳩のようだった。
差出人は森本くん。今日の日付にメラオニアに集合せよと日本語で書かれたものだった。
直接コンタクトをとってこないのはありがたい。
前もって今日のための準備はしておいた。
仕事も早く終わらせたし、部屋のドアには『友達に会いに行ってきます!明日までには戻ります!』と書いた紙を貼り付けた。
準備はOK。
ガタンと窓を開ける。
ローブのフードを深く被って箒くんに足をかける。
「行こう箒くん」
バサッ
窓から空へ飛び立った。
日中はドラゴン族や妖精達など多くの種族が空を飛んでいるため、見つからないようかなり上空に上がる。
「ねぇ箒くん」
バサッと応えるように大きく穂先を揺らす。
「…他の転生者ってどんな感じなんだろ。仲良くなれるかな。…みんな帰りたいと思ってるのかな」
バサバサ…
「うん。私は別に帰りたくない。ここにいたい。ライルさんもアンデもルンバさんも…みんなのこと好きだし。あ、もちろん箒くんもね」
バサッ
やっぱバサしか表現方法ないの可哀想だよ。会話辛いし。
「反乱軍かぁ…」
本当に私達が集結して一悶着起こせば帰れるのかな。根拠あるの?
なんかそういうデータがあるんすか?
なんだろう、憶測で物を言うのやめてもらっていいですか?
「……戻りたくないなぁ」
そんなブルーな気持ちで飛んでいても進んでいれば連絡通路は近づいてくる。
私達の気配に気づき、ゴゴゴゴ…と番人である荊の茎達が動き出す。
そうだった…これを抜けなきゃいけないんだったね。
「スキル、整頓」
目元がじんと熱くなる。
どうやらこのスキルを使うと私の目は赤く光るみたいだ。この前鏡の前でやってみて知った。
人前で使わないように気をつけないと。人間にはこんな能力ないからね。
ゴゴゴゴ…
そんな怖いオーラ出しても通らせてもらうからね!
「準備はいい?箒くん!」
バサッ
ーー
整頓状態の視界で導き出したルートを通り、見事荊の壁を突破した。
前より楽々と通り抜けることができた。
そして辿り着いたメラオニア。やはりがらんとしていて空気が乾いている。
辺りを警戒しつつ、人通りが減ったタイミングで目的地の村の中に降りる。
ルドルフさんの鍛冶屋。フードをとって木製の扉を開けた。
「いらっしゃい…ってあれ?君は…」
「こんにちは、ルドルフさん」
「あー!ライルのところのヨッシーちゃん!」
相変わらず美しい色白のエルフ、ルドルフさん。
作業の手を止めて笑いかけてくれる。
「今日はどうしたの?」
「あ、もりも…モーリーさんに用事があって」
「…え」
「え?」
私の言葉にカランと持っていたペンを落としたルドルフさん。
「え……ええっ!なっ何々!?いつの間に仲良くなったの!?」
キラキラと緑の目が輝いている。
「やだー!もう言っておいてよー!モーリーってば全然友達作らないから心配してたんだよぉっ!待ってて今呼んでくる!」
「あ、は…はい」
そそくさと裏に入っていくエルフの背中。なんか…ライルさんとは全然違う雰囲気…。
ちょっとおねえチックだった気がするけど…。あの見事なしなりの手首スウィングとか特に。
「モーリー!お呼び出しだよぉー!」
奥の部屋からルドルフさんの声が聞こえる。
まさか彼も自分の元で働いている人間が別世界の住人だとは思いもしないだろう。ライルさんと同じように。
こうやって私達転生者はこの世界で生き延びていくんだ。
そして私は今日、その同胞達に会いに行く。
今の私はクールオンの清掃員ではなく反乱軍の一員としてここにいる。
なんだか落ち着かない心臓を収めるため、軽く深呼吸した。
「よお!早かったな!」
しばらくして森本くんが出てくる。
相変わらず薄汚れたエプロンをつけている。
私を見て顔を輝かせる。ルドルフさんとちょっとだけ似ている。
「来てくれたんだな」
「来いって言ったじゃん」
「来ないかもとも思ってた」
「直接会いに来られたら困るから」
「はは、懸命なご判断で」
エプロンを取ると私同様全身黒色になる。
安堵と興奮の入り混じった顔で満足気に頷く。
「他の人は?」
「そんな焦るなよ。他の奴らもこっちで上手いこと生活してる。みんなが揃うのは夕方頃だ」
えーなにそれ。言っておいてよ。
無駄に早く来たじゃん。
「全員じゃないけど既に集まってる奴も何人かいる。俺ももう上がるからみんなの所に行こう」
「ういー…」
「なんだよ。気が乗らないのか?」
「乗るわけなかろうが。私は帰りたくない」
「…変なの」
変かな。人それぞれじゃない?
あなたに私の気持ちは分からないよ。
「あらあら2人でお出かけなんてぇ。いいねぇ若いって青春だねぇ」
「違いますからルーさん」
「またまたぁ!そんな可愛い子連れてデートでしょー?」
「違うってば」
ルドルフさんが私達をニヨニヨと見つめる。
近所のおばちゃんみたいだな。
「仕事に行くんです」
「えっ何?新しいバイトでも始めたの?」
「そんな感じです」
「ええ!俺というものがありながら!」
「行ってきまーす」
「お、お邪魔しました」
「モーリー!?モーリぃぃぃ!」
ルドルフさんの叫び声を無視して扉を閉める森本くん。
「よかったの?」
「いつもあんな感じだよ」
「仲良いんだね」
「……別に」
照れくさそうに目を逸らす森本くん。
なんだ。満更でもなさそうでやんの。
「悪いとこじゃないでしょ。この世界も」
「でも…俺達の生きるべき世界じゃない」
「…真面目だなぁ」
森本くんはゴホンと咳払いをして何もない空間から地図のようなものを取り出す。
コマンドかな。
「コマンド開けるの知ってたんだね」
「教えてもらった」
「ルドルフさんに?」
「いや、他の転生者」
え?知ってる人がいたの?
誰かから教えてもらったのかな。
「その人が色々教えてくれたんだ。この世界のこと、俺達が帰れる方法」
「なんで知ってたの?」
「直接聞けばわかる」
ちぇ。
もったいぶらないでよ。
「俺の口からは説明しづらい」
それ前も言ってたよね。
難しい話なのかな…
「反乱軍基地はメラオニアにある。そう遠くない。こっちだ」
「基地なんてあるの?作ったの?」
「あったんだよ。最初から」
…え?
どういうこと?
「行けばわかる。ついてきて」
「…わかった」
もう行くしかない。
この目で、この耳で直接確認するしかない。
反乱軍基地。
他の転生者、同胞。
私の転生物語は、穏やかには進んでくれないようだ。




