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アルバイト②



連絡通路の掃除は命懸けである!何故か。



ギューイイイ!!


「ええいっ!」


箒を振りかぶって叩き落とす。

これは決して箒の正しい使い方ではないのでご注意。


「はぁはぁ…もう…第五通路っていっつもこうなんだよね」



現在、日課である連絡通路の掃除中。

私がいるのは広い連絡通路内にある第五通路という場所である。


この世界の掃除はかなり、かーなーり変わっている。



連絡通路。

四国の中心に位置するステーション。

星型のような形で屋根のある建物になっている。連絡通路の上には飛行できる種族が上空から他国へ行けないよう、荊のような棘のある太い草が空高くまで生い茂っている。


そんな通路内はかなり広く、短時間では掃除しきれない。

中心にあるのは中央通路。

そこから枝分かれしてそれぞれの国につながる通路が伸びている。


イーデアにつながる第一通路と第二通路。

シプトピアにつながる第三通路。

メラオニアにつながる第四通路。

ブラトフォリスにつながる第五通路。

そして警備係のゴブリンが常に見張っている、外界につながる外界通路。



第一通路から第四通路までは、至って普通の広くて綺麗なトンネルのような構造。


だが第五通路は構造は同じだが雰囲気が大きく異なる。

汚れも酷いし、暗いし寒いし、片付けなければならないものが多すぎる。


とにかく一番手がかかる。それがこの第五通路だ。



そしてその“片付けなければならないもの”というのが…


ギューイイイ!!


「もう!日に日に数増えてるんだけど!」


このなかなか文字では表現できない奇怪な鳴き声を上げる、ヌメヌメした緑色のスライム状の生物。

こいつを片すのがいちばんの手間なのだ。



初めて掃除に来た時にも襲われて、かなりひどい怪我を負った。

しかし力自体はそんなに強くない。ちゃんと応戦すれば私でも勝てる。


何度かこやつの正体をライルさんに聞いてみようと試みたが、私の話には微塵も耳を傾けてくれなかったので諦めた。


警備ゴブリン曰く、第五通路に充満している不備魔力とやらの残りカスが実体化して意思を持ってしまう、いわば生きたゴミということだったのでれっきとした掃除対象なのだ。

ゴミの分際で襲いかかってくるとはなんとも生意気である。




この第五通路から繋がるのはブラトフォリスという黒の国。


噂によるとブラトフォリスは恐ろしい国らしい。多くの種族が黒の国を煙たがり、国民を嫌うらしい。

が…そんなものはただの噂に過ぎない。


何故そう言えるのかというと、飢えた死にかけの私を拾ってくれた親切なおばさまと出会ったのが、このブラトフォリスだったからだ。


というか私が転生して初めて踏み入った場所がブラトフォリスの街中だった。

エレベーターの扉の向こう側が黒の国だったのだ。


1ヶ月半ほど生活したこの国には、もはや故郷のような安心感こそある。

だからブラトフォリスへ繋がる唯一の入り口である第五通路の掃除は、たとえ厄介なヌメヌメに襲われようが丹精込めて行うのだ!



全ての入り口となるこの場所。


玄関は顔とも言うし、どんな身分の人でも必ずこの道は使う。

だったら完璧なまでに綺麗にするのがお賃金をもらっている私の使命だ。


だが…異世界では掃除すらも命懸けなのか。私はこの先無事にやっていけるのだろうか…。

数ヶ月しかこの世界で暮らしていない私にはそんな不安が拭いきれないでいた。




ギューイイイ!


「てか…なんか多くない?」


こいつらに襲われることはもはや日常。モンスター退治は私の業務の一環になっている。


しかし最近その数が増加している。

モンスターの力も初期に比べると強くなっている気がする。

箒を振り回していればなんとか勝てた今までのようには行かなくなってきた。



「御用だ!御用だ!」

「なにやつ!なにやつ!」


あ。


中央通路から聞き慣れた特徴的な掛け声が聞こえた。灰色の全長1メートルほどの人外が二匹。

お世辞にも可愛いとは言えないルックスの警備ゴブリンである。


「ゴブリンさん、今日も警備お疲れ様です」

「いつもの人間!いつもの人間!」

「掃除!掃除!」


モンスターの気配を察知して、こうして様子を見に来てくれる。これも日課。


「今日もモンスターがいっぱいいたんですよー」

「不備魔力!不備魔力!」

「生きたゴミ!生きたゴミ!」


生きたゴミって聞こえ最悪だね。

まあスライムに理性はないみたいだから仕方ないか。


「ちゃんと片付けましたよ」

「お疲れ様!お疲れ様!」

「ありがとう!ありがとう!」


私に感謝してくれるのは君達くらいだよ。



「ねぇゴブリンさん、最近モンスターの数がすごく増えてるんだけどなんでだろう」

「ゴミ増加!ゴミ増加!」

「汚染!汚染!」


汚染か…。

どんな世界でも抱える問題は同じなんだね。


「負傷!負傷!」

「怪我!怪我!」

「え?あ、本当だ」


今日は一段と数が多かったからか深めの傷を負ってしまったみたいだ。

まあ無傷の時の方が少ないんだけどね。


「このブカブカの作業服で隠れるから大丈夫」


ライルさんに見つかるとこれまためんどくさい。

これだから弱小種族はーとか、貧弱だ鍛えろーとか。

これ以上呆れられるのは嫌だ。


「寝れば治るよ。さて、あとは外界通路の掃除だけだし、さっさと終わらせちゃお!」


外界通路は半分以上が閉鎖されているから掃除する箇所が少ない。

今日のノルマは日課の連絡通路の掃除のみ。

早く終わらせて食堂の掃除しに行こ!おばちゃん達が残飯分けてくれるからね!



ギューイイイ!!


しかし第五通路に背を向けた途端、再び厄介な鳴き声が通路内に反響した。


「え?」

「御用だ!御用だ!」

「なにやつ!なにやつ!」


嘘でしょ…さっき全部片付けたのにもう新しいのが生まれたの?

流石に早すぎるのでは!?



「もーっ!」


仕方なく再び箒を構える。

武器なんて高価アイテムは持ってないのでいつも戦う時に使うのは掃除道具の箒。


絶対壊さないようにしないと。

初日に壊して超叱られたんだよね…そらーもうものすごい剣幕で…



第五通路の暗闇の中、シュンシュンと素早く影が動く。スライムってもっとノロいイメージだったんだけどな…


箒を剣のように構える。

と、私の目の前を濁った緑色が通り過ぎた。


ギューイイイ!!


「…え」


待って…何今の?

いつものスライム?


「危険!危険!」

「不備魔力大量!不備魔力大量!」


ぬぁっぬぁんだってぇぇ!?


「量によって強さ変わるの!?強いってこと!?」

「いつものはカス!いつものはカス!」

「こいつ強いカス!こいつ強いカス!」


ええ!嘘でしょおお!!


「逃げろ!逃げろ!」

「勝てない!勝てない!」



ギューイイイ!!


う…うわ……でっか…


ぬるりと私の前に現れたスライム。

それは今まで応戦してきたものとは比べ物にならないほど大きく、恐ろしい姿をしていた。

狂ったように奇怪な鳴き声をあげ、体の中心にある目のような丸い物体でギョロリと私を見る。


「敵!敵!」

「危険!危険!」

「ひ、ひぃ……」


だめだ…逃げ…


ぬろりぬろり


あ…

スライムの通った場所が緑の液体で汚れている…

液体はカビのようにこべりつき、地面を腐らせていく。

そうか…いつも第五通路だけひどく汚れていたのは此奴らのせいだったんだ。



「人間!人間!」

「戦うな!戦うな!」


いや…逃げるなんて職場放棄だ。

私は清掃アルバイター。


「汚れの元は断たなければいつまで経っても綺麗にならない…」


箒を構える。

ビリビリと体が震える感覚。


「弱小種族だって掃除くらいはできる…ピカピカにしてライルさんに認めてもらうんだ」



私はライルさんやアンデイルさんのような優秀な人材ではない。誰にでも代えられる捨て駒だ。

仕事を失っては生きていけない。

役に立たないと…自分の仕事くらいちゃんと果たせないと…そうでないと…


この世界でもまた、捨てられてしまう。



「来い!汚れの元め!掃除してやる!」


ギューイイイ!!


どでかいスライムから腕のようなものがニュッと生え、私の頭上に向かって落ちてくる。

ぶつかる寸前で転がり避け、振り下ろされた腕を箒で思いきり叩く。


ギュイイイー!!


叫び声を上げたスライムが巨体を捻って暴れる。

飛び散る緑の液体。びちゃっと私の肩にかかった。


「うええ!?ふっ服があ!」


液体がかかった部分の布がシュワーと音を立てて溶ける。

こっコンプラ案件だよ!?セクシーになっちゃうよ私!



「酸!酸!」

「触るな!触るな!」

「酸んんん!?」


ここって酸とかいう概念存在するの!?


「肉体溶かす!肉体溶かす!」

「超危険!超危険!」

「ひいいい!!」


左側の肩から腰にかけて作業服が溶ける。

ジュッと音を立てて飛び散った緑の液が私の皮膚に火傷のような痕を残す。


「いっ痛い痛い!痛ッタなにこれ!」


まるで焼けたかのように浴びたところが熱くなる。

皮膚が溶けている。


これまーじでヤバいやつだ。

震える左手で無理やり箒を握りしめる。



「人間!人間!」

「やめろ!やめろ!」


ギューイイイ!!


「ゴブリンさん!下がって!」


スライムがわーわー騒ぐゴブリン達の方を向く。

そして再び緑の腕を振り上げた。


「母ちゃん!母ちゃん!」

「死んじゃう!死んじゃう!」

「死なない死なない!」


泣き喚くゴブリンを両脇に抱え咄嗟に飛び退く。

ほぼ同時に緑の腕が落ちてくる。なんとかスレスレで避けられた。


おわ…私って思ったより運動神経いいのかもしれない…



ギューイイイ!!


「ダメだ一旦逃げよう!ゴブリンさん早く…痛っ」

「人間?人間?」

「どうした?どうした?」


あ、あ…足捻ったあぁ!!

全然運動神経良くないわ!飛び退いた時に思い切り捻ってる!超痛い!


「人間!人間!」

「しっかり!しっかり!」

「む、無理ぽよ…」


しっ死んじゃうぅ!!



ギューイイイ!!



スライムの緑の腕が頭上に影を作った。


「し、死ぬ…」



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