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居場所②



………。



「次はあそこだ」

「…はーい」


イーデアの街中。

隣を歩く褐色のエルフ。

大きな袋を抱える…私。



ライルさんに連れ出された午後休。

2人でお出かけ!?とベタに緊張した矢先…現在、必要物資の買い出しに付き合わされ荷物持ちをさせられている可哀想な乙女です。


いやね?いや別に浮かれてたわけでもないし?

で、でぇと…とか思ってなかったし?

いいんだけどね?いいんだけど…


わざわざ作業着を脱いできたんだよ私は。

わざわざ数少ない私服を出してきたんだよ私は。

その仕打ちが荷物持ちですよ…。

素晴らしいよね。完璧なオチだよね。



「何そんな膨れっ面してんだよ」

「…なんでもありませーん」

「重いのか?」

「ぜんっぜん重くないですー」


私が抱えているのは煤汚れたボロボロの麻袋。中身は大量の貝殻。

ライルさんの方が重そうなもん抱えてるから、これ持ってると服が汚れちゃいますーなんて死んでも言えない。

お気に入りの服出してくるんじゃなかった…。



「あそこで最後だ」

「へーい」


掃除に使えるアイテムやら洗剤を作るために必要な材料やらを買い集めること1時間ちょっと。


「ここで待ってろ」

「はーい」


決して綺麗ではない古ぼけたお店に消えていくライルさん。

なんのお店なんだろ。

ボロボロの麻袋を抱えてそのお店の壁にもたれかかる。



「ふぅ…」


…え…なんでこんなに気落ちしてんだろ。

別にこのくらいなんてことないはずなのに。

今までもっと酷い扱い受けてきたのに。

何故、たかが荷物持ち程度にしか思われていない事実にこんなに機嫌を損ねているのだろう。


今にわかったことじゃない。ライルさんは人間嫌いで助け合いや思いやりという言葉を知らない人。

私に微塵も興味のない人。

今更じゃないかそんなこと。


何を期待してたんだ私は。

これは黒歴史更新じゃないか。

はっずぅ。


あの人の目に私が女として映ってるわけなかろうが。あ、いや別に女として見られたいなんて微塵も?これっぽっちも?全く?思ってませんけど。

…本当に。



だったら何故わざわざ着替えたのか。

お気に入りの服を出して来たのか。

何故作業着を洗いたかったからなどと見苦しい言い訳をしたのか。

そんな意地の悪い質問すら、あの人はしてこないんだから。

聞かれても困るけど。私自身も理由は分からないから。


嫌だ嫌だ。これじゃあまるで身体が痒くなるような少女漫画のヒロインだ。

私はそんなか弱いキャラではないし、べ…別にライルさんに対して何か特別な感情を持ってるわけじゃ…ないし。

うん。持ってないし。


ただ年頃の女の子が身近にいる男性と出かけるから気合い入れたってだけ。それだけ。

本当にそれだけだもん。うん。


「はぁ…」




「待たせたな」

「おわっ!お、おかえりなさい」


ボケーっと意味もなく空を見ていたらライルさんが帰ってきた。

謎に慌てる私を気持ち悪そうに見る。


「なんだよ」

「なななんでもないですし?別に変なこと考えてないですしお寿司」

「あっそう」

「か、買い物は終わりですか?じゃあ事務所に戻りましょ」



季節を感じさせない風が吹く。

私が転生した時に着ていた現実世界のお気に入りの服がその風に揺れる。

高頻度で着ているワンピースだ。

自分の誕生日に買ったやつ。


「服汚れてるぞ」

「はあ?そらそーですよ。この袋砂まみれなので」

「作業着着てこればよかったのに」

「……うるさいです」

「あ?」

「ふん」


袋を抱えて歩き出す。

しかし…ライルさんはついてこなかった。


「ライルさん?」

「…貸せ」

「え?」

「その袋貸せ。俺が運ぶ」

「え、いいですよ。ライルさんも荷物持ってるじゃないですか。これ運ぶために私呼んだんでしょう?仕事奪わないでくださーい」

「いいから」


あ。

ひょいと胸に抱えていた麻袋を取られる。

味のないワンピースの全貌が見える。


「ちょっとライルさん!」

「お前はこっち運べ」


と、渡されたのは紙袋。今買ってきたものだ。

小さいし軽い。


「運びごたえがないです!」

「自分のものは自分で持ってろ」

「え?」


自分のもの?

どういうこと?

受け取った紙袋に視線を落とす。



「それお前にやる」

「え」

「…お前は危なっかしい。つけてろ」


……何?

どういうこと?


「……私に…買ってきたんですか?」

「だからそうだと言ってる」

「……み、見てもいいですか?」

「好きにしろ」


シンプルな紙袋。そっと破らないように開く。

何故か意味もなく震える手で中のものを取り出す。

これは…


「…ミサンガですか?」

「回復効果のあるニアの葉が編み込まれてるやつだ。厄除けにもなる。つけておけば多少の怪我なら治癒してくれる」

「……え…にあ…?」

「…お前は怪我が多い」



ニアの葉…。

私に…買ってくれたの?

わがままを言って午後休にしてしまった私なんかのために?

ライルさんの嫌いな…弱小種族の人間のために?

私の…ために…。


ミサンガを取り出す。

緑と白の糸、そして青緑のニアの葉とやらが編み込まれている。

ニア……ニアの葉…。

やっぱり…この服を着て来てよかったかもしれない。

私の着ているワンピースは深い緑に質素な黒のリボンがついたもの。

このミサンガにとてもよく似合う色。


ライルさんが…くれた。

私のために…買ってくれた…。

そんなの、馬鹿がつくほど嬉しくなってしまうじゃないか。



ライルさんは私の方を見ていない。

不自然に顔を逸らしている。

その横顔を見ていると…なんだか心臓が握りつぶされるみたいにきゅうっとなる。

指先や足の先まで血が巡る感覚がわかる。


「…っありがとうございます」

「…」

「ありがとうございます」

「聞こえてる」

「死ぬほど…大事にします」

「大袈裟な奴だな。だったら怪我すんなよ。治癒効果を使い切ればニアの葉は枯れる」

「…怪我しません。絶対枯らさない」

「できるもんならやってみろ」

「ありがとう…ライルさん。ありがとうございます」

「…ん」


…にあの葉

ニアの、葉。ミサンガ。


ぎゅっと、それを握りしめた。

ぎゅっと、目を瞑った。

ぎゅっと…心臓が締め付けられた。


転生してよかった。ライルさんに出会ってから何度もそう思うことがある。

私はここで見つけてしまったんだ。自分の居場所を。自分の生まれた世界ではないところで。

…変な話だ。




隣に立つ上司を見る。


「ライルさん」

「なんだ」

「私、ずっと言えてなかったことがあって」

「は?」

「少し前、私が悪魔化したキロルくんに連れ去られそうになったことがありましたよね」

「…ああ、あったなそんなこと」

「あの時…ルンバさんと2人で助けに来てくださりましたよね」

「…まあ」


ミール貝を回収する任務ができていない私を叱るために来たのかもしれない。

それでも…無視することだってできたはず。

放っておいたって何の問題もなかったはずだ。

でも来てくれた。当然のように来てくれたんだ。


私がいないことに…ちゃんと気づいてくれた。

初めて私を…探してくれた。



「ちゃんとお礼を言えてなかったと思って…」

「…」

「ありがとうございました」

「…部下の安全確保は上司の任務だから助けただけだ」

「それでも助けられたのは事実ですから。ありがとうございます」


チラリとこちらを見た緑の瞳と目が合う。


「私、ライルさんに出会って本当に良かったです。誰かに心配されて叱られたのも、探してもらえたのも、守ってもらえたのも…初めでです。ありがとうございます」



季節を感じさせない風が吹く。

この世界には季節が存在しない。

そんな私の生きていた世界とは違う世界の風が、心地よく髪を揺らす。


「私、ライルさんから貰ってばかりですね。どれだけ頑張ればこの恩を全部返せるのかわからないや」


サァッとタイミングよく再び風が吹き、ライルさんの黒髪も揺れる。



「……だったら」


緑色の目が私を捉える。

心臓にグッと力が入る。


「その恩を返し切るまでここにいろ」


……え、

……。


「じゃあ…返しきったら…?」

「どうせすぐに新しい恩ができる。なんせお前は馬鹿だからな」

「…じゃあ…私ずっとここに居ちゃいますよ」

「……そうすればいいだろ」


……。

ドクンドクンと、心臓が派手な祭りを始める。

指先が痛くなる。血が巡る。

初めての感覚。

意味もなく顔が熱を持つ。

意味もなく胸が痛くなる。

意味もなく…?声が、出なくなる。



「……居ます。ずっと……ずっとここに居る」

「……」

「私…ここに…ずっと」


意味もなく、泣きたくなる。


知らない感情、知らない感覚。

帰る場所、居てもいい場所が…ここにはある。

初めての、本当の居場所。



「…なぁヨシダ。お前は一体何を抱えてるんだ」


…え。


「何故…時折りそんな、お前に似合わない表情をする?何がお前を縛りつけてる?」


……。



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