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赤の国①



「だから無色、黄、緑、紫、銀、金の順番」

「えっと…無色…黄…紫…」

「ちーがーう」

「あーも!色の並びに法則性なさすぎる!覚えづらい!」

「ヨシダが教えろって言ったんだろ」


ため息をつくキロルくん。



クールオン事務所。


今日はライルさんの都合でお仕事はお休み。

本日鬼上司はメラオニアに出張中である。


ライルさんはもう師団長ではないけど、メラオニアの戦線状況によっては作戦会議にたまに呼ばれるらしい。

そのお仕事で本日はメラオニアに出向いているためクールオンはお休みなのだ!有休なのだ!有!休!



とは言っても特にすることもないので、前にライルさんが好きに見ていいと言ってくれたあの分厚い本でこの世界について勉強していた。

すると図ったかのようにブラトフォリスからキロルくんがテレポートで遊びに来てくれたのだ。

キロルくんは私が転生者だと知る唯一の友達。


まだこの世界の文字に慣れていない私のため、こうしていろいろ教えてくれる。

現在は武器の階級について解説してくれている。



「じゃあ私の箒は紫級だから結構強いの?」

「結構どころじゃないよ。紫は超レア物。基本は無色か黄色。緑でさえメラオニアの戦闘兵とかが使うレベル。紫までいくと団長とか指揮官とか王様の直属護衛騎士が使う一級品だよ」

「えーなんで私そんなもの持ってんの?」

「んー…もしかしたらこれも転生者の能力なのかも」


転生者の能力?


「前にも言っただろ?普通の人間族だったらスキルは使えないし、そもそもレベルなんてのはどの種族のコマンドにも存在しない。でもヨシダはそのどちらにも当てはまらない。ひょっとしたら転生者には特別なアタッカーとしての能力が備わってるのかもしれない」

「特別なアタッカー?」


アタッカーって戦闘要員だよね。

え、私そんな物騒な力持っちゃってる系?



「その箒ってここの倉庫にあった普通の箒だったんだろ?」

「うん。なんか使ってるうちに形が変わっちゃったの」

「形が変わる…それってもしかしたら武器の進化かもしれない」


進化?

まあ人のレベルも上がるくらいだし、物が進化することもありそう…。なんたって異世界だし。


「普通の武器は、例えば黄級だったらどれだけ使い込んだとしても緑級に昇級するようなことはない」

「普通はレベルとかないんだもんね」


武器が強くなるなんてことはありえないはず。


「うん。どれだけ鍛錬を積んでも昇級することはない。だから意図的に改造しない限り武器の見た目が変わることもないはずなんだ」

「でも私の箒は…」

「そう。取り替えたわけでもないのに形が変わってる。もしかしたら…ヨシダの使ってる箒はレベルが上がることで昇級できるのかもしれない」


昇級…

えっと…無色級が次の階級の黄色級になる…みたいなことだよね。


「転生者にはこの世界の『普通』が通用しない。可能性は十分ある」


へぇ…転生者ってすごいな。

まあ…箒…なんだけどね。剣とかではなく。


「最初から紫だったとは思えない。初めは無色級…それどころか武器ですらなかったかもしれない。箒だし」

「うん。箒だし」

「でももし転生者に特別なアタッカーの能力があるなら、普段使っている物が武器化するっていう現象が起こっても不思議じゃない。実際、無機物を武器化する魔術だってあるからな」


はいはい、この世界には有機物無機物の概念は存在する…と。



「ヨシダの力の限界はまるでわからない。この前の『一掃』っていうスキルも確実にA級以下の威力じゃなかった。あれはS級スキルに該当する強さだ。その武器も簡単に手に入らない紫級だし、もしこの先も武器が昇級していくのなら…ヨシダはこの世界で並外れた強さを持っていることになる」


こ、これが異世界転生界隈で有名な『俺強ぇ!』ってやつかっ。

やだーもー主人公じゃーん!


「この本によると、転生者はこの世界に呼ばれて突如現れる外界人のことを言うらしい。もしこれが本当ならヨシダはこの世界に必要とされたってことになる。そしてそのヨシダにこれだけ戦闘能力があるということは…この世界には戦わなきゃいけない何かがあるのかもしれない」


え…戦うの?ほのぼの系じゃないの…



「あと気になるのがこの文。『転生者同士は少人数で軍を成す』」

「あ、それ私も気になってた」

「これがただの作り話でないのなら…ヨシダの他にも転生者がいる可能性がある」

「どこに?どうやったら分かるの?」

「さあね。…転生者同士はなんらかの方法でお互いの正体が分かる…もしくは、この先どこかで自然と集まる時が来る…とか?」

「そんなこと…」


いや、でもこの世界バチバチにファンタジーだから予想できないことが起こってもおかしくはない。


「もしヨシダの他にも転生者がいるのなら、何かしらお互いが転生者である確認を取る方法があるはずだ」

「キロルくんの鑑定眼みたいな?」

「うん…もしくは暗号とか?」

「暗号?」

「転生者にしかわからない言葉を使うってこと」


でもこの世界日本語通じるしなぁ。


「まあ、この本に記されている伝説が本当なら…の話だけどね」



「ヨシダちゃーん!事務所いるー?」

「え?あ、はーい!」


その時、事務所の外からルンバさんの声が聞こえた。

キロルくんがこちらを見たが、まあ別に怒られはしないでしょ。


ガチャリと扉が開く。

しかし現れたルンバさんの姿を見て思わず口を開ける。


「ええっルンバさん!?どうしたんですかその目!」

「あ、ヨシダちゃん?…と誰かいるね」


普通に喋ってはいるが焦点があってない。

それどころかサイボーグである左側の目が…と、取れてる!空洞になってる!結構ホラー!


「目…目が…」

「そーなんだよ。ちょっと左目壊しちゃってさぁ。右目はほとんど機能してないから今視界ボヤッボヤなんだよ」

「大丈夫なんですか」

「平気平気。故障は珍しいことじゃないし、ちょっと動きづらいだけで歩けるから。っていうかもう1人誰?アンデじゃないよね」


おかしなところを見つめながら首を傾げるルンバさん。


「僕です、キロル」

「あー…え、なんでここにいんの」

「ヨシダと遊ぼうと思って」

「…あっそう。じゃ残念だけどもうおかえりくださーい。ヨシダちゃんはこれからちょっとお仕事だから」


えっなんでよ。有休なのに!



「ヨシダちゃん、ちょっとお使い頼まれてくれない?」

「えーなんですか」

「メラオニアにいるライルさんに届けて欲しいものがあって」


そう言ってルンバさんが取り出したのは…石?

うっすら緑に光る石だった。


「帰還石だな」


キロルくんがこそっと教えてくれる。


「帰還石?」

「そーそー。ライルさん忘れてったみたいで。届けてくれる?」


えっと…なんでそれがいるの?


「ヨシダ、とりあえず受け取って。あとで説明してやるから」

「わ、わかった」


キロルくんの言う通り何食わぬ顔で受け取る。

まあルンバさんには見えてないと思うけど。



「俺が行くつもりだったんだけど見ての通りこのザマだからさ。頼んだよ」

「はい」

「多分赤の城にいるよ。場所がわからなかったら通路抜けてすぐの村にある鍛冶屋に行ってみて。そこにライルさんの知り合いのエルフがいるから」

「了解です」

「ごめんねーよろしくー」

「お、お大事に〜」


ふらつきながらルンバさん退場。



「大丈夫かな」

「帰還石忘れたのによく入国できたね。まあ元師団長だから顔パスか」

「なんでこれがいるの?」


帰還石…私こんなの持ってないけど。

でも当然って感じだったし…この世界の常識かもしれない。無闇に聞かなくてよかった。


「メラオニアは国の大半が戦争区域なんだ。小さな村はいくつかあるけど、大体は獣人族をはじめとする戦闘種族の生き残りが住んでる。まあつまり安全な国ではないってこと。だから外国の者がメラオニアに入る時はこの帰還石を持ってないと入国できない」

「パスポート的な?」

「帰還石の効力は僕が使うテレポートと似たような感じ。使うと連絡通路内にテレポートできる。だからこれを持っていれば向こうで何かあってもすぐに帰れる。戦争に巻き込まれるのを防ぐための道具だね」


なるほど。そんな必須アイテムを忘れちゃったのね。


「一般人は入退国審査の時に帰還石の有無を確認されるけど…あのエルフは一般人じゃないから行けちゃったのかな」


じゃあ早く届けないと!

まあライルさんなら戦争に巻き込まれても無事だろうけど…



「ヨシダ、自分の帰還石は…」


…。


「持ってないよなー」

「解せぬ」

「じゃあ送るよ。僕のテレポートで」

「いいの?」

「1人で行かせるのも危険だし、入国審査引っかかるし」

「ありがとう!」

「うし、じゃあ」


ぐんと体が持ち上がる。

あ、そっか。

テレポートする時は抱えられるんだった。

慣れんな。


「掴まってろよ」

「うぃす!」



メラオニア…赤の国。

私が一度も足を踏み入れたことのない戦いの国。

どんなところなんだろう…


「メラオニアへ!」



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