友達になろう
誰もが私を嫌っている。
話下手だとか、遊び方を知らないとか、そんな理由で。
誰もが私を憎んでいる。
無口すぎるとか、顔が怖いとか。
でも、白佑だけは違う。
「俺ん家から果物持ってきたんだ、一緒に食べよう!」
「……うん。」
なんで、みんなみたいに私を嫌わないんだろう?
「だって、君はあんな奴らと違って、全然嫌な奴じゃないからね。」
どうして、こんなに優しくしてくれるの?
「だってさ、友達になりたいからだよ!」
友達……
——
今日は素敵な休日……のはずだった。
「起きた?」
スマホの画面をじっと見つめて、数十秒待つ。
ま、週末だし、あの寝坊助が起きてるわけないよな。そう思って、私は通話画面を開き、姜朴に電話をかけた。
「……おい、起きろ。」
「ん……」
「起きろ!」
「んん……」
「これ以上寝てたら、すぐに行って叩き起こすぞ。」
「ちょ、待って、起きた!今起きたって!」
私はため息をついた。
「待ち合わせ場所、覚えてるよな?」
「市立図書館でしょ。さすがにそれくらい覚えてるってば。」
「遅れたら本当に容赦しないから。」
電話を切り、私はリュックを背負って家を出た。
昨日、奈音鈴の成績表を見たあと、文芸部のメンバー全員で今日、勉強会を開くことに決めた。そこで、伝説の幽霊部員かつ優等生の姜朴を勉強会に引っ張り出したわけだ。
「でもさ、勉強会って言えば、普通は主人公の家に可愛い美少女たちが集まって、みんなでワイワイするっていう展開じゃない?」
姜朴の顔をまともに見る気にもなれない。
「実はずっと前から思ってたんだけど、お前って勉強以外は頭の中に二次元のゴミしか詰まってないよな。」
市立図書館は学校から近いし、迷うこともない。でも、私が勉強会の場所に図書館を選んだのにはもうひとつ理由がある。それは、騒ぐの禁止なこと。静かな環境で勉強する方が効率も上がるだろう。しばらくして、図書館の入口で手を振る奈音鈴と韵岚の姿が見えた。
「ここだよ、佑くん!姜朴くん!」
「遅、遅い。」部長は私の隣にいる姜朴を睨み、わざと舌打ちした。「ど、どうしてこんな役立たずを連れてきたのよ。」
「そんなひどい言い方するなよ!俺だって一応優等生だぞ!?」
「チッ。」
部長とこの幽霊部員には、何やら根深い因縁があるようだ。
——
「こちらでチケットを購入してください。」
私はスマホを取り出し、手慣れた動作でアプリを開き、三枚のチケットを購入した。奈音鈴は興味津々でそばに寄ってきた。
「佑くんって図書館に来ること多いの?」
「前に一度だけ来たかな。読みたいラノベがないか探しに。でも御禧書店が見つかってからは来てないよ。二人とも中に入っていいぞ、もうチケット買ってあるから。」
「じゃあ俺のは?」
私は姜朴を一瞥した。
「自分で買えよ。」
「はぁ!?白佑がこんなに冷たいなんて、俺、悲しいよ……白佑くん……」
「キモッ。」
姜朴が勉強会で戦力になりそうな相手じゃなかったら、死んでも呼びたくなかったわ。
「館内ではお静かにお願いいたします。」
——
「さて、まずは数学からだ。どこがわからないんだ?」
私たちは適当な席に腰掛け、私は数学の教科書を広げた。
「えっと……月曜日の授業からの範囲かな……」
私は顔を上げ、奈音鈴をじっと見つめた。
「お前、もしかして小説を書き始めてから、全然授業聞いてなかったんじゃ……?」
「そ、そんなことないよ!あれだよ、遠足の前に寝られない小学生と同じってやつだよ……はは……」
奈音鈴が目を逸らすのを見て、すぐにウソだとわかる。この子は本当にバカだな……
私はため息をつき、彼女の隣に移動した。
「この範囲、前にやったはずだよな?」
「う、うん……」
「じゃあここから先の部分を解説するぞ……」
「異議あり!」
残念だけどね、姜朴への忍耐力はもう尽きた。
「お前何がしたいんだ!?」
「せっかく呼ばれたのに、そんな冷たい言い方ひどいな!」
私は部長を指さし、姜朴を睨みつけた。
「部長を教えろよ!このまま彼女を放置するわけにはいかないだろ。」
「チッ。」
「俺より女の子を優先だなんて、白佑……変わったな……」
「騒ぐな、恥ずかしいだろ。」
もう姜朴の相手をする余裕はない。今一番重要なのは奈音鈴に勉強を教えることだ。
「さて、続きに行くぞ。」
「えっと……佑くん……」
「ん?」
彼女が少し照れくさそうにこちらを見て、顔が耳まで真っ赤になっている。
「……ちょ、ちょっと近すぎるかも……」
ハッとして見下ろすと、彼女と自然に寄り添って、腕が触れ合いそうな距離にいた。
いやいや、普通に勉強してるだけなのに、いったい何考えてるんだよ、この子。
「これが、”免疫訓練”ってやつ?」
「何もしないなら出てけ。」
「はいはい。」
——
私は一息ついて、机に突っ伏した。
「理解できた?」
「うん……」奈音鈴は少し考え込んで言った。「でも、実際に問題を解いてみた方がいいかも……」
「問題集なら、持ってきたよ。」
姜朴が言いながらリュックから数冊の問題集を取り出し、机に並べた。
「珍しいな、姜朴が役に立つ日が来るなんて。」
「べ、便宜を図る。」
「どれどれ……」私はその中から比較的易しそうな問題集を選び、あるページを指して奈音鈴に見せた。「ここが初心者向けかな。」
「よ、よし、頑張るぞ!」
彼女はペンを握り、ノートに向かって問題を解き始めた。成績こそ良くはないが、真剣に取り組む姿を見ていると、彼女ならきっと成績も上がるだろうと期待が湧いてくる。努力する姿を見ると、教師がやる気のある生徒に感動する気持ちが少しわかるかもな。
「白、白佑、歴史の問題。」
「姜朴がいるだろ?」
一方で姜朴は肩をすくめた。「残念だけど、歴史は俺の得意分野じゃないんだよね。」
「せめて休憩時間くらい欲しいんだけど……」
今度は部長がじっと私を見ている。
「こ、こんな勉強会、誰のために開いてると思ってるの?」
仕方ないな……。私は部長の歴史テストを手に取り、そこに並ぶたくさんの赤いバツを見て、思わず息を飲んだ。
「これ、全部わからなかったのか?」
「わ、わからないわけじゃない、近代史はちょっと……時間が足りなかっただけ。お前、歴史得意なの?」
「まあまあかな。授業が面白くて、寝るに寝れなかったからね。じゃ、ここから説明するぞ……ん、奈音鈴、何見てんだよ?」
まただ、あの少し怖い視線が!
「別に。」
「集中して問題解けよ……」
周りが静かになった。奈音鈴は問題集に没頭し、姜朴はペンを回して暇つぶしをしている。部長は解説を真剣に聞き、時々ノートにメモを取っていた。こうして見ると、意外と勉強を教えるのって楽しいのかもな。
……が、そんな静寂も長くは続かなかった。
「できたよ!佑くん、答え合わせして!」
解説の途中で、問題集が私の前に差し出された。
「姜朴に見てもらえよ、俺はまだ部長に教えてるんだから。」
「佑くん!見て!」
「ええ……」
顔を上げると、奈音鈴がほっぺたを膨らませ、まるで駄々っ子みたいに見えた。こんな無茶を言う彼女は初めてかも。
「い、いいよ、奈音鈴を先に見てあげて。」
「じゃあ、いいか。」
私は問題集を手に取り、間違えたところに印をつけて直してもらおうとしたが……。
……こりゃ、ダメだ。
立ち上がって、奈音鈴の問題集を指差し、身を乗り出して彼女を見つめた。
「なんで半分も間違ってるんだ?」
「仕方ないじゃん!わからないんだもん!」
「わからなくてそんな堂々とするなよ……」
奈音鈴がムッとして、私の袖を引っ張り、自分の方にぐいっと引き寄せた。その勢いでバランスを崩し、私は机に突っ伏してしまった。
「いてて……何すんだよ!」
「教えてくれればいいじゃん!」
私たちがそうやって揉めていると、横から一人の職員がにっこり笑顔でこちらを見つめていた。
「図書館内は、お静かにお、」
「すみませんでした。」
「ご、ごめんなさい……」
——
ふぅ。
「これで、全部理解できた?」
「うん……」
「理、理解した……」
隣では姜朴がスマホを弄って暇つぶししている。そもそもこいつ、何しに来たんだ?
「おっと、もう二時か。」
「そういえば、お腹が空いてきたね。」
どうやら今回の勉強会は、皆が夢中になれるほど成功したみたいだ。
「よし。」私は立ち上がりながら、「そろそろご飯に……」
急に目の前が暗くなり、ふらっと体が後ろへ倒れそうになった。
「白佑!」
意識を取り戻すと、背中に何かが当たっているのがわかる……肋骨?
振り返ると、奈音鈴が必死に私を支えてくれていた。見たところ、結構苦しそうだ。
「あ…ごめん。」
姿勢を立て直しても、まだ少し頭がぼんやりする。
「こういう時は『ありがとう』だろ?白佑ったら。」
「危なっ、死んじゃうかと思ったよ。」
「とりあえずご飯に行こうよ?佑くん、疲れてるみたいだし……」奈音鈴は私の服をそっとつまんで、心配そうにしている。
緊張すると、彼女はいつもこうして私の服をつまむんだ。
……
「ま、勉強会もそろそろ終わりだし、行くか。」
——
「さ、寒い……。みんな、寒くない?」
私、奈音鈴、姜朴の三人がそろって部長を見つめると、妙な沈黙が辺りに漂った。
「……何か言ってよ、どうしたのよ。」
「服を重ね着するのも、人生の試練のひとつだな。」
「だよね……」
「ねぇ、どうしてみんなそんなに変なの?」
韵岚を無視して、姜朴がスマホをいじりながら歩いていた。「どこで食べる?」
「俺も特にアイディアはないけど、君が決めたら?」
「ために勉強会開いてると思ってるの……」
奈音鈴が何かを思いついたように、私の腕をつついた。
「いいラーメン屋さん知ってるんだ、一緒に行こうよ?」
「どこにあるの?」
「公園のそばだよ、私が案内するね!」
今日の奈音鈴は、いつもよりやけに楽しそうだ。私たちは冷たい道を歩きながら彼女の後に続いた。歩いて、歩いて、小さな店の前に着いた。
「ここだよ!」
奈音鈴は自信満々に店に入ると、元気よく店主に声をかけた。
「大盛りラーメン四つください!」
待て、そんなに食うのか!?
慌てて彼女の口をふさいだ。
「ちょっと、自分の胃袋の容量で考えてくれよ!」
「食、食べきれない。」
「んんん……」
「すみません、店主さん、大盛り一つと、中盛り三つで。」
姜朴はまるで気にする様子もなく、席に着いて冷静に注文を変更していた。
「了解!」
座った後、奈音鈴が少し怒った様子で言った。
「もう!どうして口を塞ぐのよ!」
「そんな量頼んだら、誰だってビビるよ。」
「でも、本当にここのラーメン美味しいんだって!」
「い、いちゃいちゃしてる。」
「そんなんじゃない!」私たちは同時に言い返した。
「ほら、うるさいよ。ラーメン来たから、食べよう。」
姜朴が私に箸を差し出した。受け取ろうとした瞬間、奈音鈴がそれを奪っていった。
「ふんっ!」
「今日の君、なんか変だぞ……」
「いただきます!」
奈音鈴は何も言わず、黙々と食べ始めた。正直、彼女の食欲にはいつも驚かされるよ。
「い、いただきます。」
「俺も……って、あれ!?おい、俺のどんぶりにこんなに入れるなよ!?」
「だって食べきれないし。」
「なら最初から大盛りなんか頼むなよ!」
視線の先で、奈音鈴が微笑んでいるのが見えた。
——
ラーメン屋の前で、私たちはそれぞれ別れを告げた。
「じゃあね、韵岚、姜朴くん!」
「さ、さよなら。」
二人の姿が見えなくなった後、奈音鈴は私に向き直り、微笑んだ。
「私たちも帰ろう?」
「うん。」
そして、私たちは並んで帰り道を歩いた。
「今日も楽しかったね。」
「勉強会の主要关照対象なのに、なんでそんなに楽しそうにしてるの……?」
「そう言われると……」
冷たい風が冷酷な威厳を漂わせ、この暗い空を引き裂いて、この不完全な世界を崩壊させようとしている。見知らぬ街並みを歩きながら、私はふと思った。
「いよいよ、これからは執筆に集中しないとだね。」
「そうだな。絶対に文芸部をなくすわけにはいかないからな。」
「じゃあ、本気を出す前に、最後の準備をしようか。」
彼女はポケットから手袋を取り出してはめると、私に手を差し出した。
「佑くんが言ったんだよ、手袋越しなら手をつないでるうちに入らないって。」
……
私は手を空中で止めたが、すぐに彼女が私の手をつかんで、そっと引っ張ってくれた。
「こんな私たち、まだ友達でいられるかな?」
口にはしなかったけれど、答えは心の中でわかっていた。
陽光がついに雲間から顔を覗かせ、弱々しく照らし出している。その光の中で、彼女の猫耳ヘアピンがキラリと輝き、冬の寒さも少しだけ和らいで感じた。
姜朴。
その賭け、どうやら私の負けみたいだ。




