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2話
午前8時、カフェが開店する。
店の前にはすでに松田さんが立っていた。
彼は、手に持った新聞を軽く振り、「おはよう、理沙ちゃん」と穏やかに微笑む。
「おはようございます、松田さん。いつものブレンドでいいですか?」
「うん、お願いするよ」と、松田さんはお馴染みのカウンターの端に座り、新聞を広げた。
松田さんは70代半ばの元教師で、この町の歴史とともに生きてきたような人物だ。
彼の銀髪は丁寧に整えられ、身なりも常にきちんとしている。
控えめで落ち着いた雰囲気を持ち、誰に対しても穏やかに接する。
長年教師をしていた影響か、松田さんは話すとき、相手の言葉にじっくり耳を傾け、静かに頷くことが多い。
理沙は、彼のために慣れた手つきでコーヒーを淹れながら、「今日も変わらない朝だな」と思う。
松田さんは毎朝決まって同じ時間に来て、同じ場所に座る。
そして、いつも無言で新聞を読みながら、ゆっくりとコーヒーを楽しむ。
理沙はその姿を見ながら、どこか懐かしい安心感を覚えるのだった。